今回は「不動態」について解説していきます。

不動態は無機化学を学習すると、必ず目にする重要な用語の1つです。不動態は金属に関係する現象であり、様々な工業技術に応用されているぞ。ですが、多くの解説書では不動態の理論のみが説明されており、応用されている技術についての言及はなされていない。この記事では、不動態の技術的な応用についても解説するつもりです。ぜひ、この記事を読んで、不動態についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

不動態について学ぼう!

現在、私たちが快適な生活を送るために、金属材料は必要不可欠なものであると言ってもよいでしょう。ですから、多くの研究者が金属材料の研究に取り組んでいます。例えば、食品などを包むアルミホイルや飲料が入っているスチール缶は、いずれも金属材料でつくられていますよね。

このような金属材料の状態を表す用語の1つに「不動態」というものがあります。実は、この状態について学ぶことで、金属を腐食から守る方法のヒントを得ることができるのです。この記事では、不動態という現象のメカニズムについて解説していきます。また、後半では、不動態の性質を利用した身近な技術についてもご紹介しますね

不動態とは?

不動態とは?

image by Study-Z編集部

まずはじめに、不動態とは金属がどのような状態にあることなのかを説明します不動態とは金属の表面に緻密な酸化被膜が形成されている状態のことをさしますよ。不動態をなりやすい金属には、アルミニウムクロムコバルトニッケルチタンなどが挙げあられます。これらの金属の合金も、不動態になることが知られていますよ。

また、不動態にある金属は酸化被膜によって内部が守られるので、腐食が生じにくいことが知られています。腐食とは、金属元素が付着した水分や空気中の中に含まれる酸素や塩素と反応して化合物をつくることにより、強度や機械的特性を失うことです。

金属を不動態にする方法

金属を不動態にする方法

image by Study-Z編集部

次に、金属を不動態に変化させる方法について考えてみましょう。金属を不動態にする方法は2つ存在します。1つ目の方法は、陽極酸化処理です。この方法では、不動態に変化させたい金属と炭素棒を電解液に挿入し、金属に電源のプラス極、炭素棒に電源のマイナス極を接続しますよ。そして、電源を入れて両極間に電位差を作り出し、電流を流します。

電解液には、電気分解の際に、陽極(プラス極)で酸素が生じるような物質が溶存しているような溶液を用いますよ。それゆえ、プラス極に接続された金属表面には酸素が生じて、その酸素と金属の反応で酸素被膜が生じるのですね

もう一つの方法として、強い酸化力をもつ酸である濃硝酸を用いるというものが挙げられますよ濃硝酸に、不動態に変化させたい金属を浸すと、金属表面に酸化被膜が生じます。濃硝酸の酸化作用によって、金属が酸化されるので、このような現象が生じるのです。

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不動態の性質を利用した身近な技術

ここまで、不動態についての基礎的な知識を確認してきました。不動態の特徴や性質についてある程度理解が深まったかと思います。以下では、不動態の性質を利用した身近な技術をいくつか紹介していきますね

具体的な事例を知ることは、不動態についての本質的な理解をすることの助けになるはずです。先ほど学んだことを念頭に、記事を読み進めてみてください。また、具体例と理論を結び付けることも重要ですよ。

アルマイト処理

image by iStockphoto

不動態に関連する技術の1つに、アルマイト処理が挙げられますよ。アルマイト処理とは、陽極酸化処理によってアルミニウムの表面に厚い酸化被膜をつくる技術のことを指しますアルマイト処理を行ったアルミニウムは、耐腐食性や耐摩耗性が大幅に向上することが知られているのです

アルマイト処理がなされたアルミニウムは、やかん、鍋などの調理器具に用いられています。また、アルマイト処理済みのアルミニウムは鉄道車両、航空機、自動車などの部品にも使用されていますよ。このように、アルマイト処理の技術は、今日の産業技術の中でも欠かせないものになっているのですね。

ステンレス

JRFreight EL EF81303.jpg
Muyo - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ステンレスは、鉄にクロムを添加することによって作られる合金ですクロムは、非常に不動態になりやすいため、ステンレスの表面には酸化被膜が常に形成された状態になります。このような理由から、ステンレスは腐食に強い金属であると考えられていますよ。

写真に示したのは、車体がスレンレスでつくられた機関車ですよ。この機関車は、九州と本州を結ぶ関門トンネルを通過することに特化した車両なのです。関門トンネルは海の下を通るトンネルであり、トンネル内には海水が絶えず漏れ出ています。海水中に含まれる様々なイオンは、金属を腐食させる作用をもっていますよね。

ですが、ステンレスは表面に安定した酸化被膜が存在するので、容易には腐食しないのです。このような事情で、関門トンネル内を走行する機関車の車体には、ステンレスが採用されているのですね。

\次のページで「カラーチタン」を解説!/

カラーチタン

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igorre1969 from Galdakao, Euskal Herria - Hotel Marques de Riscal, CC 表示-継承 2.0, リンクによる

最後に、カラーチタンについて説明していきます。まず、上に示した写真を見てください。建物の屋根の一部に、紫色に輝く金属が使われていることがわかるかと思います。実は、この紫色に輝いている材料が、カラーチタンなのです

単体のチタンは白に近い色だと知られています。では、カラーチタンはどのように作られているのでしょうか。特殊な塗料をコーティングしているように考えることもできるかもしれません。ですが、カラーチタンの製造には特殊な塗料は一切使用しないのですカラーチタンは、陽極酸化処理によってチタンの表面に酸化被膜を形成することで作られますこの酸化被膜の分厚さによって、反射光同士が干渉する具合が変わり、自由自在に色を表現することができるのです

塗料には、環境中に放出されることで、生態系などに影響を与えうるような物質が含まれている場合がありますよね。カラーチタンは塗料を使用せずに色を表現できるので、環境にやさしい技術として期待されています。また、カラーチタンは耐食性にも優れているので、一石二鳥ですよね。

不動態について学ぶことの意義

金属が不動態になる現象のメカニズムは、簡単な化学の知識を知っていれば、説明することができますよね。このように不動態は簡単に理解できる現象ですが、アルマイト処理、ステンレス、カラーチタンといった工業技術に応用されています。そして、これらの技術は今もなお進化を続けているのです。

ですから、不動態についての理解を深めておくことで、今後のサイエンスに関する話題により興味を持てるようになるかもしれません。雑学として知っておくことも、良いでしょう。ぜひ、この機会に不動態について学んでみてくさい。

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3分で簡単「不動態」現象のメカニズムを理系学生ライターがわかりやすく解説!

不動態の性質を利用した身近な技術

ここまで、不動態についての基礎的な知識を確認してきました。不動態の特徴や性質についてある程度理解が深まったかと思います。以下では、不動態の性質を利用した身近な技術をいくつか紹介していきますね

具体的な事例を知ることは、不動態についての本質的な理解をすることの助けになるはずです。先ほど学んだことを念頭に、記事を読み進めてみてください。また、具体例と理論を結び付けることも重要ですよ。

アルマイト処理

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不動態に関連する技術の1つに、アルマイト処理が挙げられますよ。アルマイト処理とは、陽極酸化処理によってアルミニウムの表面に厚い酸化被膜をつくる技術のことを指しますアルマイト処理を行ったアルミニウムは、耐腐食性や耐摩耗性が大幅に向上することが知られているのです

アルマイト処理がなされたアルミニウムは、やかん、鍋などの調理器具に用いられています。また、アルマイト処理済みのアルミニウムは鉄道車両、航空機、自動車などの部品にも使用されていますよ。このように、アルマイト処理の技術は、今日の産業技術の中でも欠かせないものになっているのですね。

ステンレス

JRFreight EL EF81303.jpg
Muyo投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ステンレスは、鉄にクロムを添加することによって作られる合金ですクロムは、非常に不動態になりやすいため、ステンレスの表面には酸化被膜が常に形成された状態になります。このような理由から、ステンレスは腐食に強い金属であると考えられていますよ。

写真に示したのは、車体がスレンレスでつくられた機関車ですよ。この機関車は、九州と本州を結ぶ関門トンネルを通過することに特化した車両なのです。関門トンネルは海の下を通るトンネルであり、トンネル内には海水が絶えず漏れ出ています。海水中に含まれる様々なイオンは、金属を腐食させる作用をもっていますよね。

ですが、ステンレスは表面に安定した酸化被膜が存在するので、容易には腐食しないのです。このような事情で、関門トンネル内を走行する機関車の車体には、ステンレスが採用されているのですね。

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