この記事では「東雲」の意味や語源・例文・類義語などについて解説する。

「東雲」は「しののめ」と読む。知らなければ出てこない読み方です。ですが全国各地の地名にもあることから、自然と読めたという人もいるでしょう。「とううん」とも読めるものの、そうすると実は言葉の意味が変わってしまう。読みづらいにも関わらず、なぜわざわざ「しののめ」と読むのか。そして「しののめ」と「とううん」の意味の違いとは何でしょうか。

大学では日本文学を学び、塾講師時代には特に国語の指導に力を入れていたというカワナミを呼んです。一緒に詳しく見ていこう。

ライター/カワナミ

国語を愛する元塾講師。普段から、気になった言葉の意味はすぐに調べるのがクセとのこと。かつては小中学生に向けて、今はこのweb上において、「丁寧にわかりやすく」伝えることをモットーにしている。

「東雲」の意味や語源は?

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まずは「東雲」「しののめ」と読む際の意味について見ていきましょう。

「東雲」の意味は「明け方」

夜が明けようとして東の空が明るくなってきたころ。あけがた。あけぼの。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「東雲」

「東雲」夜が明ける前の、空が徐々に明るくなってきた頃を意味する古語です。夜と朝の間、つまり明け方の空のことを指します。太陽はまだ出てきていませんが、暗闇の中に徐々にかすかな明かりが広がっていく様をイメージしてください。また「雲」の字を含んでいますが、「東雲」には雲の有無は関係ありません。この朝焼けに染まる空の色から、「東雲色」(しののめいろ)という色も存在します。黄色みのあるピンク色で、サーモンピンクに近いというとわかりやすいでしょう。

「とううん」と読む場合の意味は「東の空に浮かぶ雲」となり、「しののめ」とは異なります。表したい内容に読みも合わせるよう気を付けてください。

「東雲」の語源・「しののめ」と読むのはなぜ?

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漢字の「東雲」は東の空を意味する当て字です。では読みの「しののめ」はというと、語源である「篠の目」(しののめ)に由来します。「篠の目」とは、篠竹(しのだけ)という種類の竹を網目状に組んだ明かり取りのこと。日本古来の住居に設置されていました。現代の窓のイメージですね。

明かり取りとはいえ、ここから差す光はそう多くありません。明け方の東の空がうっすらと白んでいく様子を、篠の目から見た光の様子になぞらえて「東雲」=「しののめ」と呼ぶようになりました。

\次のページで「「東雲」の使い方・例文は?」を解説!/

「東雲」の使い方・例文は?

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「東雲」の使い方について見ていきます。

「東雲」の使い方・季語になるの?

日常会話での使用頻度は多くありませんが、雅で風流な言葉であることから俳句や和歌によく登場します。「初東雲」(はつしののめ)は、元旦の夜明けを示す季語です。ただし、「東雲」そのものは季語ではないため注意してください。例えば冬の季語である「雪」と「東雲」を一緒に使うことは出来ますが、「雪」と「初東雲」では季語が二重になってしまうため使用できません。

「東雲」を使った例文

1早起きをして眺めた東雲の空は格別に美しい。
2徹夜で読書に没頭していて、気づくと窓から東雲の光が差し込んでいた。
3赤ん坊の誕生を今か今かと待ち望み、東雲の頃ついに元気な産声が聞こえた。

1早起きをして見た夜明けの空が、東雲色に染まり美しい様子
2知らない間に夜が過ぎており、窓の外で朝日が顔を出し始めている様子
3赤ん坊が生まれたのが明け方の頃であること

「夜明け」や「明け方」を、あえて「東雲」と表現することで情景の美しさやハッとするような色味を伝えることが出来ますね。

「東雲」の類義語は?違いは?

類義語を見ていきましょう。

\次のページで「「黎明」:夜明け」を解説!/

早暁(そうぎょう)・春暁(しゅんぎょう)・払焼(ふっきょう)・未明(みめい)・黎明(れいめい)・薄明(はくめい)・鶏鳴(けいめい)・有明(ありあけ)・朝朗(あさぼらけ)・朝未(あさまだき)・朝焼け(あさやけ)・暁(あかつき)・曙(あけぼの)

これらはすべて明け方の頃を指す「東雲」の類義語です。今回は特に黎明・暁・曙について取り上げます。

「黎明」:夜明け

「黎明」(れいめい)とは夜明けという意味です。「黎」(れい)という漢字は「青黒い」「明」(めい)は「明ける」という意味を持ちます。暗い空が明けていくことがそのまま表れていますね。また「黎明」は比喩表現としても使われ、「新しい物事が始まろうとすること」を意味します。「~の黎明期」「黎明を告げる」といった言い回しを聞いたことはないでしょうか。暗い時代が終わり、新たな始まりを迎える様子を表します。

「暁」:明け方の日が出る直前

「暁」(あかつき)は、次に説明する「曙」(あけぼの)「東雲」、ぜひ3つでセットにして覚えていただきたい言葉です。「暁」は明け方の中でも明るくなる直前を指します。つまり、まだ太陽が出ておらず空は真っ暗な状態です。この「暁」から、次第に「東雲」へと変化していきます。奈良時代の頃には「明時」(あかとき)と呼ばれていたものが転じて「暁」となりました。

「曙」:明け方の日が出る直前

「曙」(あけぼの)は「暁」・「東雲」に続き、太陽が出る直前の最も明るい空を指します。明け方と一口に言っても、明るさや時間帯によって呼び名が分かれているのですね。「曙色」(あけぼのいろ)という色も存在します。ただし色味については「東雲色」と同じサーモンピンクのような色を指すため、「東雲色」の別称と考えてください。

「東雲」の「対義語」は?

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「東雲」が明け方を意味することから、対義語には夕暮れ時を表す言葉を用意しました。

「逢魔が時」:夕方

「逢魔が時」(おうまがとき)昼間から夜に移り変わる夕暮れ時を指す言葉です。「大禍時」(おおまがとき)とも言います。「魔に逢う」と書かれているように、「魔物や妖怪などに遭遇する」と言われている時間帯です。薄暗くなり始め周囲の様子が見えづらいことから、事故や事件など不吉なことに気を付けるようそう言われたと考えられます。

\次のページで「「宵の口」:夜になり始めた頃」を解説!/

「宵の口」:夜になり始めた頃

「宵の口」(よいのくち)とは、日が暮れて夜になり始めた頃のことです。古くは夜を「宵」「夜中」「明時」(あかとき)の3つに分けました。「宵」とは日暮れから夜中までのことで、中でもその「入り口」を指したのが「宵の口」です。「逢魔が時」から日が暮れて「宵の口」になります。

「東雲」の英訳は?

「東雲」を英訳するとどうなるのでしょうか。

「dawn」

「dawn」「夜明け」を意味する単語です。夜が明ける意味合いから、比喩表現として「始まり・兆し」という意味でも使われます。また、よく使われる「sunrise」は、夜明けの中でも「日の出」を意味する単語です。こちらは「東雲」から更に時間が進み、太陽が出始める頃を示します。

「東雲」をきっかけに・雅語を知ると日本を知れる

この記事では「東雲」の意味・例文・類語などについて解説しました。「東雲」は雅語(がご)です。雅語とは、伝統的で雅やかな言葉のこと。新しい言葉であっても、上品で正しい言葉であれば雅語と言います。なかなか日常会話で出会うことは少ないでしょう。しかし、まろやかな読み方をするものが多く、知っているだけで豊かな気持ちになりますね。

「東雲」や「暁」「曙」のように、白黒はっきりと区別することの難しい瞬間にも、日本では古来から名前が付けられていました。刹那的な瞬間も、名前を知ると味わうことが出来るようになります。「東雲」の空を眺めた際には、ぜひその色合いと日本古来からの目線を楽しんでみてください。

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国語言葉の意味

「東雲」を「しののめ」と読むのはなぜ?意味・例文・類語と共に元塾講師ライターが丁寧にわかりやすく解説!

この記事では「東雲」の意味や語源・例文・類義語などについて解説する。

「東雲」は「しののめ」と読む。知らなければ出てこない読み方です。ですが全国各地の地名にもあることから、自然と読めたという人もいるでしょう。「とううん」とも読めるものの、そうすると実は言葉の意味が変わってしまう。読みづらいにも関わらず、なぜわざわざ「しののめ」と読むのか。そして「しののめ」と「とううん」の意味の違いとは何でしょうか。

大学では日本文学を学び、塾講師時代には特に国語の指導に力を入れていたというカワナミを呼んです。一緒に詳しく見ていこう。

ライター/カワナミ

国語を愛する元塾講師。普段から、気になった言葉の意味はすぐに調べるのがクセとのこと。かつては小中学生に向けて、今はこのweb上において、「丁寧にわかりやすく」伝えることをモットーにしている。

「東雲」の意味や語源は?

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まずは「東雲」「しののめ」と読む際の意味について見ていきましょう。

夜が明けようとして東の空が明るくなってきたころ。あけがた。あけぼの。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「東雲」

「東雲」夜が明ける前の、空が徐々に明るくなってきた頃を意味する古語です。夜と朝の間、つまり明け方の空のことを指します。太陽はまだ出てきていませんが、暗闇の中に徐々にかすかな明かりが広がっていく様をイメージしてください。また「雲」の字を含んでいますが、「東雲」には雲の有無は関係ありません。この朝焼けに染まる空の色から、「東雲色」(しののめいろ)という色も存在します。黄色みのあるピンク色で、サーモンピンクに近いというとわかりやすいでしょう。

「とううん」と読む場合の意味は「東の空に浮かぶ雲」となり、「しののめ」とは異なります。表したい内容に読みも合わせるよう気を付けてください。

「東雲」の語源・「しののめ」と読むのはなぜ?

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漢字の「東雲」は東の空を意味する当て字です。では読みの「しののめ」はというと、語源である「篠の目」(しののめ)に由来します。「篠の目」とは、篠竹(しのだけ)という種類の竹を網目状に組んだ明かり取りのこと。日本古来の住居に設置されていました。現代の窓のイメージですね。

明かり取りとはいえ、ここから差す光はそう多くありません。明け方の東の空がうっすらと白んでいく様子を、篠の目から見た光の様子になぞらえて「東雲」=「しののめ」と呼ぶようになりました。

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