今回のテーマは「人工放射線」。

私たちが普段の生活で受ける放射線のことを環境放射線といい、環境放射線は更に自然放射線と人工放射線に分けることができる。自然放射線は宇宙、大地、大気そして食物の摂取により受ける放射線のことですが、人工放射線は一体どこからどのように発生しているのでしょうか。

国立大学の理系出身で非破壊検査技術者としての経験をもち、人工放射線にも詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学理系出身。非破壊検査技術者としての知識と経験をもとに人工放射線についてわかりやすく解説する。

1. 人工放射線って何?

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それではまず人工放射線とは何かから説明をしていきましょう。名前に「人工」とつくくらいですからそう、一言で表現すれば人為的な原因で発生することになった放射線と言うことができます。人工放射線以外に自然界に最初から存在している、もしくは自然界で発生している放射線もありますのでそれらを対比して見ていってみましょう。

1-1. 自然放射線と人工放射線

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私たちの身の回りにある放射線(いわゆる環境放射線)は大きく「自然放射線」「人工放射線」に分けることができます。それぞれを説明すると以下の通りです。

自然放射線
宇宙から飛来する放射線(宇宙線)及びもともと自然界に存在している、自然由来の放射性物質から出ている放射線

人工放射線
人工的な装置から発生させた放射線、過去の核実験や原子力事故の際放出される放射性降下物(フォールアウト)から出される放射線

自然放射線は宇宙線と放射性同位元素(ほうしゃせいどういげんそ)の原子核から放出されるアルファ線、ベータ線、ガンマ線のみ。

人工放射線はそれに加えて発生装置から放出されるエックス線(レントゲン撮影に使用)、原子力発電所における核分裂で放出される中性子線加速器から放出される陽子線、重陽子線、三重陽子線、重イオン線、荷電中間子線、非荷電中間子線、電子線、陽電子線といったものがあります。

1-2. 人工放射線の発生源

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そして人工放射線の発生源は大きく以下の通りに分類できます。

医療用放射線
・電磁放射線(エックス線:レントゲン撮影、ガンマ線:脳腫瘍切除)
・粒子放射線(電子線、陽子線、重粒子線:がん治療、陽電子線:PET検査)

核分裂反応由来の放射線
・核分裂反応時に発生する放射線(中性子線)
・核分裂生成物由来の放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)

業務用放射線
・診療放射線技師が取り扱う放射線(上記各種医療用放射線)
・空港の手荷物検査放射線(エックス線)
・非破壊検査技術者が使用する放射線(エックス線、ガンマ線)
・実験、研究の用途で使われる放射線(各種電磁放射線、粒子放射線)

\次のページで「2. 言葉の定義」を解説!/

医療用の放射線としてはまず第一に、毎年健康診断で受ける胸部エックス線検査が頭にうかびますよね。その他に悪性腫瘍(がん)を始めとした治療のために使われるガンマナイフ小型加速器により照射される粒子放射線(りゅうしほうしゃせん)があります。

次に核分裂反応由来の放射線としては原子力発電所、核実験で発生する中性子。核分裂生成物のヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90により二次的に放出されるアルファ線、ベータ線、ガンマ線があります。

そして業務の中で放射線を取り扱う人たちの被ばくがあるわけです。業務で使われる放射線というと工業的には溶接した金属に欠陥が入っていないかを確かめる非破壊検査。実験、研究の中では小型のエックス線回折装置から大型の加速装置まで最新の優れた研究成果を出すために必須のものとなっているのですね。

2. 言葉の定義

人工放射線の話に入る前に、まず放射線の言葉の定義と単位について説明していきましょう。ここをとばしてしまうと理解があいまいなになってしまいますので、しっかりと理解してくださいね。

2-1. 放射線、放射能と放射性物質

2-1. 放射線、放射能と放射性物質

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放射線、放射能及び放射性物質という言葉の定義を理解していきましょう。この3つはあいまいなまま使用されることが多い言葉です。それぞれの言葉がもつ正確な意味を理解しておかなければ、特に内部被ばくと外部被ばくの違いがわからなくなるといった弊害がでてきます。きちんと把握しておきましょう。

 放射線 : 高いエネルギーをもち高速で飛ぶ粒子もしくは短い波長の電磁波

 放射能 : 放射線を放出する能力

放射性物質: 放射能を有する物質

2-2. ベクレル、グレイとシーベルト

2-2. ベクレル、グレイとシーベルト

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そしてもう一つ、放射線について理解する上で欠かせないのが単位です。特にシーベルトはグレイに線質係数(せんしつけいすう:生体への影響度を示す因子)を乗じたものになります。こういった面から健康への影響を評価するためにシーベルトが使われることが多いのです。以降の説明ではシーベルトを使用して説明していきますね。

ベクレル(Bq)[ 個 / 秒 ]
→放射性物質が放射線を出す能力を表す単位

グレイ(Gy)[ J / kg ]
→放射線のエネルギーが物質に吸収された量を表す単位

シーベルト(Sv) [ J / kg ]
→人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位

\次のページで「3. 人工放射線の被ばくと健康への影響」を解説!/

3. 人工放射線の被ばくと健康への影響

私たち人間は自然環境の中からも放射線による被ばくを受けています。人工放射線との比較のため、どれくらいの量を被ばくしているのか確認してみましょう。

日本平均:2.1mSv/年(ミリシーベルト/年)

世界平均:2.4mSv/年

東京ーニューヨーク間の航空機往復:0.11~0.16mSv/往復

インド ケララ州(大地):9.2mSv/年

出典:放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和元年度版)(環境省)

自然からの被ばくは宇宙、空気中、大地そして食物の摂取により構成されています。ここでは日本人は自然から年間2.1mSvの被ばくをうけているということを覚えておきましょう。

3-1. 医療における人工放射線の被ばく

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それでは医療における被ばく量をみていきましょう。

・歯科撮影:0.002~0.01mSv/回

胸部エックス線検査:0.06mSv/回

エックス線CT検査:2.4~12.9mSv/回

・PET検査:2~20mSv/回

私たちにとって身近な医療被曝といえば健康診断で受ける胸部エックス線検査、歯医者さんで歯の撮影に用いられる歯科撮影がありますよね。これら1回の被ばく量は自然被ばくの量と比較しても微量ですので、何度も受けるようなことがなければ心配はいらないことがわかります。

また妊婦の方でもお腹に放射線が当たらないよう鉛エプロンを巻いて撮影するといった対応をすることで、お腹の中の赤ちゃんへの影響を極力抑えながら撮影することも可能となっているのですね。

\次のページで「3-2. 業務上の被ばく」を解説!/

3-2. 業務上の被ばく

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次に業務上放射線の取り扱いを行う人たちの被ばくに関してです。放射線は医療、工業のみならず農業や基礎研究、実験と幅広く使用されています。これらの仕事に携わる人々の健康を守るため、国が定める労働安全衛生法(ろうどうあんぜんえいせいほう)、労働安全衛生法施工令(せこうれい)の規定に基づいて電離放射線障害防止規則(でんりほうしゃせんしょうがいぼうしきそく)というものが定められているのです。

(放射線業務従事者の被ばく限度)

第四条 事業者は、管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

2 事業者は、前項の規定にかかわらず、女性の放射線業務従事者(妊娠する可能性がないと診断されたもの及び第六条に規定するものを除く。)の受ける実効線量については、三月間につき五ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

出典: 昭和四十七年労働省令第四十一号 電離放射線障害防止規則 より

業務上放射線の取り扱いを行う場合、被ばく量の管理をガラスバッジにより行います。上述の規則により年間50mSv、5年間で100mSv未満の被ばく量に抑えることでがん発症のリスクを抑えることができるのです。これは広島・長崎における原爆被害の際、被ばくが100mSv未満だった人たちのがん発症リスクが検出困難なレベルであったことを根拠としたデータになっています。

しかしながらがんの発症リスクは肥満により1.2倍、飲酒により1.4倍、喫煙で1.6倍となりますので、このことから実は身近な放射線よりも乱れた生活習慣の方が怖いということがわかりますね。

細心の注意を払えば味方になってくれる人工放射線

「人工放射線」と聞くとどうしても原子力発電所の事故に原子爆弾と怖いイメージが先行してしまいます。ですが実は医療や工業、農業に最新の研究と幅広い分野で私たち人類の発展に寄与してくれているのです。

また管理下におかれた身近な人工放射線よりも肥満や飲酒、喫煙といった生活習慣の方が健康を害するということもわかりましたね。何事もイメージでとらえるのではなく、正しい知識をもってリスクを評価することが大切であることを理解して頂けたらと思います。

イラスト使用元:いらすとや

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化学原子・元素理科量子力学・原子物理学

3分で簡単「人工放射線」医療でも活躍する放射線を理系ライターがわかりやすく解説!

3-2. 業務上の被ばく

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次に業務上放射線の取り扱いを行う人たちの被ばくに関してです。放射線は医療、工業のみならず農業や基礎研究、実験と幅広く使用されています。これらの仕事に携わる人々の健康を守るため、国が定める労働安全衛生法(ろうどうあんぜんえいせいほう)、労働安全衛生法施工令(せこうれい)の規定に基づいて電離放射線障害防止規則(でんりほうしゃせんしょうがいぼうしきそく)というものが定められているのです。

(放射線業務従事者の被ばく限度)

第四条 事業者は、管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

2 事業者は、前項の規定にかかわらず、女性の放射線業務従事者(妊娠する可能性がないと診断されたもの及び第六条に規定するものを除く。)の受ける実効線量については、三月間につき五ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

出典: 昭和四十七年労働省令第四十一号 電離放射線障害防止規則 より

業務上放射線の取り扱いを行う場合、被ばく量の管理をガラスバッジにより行います。上述の規則により年間50mSv、5年間で100mSv未満の被ばく量に抑えることでがん発症のリスクを抑えることができるのです。これは広島・長崎における原爆被害の際、被ばくが100mSv未満だった人たちのがん発症リスクが検出困難なレベルであったことを根拠としたデータになっています。

しかしながらがんの発症リスクは肥満により1.2倍、飲酒により1.4倍、喫煙で1.6倍となりますので、このことから実は身近な放射線よりも乱れた生活習慣の方が怖いということがわかりますね。

細心の注意を払えば味方になってくれる人工放射線

「人工放射線」と聞くとどうしても原子力発電所の事故に原子爆弾と怖いイメージが先行してしまいます。ですが実は医療や工業、農業に最新の研究と幅広い分野で私たち人類の発展に寄与してくれているのです。

また管理下におかれた身近な人工放射線よりも肥満や飲酒、喫煙といった生活習慣の方が健康を害するということもわかりましたね。何事もイメージでとらえるのではなく、正しい知識をもってリスクを評価することが大切であることを理解して頂けたらと思います。

イラスト使用元:いらすとや

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