この記事では「レガシー」について解説する。

一般的な意味は「遺産」ですが、使われる場面によってニュアンスが変わるから気をつける必要があるぞ。

活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛を呼んです。一緒に「レガシー」の意味や使われ方を見ていきます。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

レガシーの日本語の意味は?語源は何?

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「レガシー」という言葉は、テレビや新聞、ネットでもよく目にするようになりました。どんな意味なのでしょうか。

日本語では「遺産」を意味する

まずデジタル大辞泉で、「レガシー」の意味を調べてみました。

レガシー(legacy)

1 遺産。先人の遺物。
2 時代遅れのもの。「レガシーシステム」

[補説]本来、過去に築かれた、精神的・物理的遺産の意であるが、近年、「首相としてのレガシーを作る」のように、後世に業績として評価されることを期待した、計画中の事業の意でも用いられるようになった。

出典:小学館 デジタル大辞泉「レガシー」

1に、真っ先に「遺産」が出てきますね。それに対して2は、ネガティヴな意味のようです。

そして[補説]にある「首相としてのレガシーを作る」という例は、最近よく聞く表現ですが、それは実は本来の使い方とは異なっています。

legacyの語源はラテン語?

レガシーは英語のlegacyをカタカナ語にした言葉です。その語源には、いくつか説があります。代表的な語源の解説を並べてみました。

ラテン語lego(読む;選ぶ)が語源。「過去から伝えられたもの」がこの単語のコアの語源。legend(伝説)と同じ語源をもつ。

出典:語源英和辞典(https://gogen-ejd.info)「legacy」

語根は「leg-」:集めること、さらに派生して話すことを表す。重要な派生語は、語幹lectを持つ語(select, collect(1)など)、接尾辞-logy(論議や表現、学問を表す)を持つ語(biology, technologyなど)、coil(1), legal, lesson, loyalなど。

出典:ハイパー英語語源辞書(http://hidic.u-aizu.ac.jp)「legacy」

\次のページで「レガシーが持つ正反対な二つの意味とは?それぞれどう使う?」を解説!/

語源:ラテン語 lēgātum (送られるべき。lēgātus の中性形))< lēgātus (送られた)< lēgāre (送る、派遣する)

出典:ウィクショナリー日本語版(https://ja.wiktionary.org/wiki/legacy)「legacy」

「過去から伝えられたもの」「集める、話す」「送られる、送られた」と、書いてあることがそれぞれバラバラで、統一見解は見当たりません。出典は明らかではありませんが、「遺産」の意味があるアングロ・ラテン語(legantia)と混同されたとする説もあります。

レガシーが持つ正反対な二つの意味とは?それぞれどう使う?

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これまで見てきたとおり、レガシーは正反対な二つの意味を持つ言葉です。

その1. 「先人から受け継いだもの」

「遺産」と聞いたときに思い浮かぶのは、親や親族から相続する「財産」ですね。しかし、日本語ではこの意味でレガシーを使う例はあまり聞いたことがありません。

彼は昨年亡くなった父親の莫大な遺産を受け継いだので、暮らしていくには困らない。

彼は昨年亡くなった父親の莫大なレガシーを受け継いだので、暮らしていくには困らない。

「遺産」だとすんなり読めますが、「レガシー」だと違和感がありますね。レガシーが使われるのは、主に「大辞泉」の1にある「先人の遺物」の場合でしょう。

1964年の東京五輪のレガシーのひとつに、日本武道館がある。

田中角栄の政治家としての最大のレガシーは、1972年の日中国交回復だったのではないか。

\次のページで「その2. かつては「時代遅れのもの」」を解説!/

建造物のように実体がある「遺物」だけでなく、何か困難なことを実現したという行動・行為に対してもレガシーが使われます。

ところで「先人の業績」は前向きなイメージですが、「負の遺産」という言葉があるのもご存知ですね。「遺産」が必ずしもポジティヴな意味ばかりではないことには、注意が必要です。

その2. かつては「時代遅れのもの」

「大辞泉」の2にある「時代遅れのもの」はネガティヴな表現です。ここにも例文を挙げてみましょう。

うちの会社のIT機器は更新が追いつかず、レガシーシステムがあちこちに残っている。

バブル期の退職金制度が、レガシーコストとして経営の足を引っ張っている。

レガシーシステム、レガシーコストなどはまさに「時代遅れのもの」「負の遺産」という意味合いで使われています。経済の分野では、以前からレガシーシステムのような表現が使われていました。

【余談】「世界遺産」はレガシーと言わない

ところで「遺産」と言えば、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の「世界遺産」を思い浮かべる人も多いでしょう。いまの時点で一番新しい日本の世界遺産は、2021年に登録された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」と「北海道・北東北の縄文遺跡群」です。

「世界遺産」も遺産だからレガシーと言い換えできそうですが、世界遺産は英語では World heritage と言います。heritageは、歴史的価値や伝統といったお金に換えられないものを指すという説明が一般的。ただ、日本語ではお金に換算できないものにもレガシーを使う場合があり、線引きは微妙と言えるでしょう。

オリンピック・レガシーとは?

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「レガシー」という言葉は、オリンピックと密接に結びついているようです。

メディアへの頻出はいつから?

「レガシー」は2016年末に発表された新語・流行語大賞(現代用語の基礎知識選 2016ユーキャン新語・流行語大賞)で、候補30語のひとつに選ばれました。流行の発信源は、この年に初当選した小池百合子東京都知事でした。

試しに全国紙3紙で、「レガシー」がどれだけ使われたか調べてみました。2005年から2014年までの10年間では3紙合わせて408件でしたが、2015年にわずか1年で756件も使われています。2016年以降は年平均370回ほど。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委)が発足したのが2014年なので、オリンピック招致運動が本格化した2015年にレガシーが最も頻繁に使われたのです。

誰が言い出した?オリンピック・レガシー

「オリンピックのレガシー」は、日本の政治家が考え出したわけではありません。

国際オリンピック委員会(IOC)のオリンピック憲章には、「オリンピック競技大会の有益な遺産を、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する」という一文があります(第1章 オリンピック・ムーブメント)。この「遺産」の英語原文は「legacy」となっています。

つまり、オリンピックを誘致する国は、手を挙げる段階から「これが開催後にレガシーになりますよ」と宣言しておくことを求められるのです。

\次のページで「どうなった?オリンピック・レガシー」を解説!/

どうなった?オリンピック・レガシー

では、日本でこれまで開かれた4回のオリンピックの主なレガシーは何だったでしょう。ここでは五輪に合わせて新設された競技施設に限ってみていきます。各オリンピックの情報をまとめたサイトなどから拾いました。

1964年 東京オリンピック
 渋谷公会堂
 駒沢陸上競技場
 駒沢体育館
 駒沢バレーボール場
 日本武道館

1972年 札幌冬季オリンピック
 大倉山ジャンプ競技場
 宮の森ジャンプ競技場
 真駒内屋内競技場
 真駒内屋外競技場

1998年 長野冬季オリンピック
 エムウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)
 ビッグハット(長野市若里多目的スポーツアリーナ)
 アクアウイング(長野運動公園総合運動場総合市民プール)
 ホワイトリング(長野市真島総合スポーツアリーナ)

2021年 東京オリンピック2020(主なもののみ)
 (新)国立競技場
 夢の島公園アーチェリー場
 海の森水上競技場
 カヌー・スラロームセンター
 大井ホッケー競技場
 東京アクアティクスセンター 有明アリーナ

おなじみのスポーツ施設や大規模集客施設が、実はオリンピックを機に建てられたものだということもわかりますね。しかし、東京五輪2020で造られた六つの施設の大半は、将来の黒字運営が難しいと懸念されているとのこと。文字通り「負の遺産」になってしまう可能性が高いのです。

英語で使われるちょっと意外なレガシー

ここで参考までに、英語でlegacyが使われている意外な例を見てみましょう。

「後遺症」

「後遺症」は「病気や怪我の症状がおおむね治った後も、体に傷跡や機能障害などが残ること」。後遺症を意味する英語は一般にはaftereffectやsequela(医学用語)ですが、「○○の後遺症を克服する」というとき、英語ではovercome the legacy of ○○と表現します。米国にはスポーツによる脳震盪の後遺症の防止と研究を行うThe Concussion Legacy Foundation(脳震盪レガシー財団)という組織があるそうです。

「相続税」「遺産相続税」

「相続遺産」は英語でinheritanceと言うのが一般的。しかし、「相続税」となるとlegacy taxと表記されることがあります。「遺産相続税」はlegacy dutyで、遺言によって相続する遺産がlegacyと呼ばれるようです。

皮肉っぽく言われないよう気をつけよう

自分で言及した「レガシー」が結果を残せず、皮肉っぽく「あれは負の遺産だね」と言われる可能性は大いにあります。レガシーは自分で宣言するものではなく、後世の人たちに評価を委ねるべきでしょう。

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レガシーって良い意味?悪い意味?語源や使い方・ニュアンスの違いなど活字メディア出身ライターがわかりやすく解説

この記事では「レガシー」について解説する。

一般的な意味は「遺産」ですが、使われる場面によってニュアンスが変わるから気をつける必要があるぞ。

活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛を呼んです。一緒に「レガシー」の意味や使われ方を見ていきます。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

レガシーの日本語の意味は?語源は何?

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「レガシー」という言葉は、テレビや新聞、ネットでもよく目にするようになりました。どんな意味なのでしょうか。

日本語では「遺産」を意味する

まずデジタル大辞泉で、「レガシー」の意味を調べてみました。

レガシー(legacy)

1 遺産。先人の遺物。
2 時代遅れのもの。「レガシーシステム」

[補説]本来、過去に築かれた、精神的・物理的遺産の意であるが、近年、「首相としてのレガシーを作る」のように、後世に業績として評価されることを期待した、計画中の事業の意でも用いられるようになった。

出典:小学館 デジタル大辞泉「レガシー」

1に、真っ先に「遺産」が出てきますね。それに対して2は、ネガティヴな意味のようです。

そして[補説]にある「首相としてのレガシーを作る」という例は、最近よく聞く表現ですが、それは実は本来の使い方とは異なっています。

legacyの語源はラテン語?

レガシーは英語のlegacyをカタカナ語にした言葉です。その語源には、いくつか説があります。代表的な語源の解説を並べてみました。

ラテン語lego(読む;選ぶ)が語源。「過去から伝えられたもの」がこの単語のコアの語源。legend(伝説)と同じ語源をもつ。

出典:語源英和辞典(https://gogen-ejd.info)「legacy」

語根は「leg-」:集めること、さらに派生して話すことを表す。重要な派生語は、語幹lectを持つ語(select, collect(1)など)、接尾辞-logy(論議や表現、学問を表す)を持つ語(biology, technologyなど)、coil(1), legal, lesson, loyalなど。

出典:ハイパー英語語源辞書(http://hidic.u-aizu.ac.jp)「legacy」

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