この記事では「縁の下の力持ち」について解説する。
端的に言えば縁の下の力持ちの意味は「陰で苦労する人」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「縁の下の力持ち」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。
ライター/ヤザワナオコ
コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。
学生時代は人前に立つのが好きで、陰で頑張るタイプではなかったらしい。それが今は、主婦業は家族を支えるまさに「縁の下の力持ち」と実感する日々だそうだ。「縁の下の力持ち」とはどんなときに使う言葉なのか、似たような意味の言葉はあるのかなど解説してもらう。
「縁の下の力持ち」には、次のような意味があります。
他人のために陰で苦労、努力をすること、また、そのような人のたとえ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
表舞台で華々しく活躍することはないけれど、陰で支えてくれる存在を称賛する意味合いで使うことが多いです。よく耳にするのは運動部のマネージャーや、企業なら総務や経理といった管理部門の人を指して言うケース。素晴らしい成果を出したときに注目されるのは、直接活躍したスポーツ選手だったり契約を取ってきた営業部門だったりしますが、その活躍も誰かのサポートがあってこそといえます。
支えてくれる人への感謝の気持ちを表したり、入社試験の面接で自己PRとして「人目につかないところで努力して支えるのが得意」とアピールするために使ったりできる表現です。
次に「縁の下の力持ち」の語源を確認しておきましょう。
この言葉は、聖徳太子が建立したとされる大阪の四天王寺(してんのうじ)で、かつて行われていた「椽(えん)の下の舞」が元になってできたといわれています。これは観客に見せることを想定せず、舞台ですらなく庭でひっそり行われた舞でした。無観客で練習を積んで行われた舞から、「見えない場所で努力する」ことを「縁の下の力持ち」というようになったのですね。
ちなみに、ここでいう椽(えん)は「たるき」とも読み、今でいう「軒先」を指しています。現在では文字としては「縁」を使いますが、いわゆる縁側の下、床下で家の土台を支えていた人がいたわけではありません。また、今でこそ「縁の下の力持ち」は陰の功労者を褒める意味合いで使われますが、この使い方になったのは意外と最近のようです。
江戸時代の浮世草子(うきよぞうし)や滑稽本(こっけいぼん)にも「縁の下の力持ち」という言葉は出てきますが、当時は「むなしい努力、報われない苦労」という意味合い。それが、1900年の徳富蘆花(とくとみろか)の著書では、今と同じ「陰で努力する」といったニュアンスで登場していますよ。
\次のページで「「縁の下の力持ち」の使い方・例文」を解説!/
「縁の下の力持ち」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
・営業事務のメンバーの頑張りなくして今回のプロジェクトの成功はなかった。縁の下の力持ちに感謝しよう。
・野球部のマネージャーをしていた経験を生かし、組織の縁の下の力持ちとして貢献したいと思います。
他人への感謝を伝える場合と、自己PRとしての使い方とをご紹介しました。褒め言葉として便利な「縁の下の力持ち」ですが、使用法に注意が必要なケースもあります。
「縁の下の力持ち」はあくまでも「陰で」努力している人を指します。ですから、「明らかに目立った活躍をしている人」を褒めるときに使うのは誤りです。また、「目立たないけれど頑張ってくれている」ことに感謝する際に用いる言葉なので、「目立ちたいのに仕方なく裏方に甘んじている人」に使ってしまうと嫌味と捉えられ、気分を害してしまうかもしれません。
褒め言葉だからどんなシチュエーションで使ってもいいわけではない点に気をつけましょう。
\次のページで「「陰の立役者(かげのたてやくしゃ)」」を解説!/
「立役者」とは元は演劇用語で、重要な役を演じる役者のこと。転じて、中心的な存在として活躍する人を指すようになりました。陰にいながら成功を支えるような活躍をするのですから、まさに「縁の下の力持ち」と同じ意味を表していますね。
なお、「影の立役者」と書くのは誤記なので注意してください。「影」は物理的に光がさえぎられて暗くなった箇所のこと。ここは「人から見えない隠れた部分」を表す「陰」が正解です。
陰で支える身内の功績のことで、中でも夫を支える妻を指して言うことが多い言葉です。
歴史上の人物では山内一豊の妻、千代が有名ですが、筆者としては徳川家康の側室だったお梶の方が思い浮かびました。美貌と才気で家康に愛され、女性ながら関ヶ原にも男装して同行したといわれる人物です。とはいえ有名になるほどの活躍をすると、「内助の功」とはいえなくなってくる気もするので、「内助の功で有名な女性」という言い方自体が少し矛盾しているのかもしれませんね。
次に、「縁の下の力持ち」と反対の意味を表す言葉を紹介します。
英語では使わない表現ですが、「スタンドプレイをする人」を日本では「スタンドプレイヤー」ということがあります。「スタンドプレイ」とは、団体競技なのにチームの勝利よりも自分の成績や観客に対するアピールを目的にしたプレイのこと。ここから、チームで仕事をすることを重視する場なのに自分だけが活躍すればいいという姿勢の人を非難する意味合いで「スタンドプレイヤー」ということがあります。
目立たなくても努力する「縁の下の力持ち」とは対照的な存在ですね。
「控え選手、脇役」などの意味です。やはり表舞台で活躍するわけではありませんが、チームの成功には欠かせない支え役のことなので「縁の下の力持ち」を表すのにぴったりですね。日本でも最近名脇役といわれる俳優さんが注目されていますが、こうした人もこのback seat playerといえます。
同様に「unsung hero(称賛されないヒーロー)」という言葉もありますよ。2020年、薬剤師さんを主人公にしたドラマでもunsungという単語が使われていたので、耳にした方もいるのではないでしょうか。
\次のページで「「縁の下の力持ち」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「縁の下の力持ち」の意味・使い方・類語などを説明しました。華々しい評価にはつながりにくくても、ふとしたときに評価され、感謝される存在ってかっこいいですね。目立たなくてもこつこつ頑張れるというのも立派な長所ですから、「縁の下の力持ち」タイプの人はぜひ自信を持って就活やお仕事に臨んでください。