気体の温度や体積、圧力を計算する時に使うのが状態方程式。高校物理の教科書で見かける状態方程式は圧力(P)×体積(V)=物質量(n)×気体定数(R)×絶対温度(T)の形が主流ではいでしょうか。これは「理想気体」を想定した時に成り立つが、実際の気体(実在気体)では成り立たない。しかしながら、理想気体として計算しても「ほぼ」影響がないケースも多くある。例えば常温常圧の空気はほぼ理想気体とみなせる。一体なぜでしょうか?タイトルにもある「体積計算」を行いながら理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.理想気体と実在気体の違いをざっくり

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理想気体は気体分子そのものの体積を無視して、且つファンデルワールス力などの相互作用は無視していますが、実在気体は気体分子の占有体積を加味しますし分子間力も考慮します。この記事では、上記の仮定のうち「気体分子の体積を無視する」がどれくらい誤差に影響するのか、常温常圧の空気で計算してみましょう。

2.気体分子の体積を無視した場合の影響

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理想気体における仮定の1つが「気体分子の体積を無視する」です。気体の状態方程式PV=nRTにおいて、体積Vは合計の体積ではなく、気体分子が動ける範囲であり、合計の体積から気体分子そのものの体積を引いたものがそれに当たります。

しかし、理想気体ではVは気体全体の体積として計算していますね。ということは「気体分子の体積は0」ということ。なぜこのような計算方法が存在するのかというと、「あまり影響がない」場合もあるからです。数学や物理でよく用いられる近似で、角度Θが小さときはsinΘ=tanΘ=Θといったものがありますね。これはΘを「ほぼ0」とみなしているわけですが、角度が小さいときはそのように仮定しても問題ありません。

同様に、気体の計算でも分子の体積をほぼ0として計算しても問題ない場合があるのです。例えば常温常圧の空気は理想気体とみなせて、気体分子(主に窒素分子と酸素分子)の体積を0とみなしても問題ありません。さて、実際空気中体積に占める気体分子の割合はどの程度か。

空気中の気体分子構成要素

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Adrien Facélina - https://web.archive.org/web/20061104164034/http://perso.orange.fr/eriollsdesigns/icons.html このファイルの派生元:  Atom (2).png, LGPL, リンクによる

空気1Lの中に気体分子は何Lあるか計算してみましょう。気体分子そのものがざっくりどれくらいの体積を占めているかを見ることを目的に、少し乱暴な仮定ですが気体分子は「原子核」と「電子」から構成され残りは全て空き空間とイメージして計算します。

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1Lの空気を構成するもの

空気1Lに何個の気体分子があり、それらがどれくらいの体積を占めるか計算します。ここでは単純化のため空気を窒素:酸素=8:2の混合気体としましょう。空気の温度を25℃で、圧力が大気圧付近だと空気1molの体積は24.8Lのため、空気1Lあたりの物質量は1÷24.8=0.04mol。このうち8割が窒素分子で、2割が酸素分子と仮定しているので、窒素分子の物質量nN=0.032mol、酸素分子は同様にnO=0.008mol。この物質量[mol]から気体分子の個数を割り出すことが出来ます。

気体分子の個数を求める

1mol当たりの分子の個数が決まっていて、6.02×10^23個です。この数値はアボガドロ定数と呼ばれるもの。個数なのになぜ「整数」じゃないのかと思われますが、見ての通り23桁の整数であり1の位まで使って計算する必要性は薄そうです。ということで今回は上3桁のみを使うことにしましょう。

前述の通り窒素分子の物質量nN=0.032mol、酸素はnO=0.008molより個数に換算すると窒素分子が6.02×10^23×0.032=1.93×10^22個酸素分子が6.02×10^23×0.008=4.82×10^21個と求まりますね。

気体分子の「正味」の体積

さて、上記の気体分子のうち「正味」の体積はどの程度なのか?「正味」とは原子核と電子の体積の合計のことです。酸素の酸素原子核2個と電子が16個ありますが、その間の部分は空白、窒素分子は窒素原子核2個と電子14個でその他の部分は空白とみなします(イラスト参照)。

窒素分子のイメージ

窒素分子のイメージ

image by Study-Z編集部

酸素分子のイメージ

酸素分子のイメージ

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\次のページで「酸素分子の体積」を解説!/

酸素分子の体積

酸素の原子核の大きさは10^(-14)m100兆分の1mと言われています。酸素の原子核は直径が100兆分の1mの球と仮定すれば体積は7.85×10^(-29)[m3]であり、これが1分子当りに2個あり、分子が4.82×10^21個あるのでその体積合計は7.85×10^(-29)×24.82×10^21=7.56×10^(-7)[m3]です。

また、電子は古典半径に基づき半径2.8×10^(-15)mの球体とみなすと1個当たりの体積は2.46×10^(-29)[m3]、分子1個当りに16個あるので同様に計算して、2.46×10^(-29)×16×4.82×10^21=1.9×10^(-6)[m3]。原子核と電子の体積を合計して2.66×10^(-6)[m3]と求まります。

窒素分子の体積

窒素原子核は酸素原子核より1.6倍程度大きい、1.6×10^(-14)m、100兆分の1.6mです。酸素の原子核同様これを100兆分の1.6mの球と仮定し、電子も同様に古典半径に基づき計算します。窒素原子核1個当りの体積は2.01×10^(-28)[m3]、分子1個当りに2個の原子核があり、分子が1.93×10^22個あるので合計体積は2.01×10^(-28)×2×1.93×10^22=7.76×10^(-6)[m3]

 

電子は半径2.8×10^(-15)mの球体なので、1個当り2.46×10^(-29)[m3]、分子1個当りに14個あるので、2.46×10^(-29)×14×1.93×10^21=6.65×10^(-6)[m3]。原子核と電子の合計体積は1.44×10^(-5)[m3]です。

 

空気中の気体分子の合計体積

窒素分子の体積が0.27×10^(-5)[m3]、酸素分子の体積が1.44×10^(-5)[m3]と合わせて1.71×10^(-5)[m3]0.0171Lです。空気の体積1Lに対してわずか1.71%ということ。

電子の半径について

電子は体積を持たない「点電荷」であり体積を持たないという考え方もありますが、ここでは電子の古典半径を用いて体積を計算しています。電子の半径の考え方には諸説ありますが、その中でもこの古典半径が最も大きな値であり、2.8×10^(-15)m、1000兆の2.8です。電子を表面上に一様に荷電分布した球体とみなし、その静電エネルギーと静止エネルギーが等しいとして解いた時の半径が古典半径となります。

気体分子の体積と理想気体

理想気体の仮定の1つである「分子の体積を無視する」場合の影響について、常温常圧の空気で計算し確認しました。圧力が低いほど、気体分子は疎に存在することになり、気体分子の体積を無視した場合の影響が少ない。つまり理想気体に近づきます

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化学物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単「理想気体と実在気体の違い」教員免許持ちの理系ライターがわかりやすく解説

気体の温度や体積、圧力を計算する時に使うのが状態方程式。高校物理の教科書で見かける状態方程式は圧力(P)×体積(V)=物質量(n)×気体定数(R)×絶対温度(T)の形が主流ではいでしょうか。これは「理想気体」を想定した時に成り立つが、実際の気体(実在気体)では成り立たない。しかしながら、理想気体として計算しても「ほぼ」影響がないケースも多くある。例えば常温常圧の空気はほぼ理想気体とみなせる。一体なぜでしょうか?タイトルにもある「体積計算」を行いながら理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.理想気体と実在気体の違いをざっくり

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理想気体は気体分子そのものの体積を無視して、且つファンデルワールス力などの相互作用は無視していますが、実在気体は気体分子の占有体積を加味しますし分子間力も考慮します。この記事では、上記の仮定のうち「気体分子の体積を無視する」がどれくらい誤差に影響するのか、常温常圧の空気で計算してみましょう。

2.気体分子の体積を無視した場合の影響

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理想気体における仮定の1つが「気体分子の体積を無視する」です。気体の状態方程式PV=nRTにおいて、体積Vは合計の体積ではなく、気体分子が動ける範囲であり、合計の体積から気体分子そのものの体積を引いたものがそれに当たります。

しかし、理想気体ではVは気体全体の体積として計算していますね。ということは「気体分子の体積は0」ということ。なぜこのような計算方法が存在するのかというと、「あまり影響がない」場合もあるからです。数学や物理でよく用いられる近似で、角度Θが小さときはsinΘ=tanΘ=Θといったものがありますね。これはΘを「ほぼ0」とみなしているわけですが、角度が小さいときはそのように仮定しても問題ありません。

同様に、気体の計算でも分子の体積をほぼ0として計算しても問題ない場合があるのです。例えば常温常圧の空気は理想気体とみなせて、気体分子(主に窒素分子と酸素分子)の体積を0とみなしても問題ありません。さて、実際空気中体積に占める気体分子の割合はどの程度か。

空気中の気体分子構成要素

空気1Lの中に気体分子は何Lあるか計算してみましょう。気体分子そのものがざっくりどれくらいの体積を占めているかを見ることを目的に、少し乱暴な仮定ですが気体分子は「原子核」と「電子」から構成され残りは全て空き空間とイメージして計算します。

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