今回のテーマは「オクテット則」です。高校で化学を勉強していると必ず学ぶオクテット則。これは大変便利な考え方ではあるんですが、一方で例外も数多くある。なぜ便利で、かつなぜ例外が多くあるのか?

国立大学の理系出身で、化学に詳しいライターのNaohiroと一緒に解説するぞ!

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。環境科学について学んだ後、技術者として化学に携わってきた知識と経験をもとにオクテット則について分かりやすく解説する。

1. オクテット則の歴史

image by iStockphoto

時は20世紀初頭、1913年にニールス・ボーア(Niels Bohr)がボーアの原子模型を確立した3年後のことです。1916年同時期に、最外殻電子が8個の状態が化学的に安定であるという点に着目して化学結合について論文を公表した人物が2人いました。1人の名前はドイツ人物理学者ウォルター・コッセル(Walther Kossel)、そしてもう1人がアメリカ人物理化学者ギルバート・ニュートン・ルイス(Gilbert Newton Lewis)です。

その際ルイスが発表した論文”The Atom and the Molecule(原子と分子)”で初めて電子式立方体原子模型が登場することになったのですね。今ではこの論文もインターネット上で見ることができるようになっています。化学の歴史が大きく動いた瞬間の感動を味わうことができますので、興味があればぜひ見てみてください!

2. オクテット則の考え方

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オクテット則(Octet rule)とは、先ほど説明したアメリカ合衆国の物理学者ギルバート・ニュートン・ルイス(Gilbert Newton Lewis)が考え出した「原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在する」という経験則です。オクテット(Octet)というのは「8個組」を意味する言葉で、立方体の8つの隅に電子を配置したモデルとして考えられたことからきています。そのため日本語で八隅説(はちぐうせつ)と言われることがあるのですね。

さて、ルイスがオクテット則を提唱した背景には「具体的な理屈は分からないが最外殻電子が8個になるものが多い。」という事実がありました。その裏付けとなる原子や分子たちを見ていきましょう。

2-1. 希ガス(貴ガス)の最外殻電子は8個

まず質問です。化学反応を起こさない(起こしにくい)単原子分子(たんげんしぶんし)と言えば?そう、希ガスですよね。

希ガスの歴史は意外と浅く、1868年にフランスの天文学者ピエール・ジャンサンとイギリスの同じく天文学者ノーマン・ロッキャーがそれぞれヘリウムを発見1894年から1898年の間にスコットランドの化学者ウィリアム・ラムゼーが主体となりネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを発見していきました。まずこれらの希ガスの電子配置をみてみましょう。

image by Study-Z編集部

この表を見てみると、ヘリウムを除き全ての最外殻電子が「8」となっていることがわかりますね。そう、1900年初めの時点で希ガスの最外殻電子数は8個であり、それが「なぜかは分からないが」原子や分子の安定に関係しそうだという予測が立てられる状況だったのです。

そこから分子を形成している原子の最外殻電子をみていくとやはり8個であることが多いこともわかります。そう、オクテット則はそれらの傾向、経験から生み出された法則なのです。

2-2. ルイスの立方体原子模型

そんな中ギルバート・ルイスは立方体の8つの頂点に電子が配置されることで安定的な化学結合が形成されるという論文を発表します。

Cubical atom 2.svg
Cubical_atom_2.png: G.N. Lewis derivative work: Blleininger (talk) - Cubical_atom_2.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

この模型を見るとボーアの原子模型とは全く異なるモデルであることも分かりますね。ここでは例えば希ガス原子と酸素原子でも分子を形成するという説明も成り立ってしまったり分子の回転についての説明ができないという問題もあるのですが…この立方体原子模型がルイス構造(電子式)の考え方のもととなっていることも理解しておきましょう。

2-3. 電子式(ルイス構造)の適用

それでは実際に電子式(ルイス構造)を通して化学結合を確認していきましょう。ここでは最もわかりやすいエタン、エチレン、アセチレンの電子式を示してみましょう。

\次のページで「2-4. 共鳴構造」を解説!/

image by Study-Z編集部

オクテット則は炭素原子、窒素原子や酸素原子ととても相性がよく、そういった点で有機化学分野でよく使われることが多くなります。

2-4. 共鳴構造

Resonance examples.png
CC 表示-継承 3.0, リンク

そして最後にオクテット則の補足としてよく説明される共鳴理論についても触れておきましょう。

よくベンゼン分子の共有結合の説明で用いられることがありますが、これは単結合と二重結合が定まっているのではなく、分子内で電子が移動しながら結合を変えているということになります。詳しく説明すると混成軌道という話になってくるのですが、鏡写しの状態が同じ確率で存在すると理解するとわかりやすいですよね。

3. オクテット則の例外

これまでみてきたオクテット則、実は例外が数多くあります。ここではそんなオクテット則の例外をみていきましょう。

3-1. 最外殻電子が8個より少ない場合

まず最外殻電子が6個の場合で、価電子の少ない元素で起きる例外です。

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ホウ素、アルミニウムは価電子が3個であることから、最外殻電子が6個で安定となっていまっていますね。そしてもちろん水素、ベリリウムも最外殻電子が8個未満で安定となる例外として挙げることができます。

\次のページで「3-2. 最外殻電子が8個より多い場合」を解説!/

3-2. 最外殻電子が8個より多い場合

次は最外殻電子が8個より多くなる場合、第3周期以降の元素で起きる例外です。これらに該当するものとして代表的な硫酸(H2SO4)、五フッ化リン(PF5)についてみていきましょう。

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このように化学式としてよくみかける硫酸、五フッ化リンはそれぞれ最外殻電子数が10個、12個。これらのような原子価殻に8つを超える電子をもつ化合物を超原子価化合物もしくは超原子価分子とよび、他にも六フッ化硫黄、五塩化リン、リン酸、三ヨウ化物イオンが該当します。

3-3. ラジカル

そして最後にラジカルとして不対電子(ふついでんし)がある場合です。

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一酸化窒素(NO)と酸素(O2)を代表としたラジカル分子は最外殻電子が8個となりません。その一方で、不対電子をもつことにともない反応性が高いという特徴をもつことになるわけです。

4. オクテット則の進化

以上みてきたように便利なオクテット則ですが、100年以上前に考え出された理論ということもあり例外が非常に多いのも特徴です。実はオクテット則をより高度で定量的にした方法が存在します。それが以下の3つです。

・原子価殻電子対反発則(げんしかかくでんしついはんぱつそく)
 =VSEPR則

・原子価結合法(げんしかけつごうほう)
 =VB法

・分子軌道法(ぶんしきどうほう)
 =MO法

原子価殻電子対反発則から分子軌道法に行くにしたがってより複雑な理論となります。大学の量子化学で学習することができますので、興味があれば調べてみてくださいね。

例外はあるものの便利なオクテット則

オクテット則はその理論のわかりやすさと使いやすさから高校化学の段階において非常に役立つツールとして活用されています。その一方で100年以上前に発表された理論ということもあり、数多くの例外を抱えることもまた事実。オクテット則の成り立ちと問題点をよく理解した上で、より高度な大学化学の世界に足を踏み入れて行って欲しいと思います。

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化学原子・元素有機化合物無機物質理科

3分で簡単にわかる「オクテット則」価電子のルールを理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「オクテット則」です。高校で化学を勉強していると必ず学ぶオクテット則。これは大変便利な考え方ではあるんですが、一方で例外も数多くある。なぜ便利で、かつなぜ例外が多くあるのか?

国立大学の理系出身で、化学に詳しいライターのNaohiroと一緒に解説するぞ!

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。環境科学について学んだ後、技術者として化学に携わってきた知識と経験をもとにオクテット則について分かりやすく解説する。

1. オクテット則の歴史

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時は20世紀初頭、1913年にニールス・ボーア(Niels Bohr)がボーアの原子模型を確立した3年後のことです。1916年同時期に、最外殻電子が8個の状態が化学的に安定であるという点に着目して化学結合について論文を公表した人物が2人いました。1人の名前はドイツ人物理学者ウォルター・コッセル(Walther Kossel)、そしてもう1人がアメリカ人物理化学者ギルバート・ニュートン・ルイス(Gilbert Newton Lewis)です。

その際ルイスが発表した論文”The Atom and the Molecule(原子と分子)”で初めて電子式立方体原子模型が登場することになったのですね。今ではこの論文もインターネット上で見ることができるようになっています。化学の歴史が大きく動いた瞬間の感動を味わうことができますので、興味があればぜひ見てみてください!

2. オクテット則の考え方

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オクテット則(Octet rule)とは、先ほど説明したアメリカ合衆国の物理学者ギルバート・ニュートン・ルイス(Gilbert Newton Lewis)が考え出した「原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在する」という経験則です。オクテット(Octet)というのは「8個組」を意味する言葉で、立方体の8つの隅に電子を配置したモデルとして考えられたことからきています。そのため日本語で八隅説(はちぐうせつ)と言われることがあるのですね。

さて、ルイスがオクテット則を提唱した背景には「具体的な理屈は分からないが最外殻電子が8個になるものが多い。」という事実がありました。その裏付けとなる原子や分子たちを見ていきましょう。

2-1. 希ガス(貴ガス)の最外殻電子は8個

まず質問です。化学反応を起こさない(起こしにくい)単原子分子(たんげんしぶんし)と言えば?そう、希ガスですよね。

希ガスの歴史は意外と浅く、1868年にフランスの天文学者ピエール・ジャンサンとイギリスの同じく天文学者ノーマン・ロッキャーがそれぞれヘリウムを発見1894年から1898年の間にスコットランドの化学者ウィリアム・ラムゼーが主体となりネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを発見していきました。まずこれらの希ガスの電子配置をみてみましょう。

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この表を見てみると、ヘリウムを除き全ての最外殻電子が「8」となっていることがわかりますね。そう、1900年初めの時点で希ガスの最外殻電子数は8個であり、それが「なぜかは分からないが」原子や分子の安定に関係しそうだという予測が立てられる状況だったのです。

そこから分子を形成している原子の最外殻電子をみていくとやはり8個であることが多いこともわかります。そう、オクテット則はそれらの傾向、経験から生み出された法則なのです。

2-2. ルイスの立方体原子模型

そんな中ギルバート・ルイスは立方体の8つの頂点に電子が配置されることで安定的な化学結合が形成されるという論文を発表します。

Cubical atom 2.svg
Cubical_atom_2.png: G.N. Lewis derivative work: Blleininger (talk) – Cubical_atom_2.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

この模型を見るとボーアの原子模型とは全く異なるモデルであることも分かりますね。ここでは例えば希ガス原子と酸素原子でも分子を形成するという説明も成り立ってしまったり分子の回転についての説明ができないという問題もあるのですが…この立方体原子模型がルイス構造(電子式)の考え方のもととなっていることも理解しておきましょう。

2-3. 電子式(ルイス構造)の適用

それでは実際に電子式(ルイス構造)を通して化学結合を確認していきましょう。ここでは最もわかりやすいエタン、エチレン、アセチレンの電子式を示してみましょう。

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