冷めた味噌汁を再び温めると熱過ぎると感じる時がある。温める過ぎが原因でしょうか。そんな味噌汁は何℃で沸騰するのでしょうか。水と同じと考えて100℃?いや、何かが溶けている溶液は純粋な溶媒(水)よりも沸点が上昇し100℃以上になるのを聞いたことがあるな。なぜ沸点上昇が起きるのか?ラウールの法則、蒸気圧降下、沸点上昇という用語とともに理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.味噌汁は100℃でも沸騰しない

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味噌汁など、溶質が溶け込んでいると沸騰が上昇するため、水のように100℃では沸騰しません。溶質の濃度が高ければ高いほど沸点上昇も大きくなります。

どれくらい沸点が上がる?

「沸点が上がります」と言っておきながら、一般的な味噌汁の沸点上昇はわずか0.2℃程度のようです。つまり100.2℃で沸騰します。たったそんだけ?と数字にした途端インパクトに欠けますが、上昇することには間違いありません。

2.ラウールの法則とは

2.ラウールの法則とは

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溶質が溶け込んでいる液体(溶液)は純粋な溶媒よりも沸点が上がってしまうもの。この現象は沸点上昇と呼ばれます。なぜそうなるか?それを解説する上ではラウールの法則と蒸気圧降下の知識が必要なので順に見て行きましょう。 ラウールの法則とは溶液において、蒸気圧は溶媒の分率によって決まるという法則のことです。溶解しているものが多いと溶媒の割合が小さくなり蒸気圧が下がります。

蒸気圧とは

蒸気圧とは

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そもそも蒸気圧って何でしょうか?本記事でのキーワードのため整理しておきましょう。

液体は沸騰していなくても常に蒸発し続けています。洗った後の食器が乾燥するのも、洗濯物が乾くのも水が蒸発するため。蒸発した水蒸気の分だけ気体が生成されますね。気体が増えるということは圧力が発生します。これが蒸気圧です。

溶媒の割合と蒸気圧の関係

蒸気圧を発生させているのは溶媒であり、不揮発性である(蒸発しない)溶質は寄与していませんね。溶質が多く溶媒が少ないほど蒸気圧は下がりますね。これについて定めたのがラウールの法則

 

蒸気圧は溶媒のモル含有率に比例すると言うもので、全部溶媒だった場合の蒸気圧をP、溶質も存在する時の溶媒の含有率(モル分率)をα、蒸気圧をP'とすると、P'=αPとなります。溶質が混ざっている時点で、溶媒のモル分率が低下するため分圧が低下すると考えてもOKです。

\次のページで「ラウールの法則と蒸気圧降下」を解説!/

ラウールの法則と蒸気圧降下

ラウールの法則と蒸気圧降下

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溶質が溶けている場合と溶けていない場合の蒸気圧を見ていきましょう。溶液の合計重量はどちらも100gとしましょう。溶質、溶媒とも便宜上「」で表します。粒は物質量の指標をイメージしましょう。1粒が◯molを表し、10粒ならその10倍。

左側は10粒全て溶媒、右側は9粒が溶液で1粒が溶質としましょう。左側は10粒が蒸気圧の発生要因ですが、右側は9粒しか蒸気圧発生には寄与しません。右側の蒸気圧は左側の9割に減少しますね。これを蒸気圧降下と呼びます。上述で言うところのα=0.9の状態ですね。溶質が複数種類ある場合も同様、上記のような絵を描いて考えればわかりやすいのではないでしょうか。

粒数と物質量補足

物質量の定義は分子(or原子)の粒数で定義されいて、物質量1molの時の粒数(6.02×10^23)はアボガドロ定数と呼ばれています。粒の評価にして物質量と称するのはある意味理にかなっているわけです。

味噌汁の蒸気圧

実際に数字を入れて蒸気圧を計算していきましょう。一般的な味噌汁は塩分濃度が1.2%程度とされています。ここでは、計算単純化のため味噌汁=塩分濃度1.2%の食塩水と仮定しましょう。 100℃の味噌汁が合計100gあるとしたら、1.2gが食塩(塩化ナトリウムNaCl)で残り98.8gが水(H2O)ですね。敢えて化学式表記にしたのは物質量を意識するため。ラウールの法則に当てはめるためには質量ではなく物質量(≒粒の数)での含有率が必要です。

上記を物質量に換算すると、まず(H2O)は分子量を18とすると物質量は5.49mol食塩(NaCl)は分子量58.5とすると0.02mol。溶液(味噌汁)の物質量合計は5.51molでそのうち5.49molが溶媒(水)であり、そのモル含有率は99.6mol%、つまりα=0.996。 100℃における水の蒸気圧Pは大気圧(=1013hPa)なので、味噌汁の蒸気圧P\'は1009hPaと求まり、若干ですが純水より下がることが分かりますね。

これが何を意味するか絵で見ていきましょう。純水の場合は100℃で蒸気圧1013hPaのため、大気圧と拮抗しているため全ての液体が気体に変化していくわけです。 一方味噌汁は蒸気圧1009hPaで、若干ながら大気圧より小さいため液体の状態であり、大気圧に押さえ込まれて気体にはなれません

もっと温度を上げたらどうなる?

100℃で蒸気圧1009hPaでも、少し温度を上げれば1013hPaに到達しそうですね。

3.沸点上昇

蒸気圧が下がったら沸点は上がります。蒸気圧降下からなぜ沸点上昇に繋がるのか?順を追って解説していきましょう。

\次のページで「沸点は何で決まる?」を解説!/

沸点は何で決まる?

沸点は何で決まる?

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沸点は液体の蒸気圧が周囲の気圧を上回る時の温度です。よって沸点は蒸気圧と周囲の気圧で決まりますね。

ここでは気圧は大気圧(1013hPa)の場合だけ扱います。上述の通り、水は100℃以下でも蒸発し、蒸気圧を発生させているもの。温度が低い時は分子運動が穏やかなため気体になろうとする勢いが弱い=蒸発量が少ないです。蒸発量が少ないと増える気体も少ないため蒸気圧も小さい。温度が上がるにつれて蒸発量が増えて蒸気圧も高くなります。蒸気圧が周囲の気圧より低ければ「液体」の状態で、「液体は気体になろうとするが気圧に押し込められている状態」とイメージしましょう。
 
蒸気圧が周囲の気圧より高くなると、「液体が気体になろうとするパワーが気圧に勝ってしまう」ため全て液体が気体になってしまいます。蒸気圧がちょうど周りの気圧と一致する時の温度が沸点です。 台風などが来て気圧が低い時は100℃以下で沸騰しますし、圧力鍋は内圧を高く出来るため、100℃以上に加熱しても蒸発させず液体のまま調理できます。

蒸気圧降下と沸点上昇

温度を上げれば蒸気圧は上昇し、いずれ周囲の気圧を超えるもの。

前述の味噌汁は100℃にて蒸気圧が1009hPaでしたが、温度を100.2℃に上げると蒸気圧は1013hPa程度に達します。わずかに沸点が上昇することが分かりますね。実際には塩1.2g以外にも成分があると考えるともう少し沸点が上昇するかもしれません。

ラウールの法則と沸点上昇

ラウールの法則と蒸気圧降下と沸点上昇は全てセットです。

ラウールの法則より溶媒の割合が下がると蒸気圧が降下。蒸気圧が降下した分温度を上げないと沸騰出来ないことから沸点は上昇ということです。

味噌汁は純粋な水に味噌という溶質が入っているため、蒸気圧が低下して沸点が上昇します。

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化学物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単「ラウールの法則」味噌汁が100℃で沸騰しない理由は?理系ライターがわかりやすく解説!

ラウールの法則と蒸気圧降下

ラウールの法則と蒸気圧降下

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溶質が溶けている場合と溶けていない場合の蒸気圧を見ていきましょう。溶液の合計重量はどちらも100gとしましょう。溶質、溶媒とも便宜上「」で表します。粒は物質量の指標をイメージしましょう。1粒が◯molを表し、10粒ならその10倍。

左側は10粒全て溶媒、右側は9粒が溶液で1粒が溶質としましょう。左側は10粒が蒸気圧の発生要因ですが、右側は9粒しか蒸気圧発生には寄与しません。右側の蒸気圧は左側の9割に減少しますね。これを蒸気圧降下と呼びます。上述で言うところのα=0.9の状態ですね。溶質が複数種類ある場合も同様、上記のような絵を描いて考えればわかりやすいのではないでしょうか。

粒数と物質量補足

物質量の定義は分子(or原子)の粒数で定義されいて、物質量1molの時の粒数(6.02×10^23)はアボガドロ定数と呼ばれています。粒の評価にして物質量と称するのはある意味理にかなっているわけです。

味噌汁の蒸気圧

実際に数字を入れて蒸気圧を計算していきましょう。一般的な味噌汁は塩分濃度が1.2%程度とされています。ここでは、計算単純化のため味噌汁=塩分濃度1.2%の食塩水と仮定しましょう。 100℃の味噌汁が合計100gあるとしたら、1.2gが食塩(塩化ナトリウムNaCl)で残り98.8gが水(H2O)ですね。敢えて化学式表記にしたのは物質量を意識するため。ラウールの法則に当てはめるためには質量ではなく物質量(≒粒の数)での含有率が必要です。

上記を物質量に換算すると、まず(H2O)は分子量を18とすると物質量は5.49mol食塩(NaCl)は分子量58.5とすると0.02mol。溶液(味噌汁)の物質量合計は5.51molでそのうち5.49molが溶媒(水)であり、そのモル含有率は99.6mol%、つまりα=0.996。 100℃における水の蒸気圧Pは大気圧(=1013hPa)なので、味噌汁の蒸気圧P\’は1009hPaと求まり、若干ですが純水より下がることが分かりますね。

これが何を意味するか絵で見ていきましょう。純水の場合は100℃で蒸気圧1013hPaのため、大気圧と拮抗しているため全ての液体が気体に変化していくわけです。 一方味噌汁は蒸気圧1009hPaで、若干ながら大気圧より小さいため液体の状態であり、大気圧に押さえ込まれて気体にはなれません

もっと温度を上げたらどうなる?

100℃で蒸気圧1009hPaでも、少し温度を上げれば1013hPaに到達しそうですね。

3.沸点上昇

蒸気圧が下がったら沸点は上がります。蒸気圧降下からなぜ沸点上昇に繋がるのか?順を追って解説していきましょう。

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