この記事では「他山の石」について解説する。

端的に言えば他山の石の意味は「自分の参考になるような他人の誤った言行」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「他山の石」の意味や例文、よくある誤用例などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

以前の職場で同僚が上司に「他山の石とさせていただきます」と言ってしまい、こっぴどく叱責されたのを見かけたそうだ。それ以来、この言葉に興味を持ったとのこと。他山の石の本来の意味や語源、類語についても解説してもらう。

「他山の石」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「他山の石(たざんのいし)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「他山の石」の意味は?

「他山の石」には、次のような意味があります。

よその山から出た、つまらない石。転じて、自分の修養の助けとなる他人の誤った言行。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

一見、何の役にも立たないように思えるような質の悪い石でも、宝石を磨く道具としては使える、ということが元になっている慣用句です。他人の失敗にも学ぶところはあると謙虚に捉え、そこから自分を高めようとする際に使います。

「他山の石」の語源は?

次に「他山の石」の語源を確認しておきましょう。

中国最古の詩集、詩経の「小雅(しょうが)・鶴鳴(かくめい)」に登場する故事、「他山の石以て玉を攻むべし(たざんのいしをもってたまをおさむべし)」が由来です。ここで「石」は「どこにでもあるつまらないもの」、「玉」は「宝石などの美しくて立派なもの」を表しています。

「他人の山から出た粗末な石でも、自分の宝石を磨く役には立つ」ということから、「他人の誤った言動も自分の成長の助けになる」という意味で使うようになりました。

「他山の石」の使い方・例文

「他山の石」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

\次のページで「誤用に注意しよう!」を解説!/

・人の失敗談を笑わずに、他山の石とするべきだ。

・彼を批判するだけではなく、他山の石として自己の成長に邁進するべきだ。

このように、他人の誤った行動を目にした際に笑って見過ごしたり責めて終わらせるのではなく、自身の日常を見直す機会にしたり、人格を高めるきっかけにするべし、というケースで使われます。

誤用に注意しよう!

「他山の石」は、意味を勘違いしている人が多い慣用句としても知られています。文化庁による平成25年度の「国語に関する世論調査」の結果、本来とは異なり「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」の意味で使う人が22.6%もいたとのこと。中でも20代などの若い世代で誤用が目立ったそうです。

「他人の間違いから学んで自己を高める」ことと、「他人の良い行動を手本にする」こと、一見どちらも大差ないように思えますが、何が問題なのでしょうか。「広辞苑」でのこの言葉の説明を読むとわかりやすいのでご紹介します。

「他山の石以て玉を攻むべし」

よその山から出た粗悪な石でも,自分の宝石を磨く役には立つという意味から)自分より劣っている人の言行も自分の知徳を磨く助けとすることができる。

出典:広辞苑

辞書によってはこんなにはっきりと、「自分より劣った人の言行」と記載しています。このイメージが強い人に、「先輩の失敗談を他山の石とさせていただきます」などと言ってしまったらどうなるでしょうか。相手が上司など目上の人だったら、「確かに失敗はしたけれど、お前に格下と認定される覚えはない!」と怒ってしまっても無理もありません。

「他山の石」を使う場合、会話している相手の言動を「他山の石とする」と言うよりは、その場にいない人の言動について使うほうが無難といえるでしょう。そうした視点で見ると、先ほどご紹介した2つの例文もまさに第三者を引き合いに出しているのが分かりますね。

「他山の石」の類義語は?違いは?

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他人の言動を自分の参考にするという意味の「他山の石」。パッと浮かびやすい類義語は「人の振り見て我が振り直せ」や、「反面教師」(悪い見本として学ぶべき人のこと)あたりでしょうか。ここでは、それ以外の類義語をご紹介します。

\次のページで「「人こそ人の鏡」」を解説!/

「人こそ人の鏡」

「人の振り見て我が振り直せ」と同様に、他人は自分を映す鏡のようなものだから、他人の言動を参考に自分の行いを正すべし、という意味です。

「前車の覆るは後車の戒め」

「ぜんしゃのくつがえるはこうしゃのいましめ」と読みます。前を行く車がひっくり返ったら、それは道に大きな石があったり、ぬかるんでいたりと、何らかの原因があってのことでしょう。後から行く車はそれを見て、注意したり危険を避けたりすることができますね。このように先人の失敗を材料に、後の人が参考にする様子を表す言葉です。「前車、後車」を「前者、後者」と書き間違える例を見たことがありますが、由来を知ればそんなミスはしなくて済みますね。

・品行方正で優秀な彼でもあんな失敗をするんだな。人の振り見て我が振り直せというから、僕も気をつけよう。

・受験に失敗した姉を反面教師にして育ったので、妹は早くから学習習慣が身についた。

・人こそ人の鏡というからね。教室で人の悪口ばかり言う友達の醜悪な顔を見て、自分はそうならないように気をつけようと思ったよ。

・前車の覆るは後車の戒めというだろう。歴史を学ぶことは、自分の生き方を考えるうえでも大いに参考になるんだぞ。

「他山の石」の対義語は?

では、「他山の石」と反対の意味を表す言葉にはどんなものがあるでしょうか。

「爪の垢を煎じて飲む」

「つめのあかをせんじてのむ」と読みますね。親から「○○ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいわ」などと言われたことがある人もいるのではないでしょうか。この場合、「○○ちゃん」は、何らかの点で優れている例として引き合いに出されていたはずです。

このように、優れた人の爪の垢を煎じて飲むことで、その人にあやかって優秀になれるように心がけることをいう慣用句。「他山の石」と異なり、比較し参考にする相手が格段に優秀な場合に用います。

「薫陶を受ける」

優れた人格の人から良い影響を受けて成長することを意味するのが「薫陶(くんとう)を受ける」です。こちらも「他山の石」と違って、優秀な人に影響を受ける場合に用います。

薫陶を分解すると、薫は文字どおり「良い香り」のこと、陶は「陶器」のことで、合わせるとお香の香りをしみこませ、土を練って陶器を作り上げること。良いものに囲まれて自然と能力や人格が高まるようなイメージです。ビジネスシーンなどでも、「大学では○○先生の薫陶を受けました」などと使うことがありますよ。

・中学生にもなって親の手伝いもしないなんて困った子だよ。毎日夕飯作りをしている隣のお嬢さんの爪の垢を煎じて飲ませたいもんだ。

・世界的な学者の薫陶を受けただけあって、彼の論文はどこに出しても恥ずかしくないね。

\次のページで「「他山の石」の英訳は?」を解説!/

「他山の石」の英訳は?

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「他山の石」そのままといえる簡潔な英語表現ではありませんが、似た意味を表す際に使える言い方を挙げておきます。

「One man's fault is another's lesson.」

「ある者の過ちは他人にとっては教訓だ」ということわざです。「他山の石」のように「つまらないものでも」という由来もなければ、「薫陶を受ける」などのように「優秀な人から学ぶ」というニュアンスもありません。相手がどんな人かという点はフラットに、単に「他人の失敗から学べる」ことを指しています。

「learn from others' mistakes」

日本語で「彼の失敗を他山の石とします」と言うように文の中で使うなら、「learn from others\' mistakes」がいいでしょう。learnの直後に目的語をつけて「○○を学ぶ」のように使うこともできますよ。

「他山の石」を使いこなそう

この記事では「他山の石」の意味・使い方・類語などを説明しました。ご紹介したように、中途半端に聞きかじった慣用句を安易に使うと相手を怒らせてしまうこともありえます。しっかり由来や意味を把握して、使いこなしたいものですね。

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国語言葉の意味

【慣用句】「他山の石」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

「人こそ人の鏡」

「人の振り見て我が振り直せ」と同様に、他人は自分を映す鏡のようなものだから、他人の言動を参考に自分の行いを正すべし、という意味です。

「前車の覆るは後車の戒め」

「ぜんしゃのくつがえるはこうしゃのいましめ」と読みます。前を行く車がひっくり返ったら、それは道に大きな石があったり、ぬかるんでいたりと、何らかの原因があってのことでしょう。後から行く車はそれを見て、注意したり危険を避けたりすることができますね。このように先人の失敗を材料に、後の人が参考にする様子を表す言葉です。「前車、後車」を「前者、後者」と書き間違える例を見たことがありますが、由来を知ればそんなミスはしなくて済みますね。

・品行方正で優秀な彼でもあんな失敗をするんだな。人の振り見て我が振り直せというから、僕も気をつけよう。

・受験に失敗した姉を反面教師にして育ったので、妹は早くから学習習慣が身についた。

・人こそ人の鏡というからね。教室で人の悪口ばかり言う友達の醜悪な顔を見て、自分はそうならないように気をつけようと思ったよ。

・前車の覆るは後車の戒めというだろう。歴史を学ぶことは、自分の生き方を考えるうえでも大いに参考になるんだぞ。

「他山の石」の対義語は?

では、「他山の石」と反対の意味を表す言葉にはどんなものがあるでしょうか。

「爪の垢を煎じて飲む」

「つめのあかをせんじてのむ」と読みますね。親から「○○ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいわ」などと言われたことがある人もいるのではないでしょうか。この場合、「○○ちゃん」は、何らかの点で優れている例として引き合いに出されていたはずです。

このように、優れた人の爪の垢を煎じて飲むことで、その人にあやかって優秀になれるように心がけることをいう慣用句。「他山の石」と異なり、比較し参考にする相手が格段に優秀な場合に用います。

「薫陶を受ける」

優れた人格の人から良い影響を受けて成長することを意味するのが「薫陶(くんとう)を受ける」です。こちらも「他山の石」と違って、優秀な人に影響を受ける場合に用います。

薫陶を分解すると、薫は文字どおり「良い香り」のこと、陶は「陶器」のことで、合わせるとお香の香りをしみこませ、土を練って陶器を作り上げること。良いものに囲まれて自然と能力や人格が高まるようなイメージです。ビジネスシーンなどでも、「大学では○○先生の薫陶を受けました」などと使うことがありますよ。

・中学生にもなって親の手伝いもしないなんて困った子だよ。毎日夕飯作りをしている隣のお嬢さんの爪の垢を煎じて飲ませたいもんだ。

・世界的な学者の薫陶を受けただけあって、彼の論文はどこに出しても恥ずかしくないね。

\次のページで「「他山の石」の英訳は?」を解説!/

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