今回の記事では「ロータス効果」についてみていこう。耳慣れない用語ですが、自然の生み出した素晴らしい技術の一つであり、われわれの生活の身近なところにも応用されている。関連して、バイオミメティクスという研究分野についても触れるぞ。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ロータス効果とは?

ロータス効果の”ロータス(lotus)”とは、英語でハス(蓮)のことを意味します。皆さんは屋外でハスの葉を見たことがあるでしょうか?

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大きく丸みのある葉が特徴的です。いくつものハスを見ていると、ほこりで汚れていたり、ごみが付着しているような葉がほとんどないことに気づきます。また、ハスの葉の中心部分に水がキレイにたまっている様子も見ることができるかもしれません。

ハスの葉の表面には特殊なでこぼこの構造があり、これが非常によく水をはじきます。水滴が葉の表面に落ちると、まるでボールのようにころころと中心へ落ちて行ってしまうほどです。

この強い撥水性(超撥水性)により、水が葉の中心の少し低くなっているところに集まります。その際、葉の表面についた小さな汚れなども一緒に流されていくのです。このため、ハスの葉の表面は汚れにくくなります。中心にたまった水はどうなるのでしょうか?葉の中心にある程度水が溜まってくると、重みで葉柄がたわみ、葉が傾いてたまった水がこぼれるようになっているのです。まさに、”自然の妙技”といったところですね。

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以上のような、ハスの葉にみられる自浄作用のことをロータス効果とよびます。英語ではLotus effectです。

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なぜハスの葉にはロータス効果?

もともと、植物の葉の表面にはワックスが広がっており、ある程度の撥水性は備わっています。ですが、ロータス効果を及ぼすような強い撥水性をもつのは、ハスを含めた一部の植物に限られるのです。

LotusEffect1.jpg
CC 表示-継承 3.0, リンク

ハスの葉にロータス効果がみられる理由として、水中に伸びる地下茎や根に空気を送らなければならないというものがあげられます。ハスは水生植物ですが、水中というのは地上の土の中よりも酸素が少ない状態です。そのため、葉などから空気を取り入れて地下の茎や根に送っています。

葉が汚れて空気が通らなくなると、茎や根が酸欠になってしまうということなんですね。

ハス以外の植物では?

ロータス効果がみられるのは、ハスだけではありません。ハスのように水中に根をはる、他のハス科の植物にも見られます。また、サトイモ(里芋)の葉にも似たような撥水効果がありますが、こちらはハスの葉の表面にある微細構造とは少し異なった構造になっているようです。

ロータス効果の応用

ロータス効果にみられるような、強い撥水の性質を生み出す仕組みが分かってからはこれをさまざまな素材や製品に応用することができるようになりました。私たちの身近にある具体例をご紹介しましょう。

\次のページで「防水素材・防水スプレー」を解説!/

防水素材・防水スプレー

ロータス効果の応用例としてもっとも考えやすいのが、防水機能でしょう。ハスの葉の表面にみられる微細構造を見本として、適度な凹凸をもたせた素材が登場しています。もともと水が浸透しにくい素材でも、この凹凸を追加することでより撥水性を高めることができるのです。

また、防水スプレーのなかには、ロータス効果を再現するような凹凸をつくるためのポリマーなどが含まれたものがあります。洋服や靴、傘などにスプレーすれば、雨の日も安心です。

塗料

塗料の中にも、ロータス効果を再現し、塗布した素材に強い撥水性をもたらすことができるものが開発されています。建物の表面に塗れば、雨水がしみこまずに流れ落ちますね。その際に、外壁や屋根についた汚れも流れ落ちます。ハスの葉の自浄作用を再現しているといえるでしょう。

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ヨーグルトのふた

ある乳製品メーカーのヨーグルトのふたには、ロータス効果にならった超撥水性の素材を使ったものが使われています。皆さんがヨーグルトを食べようとしたとき、ふたを開けたらその裏側にべったりとヨーグルトがついていた経験ってありませんか?結構困りますよね…。超撥水性のある素材が使われたフタの裏側ならば、そんなことも起きません。移送中にヨーグルトははねても、ふたからするりと落ちてしまいます。

バイオミメティクス

ロータス効果の利用方法を考えるといろいろな可能性が思い浮かびますよね。他にも、自然の生物がそなえている仕組みや構造のなかには、私たち人間には思いつかないようなものや、色々な応用が期待されるものがたくさんあるんです。

生物の仕組みや構造を真似した製品を作ったり、素材に応用するような研究分野のことを”バイオミメティクス(生物模倣)”といいます。まさに、『自然から学ぶ』を地で行く分野です。

\次のページで「生物から学ぼう!」を解説!/

たとえば、サメの肌の構造を利用した水着。水の抵抗を大きく抑えることができる構造のため、着用者はより速く泳げるようになります。海に住むイガイという貝は、激しい波打ち際でもしっかりと岩肌に固着していますが、これには特殊なタンパク質が使われていることが分かりました。このタンパク質を研究することで、水中でも強い接着効果を発揮する接着剤がつくれるのではないかと期待されています。

接着といえば、ヤモリから学んだ技術を忘れてはいけません。ヤモリは足の裏に特殊な構造をもち、静電気の力で垂直な壁にとりつくことができます。この構造を応用して、ある会社では強い接着力をもちながらも、つけた面を汚さず、好きな時にはがすことができるテープを開発しました。

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これらはバイオミメティクスの具体例のごく一部。他にもまだまだ実用されている技術があります。生物が進化の中でが生み出した技には、人間が莫大なエネルギーや材料を投じてつくる素材やしくみよりも、ずっと効率が良いものが多いのです。環境負荷やエネルギー問題が深刻な時代だからこそ、これからもバイオミメティクスは注目され続けるでしょう。

生物から学ぼう!

今回はロータス効果とバイオミメティクスについてご紹介しました。「ハスの葉はなぜ水滴が転がり落ちるんだろう」とか「この生物の仕組みを利用できないだろうか」などと考えた人はすごいですね。地球上には数え切れないほどの生物種が存在し、それぞれが固有の特徴や性質をもちます。これからもきっと、新たな”自然の技”がみつかり、それを応用する技術が登場してくるでしょう。

イラスト使用元:いらすとや

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「ロータス効果」!自然の妙技?応用例も含めて現役講師がわかりやすく解説!

今回の記事では「ロータス効果」についてみていこう。耳慣れない用語ですが、自然の生み出した素晴らしい技術の一つであり、われわれの生活の身近なところにも応用されている。関連して、バイオミメティクスという研究分野についても触れるぞ。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ロータス効果とは?

ロータス効果の”ロータス(lotus)”とは、英語でハス(蓮)のことを意味します。皆さんは屋外でハスの葉を見たことがあるでしょうか?

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大きく丸みのある葉が特徴的です。いくつものハスを見ていると、ほこりで汚れていたり、ごみが付着しているような葉がほとんどないことに気づきます。また、ハスの葉の中心部分に水がキレイにたまっている様子も見ることができるかもしれません。

ハスの葉の表面には特殊なでこぼこの構造があり、これが非常によく水をはじきます。水滴が葉の表面に落ちると、まるでボールのようにころころと中心へ落ちて行ってしまうほどです。

この強い撥水性(超撥水性)により、水が葉の中心の少し低くなっているところに集まります。その際、葉の表面についた小さな汚れなども一緒に流されていくのです。このため、ハスの葉の表面は汚れにくくなります。中心にたまった水はどうなるのでしょうか?葉の中心にある程度水が溜まってくると、重みで葉柄がたわみ、葉が傾いてたまった水がこぼれるようになっているのです。まさに、”自然の妙技”といったところですね。

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以上のような、ハスの葉にみられる自浄作用のことをロータス効果とよびます。英語ではLotus effectです。

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