

今回は歴史オタクのライターリリー・リリコと一緒に「五賢帝」について解説していくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/リリー・リリコ
興味本意でとことん調べつくすおばちゃん。座右の銘は「何歳になっても知識欲は現役」。大学の卒業論文は義経をテーマに執筆。歴史のなかでも特に古代の国家や文明に大きな関心を持つ。今回は古代のローマ帝国のなかでも「五賢帝」と呼ばれた五人の皇帝についてまとめた。
五賢帝時代の到来
五賢帝は、フラウィウス朝断絶後、新たな皇帝として老齢の「ネルウァ」が即位したことにはじまります。そして、ネルウァ以降、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス=ピウス、マルクス=アウレリウス=アントニヌスと続き、この五人の皇帝が治めた96年から180年までの約100年間を「五賢帝時代」といいました。この時代、ローマ帝国の政治は安定し、さらに領土はローマ史上最大となる最盛期を迎えます。
また、アウグストゥスが元首政を確立した前27年から、五賢帝の時代までの約200年間、ローマ帝国が支配する地中海世界の平和を指して「ローマによる平和(パックス・ロマーナ)」といいました。
65歳の皇帝即位
フラウィウス朝の三代目皇帝ドミティアヌスは恐怖政治を敷いたことにより96年に暗殺されてしまいます。ドミティアヌスには子どもがなく、フラウィウス朝は彼を最後に断絶してしまいました。これを受けたローマの元老院は、ドミティアヌスが暗殺されたその日のうちに元老院の議員のなかから「ネルウァ」を皇帝に指名します。
即位した当初、ネルウァは65歳の老齢でした。けれど、彼はユリウス=クラウディウス朝の最期の皇帝ネロの時代からの政治家で、ウェスパシアヌス帝や先帝ドミティアヌスの時代には執政官を務めた王朝の重鎮です。
ドミティアヌス帝暗殺の緊張が続くなか、ネルウァは元老院と協調しながら、ドミティアヌスが崩した政治秩序を取り戻し、迫害された人々の名誉回復に努めました。
血縁関係のないトラヤヌスを養子に
前述した通り、いくらネルウァが善政を敷いたとしても、彼は当時で言う高齢。いつ亡くなってしまうかもわかりません。彼には後継者にできる子どももいませんでした。
そしてさらに、先帝ドミティアヌスを支持していた軍隊はネルウァに対して少しばかり反抗的だったのです。
できることならローマのために、生きているうちにふたつの問題を解決しておきたいもの。そうすべく、彼は次の皇帝に指名するに相応しい人物を探します。そうして、ネルウァの養子として指名されたのが、彼とは血縁関係のない「トラヤヌス」でした。
ネルウァがトラヤヌスを選んだのは、彼が非常に有能で徳のある将軍だったと一般的には言われていますが、明確な理由はわかっていません。しかし、ネルウァがトラヤヌスを養子としたことで、軍隊の反抗が治まったとされています。トラヤヌスは政治的バランスを取る上で非常に良い立場にいた人物だったのでしょう。
ネルウァがトラヤヌスを養子として以降、皇帝は養子を跡継ぎに帝位の交代が行われるようになります。有能な人物を国のトップに据え、ローマ帝国の繁栄を導くのにたいへん効率的なシステムだったのです。

暴君の暗殺から五賢帝の時代が始まる。最初に皇帝となったネルウァは高齢だったため、在位はたったの三年ほどしかない。しかし、先帝の壊した政治秩序を取り戻し、迫害された人々の名誉回復に努めた。そのうえ、トラヤヌスという有能な皇帝を後世に残してくれた賢帝であることに間違いないだろう。
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