この記事では「床に就く」について解説する。
端的に言えば床に就くの意味は「寝る」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「床に就く」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。
ライター/ヤザワナオコ
コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。子どものころは寝ることと食べることが苦手だったのに、今は逆にどちらも大好きになってしまったらしい。暇さえあれば床に就こうとするのはいかがなものか。「床に就く」の意味や、この用語に関連する表現などを解説してもらおう。
「床に就く」には、次のような意味があります。
1.寝床に入る。就寝する。
2.病気になって寝る。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
ベッドで寝る人も多い現代ではあまり使われなくなった言い方、「床に就く」。1.2.どちらの意味も「寝る場所に行く行動」というよりも「寝る」ことそのものを表しているように、布団に入る瞬間というよりは眠るために布団に入る→眠るという全体を指して使います。
元気な人がただ寝たことを言っているのか、それとも病気になって横になっていることを示すのかは、主語は誰なのかなど文脈から判断しましょう。安易に病気なのかと思い込んだままでいると思わぬ誤解につながりますから気をつけたいですね。
次に「床に就く」の語源を確認しておきましょう。まず「床」は「寝床」ということ。これまた今はあまり聞かなくなった言葉ですね。和室で畳の上に布団を敷いて寝るのが普通だった時代の言い方といえます。私自身、京都に多いとされる、間口が狭くて奥行きが深い建物を「うなぎの寝床」というときぐらいしか聞いた覚えがありません。
そして「就く(つく)」は、主に「ある地位に身を置く」という意味。ここから、「就寝」は今回の「床に就く」と同じく眠ることを指し、「就職」といえば働くために企業等に入ることを指しています。
なお、「就く」には「自ら何かを始める」という意味もあり、こちらの用法で耳にする例が「首相は帰国の途に就きました」。海外の訪問先を出発し、日本に帰ってこようとしている、ということですね。「地方出張から東京への帰路(きろ)に就く」というときもこの「就く」を使います。このように「床に就く」は「寝床に身を置く」という意味になり、「眠る」を表すのです。
\次のページで「「床に就く」の使い方・例文」を解説!/
では、「床に就く」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.今日は研究会があったので自宅に帰るのが遅くなり、床に就いたのは12時を回っていた。
2.祖母は自宅で床に就く時間が長くなってから、訪問客を何よりも楽しみにしています。
1.のように単に眠ったことを表す場合、「寝たのは12時過ぎだった」というのと、例文の言い方とではどう印象が異なるでしょうか。友人との会話で「床に就く」と使う機会はめったになさそうですが、きちんとした場や目上の人と話すときは、こうした言葉も使えると表現の幅が広がり、語彙が豊富な人に見えるかもしれませんね。
なお、近代的短編小説の創始者とされる小説家、国木田独歩(くにきだどっぽ)の「酒中日記」(1902年)にも、類似した表現がありますよ。この短編は周囲の巻き添えで思いもよらぬ不運な人生を歩む男性の日記。今の世相でも、共感できる人も多いのではないでしょうか。
image by iStockphoto
「床に就く」の類義語にはどんなものがあるでしょうか。もちろん「眠る」「寝る」も類義語といえますが、ここではそれ以外の表現をご紹介します。
「床に就く」の意味のうち2番目の「病気になって寝る」と同じ意味を表す言葉。古語に分類されるようですが、もともと自動詞の「臥す」には「横になる、眠る」とか、「うつむく」や「隠れる」の意味があります。そこから、「床に臥す」とか「臥せっている」という使い方をするようになりました。
「うつ伏せ」や犬への命令「伏せ!」といった際に使う「付す」とも語源は同じですが、「付す」は腹ばいになる、地面に体をつけるといった意味で、「寝る」というニュアンスはありませんね。
\次のページで「「床に就く」の対義語は?」を解説!/
・先週、久しぶりに知人の家に電話をかけたら、去年から臥せっていると聞かされた。入院先に見舞いに行かなくては。
次に、「床に就く」の対義語を見ていきましょう。「起きる」でもいいのですが、同じく「床」を使う表現を紹介しますね。
畳の部屋に布団を敷く生活の場合、朝起きたときや風邪が治ったときは布団を片づけますね。旅館などで「布団の上げ下ろし」という言葉を耳にした方もいるでしょう。
ここから、特に病気から快復して元気になったことを指して使うことが多いのが「床を上げる」です。略して「床上げ」ということもあり、こちらは育児雑誌などで出産後の話題として見かけることが多いですよ。出産は肉体的な負担も大きい重労働ですから、出産後はいつでも横になれるように布団を敷きっぱなしにしておくことが望ましいとされます。普通の生活に戻っても大丈夫なまでに体調が戻ったら「床上げ」。個人差もあるので厳密に何日、何週間と決まってはいませんし、床上げしたからなんでも動けるともかぎりません。産後のママさんが身近にいたらぜひ気遣ってあげてくださいね。
・編集部で書籍の出版に携わるという大仕事を前に、今朝は張り切って床を上げた。
・昨日大病からようやく床を上げたと思ったら、今日は早速事務仕事に追われている。
読んで字のごとく、「(眠るために)ベッドに行く」すなわち「寝る」という意味です。気をつけたいのは、「a」や「the」といった冠詞をつけずにただ「bed」となっているところ。もし冠詞をつけて「go to the bed」とすると、単にベッドのところまで「行く」ことを表すので、日中にベッドメイキングのためにベッドに近づくような場合にはこちらを用います。 なお、睡眠に関する英語表現にはほかにもsleepなどいろいろとありますね。簡単に紹介すると、sleepは「眠っている状態が続く」との意味、fall asleepといえば「無意識に寝入る」を意味します。合わせて覚えておきましょう。
\次のページで「「床に就く」を使いこなそう」を解説!/
・I usuallly go to bed at 11 o'clock at night.
(私はいつも夜11時に寝ます)
この記事では「床に就く」の意味・使い方・類語などを説明しました。少し古めかしい感じもする表現ですが、小説などでは普通に見かけることもあります。ぜひ類義語や対義語も合わせて覚えておきましょう。