今回学ぶのは「ランタノイド」です。

元素にはその特徴ごとにまとめたグループの呼び方がある。アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、希ガスなどのことです。ランタノイドも元素を仲間分けした時の呼び名の一種です。元素番号57番から71番の15元素がこのランタノイドとなる。第3族に属し、周期表の下にまとめられているちょっと変わった仲間たちです。

今回はそもそもランタノイドとは何か、ということとランタノイドと呼ばれる元素たちについて学ぶ。解説は元素周期表が好きな科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

高校、大学で化学漬けの日々を送っていた化学系出身の科学館職員。周期表が好きでインテリアに取り入れている。

そもそも「ランタノイド」とは?

そもそも「ランタノイド」とは?

image by Study-Z編集部

そもそもランタノイドが何かよくわからない人も多いでしょう。高校化学でよく登場する元素といえば元素番号1~20くらいまでと後は一部の金属元素、17族のハロゲン、18族の希ガスくらいでしょう。

ランタノイド(lantanoid)とは原子番号57番ランタンと、ランタンに特徴が似た元素のことを指します。第6周期の第3族に属し、元素番号57番から71番の15個の元素がランタノイドです。ちなみにランタノイドをコトバンクで調べると「原子番号57のランタンLaを代表として化学的性質のよく似た71番元素ルテチウムLuまでの15元素の総称」と書かれています。

またランタノイドとスカンジウムSc、イットリウムYは希土類元素(レアアース)にも分類されている元素です。希土類とは比較的希少な鉱物から得られた酸化物から分類された元素のことを指します。希土類の活用方法は発光材料や磁性体、触媒などです。

ランタノイドの特徴・電子配置

普通周期表を見ると隣り合う元素は別の族になりますね。しかし第6周期3族のランタノイドと第7周期3族のアクチノイドは周期表の下にまとめられている、ちょっと特別感がある元素です。

ランタノイドは第5周期の希ガスであるキセノンの電子は位置をベースに、内側にある電子殻に電子が入っていきます。ちょっと複雑な電子の配置についてはこちらの記事の「軌道」「電子が入るルール」を読んでみてくださいね。

\次のページで「ランタノイドの仲間たち」を解説!/

ランタノイドの仲間たち

それではさっそくランタノイドの元素を確認していきましょう。

ランタノイドの代表、ランタンLa

image by PIXTA / 61037786

原子番号57番のランタン、La。ナイフで切れるほど柔らかい銀白色の金属です。ランタンは1839年にスウェーデンの科学者が発見し、隠れるという意味のギリシア語から名付けられました。

ランタンは歪みが少ないと光学レンズに使われたり、ライターの発火石としても使われています。またニッケルとの合金は水素を安全に貯蔵するのに適した水素吸蔵能と言う性質があるため、燃料電池の水素を保管するための容器としてハイブリッド車にも使われているのです。一方ランタンには中度の毒性があり、摂取すると低血圧、高血糖などの症状が現れます

豊富な希土類、セリウムCe

image by PIXTA / 63826951

原子番号58番セリウムは1803年にスウェーデンの科学者によって発見されました。同じ年にドイツの科学者もこの元素を見つけたことから第1発見者を巡って国同士の争いとなった元素です。名前の由来は同じころに見つかった準惑星、セレスが由来となっています。

セリウムは灰色がかった銀白色で、酸化しやすい元素です。希土類の中では最も豊富で、日本でも少量ですが採ることができます。セリウムは触媒やガラスの着色剤、ガラス研磨剤、蛍光灯などといろいろ場分野で活用されている元素です。また紫外線を吸収してくれるので、サングラスや自動車の窓に使われます。

双子の元素、プラセオジムPr

image by PIXTA / 63152839

1885年のオーストリアの科学者によって発見された原子番号59番のプラセオジム。プラセオジムは銀白色の金属ですが、通常は酸化されて黄色をしています。プラセオジムという名前の由来はギリシャ語のprason(ニラ)のdidymos(双子)。この双子の相方は周期表で隣り合っているのネオジムです。プラセオジムとネオジムの化合物は以前、ジジミウムという金属元素だと考えられていました。それが実はネオジムとプラセオジムの化合物であることがわかり、それぞれが単離されたのです。

プラセオジムはガラス眉着色剤、光ファイバーの素材として使われています。

ランタノイドで最も有名、ネオジムNd

image by PIXTA / 69979952

1885年オーストリアに発見された原子番号60番のネオジムは、プラセオジムの双子の片割れです。ネオ(neo)とは「新しい」のことで、ネオジウムは「新しい双子」という意味になります。

ネオジムは銀白色の金属です。ネオジムといえば強力な永久磁石のイメージですね。これは鉄を入れるとネオジムの磁気が固定されるからです。またネオジムも着色剤として使われています。

神話から前が付いた元素、プロメチウムPm

image by PIXTA / 13108650

1947年と発見されたのが比較的最近の元素、プロメチウム。プロメチウムの由来は、ギリシャ神話で火を人類のもとに運んだとされるプロメテウスです。銀白色の金蔵ですがその化学的、物理的性質はまだまだ謎に包まれています。原子力電池の燃料として使われる他、夜光塗料として使われていたこともあった元素ですよ。

\次のページで「サマルスキー石から発見、サマリウムSm」を解説!/

サマルスキー石から発見、サマリウムSm

image by PIXTA / 54861806

サマリウムという名前は、サマリウムが含まれているサマルスキー石を発見したサマルスキーの名前が由来となっています。サマリウムは人名が由来となった最初の元素です。サマリウムは灰白色の柔らかい金属で、常磁性を示します。

サマリウムはコバルトを混ぜると、強力な磁石となることのできる元素です。サマリウムコバルト磁石は磁力はネオジム磁石よりも弱いものの錆びにくく、高温においてはサマリウムコバルト磁石の方が能力を発揮します。ネオジウム磁石は300℃で磁力を失ってしまうのに対しサマリウム‐コバルト磁石の方が700℃と高温でも磁力を発揮できるのです。この磁石はヘッドフォンやマイク、腕時計などの部品として使われています。

偽造防止に貢献、ユウロピウムEu

image by PIXTA / 40943907

ユウロピウムは1896年にフランスの科学者によって発見され、1901年に単離に成功しました。銀白色の金属で、希土類元素の中で特に反応性が高い物質です。紫外線を当てると光るため、欧州の紙幣や日本のハガキの偽造防止に用いられています。またブラウン管テレビの赤色を出すのにも使われていました。

希土類元素のパイオニアが由来、ガドリニウムGd

image by PIXTA / 68878345

ガドリニウムは1880年に発見された金属で、銀白色で展延性があります。展延性とは叩いたら薄く広がり引っ張ると延びるという性質で、金属の大切な特徴の1つです。ガドリニウムはサマリウムと共にサマルスキー石から分離されました。ガドリニウムという元素名の由来は希土類の研究を行ったガドリンです。ガドリンは最初の希土類元素、イットリウムを発見しました、

ガドリニウムは常温でも高い磁性を持ち、光磁気ディスクに用いられていました。またMRIの造影剤に使われています。

高価な元素、テルビウムTb

スウェーデンのイッテルビー村が由来となっているテルビウム、1843年に発見されました。このイッテルビー村にある採掘場からテルビウムの他、ガドリニウム、ホルミウム、ツリウム、エルビウム、イッテルビウム(ここまでランタノイド)、イットリウムといった希土類元素が発見されています。そのため、ランタノイドの発見者にスェーデンの科学者が多く、元素名にもイッテルビー村が由来となったものが多くあるのですね。

テルビウムはテレビの緑色の蛍光体として、またX線撮影の際の増感剤として使われています。テルビウムはランタノイドの中でかなり高価であり、1g当たり2万円以上もするのです。

得がたい元素、ジスプロシウムDy

夜光塗料として使われているジスプロシウム。1886年にフランスの科学者によって発見されました。その名の由来はギリシャ語で得がたいという意味のdysprositosですが、その価格は意外と安価です。ネオジム磁石に混ぜてその保持力を高めたり、避難誘導標識などにも使われています。

レーザー治療で活躍、ホルミウムHo

1879年にスェーデンの科学者が発見したホルミウム。スェーデンの首都、ストックホルムの旧名ホルミアが由来です。ホルミウムは銀白色の金属で、空気中でゆっくりと酸化します。熱の発生が少なく患部の損傷が少ないため、レーザー治療器に使われている元素です。しかし、高価なうえに希少という事であまり活用されていません。

美肌に貢献、エルビウムEr

エルビウムはテルビウムと同じくスウェーデンのイッテルビーが由来です。灰色の金属で空気中で表面が酸化されてしまいます。長距離でも弱まることなくエネルギーを伝えられると光ファイーで使われる他、美容外科の治療用のレーザーとしても活用されている元素です。

\次のページで「放射線量計で活用、ツリウムTm」を解説!/

放射線量計で活用、ツリウムTm

ツリウムもかなり高価なランタノイドで、不純物の混ざったエルビウムからホルミウムと共に発見されました。光ファイバーではエルビウムが対応できない波長をカバーし、伝送容量を広げています。また放射線を受けた後に加熱すると蛍光を発するため、放射線量計にも使われているのです。

イッテルビー村出身、イッテルビウムYb

イッテルビウムはスイスの学者によって1878年に発見されました。イッテルビウムの由来はイッテルビー村です。イッテルビーといえばイットリウム、テルビウム、エルビウムなども見つかった場所でしたね。ちなみにイッテルビウムを含むガドリン石にはイッテルビウムの他、セリウム、ランタン、ネオジムなども含まれています。

イッテルビウムは灰色の金属です。ガラスの着色剤などに利用されています。 

とっても高価な元素、 ルテチウム

ランタノイド最後の元素はルテチウムで、1g10万円以上するとても高価な元素です。ルテチウムは希少で価格が高いうえに化学的性質にあまり特徴がありません。そのため他の元素が使われることが多いです。同時期に別の国の3人の科学者に見つけられた元素で、命名権が与えられたフランス出身の科学者によって名付けられました。そのためか名前はパリの旧名、ルテシアにちなんでいます。

 

ランタノイドとゆかいな仲間たち、覚えたら化学がもっと楽しく

元素は周期表の縦列の族、横の周期で似た性質を持っています。それは電子の入り方が影響しているからです。元素周期表の下の方にずらっと並べられたランタノイドもその電子殻への電子の入り方が共通する特徴となっています。

ランタノイドを深く学ぶ機会は少なく、どんな元素があるのか知らない人も多いでしょう。しかしネオジムをはじめ、生活に深く関わる元素も多く存在しています。性質も面白いですが、その名の由来も調べると面白いです。ぜひその元素が発見された時のエピソードや名前の由来にも、目を向けてみてくださいね。

" /> ランタノイドって何?アクチノイドとの違いは?元素の仲間たちを科学館職員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学理科量子力学・原子物理学

ランタノイドって何?アクチノイドとの違いは?元素の仲間たちを科学館職員がわかりやすく解説

今回学ぶのは「ランタノイド」です。

元素にはその特徴ごとにまとめたグループの呼び方がある。アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、希ガスなどのことです。ランタノイドも元素を仲間分けした時の呼び名の一種です。元素番号57番から71番の15元素がこのランタノイドとなる。第3族に属し、周期表の下にまとめられているちょっと変わった仲間たちです。

今回はそもそもランタノイドとは何か、ということとランタノイドと呼ばれる元素たちについて学ぶ。解説は元素周期表が好きな科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

高校、大学で化学漬けの日々を送っていた化学系出身の科学館職員。周期表が好きでインテリアに取り入れている。

そもそも「ランタノイド」とは?

そもそも「ランタノイド」とは?

image by Study-Z編集部

そもそもランタノイドが何かよくわからない人も多いでしょう。高校化学でよく登場する元素といえば元素番号1~20くらいまでと後は一部の金属元素、17族のハロゲン、18族の希ガスくらいでしょう。

ランタノイド(lantanoid)とは原子番号57番ランタンと、ランタンに特徴が似た元素のことを指します。第6周期の第3族に属し、元素番号57番から71番の15個の元素がランタノイドです。ちなみにランタノイドをコトバンクで調べると「原子番号57のランタンLaを代表として化学的性質のよく似た71番元素ルテチウムLuまでの15元素の総称」と書かれています。

またランタノイドとスカンジウムSc、イットリウムYは希土類元素(レアアース)にも分類されている元素です。希土類とは比較的希少な鉱物から得られた酸化物から分類された元素のことを指します。希土類の活用方法は発光材料や磁性体、触媒などです。

ランタノイドの特徴・電子配置

普通周期表を見ると隣り合う元素は別の族になりますね。しかし第6周期3族のランタノイドと第7周期3族のアクチノイドは周期表の下にまとめられている、ちょっと特別感がある元素です。

ランタノイドは第5周期の希ガスであるキセノンの電子は位置をベースに、内側にある電子殻に電子が入っていきます。ちょっと複雑な電子の配置についてはこちらの記事の「軌道」「電子が入るルール」を読んでみてくださいね。

\次のページで「ランタノイドの仲間たち」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: