今回のテーマは「自然放射線」。

2011年3月に福島第一原子力発電所で爆発事故が発生して以来、私たちが日々暮らす環境の中にも放射線が存在していることが知られるようになったと思う。しかしその放射線はどこからきて、私たちがどれくらいの量を受けているのかといった疑問に答えられる人はいるでしょうか?

今回はそんな疑問について非破壊検査技術者としての経験をもち、自然放射線にも詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学理系出身。非破壊検査技術者としての知識と経験をもとに自然放射線についてわかりやすく解説する。

1. 自然放射線の話に入る前に

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自然放射線の話に入る前に、まず放射線の言葉の定義単位についてと理解することが重要です。ここをとばしてしますと理解があいまいになってしまいますので、しっかりと理解してくださいね。

1-1. 言葉の定義

1-1. 言葉の定義

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まず放射線、放射能及び放射性物質の言葉の定義を理解していきましょう。この3つは曖昧なまま使用されることが多い言葉で、それぞれの言葉がもつ正確な意味を理解し使えるようにしておくことが大切です。

 放射線 : 高いエネルギーをもち高速で飛ぶ粒子、もしくは非常に短い波長をもつ電磁波

 放射能 : 放射線を放出する能力

放射性物質: 放射能を有する物質

1-2. 放射線と放射能の単位

1-2. 放射線と放射能の単位

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そしてもう一つ、放射線について理解する上で欠かせないのが単位です。特にシーベルトはグレイに線質係数(せんしつけいすう:生体への影響度を示す因子)を乗じたもので、放射線の人体への影響を評価する上でとても大切な単位になりますのでしっかり理解するようにしておいてくださいね。

ベクレル(Bq)[ 個 / 秒 ]
→放射性物質が放射線を出す能力を表す単位

グレイ(Gy)[ J / kg ]
→放射線のエネルギーが物質に吸収された量を表す単位

シーベルト(Sv) [ J / kg ]
→人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位

\次のページで「2. 自然放射線について」を解説!/

2. 自然放射線について

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放射線はその由来によって自然放射線と人工放射線に分けることができます。そして自然放射線は更に宇宙放射線自然放射性物質由来の放射線の2種類に分けることができるのです。

ここでは宇宙放射線と自然放射性物質由来の放射線に分けて解説していきます。

2-1. 宇宙からくる放射線

2-1. 宇宙からくる放射線

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1911年から1912年にかけて気球を使い放射線の計測実験を行い、地球外から飛来する放射線を発見した人物がいます。それがオーストリア出身の物理学者ヴィクトール・フランツ・ヘス。彼はこの業績によって1936年ノーベル物理学賞を受賞しています。

宇宙放射線の正確な定義は文献などにより違いがあるのですが太陽風、太陽粒子、銀河宇宙線がその構成成分で、一次宇宙線が大気を構成する元素の原子核と衝突して発生する二次宇宙線が地表に降り注いでいるのです

宇宙放射線の被ばく量は日本の年間平均で0.30mSv、そして航空機に乗ると高度が上がるとともに被ばく量が増え東京ーニューヨーク間を往復すると0.11~0.16mSvを被ばくすることが分かっています。知識として知っておくと面白いですね。

そして宇宙放射線により窒素14から放射性同位体(ほうしゃせいどういたい)の炭素14が生成されるということも覚えておきましょう。

2-2. 自然放射性物質由来の放射線

2-2. 自然放射性物質由来の放射線

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宇宙放射線とは別に、私たちは自然放射性物質由来の放射線で大気、大地もしくは食物の摂取により被ばくしています。

大気からの被ばくは主として空気中に含まれるラドン、食物からの被ばくは食べ物の中に含まれる前述の放射性同位体カリウム40と炭素14、大地からの被ばくは岩石が多い地域で高い傾向にあり特に花崗岩(かこうがん)に多く含まれています。花崗岩は別名御影石(みかげいし)と呼ばれ建設材料としても使われていますので、実は身近に使われているものの中にも微量の放射性物質が含まれているのです。

なお食物として摂取した放射性同位元素は代謝により排出されるため、何らかの原因で過剰摂取しない限り体内で一定の割合に保たれ、増えることは無いので安心してくださいね。

2-3. 自然放射線の高さで知られる地域

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また世界には大地からの放射線量が異常に高いことで知られる地域も存在します。これらは主にラジウム、トリウム、ウランが土壌中に含まれることが原因です。その驚きの線量を見ていきましょう。

大地の放射線(世界)

インド  ケララ    9.2 mSv/年

・イラン  ラムサール  4.7 mSv/年

・イタリア オルビエート 3.4 mSv/年

・中国   陽江     2.3 mSv/年

日本(平均)      0.3 mSv/年

出典:放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成30年度版)(環境省)

\次のページで「3. 考古学で利用される自然放射性物質」を解説!/

インドのケララ州ではなんと日本平均の30倍以上の大地からの放射線を浴びています。そして驚くべきはこれら高線量地域ではそれぞれ大規模な疫学調査が行われているのですが、がんの死亡率や発症率に関し有意な差が認められていないことが知られているのです。

なおブラジルのガラパリという都市も以前は年間10ミリシーベルトの高線量地域として有名だったのですが、現在では年間0.5ミリシーベルトと1/20の線量となっています。これはなぜかというと都市化に伴いアスファルト舗装が進むことで土壌中の放射性物質が隔離されたことが要因です。放射線、放射能、放射性物質の違いがしっかりと理解できていればなぜ線量が下がったかも分かりやすいですよね。

3. 考古学で利用される自然放射性物質

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以上自然放射線について学んできましたが、最後に自然放射性物質が考古学の世界で利用されているという話をしましょう。最もポピュラーなのは炭素14を用いた放射性炭素年代測定です。

炭素14と言えば宇宙線で説明した通り大気中に常に二酸化炭素の形で一定濃度含まれている放射性同位体。水素3の半減期12年ほど短すぎず、カリウム40の半減期12億年ほど長すぎない5,730年の半減期をもっている特性を活かして2万8,000年前までの年代を推定することが可能になるのです。

具体的に説明すると大気中に一定の割合で含まれる炭素14を植物が光合成で体内に取り組みその植物を動物や人間が食べたり、木を切り倒して住居に使用しますよね。当然そこで摂取もしくは伐採された植物は炭素の取り込みを停止しますので、測定時点(現代)で炭素14がどれくらい残留しているのかを測定することで年代測定が可能になり、測定した炭素14の比率が大気の1/2であれば5,730年前、1/4であれば1万1,460年前というわけです。

自然放射線は昔から身近に存在している

まず放射線、放射能及び放射性物質の言葉の定義とベクレル、グレイ、シーベルトといった単位について理解した後、自然放射線は大きく宇宙由来のものと自然放射性物質由来(空間、大地、食物)のものに分けられるということを学びました。

またこれら自然放射線が日本に住む私たちとは比較にならないほど高い地域で暮らす人たちが存在し、疫学的な調査でがんの死亡率、発症率に顕著な差が認められていないこと。また昔人類がいつどのように暮らしていたのか、その手がかりとして使われていることも分かりましたね。

自然放射線のことを恐れるのではなく身近なものとして受け入れ、これからも上手く付き合っていきたいものです。

イラスト使用元:いらすとや

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化学原子・元素理科量子力学・原子物理学

3分で簡単「自然放射線」安全?健康に影響は?理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「自然放射線」。

2011年3月に福島第一原子力発電所で爆発事故が発生して以来、私たちが日々暮らす環境の中にも放射線が存在していることが知られるようになったと思う。しかしその放射線はどこからきて、私たちがどれくらいの量を受けているのかといった疑問に答えられる人はいるでしょうか?

今回はそんな疑問について非破壊検査技術者としての経験をもち、自然放射線にも詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学理系出身。非破壊検査技術者としての知識と経験をもとに自然放射線についてわかりやすく解説する。

1. 自然放射線の話に入る前に

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自然放射線の話に入る前に、まず放射線の言葉の定義単位についてと理解することが重要です。ここをとばしてしますと理解があいまいになってしまいますので、しっかりと理解してくださいね。

1-1. 言葉の定義

1-1. 言葉の定義

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まず放射線、放射能及び放射性物質の言葉の定義を理解していきましょう。この3つは曖昧なまま使用されることが多い言葉で、それぞれの言葉がもつ正確な意味を理解し使えるようにしておくことが大切です。

 放射線 : 高いエネルギーをもち高速で飛ぶ粒子、もしくは非常に短い波長をもつ電磁波

 放射能 : 放射線を放出する能力

放射性物質: 放射能を有する物質

1-2. 放射線と放射能の単位

1-2. 放射線と放射能の単位

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そしてもう一つ、放射線について理解する上で欠かせないのが単位です。特にシーベルトはグレイに線質係数(せんしつけいすう:生体への影響度を示す因子)を乗じたもので、放射線の人体への影響を評価する上でとても大切な単位になりますのでしっかり理解するようにしておいてくださいね。

ベクレル(Bq)[ 個 / 秒 ]
→放射性物質が放射線を出す能力を表す単位

グレイ(Gy)[ J / kg ]
→放射線のエネルギーが物質に吸収された量を表す単位

シーベルト(Sv) [ J / kg ]
→人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位

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