今回は「融解塩電解」について解説していきます。

融解塩電解は、特殊な電気分解の方法のことであり、アルミニウムやナトリウムの製造などに利用される重要な技術の1つです。また、電気化学の基礎となることから、学問分野としても非常に重要です。今回は、融解塩電解のメカニズムと応用例を詳しく説明した。ぜひ、この機会に融解塩電解についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

融解塩電解と従来の電気分解の違い

融解塩電解と従来の電気分解の違い

image by Study-Z編集部

融解塩電解は、化合物を分解する方法の1つです。融解塩電解では、電気の力を利用して化学物質の分解を行いますよ。このような言葉を聞くと、水溶液に電極を差し込み、電気を流すことで化合物を分解する「電気分解」を連想する方が多いかと思います。融解塩電解も、電気分解の一種ですが、少々変わった特徴を持っているのです

この記事では、はじめに融解塩電解と従来の電気分解の違いを電気化学の視点で解説します。電気化学とは、物理化学における分野の1つです。そして、記事の後半では、実際に融解塩電解が用いられている工業技術の事例を複数紹介しますよ

この分野の説明は抽象的なものになりがちですが、できる限り直感的で丁寧な解説をするように心がけました。また、聞きなれない単語や用語が登場することもあるかもしれませんが、そのような場合は必ずそれら意味を確認するようにしてくださいね。

従来の電気分解

まずは、水溶液に溶かした物質を電気の力で分解する従来の電気分解について簡単に復習しておきましょう。電気分解では、水溶液に直流電源のプラス極に接続された陽極、マイナス極に接続された陰極を挿入します。これらの極には、非常に化学的安定度の高い炭素や白金が用いられますよ。

陽極と陰極を水溶液に挿入した状態で電気を流すと、水溶液中の陰イオンが陽極に、陽イオンが陰極に引き寄せられます。そして、引き寄せられたイオンは電子の授受を行い、分子や原子に変化しますよ

例として、塩化銅水溶液を電気分解する実験を考えてみましょう。塩化銅水溶液中には、陰イオンの塩化物イオンと陽イオンの銅イオンが含まれています。電気分解を行うと、陽極では塩化物イオンが塩素分子に、陰極では銅イオンが単体の銅に変化しますよ

融解塩電解

先ほどの説明では、電気分解を用いることで、あらゆる化学物質を分解できるように思われます。しかしながら、実際はそのようなことはありません水溶液中に含まれているイオンのイオン化傾向が大きすぎる場合は、電気分解では化合物を分解することは困難になるのです

このような説明だけでは、理解しづらいかと思いますので、例を挙げて説明します。水酸化ナトリウムの電気分解を考えてみましょう水酸化ナトリウム水溶液には、陽イオンのナトリウムイオンが含まれていますが、陰極にナトリウムの単体が生じることはありません。ナトリウムではなく、水分子に含まれる水素原子由来である水素の気体が発生するのです。

このような問題を解決するために、分解した物質を融解させる方法が考案されました融解させた物質に、直接電極を挿入し、電気分解を行うのです。このような手法のことを、融解塩電解と呼びます。

\次のページで「ナトリウムの製造」を解説!/

ナトリウムの製造

Na (Sodium).jpg
オリジナルのアップロード者は英語版ウィキペディアDnn87さん - en.wikipedia からコモンズに移動されました。, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ここまでの説明で融解塩電解の概要はある程度理解できたかと思います。以下では、融解塩電解に関連する具体的な事例をご紹介していきますね。今回紹介する事例は、高校の授業で扱われたり、大学受験の問題として出されたりするような有名なものですよ。

1つ目の事例はナトリウムの製造です。ナトリウムは非常にイオン化傾向が大きい金属元素であり、そのような事情から空気中では保存できません。空気中では、一瞬にして酸化物に変化してしまうのです。当然のことながら、水溶液を用いた従来の電気分解でナトリウムの単体を得ることもできません

塩化ナトリウムの融解

ナトリウムの製造では、塩化ナトリウムの融解塩電解を行います。塩化ナトリウムの融点は801℃です。そのため、塩化ナトリウムを融かすためには、大量のエネルギーが必要となります。そこで、省エネルギーの観点から、融点を下げるために塩化ナトリウムに塩化カルシウムを添加するのです。融点を下げることは、ナトリウム製造プラントに与える負荷を少なくし、維持コストを下げることにもつながります。

塩化ナトリウムを融解させ、液体にした後、陽極と陰極を挿入しますよ。陽極には黒鉛陰極には鉄を使用します。そこに電気を流すことで、融解塩電解がはじまるのです。

塩化ナトリウムの融解塩電解

塩化ナトリウムの融解塩電解

image by Study-Z編集部

ここでは、塩化ナトリウムの融解塩電解について、化学反応式などを用いて考察していきましょう。まずは、陰極での反応を考えますね。陰極では、ナトリウムイオンが電子を受け取り、ナトリウム原子に変化します

これを化学反応式で表現すると、Na++e→Naとなりますね。陰極で析出したナトリウムは、密度が小さいので、液面に浮かび上がってきます。これを回収し、単体のナトリウムの塊をつくるのです。

また、陽極には陰イオンである塩化物イオンが引き寄せられます塩化物イオンは、陰極で電子を奪われて、塩素分子に変化しますよ。これを化学反応式で表現すると、2Cl→Cl2+2eとなります。塩素分子は、有毒な気体になりますよね。そのため、ナトリウム製造プラントでは、適切な方法で塩素ガスの後処理が行われますよ。

アルミニウムの製造

image by iStockphoto

最後に、アルミニウムの製造法について解説していきますアルミニウムは軽い、機械的に強い、腐食に強いといった特徴を持っているので、家庭用品から工業製品に至るまで、様々な分野で利用されているのです。画像に示したような飲料の缶にも、アルミニウムが用いられていますよね。その他にも、航空機の材料として、アルミニウムが用いられいます。

ですが、アルミニウムは自然界では単体で存在していません。そのため、様々な精錬の過程を経て、アルミニウムは製造されます。今回は、アルミニウム製造の中で、最も重要な融解塩電解の過程について説明しますね

\次のページで「アルミナの融解方法」を解説!/

アルミナの融解方法

アルミニウムの原料は、ボーキサイトと呼ばれる鉱石です。この鉱石を精錬すると、アルミナ(酸化アルミニウム)が生じます。アルミナの化学式は、Al2O3です。アルミナを融解塩電解することで、単体のアルミニウムが得られます

アルミナの融点は非常に高い温度です。そこで、融点を下げるために、氷晶石が添加されます。氷晶石の主成分は、Na3AlF6です。アルミナの融解後、陽極、陰極を挿入し、融解塩電解が開始されます。この際、陽極と陰極の両方ともに、炭素が用いられますよ

アルミナの融解塩電解

アルミナの融解塩電解

image by Study-Z編集部

ここでは、アルミナの融解塩電解の様子を、化学反応式を用いて考察していきます。まずは、陰極での反応について考えましょう。陰極では、アルミニウムイオンが電子を受け取ることで、アルミニウム原子に変化します

この様子は、Al3++3e→Alという化学反応式で表現できますよ。そして、陰極で析出したアルミニウムを回収し、加工することで、アルミニウムの製品が出来上がるのですね。

陽極の反応についても考えましょう。陽極では、酸化物イオンが極の材料である炭素と反応し、二酸化炭素が発生します。これを化学反応式で表現すると、2O2+C→CO2+4eとなりますよ。また、反応が不十分な場合は、二酸化炭素ではなく、一酸化炭素が生じることもあります。

融解塩電解について学ぼう!

融解塩電解は、水を使用しない特殊な電気分解です。特殊ではありますが、アルミニウムやナトリウムの製造などで使用されており、私たちの生活に直接的につながる技術でもあります。ですから、雑学として知っておくというのも良いでしょう。

また、融解塩電解について学ぶことで、電気化学の基礎も十分に身につきます。他にも、材料についての知識も身につくでしょう。ぜひ、この機会に、融解塩電解について詳しく学んでみてくださいね。

" /> 3分で簡単にわかる融解塩電解!従来の電気分解との違いは?理系学生ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
化学原子・元素無機物質物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単にわかる融解塩電解!従来の電気分解との違いは?理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「融解塩電解」について解説していきます。

融解塩電解は、特殊な電気分解の方法のことであり、アルミニウムやナトリウムの製造などに利用される重要な技術の1つです。また、電気化学の基礎となることから、学問分野としても非常に重要です。今回は、融解塩電解のメカニズムと応用例を詳しく説明した。ぜひ、この機会に融解塩電解についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

融解塩電解と従来の電気分解の違い

融解塩電解と従来の電気分解の違い

image by Study-Z編集部

融解塩電解は、化合物を分解する方法の1つです。融解塩電解では、電気の力を利用して化学物質の分解を行いますよ。このような言葉を聞くと、水溶液に電極を差し込み、電気を流すことで化合物を分解する「電気分解」を連想する方が多いかと思います。融解塩電解も、電気分解の一種ですが、少々変わった特徴を持っているのです

この記事では、はじめに融解塩電解と従来の電気分解の違いを電気化学の視点で解説します。電気化学とは、物理化学における分野の1つです。そして、記事の後半では、実際に融解塩電解が用いられている工業技術の事例を複数紹介しますよ

この分野の説明は抽象的なものになりがちですが、できる限り直感的で丁寧な解説をするように心がけました。また、聞きなれない単語や用語が登場することもあるかもしれませんが、そのような場合は必ずそれら意味を確認するようにしてくださいね。

従来の電気分解

まずは、水溶液に溶かした物質を電気の力で分解する従来の電気分解について簡単に復習しておきましょう。電気分解では、水溶液に直流電源のプラス極に接続された陽極、マイナス極に接続された陰極を挿入します。これらの極には、非常に化学的安定度の高い炭素や白金が用いられますよ。

陽極と陰極を水溶液に挿入した状態で電気を流すと、水溶液中の陰イオンが陽極に、陽イオンが陰極に引き寄せられます。そして、引き寄せられたイオンは電子の授受を行い、分子や原子に変化しますよ

例として、塩化銅水溶液を電気分解する実験を考えてみましょう。塩化銅水溶液中には、陰イオンの塩化物イオンと陽イオンの銅イオンが含まれています。電気分解を行うと、陽極では塩化物イオンが塩素分子に、陰極では銅イオンが単体の銅に変化しますよ

融解塩電解

先ほどの説明では、電気分解を用いることで、あらゆる化学物質を分解できるように思われます。しかしながら、実際はそのようなことはありません水溶液中に含まれているイオンのイオン化傾向が大きすぎる場合は、電気分解では化合物を分解することは困難になるのです

このような説明だけでは、理解しづらいかと思いますので、例を挙げて説明します。水酸化ナトリウムの電気分解を考えてみましょう水酸化ナトリウム水溶液には、陽イオンのナトリウムイオンが含まれていますが、陰極にナトリウムの単体が生じることはありません。ナトリウムではなく、水分子に含まれる水素原子由来である水素の気体が発生するのです。

このような問題を解決するために、分解した物質を融解させる方法が考案されました融解させた物質に、直接電極を挿入し、電気分解を行うのです。このような手法のことを、融解塩電解と呼びます。

\次のページで「ナトリウムの製造」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: