今回のテーマ「ガンマ線」をみていこう。

ガンマ線(γ線)はアルファ線(α線)、ベータ線(β線)、そしてレントゲンで使われるエックス線(X線)同様放射線の一種です。この記事ではガンマ線がどのような経緯で発見され、どこから発生しその正体は何なのか、また社会でどのように活用されているかも含めて学習していこう。

国立大学理系出身で非破壊検査技術者としての経験をもち、ガンマ線に詳しいNaohiroと一緒に説明していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。非破壊検査技術者としての知識と経験をもとにガンマ線について分かりやすく解説する。

1. ガンマ線発見の歴史

image by iStockphoto

まずガンマ線がどのように発見、命名されたのかについて歴史を辿ってみましょう。

1895年:ドイツでレントゲンがエックス線を発見

1898年:イギリスのラザフォードがアルファ線、ベータ線を発見

1900年:フランスの物理学者ヴィラ―ルがエックス線のように透過性の強い別の放射線を発見

1903年:ラザフォードがこの放射線をガンマ線と命名

1900年当時はウランから放出される放射線の研究が進められており、正の電荷をもつアルファ線と負の電荷をもつベータ線の正体をつきとめるため質量と電荷の比率が主な研究対象となっていました。ヴィラ―ルも「透過力の高い第3の放射線がある」と発表しただけでそれ以降第3の放射線(ガンマ線)に関する研究は行いませんでした。その後この放射線に着目し研究をまとめ発表、ガンマ線と命名したのがラザフォードだったのです。

2. ガンマ線の特徴

ガンマ線とはアルファ線、ベータ線と同様に天然、もしくは人工の放射性同位元素(どういげんそ)の核反応(かくはんのう)によって放出される放射線の一種。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子からなる荷電粒子、そしてガンマ線の正体は電磁波です。

ここで「あれ?光とか電子レンジのマイクロ波とかも電磁波じゃなかったっけ?何が違うの?」と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれませんね。この記事ではその疑問も含めて解説していきましょう。

\次のページで「2-1. 放射線としての分類」を解説!/

2-1. 放射線としての分類

まずガンマ線が放射線としてどのように分類されているかを見ていきましょう。なお正確には電波、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線も「非電離放射線」と分類されますが、一般的に放射線と言われる場合「電離放射線(以下放射線はこちらをさす)」のことを指しますのでここでは除外します。

また原子力発電の核分裂反応、加速器により生成される中性子線、陽子線、重イオン線を始めとする粒子放射線も除き今回はガンマ線を含めた下記4種類の放射線の分類について説明していきますね。

image by Study-Z編集部

アルファ線(α線)、ベータ線(β線)、ガンマ線(γ線)に全て共通するのは全て原子核内から放出されるという点で、それぞれアルファ崩壊ベータ崩壊ガンマ崩壊という放射性崩壊(ほうしゃせいほうかい)により放出されます。この表からは透過力が大きいのはガンマ線電離作用が大きいのはアルファ線であること、そしてガンマ線とエックス線の違いは電子が原子核内から放出されるか原子核外から放出されるかの違いであることも覚えておきましょう。

そして放射性崩壊は、放射性物質が放射線を出す原因でもありそれぞれの特徴は次の通りです。

アルファ崩壊:原子核からヘリウム原子核(陽子2個、中性子2個)が放出される

ベータ崩壊 :原子核中の中性子1個が陽子1個になり、電子1個が放出される

ガンマ崩壊 :高いエネルギーをもった原子核が電磁波(ガンマ線)を放出して安定化する

※ガンマ崩壊は基本的にアルファ崩壊、ベータ崩壊とほぼ同時に発生する

Alfa beta gamma radiation.svg
Stannered - Traced from this PNG image., CC 表示 2.5, リンクによる

このガンマ線の透過力が最も大きいことを説明する図は最もよく目にしますが、ここで注意すべきことが1点あります。それは人体(細胞)への影響が最も大きいのはアルファ線であること。ガンマ線の透過力が高いため危険そうに感じてしまいますが、電離作用が最も大きいのはアルファ線であることを思い出してみてください。電離作用が大きいということは短い距離でより多くの原子の電離を引き起こすということ、このことからアルファ線の危険性がわかるかと思います。

2-2. 電磁波としての分類

次にガンマ線の、電磁波の中での分類を見ていきましょう。

image by Study-Z編集部

ガンマ線の波長は一部エックス線の波長と重複していますが概ね10pm(ピコメートル)=0.01nm(ナノメートル)以下の波長の電磁波のことを指します。紫外線の波長の1/1000以下、原子も0.1nmより大きいですので、ガンマ線が原子の大きさより短い波長で発生していることがわかりますね。

また表右列のエネルギーでは各波長のもつエネルギーを電子ボルト(エクレトロンボルト)eVという単位で表していますが、ここからはガンマ線のもつエネルギーが紫外線のもつエネルギーの1,000倍以上になることがわかります。このことからもガンマ線のエネルギーがどれほど強力であるかが理解できるでしょう。

\次のページで「3. ガンマ線の有効利用」を解説!/

3. ガンマ線の有効利用

それでは最後にガンマ線が実際に社会でどう活用されているのかについて知っていきましょう。

3-1. 医療分野

image by iStockphoto

医療分野ではガンマ線がもつ非常に高い透過力を利用してガンマナイフと呼ばれる、コバルト60(60Co)を線源とした約200本の細いガンマ線を病巣のみに集中照射し、正常細胞を傷つけずに治療することを可能としています。この手法は1968年に開発されて以降外科手術が困難な脳腫瘍、血管障害、てんかん、パーキンソン病に適用され多くの人の命を救ってきました。

また使用前の注射器、手術で使用した糸、人工臓器に対しガンマ線を照射し滅菌することで多くの人の命を感染症から守っているのです。

3-2. 農業分野

Potatoes.jpg
From http://www.usda.gov/oc/photo/94cs3834.htm, public domain. Originally uploaded on English Wikipedia by Ed g2s., パブリック・ドメイン, リンクによる

農業分野では、沖縄で農業害虫(のうぎょうがいちゅう)であるウリミバエに対してガンマ線を照射することにより不妊化させる、不妊虫放飼法(ふにんちゅうほうしほう)によって根絶したことが有名です。

北海道ではジャガイモの発芽を抑え長期保存するために、また農林水産省では稲、麦、大豆の品種改良にガンマ線の照射が活用されています。

3-3. 工業分野

image by iStockphoto

最後に工業分野では高分子化合物(ゴムやプラスチック)に照射することで強度と耐熱性の向上材質を改変することに使用。

そして物質を透過する能力が高いことを利用し、溶接した金属に欠陥が入っていないかを確認する非破壊検査(ひはかいけんさ)で活用されています。溶接は建築、橋梁、造船、プラントを代表とする社会インフラの整備に利用されていますが、溶接した金属の内部に大きな欠陥が残されていてインフラが壊れた、なんてことになったらたくさんの人命に関わりますよね。そこで溶接された箇所に欠陥が残されていないか、強度的に問題がないかを保証するために使われているのです。

\次のページで「意外と身近なガンマ線」を解説!/

意外と身近なガンマ線

放射線と聞くとどうしても広島、長崎や福島での悲しい話を思い出してしまいますが、ガンマ線はエックス線と同じ電磁放射線の一種。実はコバルト60やイリジウム192を主な線源として、透過力の高さを活かし医療、農業そして工業分野と多方面で活躍しています。

ガンマ線、エックス線ほどの知名度はないかもしれませんが実は裏で社会を支え、私たちの命を守ってくれている黒子のような存在なのです。

" /> 3分で簡単「ガンマ線」放射線の分類から理系ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素理科量子力学・原子物理学

3分で簡単「ガンマ線」放射線の分類から理系ライターがわかりやすく解説!

今回のテーマ「ガンマ線」をみていこう。

ガンマ線(γ線)はアルファ線(α線)、ベータ線(β線)、そしてレントゲンで使われるエックス線(X線)同様放射線の一種です。この記事ではガンマ線がどのような経緯で発見され、どこから発生しその正体は何なのか、また社会でどのように活用されているかも含めて学習していこう。

国立大学理系出身で非破壊検査技術者としての経験をもち、ガンマ線に詳しいNaohiroと一緒に説明していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。非破壊検査技術者としての知識と経験をもとにガンマ線について分かりやすく解説する。

1. ガンマ線発見の歴史

image by iStockphoto

まずガンマ線がどのように発見、命名されたのかについて歴史を辿ってみましょう。

1895年:ドイツでレントゲンがエックス線を発見

1898年:イギリスのラザフォードがアルファ線、ベータ線を発見

1900年:フランスの物理学者ヴィラ―ルがエックス線のように透過性の強い別の放射線を発見

1903年:ラザフォードがこの放射線をガンマ線と命名

1900年当時はウランから放出される放射線の研究が進められており、正の電荷をもつアルファ線と負の電荷をもつベータ線の正体をつきとめるため質量と電荷の比率が主な研究対象となっていました。ヴィラ―ルも「透過力の高い第3の放射線がある」と発表しただけでそれ以降第3の放射線(ガンマ線)に関する研究は行いませんでした。その後この放射線に着目し研究をまとめ発表、ガンマ線と命名したのがラザフォードだったのです。

2. ガンマ線の特徴

ガンマ線とはアルファ線、ベータ線と同様に天然、もしくは人工の放射性同位元素(どういげんそ)の核反応(かくはんのう)によって放出される放射線の一種。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子からなる荷電粒子、そしてガンマ線の正体は電磁波です。

ここで「あれ?光とか電子レンジのマイクロ波とかも電磁波じゃなかったっけ?何が違うの?」と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれませんね。この記事ではその疑問も含めて解説していきましょう。

\次のページで「2-1. 放射線としての分類」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: