古代のローマ帝国は地中海全域を支配した巨大な帝国だった。今回はそこからさらにさかのぼった「古代ローマ」について歴史オタクのライターリリー・リリコと一緒に解説していきます。

ライター/リリー・リリコ

興味本意でとことん調べつくすおばちゃん。座右の銘は「何歳になっても知識欲は現役」。大学の卒業論文は義経をテーマに執筆。歴史のなかでも特に古代の国家や文明に大きな関心を持つ。今回は世界帝国ローマとなる前の「古代ローマ」についてまとめた。

1.神話からはじまるローマ

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古代の地中海世界全域を支配した広大なローマ帝国。古代ローマに区分される時代は476年に西ローマ帝国のロムルス・アウグストゥルスが退位するまでとされています。

ローマ帝国については別の記事でも紹介していますので、今回は特にローマが帝国となる以前、都市国家ローマが建国から共和政への移り変わるまでをみていきましょう。

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ローマの建国神話

国ができるにあたって、日本に『古事記』に書かれた日本神話があるように、世界のほとんどの国は独自の神話を持っているものです。ローマもまた神話があり、神話からローマの建国に至る物語がありました。

ローマの建国神話は、ローマの詩人・ウェルギリウスの著書『アエネーイス』に書かれていました。『アエネーイス』によると、ローマの建国のはじまりは、ギリシャ神話に語られる「トロイア戦争」に起因します。

この戦争でトロイア(現在のトルコ北西部)側の負けが決まったとき、トロイアの英雄「アイネイアース」は父と息子・アスカニウスとともにトロイアを脱出しました。そうして、三人は滅んだトロイアの再建を目指して、新天地を求めて各地を放浪します。苦難の旅の果て、ようやく辿り着いたのがイタリア半島のラティウムです。

アイネイアースはラティウムのラテン人の王の娘・ラウィニアと結婚し、新しくラウィニウムという都市国家を建設しました。アイネイアースが亡くなったあと、彼の息子。アスカニウスがアルバーノ山地にアルバ・ロンガという都市国家をつくり王となります。それから200年の月日が流れ、アルバ・ロンガでは兄弟で王位を巡る争いが起こりました。その争いのなかで弟・アムーリウスは兄・ヌミトルの息子たちを皆殺しにして王位を簒奪。娘のレア・シルウィアをウェスタ神の巫女にしてしまいます。

ところが四年後、ウェスタの巫女となったレア・シルウィアが妊娠していることが発覚してしまうのです。その子どもの父親こそローマ神話の軍神・マルスという神さまでした。レア・シルウィアは神さまとの間に双子の男の子を生んだのです。それが、ロムルスとレムスでした。

ロムルスとレムス

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無事に双子を出産したレア・シルウィア。しかし、アムーリウス王が許すはずがありません。アムーリウス王はレア・シルウィアから双子を取り上げると、ティベレ川に流して捨ててしまいました。

けれど、双子は運よく沈まずに岸に漂着。そこへやってきたメスの狼に乳を与えられ生き延びたのです。その後、双子を発見した羊飼いによって育てられることになり、「ロムルス」と「レムス」と名付けられました。大人になった二人は、やがて自分たちの出生の秘密を知り、アムーリウス王を討ち取って父祖のヌミトルを再び王位に蘇らせたのです。

しかし、二人は祖父の跡を継ぐ気はなかったようで。ロムルスとレムスは自分たちが育ったパラティーノの丘へと戻り、自分たちの新しい都市をつくろうとしました。ところが、ここで二人の対立が起こってしまいます。争いは収拾がつかず、ロムルスとレムスは鳥占いによって決着をつけようとしました。別々の丘に登って鳥を待ち、より多くの鳥がやってきたほうが新しい都市の支配権を得るというものです。鳥占いの結果は、ロムルスの勝利。しかし、納得のいかないレムスと戦闘になり、レムスは戦いで戦死してしまいます。

その後、ロムルスは都市の城壁をつくり、神々にいけにえを捧げる儀式を行いました。ロムルスが作った都市は、ロムルスの名前にちなんで「ローマ」と呼ばれるようになります。また、ロムルスは最初の王であり、七つの丘の城壁の他に「元老院」や「軍団(レギオー)」など、ローマを支えるものをつくりあげました。

ローマとサビニ人たち

晴れてローマの王となったロムルスは「元老院」を創設や法律の制定、城壁の更なる拡大とたいへん忙しくしていました。しかし、その一方で、ローマは人口問題を抱えていたのです。建国されてすぐのローマへの移住者は男性ばかり。女性はとても少なく、子どもがなかなか増えない状態にあったのです。

そこで、ロムルスは近隣に住んでいた勇敢なサビニ人の未婚女性たちを一計をしかけて誘拐してしまいます。もちろん、一族の女性を奪われたサビニ人たちが黙っているわけがありません。彼らは女性たちを取り戻すため、ローマと戦うことにしました。

ところが、いざ戦いがはじまったところで、攫われたサビニ人の女性たちが戦いの仲裁に入ったのです。彼女たちはローマ人の妻となることを強要されたとはいえ、すでに子どもがいて、子どもたちと引き離されることを嫌って戦争をやめるよう訴えたのでした。こうして両者は剣をおさめると、ロムルスの提案でサビニ人たちがローマに移り住むことになります。その結果、ローマはロムルスとサビニ人の王タティウスとで共同統治をすることになったのでした。

2.歴代の王は外国人!?

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ローマの王は世襲しない

普通、王様が亡くなれば、その子どもが跡を継ぐイメージが強いですよね。ところが、このころのローマはそうではありません。ローマの人々が投票して有力者(パドレス)のなかから王を選ぶのです。このあたりはちょっと現代と似ていますね。

それに、ローマの王はエジプトやオリエントの王と違い、宗教的指導者ではありません。そのため、彼らのような絶対的な権威はなかったのです。もちろん、ロムルス王には息子はいましたが、彼は王にはなりませんでした。というのも、ロムルス王は突然亡くなったために、暗殺を疑われていたのです。本当に暗殺だったかどうかの真相はわからないままですが、暗殺の証拠もなければ犯人もつかまったわけではありません。誰が犯人であってもおかしくなかったのです。そのため、ローマの誰が次の王になっても、その者が王位を狙ってロムルス王を殺した、という疑念がついてまわうわけで。

そこで、ローマの人々はまったくしがらみのない人物をローマの外から連れてきて王にすることにしました。そうして選ばれたのが、賢者として名高いサビニ人の「ヌマ・ポンピリウス」です。

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二代目の王「ヌマ・ポンピリウス」

ローマの二代目の王となったヌマは、とても温厚な王でした。戦争をすることなく、平和なまま43年間もローマを統治し続けたのです。

その穏やかな治世の下、ヌマは暦を改定し、人々に農業を推奨。さらに宗教改革として、祭司職を創設したり、ローマ神話の神々の名前を定めました。この神話については、サビニ人の信仰が基になったとされています。

三代目と四代目の王

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三代目の王「トゥッルス・ホスティリウス」は、戦争をしなかったヌマと違い、戦争によって他国を倒し、ローマを広げる方針へ転換していきます。そうして、アルバ・ロンガを征服し、アルバ・ロンガのラテン人たちをローマ市民として迎え入れ、ローマの繁栄させました。

そして、四代目の王アンクス・マルキウスはヌマの孫であったため、平和な世を求めたローマの人々の希望だったのです。アンクス・マルキウスは政治家としても優れた人物で、ローマにはじめて水道を引いたりと、とても有能な王でした。しかし、残念なことに彼はヌマと違って好戦的な王だったのです。人々の希望とは裏腹に、アンクス・マルキウスは多くの戦を行いローマを拡大していきました。

エトルリア人の王の誕生

ローマの王はローマ市民であればよく、また、移住してくれば市民権を与えられる時代でした。それを背景にもともとはエトルリア人だった「タルクィニウス・プリスクス」はローマの市民権を得たあと、立候補して王になりました。タルクィニウス王もまた戦争を行ってローマの拡大をはかります。しかし、歴代の王と違って、彼は征服した地の住民をローマに移住させず、ローマの市民権を与えませんでした。一方で、タルクィニウス王はエトルリアの技術を取り入れて水道建設をさらに進めた他、産業の活性化を行って国を発展させていきます。

しかし、タルクィニウス王は、王位を狙う先代のアンクス王の息子によって暗殺されてしまいました。それだけのことがあったのですから、もし、その後にタルクィニウス王の息子が王になることがあれば、また暗殺されてしまうかもしれませんね。そこで、タルクィニウス王の王妃は実の息子を王とせず、養子の「セルウィウス・トゥッリウス」を擁立します。

セルウィウス王はローマの七つの丘を囲む大規模な防御用城壁をつくりあげました。城壁の一番高いところはは10メートル、全周は11キロメートルにもなります。その城壁は第二次ポエニ戦争ではカルタゴの名将ハンニバルが苦戦するほど強固で、「セルウィウスの城壁」と呼ばれました。

また、セルウィウス王は、後の共和政へと繋がる政策のひとつ「兵員会」を創設しました。兵員会は、平民たちで組織される「平民会」のなかのひとつで、これはローマの主権を握る市民の政治参加の場という重要な会です。

王の追放

けれど、そんなセルウィウス王もまた先代のタルクィニウス王の孫「タルクィニウス・スペルブス」とその妻であり、自分の娘であるトゥッリアによって暗殺されてしまいます。そうして即位したのが、またしてもエトルリア人の王・タルクィニウス・スペルブスです。

タルクィニウス・スペルブスは、歴代の王と違って暴君でした。そもそも、その即位でさえ市民会や元老院の承認もなく行ったのです。そんな王だからこそ、もちろん政治も両議会を介入させることなく自分ひとりですべてを決めてしまいます。ローマの人々はタルクィニウス・スペルブス王に非常に不満を持ちました。戦争は得意だったために領土こそ拡大しますが、ここでタルクィニウス・スペルブス王はエトルリアとの同盟を結ぶことに。そうすると、ローマ国内をエトルリア人が我が物顔で歩くようになりました。

強国エトルリアと同盟を組んだことで、もはや敵国はほとんどありません。しかし、自国内を闊歩するエトルリア人を見たローマの人々は「ローマはエトルリアの属国になった」と意識する人も出てきました。

ローマの人々の怒りが日に日に募っていくばかり。そんなある日、タルクィニウス・スペルブス王の息子が人妻に横恋慕した挙句に無理矢理に関係を持ったという報が知らされます。ローマの人々の怒りが爆発した瞬間でした。ルキウス・ユニウス・ブルトゥスが「タルクィニウス・スペルブス王を追放すべきだ!」と主張し、その言葉に民衆は武器を取って決起します。

このとき遠征に出かけていたタルクィニウス・スペルブス王は慌てて帰国しようとしますが、ローマの門はすべて閉じられたあと。決してなかに入ることはできず、タルクィニウス・スペルブスはエトルリアに去ったのでした。

王政から共和政へ

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王を追放したローマでは、以降は王を選ばず、王の諮問機関だった元老院に政治を行わせることにしたのです。ローマが王政から共和政へと移り変わった瞬間でした。

また、演説を行ったルキウス・ユニウス・ブルトゥスは法務官(プラエトル)となり、ローマの共和政に対して並々ならぬ力を尽くします。彼の影響は強く、ローマの人々の間に共和政を大切にする精神と、王という地位を拒絶する風潮を植え付けました。その後、ローマの共和政は紀元前509年から紀元前27年まで長きにわたって続いていくのです。

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神話の王から共和制への移行

ローマの神となった初代のロムルス王。しかし、彼の跡取りとして選ばれたのは息子ではなく、ローマにしがらみのないサビニ人のヌマでした。ローマの王は、オリエント世界やエジプトのような宗教的な権威はなく、絶対的な存在ではなかったのです。そのため、ローマの市民権があれば誰でも王になれるチャンスがありました。

そこに目をつけたのが、五代目のタルクィニウス・プリスクスです。初のエトルリア人の王でした。その後も三代に渡ってエトルリア人の王様が続きます。しかし、最後のタルクィニウス・スペルブスは暴君だったために、ローマの人々の手によって追放されてしまいました。王様を追放なんて、なかなか聞かないですよね。そこから、王を戴かない共和政ローマへと移り変わったのでした。

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イタリアヨーロッパの歴史世界史古代ローマ

3分で簡単「古代ローマ」建国の神話?どうやって王政から共和政に移り変わった?歴史オタクがわかりやすく解説

古代のローマ帝国は地中海全域を支配した巨大な帝国だった。今回はそこからさらにさかのぼった「古代ローマ」について歴史オタクのライターリリー・リリコと一緒に解説していきます。

ライター/リリー・リリコ

興味本意でとことん調べつくすおばちゃん。座右の銘は「何歳になっても知識欲は現役」。大学の卒業論文は義経をテーマに執筆。歴史のなかでも特に古代の国家や文明に大きな関心を持つ。今回は世界帝国ローマとなる前の「古代ローマ」についてまとめた。

1.神話からはじまるローマ

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古代の地中海世界全域を支配した広大なローマ帝国。古代ローマに区分される時代は476年に西ローマ帝国のロムルス・アウグストゥルスが退位するまでとされています。

ローマ帝国については別の記事でも紹介していますので、今回は特にローマが帝国となる以前、都市国家ローマが建国から共和政への移り変わるまでをみていきましょう。

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