この記事では「独立栄養生物」というキーワードについて学習していこう。

独立栄養生物は我々人間やあらゆる動物が生きていく上で、欠かすことのできない存在です。どんな生物が独立栄養生物にふくまれているのか、専門的な知識も交えながら丁寧にみていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

独立栄養生物とは

独立栄養生物(どくりつえいようせいぶつ)とは、「生存の上で必要なエネルギーを、すべて無機物によって補うことのできる生物」のことをさす用語です。

空気中や土中の無機物だけを吸収し、生存、生長できる生物…例えば植物などが、この独立栄養生物の代表的な存在といえます。独立栄養生物をもうすこし簡単な言葉で説明するとすれば、「生きていくために他の生物をエサとして食べる必要がない生物」ともいえるでしょう。

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その一方で、私たち人間も含め、多くの生物は命をつなぐために他の生物を摂食しなくてはなりません。食べることで体内に吸収された炭水化物などがエネルギー源となり、生命活動に利用されるからです。

独立栄養生物とは反対に、生きていくために他の生物を食べなくてはいけない生物を従属栄養生物(じゅうぞくえいようせいぶつ)といいます。

image by Study-Z編集部

人間をはじめとする哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類…いわゆる”動物”は、いずれも生きていくために必ず”餌”が必要ですよね。エネルギーを生み出すために必要な炭素を、空気中の二酸化炭素などから得ることができない私たちは、他の生物を食べることでそれをからだに取り入れているのです。

また、キノコやカビなどの菌類は、植物のように見えますが光合成をおこないません。菌糸を伸ばし、有機物を分解・吸収するなどの方法で炭素を得ていますので、菌類も従属栄養生物です。

独立栄養生物の種類

独立栄養生物は、大きく二つのグループに大別されます。光合成独立栄養生物と、化学合成独立栄養生物です。それぞれについて、少し詳しく学習してみましょう。

1.光合成独立栄養生物

光合成独立栄養生物は名前の通り、光合成によってエネルギー源を生み出すことのできる独立栄養生物をさします。ほとんどの陸上植物藻類は葉緑体をもつ光合成独立栄養生物です。

光合成は二酸化炭素と水、光エネルギーから、有機物と水を生み出す代謝反応。二酸化炭素分子中の炭素などから有機物をつくります。それをミトコンドリアが呼吸(内呼吸)にもちいることで、細胞がはたらくためのエネルギーを得ているのです。

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2.化学合成独立栄養生物

独立栄養生物のなかには光合成ではなく、硫化水素やアンモニアといった無機化合物を材料とした化学反応から得られるエネルギーを使うものがいます。そのような生物を化学合成独立栄養生物というのです。

このグループには、硝化細菌(しょうかさいきん)や硫黄細菌(いおうさいきん)などの古細菌類や細菌類がふくまれます。硝化細菌は、アンモニアを亜硝酸塩に酸化、もしくは亜硝酸塩を硝酸塩に酸化し、その時に発生するエネルギーを利用している生物。硫黄細菌は硫黄や硫黄の含まれた化合物からエネルギーを取り出します。

独立栄養生物か従属栄養生物か…迷う生き物たち

地球上にはたくさんの種類の生き物がいます。中には、従属栄養生物なのか独立栄養生物なのか、迷ってしまうようなものも。そんな生物たちの例を少しだけご紹介しましょう。

1.食虫植物

植物は独立栄養生物のなかでも代表的な存在ですが、一部には動物をとらえて栄養を補っているものがいます。世にいう食虫植物の仲間です。虫をとらえる袋(補虫袋)をもつウツボカズラや、べたべたした粘液を出して虫をとらえるモウセンゴケなど、独特の生態をもった植物としてよく知られていますね。

食虫植物は虫などの”エサ”をとらえる従属栄養生物なのでしょうか?

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食虫植物が虫をとらえるのは、彼らの生育する環境に要因があります。食虫植物の仲間は、窒素やリンが乏しい、やせた土地に生育していることが多いのです。そのため、食虫植物は不足する栄養分を虫をとらえて補うように進化したと考えられています。土中に十分な肥料があれば、虫をとらえなくても生育が可能だそうです。

たとえ食虫植物であっても、基本的には葉緑体をもち、光合成をすることで二酸化炭素からエネルギー源を生み出しています。そのため、完全な従属栄養生物とはいえず、どちらかといえば独立栄養生物に分類されることが多いのです。一部では、「混合栄養生物」という言葉で表されることもあります。

2.葉緑体のない植物

植物の中には、ごく一部ですが葉緑体をもたない種も存在します。たとえば、真っ白なからだのギンリョウソウや、ラン科のショウキランなどが有名です。

ギンリョウソウやショウキランは、光合成ができない代わりに、根に菌類を共生させ、菌類から有機物を奪って生長します。このような植物を腐生植物とよびますが、腐生植物は自ら有機物をつくることができないので、従属栄養生物に分類されるのです。

\次のページで「3.サンゴ」を解説!/

3.サンゴ

赤や緑など様々な色を呈するサンゴ。南国のサンゴ礁には色鮮やかな魚が集まり、美しい景観を生み出していますよね。

よく勘違いされるのですが、サンゴは植物ではなく、動物の仲間です。一般的な動物のようには動かず、固着しており、死んでしまうと色が抜けて白化してしまうなど、植物らしい特徴をもっていますが、分類的には刺胞動物門というグループに属しています。

動物であるサンゴは、触手を伸ばして海中のプランクトンを捕食しています。立派な従属栄養生物です。さて、このサンゴにみられる特徴に、その体に褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類を共生させているという点があります。褐虫藻は、分類としては渦鞭毛藻類にふくまれる単細胞の藻類です。

褐虫藻は一般的な植物プランクトンや藻類と同様に、光合成色素をもち光合成をしています。光合成によって得られた産物は、褐虫藻のエネルギーとして使われるだけでなく、宿主となっているサンゴにも渡されているようです。

つまり、「サンゴ自体は光合成をおこなわない従属栄養生物だが、サンゴに共生している褐虫藻は独立栄養生物だ」というわけなんですね。

独立栄養生物と生態ピラミッド

生態ピラミッドとは、ある生態系内の生物の量(個体数など)を、栄養段階の低いものから積み上げていくとみられる構造です。

一般的に、生態系中では栄養段階の低い=食物連鎖で下位に位置する生物ほど量が多く、栄養段階の高い=食物連鎖の上位にいる生物ほど量が少ないことが多くなります。例外もありますが、ピラミッド状の図になって表されることが多いのです。

\次のページで「独立栄養生物がいてこその生態系」を解説!/

EcologicalPyramids.jpg
Thompsma - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

基本的に、生態ピラミッドのなかでは、独立栄養生物は一番下に位置しています。食物連鎖で考えると、他の生物を捕食しない生物なので、栄養段階が最も低いのです。

反対に、独立栄養生物よりもピラミッドの上部に位置している生物は、他の生物に栄養を依存している従属栄養生物にほかなりません。

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生態ピラミッドをみると、独立栄養生物は食べられてばかりで、他の生物に影響を及ぼさないようにも見えますが…それは大きな間違い!

独立栄養生物の量が減ると、その上の栄養段階の生物が数を維持できなくなります。そのさらに上の段階の生物も、捕食していた生物の量が減ることで、同様に数を減らし、さらにその上も…と、連鎖的に生物の量に影響がでてしまうのです。

独立栄養生物がいてこその生態系

生態ピラミッドとの関係に言及するまでもなく、植物などの独立栄養生物はすべての生命の”土台”となる重要な存在です。荒れ果てた土地でも、まずは植物が定着することで、昆虫や微生物も住むことができるようになり、新たな生態系が構築されていきます。

栽培された野菜を食べ、身の回りのものも金属やプラスチック製が増えた現代の社会生活では、自然界における独立栄養生物の重要性は忘れられがち。環境問題が深刻化し、持続可能な社会が求められる今、改めてその存在に目を向けなくてはなりません。

イラスト提供元:いらすとや

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理科生態系生物

生態系を支える「独立栄養生物」とは?現役講師が解説が5分でわかりやすく解説!

2.化学合成独立栄養生物

独立栄養生物のなかには光合成ではなく、硫化水素やアンモニアといった無機化合物を材料とした化学反応から得られるエネルギーを使うものがいます。そのような生物を化学合成独立栄養生物というのです。

このグループには、硝化細菌(しょうかさいきん)や硫黄細菌(いおうさいきん)などの古細菌類や細菌類がふくまれます。硝化細菌は、アンモニアを亜硝酸塩に酸化、もしくは亜硝酸塩を硝酸塩に酸化し、その時に発生するエネルギーを利用している生物。硫黄細菌は硫黄や硫黄の含まれた化合物からエネルギーを取り出します。

独立栄養生物か従属栄養生物か…迷う生き物たち

地球上にはたくさんの種類の生き物がいます。中には、従属栄養生物なのか独立栄養生物なのか、迷ってしまうようなものも。そんな生物たちの例を少しだけご紹介しましょう。

1.食虫植物

植物は独立栄養生物のなかでも代表的な存在ですが、一部には動物をとらえて栄養を補っているものがいます。世にいう食虫植物の仲間です。虫をとらえる袋(補虫袋)をもつウツボカズラや、べたべたした粘液を出して虫をとらえるモウセンゴケなど、独特の生態をもった植物としてよく知られていますね。

食虫植物は虫などの”エサ”をとらえる従属栄養生物なのでしょうか?

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食虫植物が虫をとらえるのは、彼らの生育する環境に要因があります。食虫植物の仲間は、窒素やリンが乏しい、やせた土地に生育していることが多いのです。そのため、食虫植物は不足する栄養分を虫をとらえて補うように進化したと考えられています。土中に十分な肥料があれば、虫をとらえなくても生育が可能だそうです。

たとえ食虫植物であっても、基本的には葉緑体をもち、光合成をすることで二酸化炭素からエネルギー源を生み出しています。そのため、完全な従属栄養生物とはいえず、どちらかといえば独立栄養生物に分類されることが多いのです。一部では、「混合栄養生物」という言葉で表されることもあります。

2.葉緑体のない植物

植物の中には、ごく一部ですが葉緑体をもたない種も存在します。たとえば、真っ白なからだのギンリョウソウや、ラン科のショウキランなどが有名です。

ギンリョウソウやショウキランは、光合成ができない代わりに、根に菌類を共生させ、菌類から有機物を奪って生長します。このような植物を腐生植物とよびますが、腐生植物は自ら有機物をつくることができないので、従属栄養生物に分類されるのです。

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