理科の実験で食塩水などの溶質を水に溶かしていき、どこまで溶けるか実験したことがあるな。一定以上の食塩を加えると「もうこれ以上溶けきれない」状態になり「飽和溶液」と呼ぶことが出来る。さて、この「いっぱいいっぱい」まで溶けた「飽和溶液」を作ろうとする時多くの人は「混ぜる」であろう。さて、この「混ぜる」作業をしなくても、温めたり時間を置いたりして「飽和溶液」を作ることは出来るのでしょうか。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.飽和溶液とは

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飽和溶液とは溶質が「これ以上溶けられない」状態まで溶けている溶液のこと。溶質とは溶けている物質、溶媒が溶かしている物質(液体)、溶液は溶媒に溶質が溶けたもの。食塩水で例えると、溶質は食塩溶媒が水溶液は食塩水です。溶媒が水の場合の溶液は「水溶液」とも呼ばれます。

そして、飽和溶液とは溶質が限界まで溶けきっている溶液です。

「飽和」の概念

理科でたびたび登場する「飽和」という用語。飽和溶液、飽和水蒸気量、飽和結合など。全てに共通する概念があります。「最大限いきわたっている状態で安定している」という概念です。

」は飽きる(あきる)という意味で、理科(化学)の表現で言う「最大限いきわたっている」状態。飽和溶液は、溶質が溶媒の中に最大限いきわたっている状態、飽和水蒸気量は気体中に水蒸気(気体の水)が最大限いきわたっている状態、飽和結合とは全ての結合の「手」1本1本が重複することなく全て結合している状態。二重結合や三重結合がない状態です。

2.飽和溶液の作り方

飽和溶液を作るには、溶質を最大限溶かせばいいわけで、手っ取り早い方法は混ぜることですね。

温めてもたくさん溶かすことが出来そうですが、温度を上げると溶質が溶けられる限度(溶解度)も増えるためそれに抗ってたくさん溶かす必要があるので一概に飽和溶液を作りやすいと言えるかどうかは不明です。冷却すると減少すると溶解度が減少するので、この性質を利用して、一旦温めてたくさん溶質を溶かしその後冷却すれば溶けきれなくなった溶質が再び結晶として析出されます。この時、溶質は最大限溶けきっていますね(溶け出す量と析出する量が同じ化学平衡の状態)。

かき混ぜつつ温めて溶質をたくさん溶かした後冷却すれば手っ取り早く飽和溶液が作れそうですが、ここでは敢えて地道に待って作る方法も考えてみましょう。混ぜたり温めたりを一切しなくても飽和溶液になるのかどうか議論したいと思います。

3.地道に待って飽和溶液を作る

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そもそも何もせずに放置して飽和溶液作ることは出来るのか。例えば水に食塩を加えてそのまま放置してみましょう。何が起きるのでしょうか。全く混ぜなければ全く溶けないのでしょうか。いえいえそんなことはありません。食塩を水に混ぜただけで自然に溶けていく性質があります。溶けるというよりは食塩が水の中に広がっていくイメージで、「拡散」という現象です。

\次のページで「拡散のイメージ」を解説!/

拡散のイメージ

拡散のイメージ

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ここでは拡散の現象をイメージしやすいように、色がついている「コーヒー」をお湯に注いだ時の挙動を用いましょう。注ぐ前のコーヒーの濃度を100、お湯はコーヒーが全く混ざっていないので濃度0とします。お湯の中にコーヒーを注ぐと、コーヒーはコップの下方に沈んでしまうことなく、上方に浮かんでしまうこともなく、お湯の中に自然に広がっていきますね。インスタントコーヒーはこの現象を利用して、お湯を注ぐだけでコーヒーが入れられるようになっているわけです。

さてコーヒーが広がっていく原動力は何でしょうか?1つは濃度差でしょう。お湯に薄いコーヒーを注ぐよりも濃いコーヒーを注いだ方が勢いよく広がるでしょう。しかし、単純に濃度差だけではなさそうです。例えば、半径10wp_の大きめの円筒形容器Aと半径5wp_の小さめの容器B、どちらもお湯(濃度0)が入っているとして、濃度100のコーヒーを注いだとします。どちらが早く広がるでしょうか?

ここで濃度「勾配」という概念が力を発揮します。先ほどの例では、直感的なイメージ通り小さい容器の方が速く広がるもの。

お湯とコーヒーの濃度差はどちらも100ですが小さい容器の方が端までの距離が短い中心から5wp_で濃度差が100も変わってしまいます。大きい容器だと10wp_で濃度差が100。1wp_当たりの濃度変化は大きい容器Aで10、小さい方だと20。拡散の速さには1wp_当たりの濃度差が効いてきます。濃度勾配とは単位距離進むごとの濃度変化であり、今回容器Aの半径方向の濃度勾配は10/wp_、Bは20/wp_です。

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一般に、濃度の拡散は濃度勾配に比例して大きくなり、その比例定数は拡散係数です(フィックの第一法則)。イラストに示すような式となり、こえれは「拡散方程式」と呼ばれます。

4.放置して飽和水溶液を作ってみよう

拡散の考え方にしたがえば、水に溶質を混ぜると「自然に広がっていく」ことから、長時間待てばいずれは飽和容器たる濃度になるまで溶けていくでしょう。ただし、飽和溶液にするためには溶質を溶解度よりも過剰に入れる必要があります。

さて、全く混ぜる動作をせずに飽和溶液を作るにはどれくらい時間がかかるのか簡単に計算してみましょう。溶媒と溶質の種類によっても違いますが今回は、溶媒を水、溶質をショ糖とします(拡散係数の情報を入手しやすかったため)。

半径1wp_の半球に水を満たし、水面の中央に飽和溶液を作るのに十分な量のショ糖を置き、ショ糖が全体に溶けわたり飽和溶液となるまでどれくらいの時間がかかるのか簡易的にシミュレーションしましょう。

濃度拡散時の仮定

濃度拡散時の仮定

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拡散の計算で使う濃度勾配は、時間と場所によってまちまち。また、3次元全ての方向について考える必要があり、厳密にシミュレーションするにはかなりの計算コストがかかります。そこで今回は、計算を単純化するため以下のような仮定を置くことにしましょう。

仮定1:ショ糖の体積は無視し、水は蒸発しない。

仮定2:ショ糖が置かれている点Oは飽和溶液となっていて、ショ糖を加えた時点で拡散が始まる。

仮定3:ショ糖は等方的に(x,y,z3方向とも等しい速度で)拡散する。

仮定4:ショ糖の濃度勾配は点Oから容器の端までの平均値で考える。初期状態の濃度勾配はで、飽和状態では0となるが、濃度勾配は初期状態から飽和状態に至るまで線型的に変化するものとする。

\次のページで「飽和溶液が出来るまでの時間シミュレーション」を解説!/

飽和溶液が出来るまでの時間シミュレーション

仮定1、2にて、ショ糖の溶解度は212g/100mL、ショ糖の分子量は342(g/mol)。よって100mLの飽和溶液の物質量は0.62mol、モル濃度は6200[mol/m3]。O点は常にこの濃度であるとして、次に濃度勾配を考えましょう。

初期状態にて、O点で6200mol/m3容器の端で0[mol/m3]、O点と容器の端の距離は0.01mmであることから濃度勾配は620000[mol/m3/m]。これが時間とともに線型的に減少し最終的に0になると仮定しているので、濃度勾配dc/dxの平均は310000[mol/L/m]

水の中にショ糖を入れた時の拡散係数Dは5.22×10^(-10)[m2/s]なので、濃度勾配とともに拡散係数を方程式に代入すると拡散流束Jは1.62×10^(-4)[mol/m2/s]と求まります。

また、拡散する時の平均断面積Sは初期が0で飽和状態では半径1wp_の半球の表面積(6.3×10^(-4)m2)に等しいことから、両者の平均を取ってS=3.1×10^(-4)[m2]。

ショ糖の1秒当たりの通過量はJ×S=5.1×^(-8)[mol/s]、半球が全て飽和濃度になるためには合計0.013molのショ糖が通過する必要があるので、これには2.55×10^6秒、約3日かかる計算です。

飽和溶液の出来るプロセス

飽和溶液とは、溶質が溶媒に溶けられる限界量まで溶けている溶液。食塩水であれば、水が溶媒、食塩が溶質、食塩水が溶液です。溶質(例えば食塩)が溶媒(例えば水)に徐々に拡散していき、限界まで拡散したら飽和溶液が完成します。

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化学物質の状態・構成・変化理科

混ぜなくても飽和溶液を作れる?教員免許持ちの理系ライターが拡散の原理から5分でわかりやすく解説

理科の実験で食塩水などの溶質を水に溶かしていき、どこまで溶けるか実験したことがあるな。一定以上の食塩を加えると「もうこれ以上溶けきれない」状態になり「飽和溶液」と呼ぶことが出来る。さて、この「いっぱいいっぱい」まで溶けた「飽和溶液」を作ろうとする時多くの人は「混ぜる」であろう。さて、この「混ぜる」作業をしなくても、温めたり時間を置いたりして「飽和溶液」を作ることは出来るのでしょうか。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.飽和溶液とは

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飽和溶液とは溶質が「これ以上溶けられない」状態まで溶けている溶液のこと。溶質とは溶けている物質、溶媒が溶かしている物質(液体)、溶液は溶媒に溶質が溶けたもの。食塩水で例えると、溶質は食塩溶媒が水溶液は食塩水です。溶媒が水の場合の溶液は「水溶液」とも呼ばれます。

そして、飽和溶液とは溶質が限界まで溶けきっている溶液です。

「飽和」の概念

理科でたびたび登場する「飽和」という用語。飽和溶液、飽和水蒸気量、飽和結合など。全てに共通する概念があります。「最大限いきわたっている状態で安定している」という概念です。

」は飽きる(あきる)という意味で、理科(化学)の表現で言う「最大限いきわたっている」状態。飽和溶液は、溶質が溶媒の中に最大限いきわたっている状態、飽和水蒸気量は気体中に水蒸気(気体の水)が最大限いきわたっている状態、飽和結合とは全ての結合の「手」1本1本が重複することなく全て結合している状態。二重結合や三重結合がない状態です。

2.飽和溶液の作り方

飽和溶液を作るには、溶質を最大限溶かせばいいわけで、手っ取り早い方法は混ぜることですね。

温めてもたくさん溶かすことが出来そうですが、温度を上げると溶質が溶けられる限度(溶解度)も増えるためそれに抗ってたくさん溶かす必要があるので一概に飽和溶液を作りやすいと言えるかどうかは不明です。冷却すると減少すると溶解度が減少するので、この性質を利用して、一旦温めてたくさん溶質を溶かしその後冷却すれば溶けきれなくなった溶質が再び結晶として析出されます。この時、溶質は最大限溶けきっていますね(溶け出す量と析出する量が同じ化学平衡の状態)。

かき混ぜつつ温めて溶質をたくさん溶かした後冷却すれば手っ取り早く飽和溶液が作れそうですが、ここでは敢えて地道に待って作る方法も考えてみましょう。混ぜたり温めたりを一切しなくても飽和溶液になるのかどうか議論したいと思います。

3.地道に待って飽和溶液を作る

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そもそも何もせずに放置して飽和溶液作ることは出来るのか。例えば水に食塩を加えてそのまま放置してみましょう。何が起きるのでしょうか。全く混ぜなければ全く溶けないのでしょうか。いえいえそんなことはありません。食塩を水に混ぜただけで自然に溶けていく性質があります。溶けるというよりは食塩が水の中に広がっていくイメージで、「拡散」という現象です。

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