この記事ではリボソームについて学んでいこう。

生物の教科書に必ず名前が載っているリボソームですが、高校の授業ではあまり深く学ぶことなく済まされてしまうことが多い。じつは、リボソームは生物にとって欠かすことのできないものなんです。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

リボソームとは

リボソーム(ribosome)はすべての生物の細胞内に存在する、小さな構造物です。タンパク質とRNA分子からできています。後ほど詳しく解説しますが、リボソームは翻訳(mRNAの情報からタンパク質をつくる)という作業が行われる場所。すべての生物にとって、生きていくためになくてはならないものなのです。

なお、リボゾームや英語読みのライボソームとよばれることもあるため、注意が必要となります。

リボソームの役割

初めに少しだけ触れましたが、リボソームは翻訳という作業が行われる場所です。これをもう少し深く理解するために、DNAからタンパク質ができるまでの流れをおさらいしましょう。

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DNAからタンパク質ができるまで

地球上の生物は、遺伝情報としてDNAをもちます。その情報をもとに様々なタンパク質をつくることで、からだを構成したり、化学反応(代謝)を起こしてエネルギーを得たりしているのです。

その都度必要になる様々なタンパク質を合成する際、まずはDNAの情報(塩基配列)をRNAという分子に写し取ります。真核生物では細胞核の中で行われる、この作業が転写です。

Simple transcription elongation1.svg
Forluvoft - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

必要なタンパク質についての情報が写し取られたRNAは、さらに加工されます。塩基配列の中に紛れている不必要な部分を切って、タンパク質の情報をコードしている部分だけをつなげたRNAにするのです。この作業をスプライシングといい、スプライシングによって完成したRNAをmRNA(メッセンジャーRNA)といいます。

そして、mRNAがリボソームにたどり着くと、その塩基配列をもとにタンパク質の合成がスタート。ようやくタンパク質の完成です。このように、DNA→RNA→タンパク質の順で遺伝情報が利用される流れを”セントラルドグマ”といいます。

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翻訳という作業

Peptide syn.png
Boumphreyfr - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

翻訳では、mRNAの塩基配列によって指定されたアミノ酸がつながり、タンパク質がつくられます。アミノ酸は細胞質中にあり、tRNA(トランスファーRNA)というちいさなRNAの分子によって運搬されるのです。

mRNAの塩基配列は3つで一つのアミノ酸を指定しており、これをコドンといいます。mRNAのコドンに対応する情報(アンチコドン)をもったtRNAがリボソーム上にやってくると、そのtRNAにくっついていたアミノ酸が酵素によって結合。次々とアミノ酸の鎖をつくっていきます。

こうやってできたアミノ酸の鎖=ポリペプチド鎖が折りたたまれるなどして、生体内で機能するタンパク質になるのです。

リボソームの構造

image by iStockphoto

リボソームは大小2つのパーツがくっついた雪だるまのような形をしており、それぞれのパーツをサブユニットとよびます。リボソームの大きさ、2つのサブユニットの大きさは生物によって異なるのです。

サブユニットとは

サブユニットとは

image by Study-Z編集部

サブユニットの名前は「〇〇Sサブユニット」とつけられます。”〇〇S”のところには、沈降速度とよばれる数値が入り、数値が大きいほど遠心力をかけたときに早くしずむ構造物であるということを示すのです。

上の表は、生物のグループと大小のサブユニットを簡単にまとめたもの。ご覧の通り、細菌と真核生物ではサブユニットの大きさが異なります。

なお、サブユニットはそれぞれが数十のタンパク質とRNAからできている複合体です。生物によってタンパク質の種類などに違いがあったりしますが、最終的に構成されたリボソームの機能はほとんど変わりません。

遊離リボソームと膜結合リボソーム

Biological cell.svg
MesserWoland および Szczepan1990 - 投稿者自身による作品 (Inkscape 作成), CC 表示-継承 3.0, リンクによる

さて、このリボソームなのですが、細胞内のどこに存在しているかによって2種類に分けることができますよ。細胞質内にうかぶように存在しているリボソームは遊離リボソームといいます。高校の生物学などで紹介されるリボソームのイラストは、この遊離リボソームが多いですね。

その一方で、真核生物では小胞体の表面に付着したリボソームがみられます。このようなリボソームを膜結合リボソームというのです。

リボソームの付着している小胞体は、表面がざらざらしているようにみえるため、粗面小胞体(rER)とよばれます。なお、小胞体にはリボソームのついていないもの(滑面小胞体)もあるので、覚えておきましょう。

じつは、作っているタンパク質の種類も異なります。基本的に遊離リボソームでは、その細胞内で使われるようなタンパク質が合成されるのに対し、膜結合リボソームでは細胞外に分泌されるタンパク質や膜に埋め込まれるようなタンパク質が合成されるのです。

\次のページで「リボソームの研究とノーベル賞」を解説!/

リボソームの研究とノーベル賞

生体にとって欠かせないリボソームですが、発見されたのはそれほど昔のことではありません。発見者はルーマニア系アメリカ人のジョージ・エミール・パラーデ。1950年代の中ごろに、小胞体のリボソーム(=膜結合リボソーム)を電子顕微鏡で観察し、発表しました。

パラーデはこの発見が評価され、クリスチャン・ド・デューブ、アルベルト・クラウデとともに1974年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

2000年にはリボソームの3次元立体構造が判明しました。これは3人の科学者(英MRC研究所のベンカトラマン・ラマクリシュナン、米イェール大学のトーマス・ステイツ、ワイズマン研究所のエイダ・ヨナス)がそれぞればらばらに、ほぼ同じタイミングで発表。この3人も、ノーベル賞の受賞に至りました(2009年ノーベル化学賞)。

リボソームの研究は、生命の仕組みを解明するために重要な意義をもちます。それぞれの研究がノーベル賞級の成果だったことは、疑いようもありません。

リボソーム=”タンパク質工場”

高校の生物学ではさらっと済まされがちな内容ですが、リボソームがどれだけ重要なものか、お分かりいただけたかと思います。

生物のからだを構成し、生命活動を維持するのにつかわれるタンパク質。それをつくっているリボソームは、いうなれば「mRNAという設計図と、アミノ酸という材料からタンパク質をつくる工場」。この工場がなければ、生物は生きていくことができないのです。

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理科生物

簡単でわかりやすい「リボソーム」の役割と構造!生物ならみんな持っている?現役講師が詳しく解説!

この記事ではリボソームについて学んでいこう。

生物の教科書に必ず名前が載っているリボソームですが、高校の授業ではあまり深く学ぶことなく済まされてしまうことが多い。じつは、リボソームは生物にとって欠かすことのできないものなんです。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

リボソームとは

リボソーム(ribosome)はすべての生物の細胞内に存在する、小さな構造物です。タンパク質とRNA分子からできています。後ほど詳しく解説しますが、リボソームは翻訳(mRNAの情報からタンパク質をつくる)という作業が行われる場所。すべての生物にとって、生きていくためになくてはならないものなのです。

なお、リボゾームや英語読みのライボソームとよばれることもあるため、注意が必要となります。

リボソームの役割

初めに少しだけ触れましたが、リボソームは翻訳という作業が行われる場所です。これをもう少し深く理解するために、DNAからタンパク質ができるまでの流れをおさらいしましょう。

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