この記事では「立つ鳥跡を濁さず」について解説する。

端的に言えば立つ鳥跡を濁さずの意味は「後始末をきちんとしよう」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「立つ鳥跡を濁さず」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

片づけは大の苦手なので、この言葉は耳が痛いとのこと。立つ鳥跡を濁さずとはどんなときに使う言葉なのか、解説してもらう。

「立つ鳥跡を濁さず」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「立つ鳥跡を濁さず」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。念のため、読み方は「たつとりあとをにごさず」です。

「立つ鳥跡を濁さず」の意味は?

「立つ鳥跡を濁さず」には、次のような意味があります。

立ち去る者は、あとが見苦しくないようにすべきであるということ。退きぎわのいさぎよいことのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

引っ越して部屋を引き払う場合や退職して会社からいなくなるときに、その人がいた痕跡があからさまに残った状態ではなく、きちんときれいに後始末がしてある様子を表します。単に整頓された状態を言うこともあれば、「きちんと整理すべきだ」と価値判断を含んで使われることも。

さらに、場を整頓することだけではなく、心持ちの問題として「引き際はきっぱりとすべき」という意味で言われることもある表現です。「去り際の美学」を大切にしたり、すぐ散ってしまうからこそ桜の花にひときわ美しさを感じる日本人らしい精神の表れといえるかもしれませんね。

「立つ鳥跡を濁さず」の語源は?

次に「立つ鳥跡を濁さず」の語源を確認しておきましょう。これは単純に「鳥が飛び立ったあとも、水面は澄んだまま変化がない様子」からきています。では、この「鳥」の種類はなんだったのでしょうか。

一説には、季節により居住地を変える水鳥を指すとされています。水鳥が飛び立ったあとの池や湖のみなもの美しさを例えたとか。ただ、白鳥が池から飛び立つ様子を実際に見たことがある筆者としてはこれには反対です。助走をつけてバタバタと飛び立つため、水辺にはかなり跡が残っていたような…。

そこで個人的に有力だと思うのは、安土桃山時代のことわざ集にある「鷺(さぎ)はたちての跡濁さぬ」から「サギ」とする説です。文献に残っているというのは有力な証拠ですし、体の大きさ、重さのわりに翼が大きくすっと飛ぶサギは、「跡を濁さない」と言われるのにふさわしいように感じます。

\次のページで「「立つ鳥跡を濁さず」の使い方・例文」を解説!/

「立つ鳥跡を濁さず」の使い方・例文

「立つ鳥跡を濁さず」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・立つ鳥跡を濁さずというだろう。出発前に自分が泊まった部屋をきちんと片づけておけよ。

・転職にあたっては立つ鳥跡を濁さずの精神で、元いた会社に迷惑をかけないように丁寧な引継ぎを心がけました。

・終わった恋愛を未練がましく引きずっても仕方ないよ、立つ鳥跡を濁さずというから気持ちを切り替えたらどうかな。

「意味」で、「整頓された状態」「きちんと後始末すべき」「引き際はさっぱりと」のニュアンスを説明したので、それぞれに合った例文をご紹介しました。

厳密にどの意味と認識しなければならないわけではありませんが、細かいニュアンスまでつかめるとコミュニケーションがよりスムーズになりますよ。

「立つ鳥跡を濁さず」の類義語は?違いは?

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「立つ鳥跡を濁さず」は「飛ぶ鳥跡を濁さず」といわれることもあります。これは類義語なのか、それとも間違いなのか。また、同じように「きちんと後始末をする」という意味を持つ言葉についても説明します。

「飛ぶ鳥跡を濁さず」は間違いなの?

正しくは「立つ鳥~」ですが、「飛ぶ鳥~」でも間違いとまではいえないようです。

例えば小学館のデジタル大辞泉で「飛ぶ鳥跡を濁さず」を引くと「立つ鳥跡を濁さずに同じ」と書かれています。語源で紹介した昔のことわざでも「鷺はたちての」となっていますし、意味から考えても「飛んでいる鳥」はそうそう跡を残せそうもありませんよね。「出発」「旅立ち」を意味する「立つ」がふさわしいと分かることでしょう。

「飛ぶ鳥跡を濁さず」は「飛ぶ鳥を落とす勢い」に引きずられた誤用、と書かれているサイトもあります。とはいえ「飛ぶ」を「飛び立つ」の意味で使っているならば意味がおかしいとまで言えず、実際に「飛ぶ鳥跡を濁さず」と使う人も多いことから、今は辞書にも紹介される言葉となったようです。まずは「立つ鳥跡を濁さず」で覚えておけば安心ですよ。

\次のページで「「原状回復」」を解説!/

「原状回復」

あるところから立ち去る際に、自分がそこにいた痕跡を残さないということは、自分が登場する前の状態に戻すということです。そこで「原状回復」が類義語といえます。

気をつけたいのは「現状」ではなく「原状」という字を使う点。「現状」では「今ある状態」の意味になってしまい、「自分が来る前の状態」に戻すことになりません。不動産を借りた際でいえば入居前と同じ状態に戻すのですから、「原状」が正しいと分かりますね。

「立つ鳥跡を濁さず」の対義語は?

続いて、「立つ鳥跡を濁さず」と反対の意味を表す言葉も見ていきましょう。

「後足で砂をかける」

「あとあしですなをかける」と読みます。「うしろあし」ではないので注意しましょう。恩義のある人に、去り際に迷惑をかけることを表すこの言葉。綺麗に後始末して立ち去るのとはまさに反対の意味といえますね。

なお、特に恩があるわけではない人へのひどい仕打ちについて「後足で砂をかける」というのは、厳密には間違った使い方となります。

・親身に面倒を見ていた部下が、無断欠勤が続いて退職した。後足で砂をかけられたような気分だ。

「旅の恥はかき捨て」

知っている人もいない旅先では、恥ずかしいことをしてもその場限りのものだ、という意味の言葉です。誰も見ていなければ何をしてもいいだろうというようなニュアンスで使われることが多く、その意味では「立つ鳥跡を濁さず」とは正反対ですね。

・海外旅行先でマナーの悪い行動をするなんて、旅の恥はかき捨てとでも思っているんだろうな。

\次のページで「「立つ鳥跡を濁さず」の英訳は?」を解説!/

「立つ鳥跡を濁さず」の英訳は?

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最後に「立つ鳥跡を濁さず」を英語で表す場合について見ていきましょう。

「It is foolish bird that defiles its own nest.」

defilesは「汚す、不潔にする」を意味する動詞で、nestは「巣」ですから、「自分の巣を汚すのは愚かな鳥だ」という意味になります。日本語でも英語でも、同じ「鳥」を使って表すのがなんとも興味深いですね。

「Cast no dirt into the well that gives you water.」

castは日本では「映画などの登場人物」のイメージが強い単語ですが、動詞で「投げる、投げ捨てる」という意味もあります。また、dirtは「泥、ほこり、ごみ」、wellは「井戸」の意の名詞。

ですからこのことわざは「あなたに水をくれる井戸にごみを投げ捨てるな」という意味を表しています。それまでお世話になった職場などを「水をくれる井戸」に例え、不義理なことをしてはならないと戒めるときに利用できる言葉です。

「立つ鳥跡を濁さず」を使いこなそう

この記事では「立つ鳥跡を濁さず」の意味・使い方・類語などを説明しました。以前、「旅の恥はかき捨て」について解説を書いた際にも思いましたが、旅行先に限らず職場やサークルなどそれまで所属していた場から離れるときは、残る人に迷惑がかからないようにしたいものですね。自分がいなくなった後の状況にも配慮できてこそ、本当の大人といえるのかもしれません。

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国語言葉の意味

【慣用句】「立つ鳥跡を濁さず」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「立つ鳥跡を濁さず」について解説する。

端的に言えば立つ鳥跡を濁さずの意味は「後始末をきちんとしよう」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「立つ鳥跡を濁さず」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

片づけは大の苦手なので、この言葉は耳が痛いとのこと。立つ鳥跡を濁さずとはどんなときに使う言葉なのか、解説してもらう。

「立つ鳥跡を濁さず」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「立つ鳥跡を濁さず」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。念のため、読み方は「たつとりあとをにごさず」です。

「立つ鳥跡を濁さず」の意味は?

「立つ鳥跡を濁さず」には、次のような意味があります。

立ち去る者は、あとが見苦しくないようにすべきであるということ。退きぎわのいさぎよいことのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

引っ越して部屋を引き払う場合や退職して会社からいなくなるときに、その人がいた痕跡があからさまに残った状態ではなく、きちんときれいに後始末がしてある様子を表します。単に整頓された状態を言うこともあれば、「きちんと整理すべきだ」と価値判断を含んで使われることも。

さらに、場を整頓することだけではなく、心持ちの問題として「引き際はきっぱりとすべき」という意味で言われることもある表現です。「去り際の美学」を大切にしたり、すぐ散ってしまうからこそ桜の花にひときわ美しさを感じる日本人らしい精神の表れといえるかもしれませんね。

「立つ鳥跡を濁さず」の語源は?

次に「立つ鳥跡を濁さず」の語源を確認しておきましょう。これは単純に「鳥が飛び立ったあとも、水面は澄んだまま変化がない様子」からきています。では、この「鳥」の種類はなんだったのでしょうか。

一説には、季節により居住地を変える水鳥を指すとされています。水鳥が飛び立ったあとの池や湖のみなもの美しさを例えたとか。ただ、白鳥が池から飛び立つ様子を実際に見たことがある筆者としてはこれには反対です。助走をつけてバタバタと飛び立つため、水辺にはかなり跡が残っていたような…。

そこで個人的に有力だと思うのは、安土桃山時代のことわざ集にある「鷺(さぎ)はたちての跡濁さぬ」から「サギ」とする説です。文献に残っているというのは有力な証拠ですし、体の大きさ、重さのわりに翼が大きくすっと飛ぶサギは、「跡を濁さない」と言われるのにふさわしいように感じます。

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