今回の記事では「赤潮」という現象について学習していこう。赤潮は、海や大きな湖の近くに住む人にとっては身近な現象ですが、そうでなければあまり詳しく知らないかもしれない。環境に関する問題の一つとして、理科や生物の教科書で紹介されていることもあるから、どんなものか確認しておこう。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

赤潮とは

赤潮(あかしお)とは、ある種のプランクトンが異常発生することで、海などの色が変わったように見える現象をいいます。名前の通り赤っぽい色になることがよくありますが、プランクトンの種類によっては、オレンジ色っぽかったり、茶色っぽい色になることもあるんです。

海だけでなく、湖などの淡水でも赤潮が起きることがありますが(淡水赤潮)、今回は海でおきる赤潮に着目して学んでいきましょう。

image by Study-Z編集部

赤潮の原因になるプランクトンはいくつも知られています。なかでも、珪藻(けいそう)渦鞭毛藻(うずべんもうそう)といった藻類が有名です。藻類は光合成をするための色素をもっているため、その色が赤潮に反映されるんですね。

赤潮の影響

赤潮の発生は、その海域の生物や人間の生活に悪影響を及ぼすことが多いのです。通常よりも数を増やしたプランクトンは、それぞれが酸素を必要とします。その海域の酸素量が急激に消費され、酸素濃度は低下。これにより、他の生物が酸欠状態となるのです。植物プランクトンのような微生物は日光の届く海面近くを好んで生息しますから、ガス交換も生じにくくなります。

また、プランクトンが魚のえらに詰まってしまうことで、物理的に魚が呼吸できず、死んでしまうことも。さらに、大量発生したプランクトンの種類によっては、毒素を放出するものもいます。貝などがこの毒素をため込み、その貝を人間が食べることでおなかを壊してしまうことがあるんです。

image by iStockphoto

魚をはじめとする海洋生物に大きな被害が出れば、漁業で生活をしている人にとっても大打撃です。養殖をしている海域などでの被害はより深刻になります。簡単に場所を動かすことができませんからね。

対策として、赤潮の発生が予想されるときには各地方自治体の研究所などから「赤潮警報」や「赤潮注意報」などの情報が発せられています。予想される赤潮の地点や期間、規模、プランクトンの種類などのデータが発表され、関係各所・水産関係者に注意が呼びかけられるんです。

\次のページで「赤潮はなぜ起きる?」を解説!/

赤潮はなぜ起きる?

赤潮はプランクトンの異常な増殖により生じますが、その根本的な原因は単一ではありません。代表的なのは、海水の富栄養化です。富栄養化は、リンや窒素をふくむ栄養塩や、有機物を多く含んだ水が河川によって運ばれ、海に流れ込むことでおきます。後述しますが、高度経済成長期には工場や人口の多い地域からの排水が海に流れこみ、赤潮が多く発生しました。

image by iStockphoto

また、海水温の上昇海水の循環が悪くなることも影響するといわれています。プランクトンはほとんど自力で遊泳することができず、水の流れに乗って長距離を移動する生物です。流れが緩やかだったり、ほとんど停滞してしまうような場所では、新しく発生したプランクトンも拡散できず、限られたエリアで生息数が増え続ける可能性があります。

実際のところ、赤潮は海流の妨げられることの少ない外洋よりも、湾の内部(内湾)で発生することが多いようです。

これらの原因に加え、原因となるプランクトンの増殖を抑えていた生物がいなくなることによる赤潮の発生も注目されています。貝類やエビなどの甲殻類といった、プランクトンを捕食する生物が数を減らしていることが、要因の一つと考えられているんです。

さらに、競合していたプランクトンが何らの原因で減少したことで、赤潮の原因になるプランクトンが急激に繁殖する、ということもあります。いくつかの要因が複雑に絡み合い、赤潮は発生するのですね。

日本国内の赤潮

日本国内では、東京湾や大阪湾、伊勢湾などの湾で多くの赤潮発生が報告されています。また、日本最大の内海である瀬戸内海や、干潟で有名な有明海などでも発生が多いようです。国内で赤潮の発生件数が急増したのが、1960-70年代の、高度経済成長期のころでした。人口の急激な増加や各産業の発展に伴い、栄養塩の多い排水が増えたのです。

赤潮発生を抑える対策

他の海洋生物や人間への影響が大きな赤潮。少しでも水産業や環境への被害を食い止めるため、日本でも各地で赤潮の発生を抑えるための対策がとられるようになっています。具体的には、水質汚濁防止法などの改正によって排水基準を強化したり、下水道整備を見直したりといったものです。

\次のページで「白・緑・青」を解説!/

地域によっては、人工的な干潟を整備する事業も行われています。干潟には栄養塩や有機物を栄養源とするようなプランクトンや小さな動物が多く住むことができるのです。

image by iStockphoto

干潟や磯などの生物種が豊かな環境は、埋め立て地になるなどして、ずいぶん日本から姿を消しました。人間の手で自然環境を再度構築するのは簡単ではありません。しかしながら、生物の豊かな環境が戻れば、赤潮対策に有効なだけでなく、地域の子どもたちが環境について学ぶ良い機会もうまれるでしょう。

白・緑・青

あまり知られていませんが、異常発生したプランクトンの種類によっては、海が赤色ではなく、白や緑色を呈することがあります。この場合は、それぞれ白潮緑潮とよばれるんです。

Cwall99 lg.jpg
パブリック・ドメイン, リンク

また、大量に発生したプランクトンが死んで海底に沈み、分解される際にできる成分が水面付近に流れることで、その部分が白っぽい青色になることがあります。この現象は青潮とよばれますが、赤潮や白潮、緑潮とちがい、生きたプランクトンによるものではないため、間違えないようにしましょう。

今後も気にしておきたい「赤潮」の発生状況

対策がとられるようになり、日本国内では一時期よりもずいぶん赤潮の発生回数は減ったといいます。しかしながら、都市部への人口集中による排水増加の懸念や、地球温暖化に伴う海水温上昇など、今後の赤潮への心配がなくなったわけではありません。まずは私たちも生活を見直し、排水を減らすなどの工夫をしていきたいものです。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 3分で簡単「赤潮」どんな現象?現役講師がわかりやすく解説します! – Study-Z
理科生態系生物

3分で簡単「赤潮」どんな現象?現役講師がわかりやすく解説します!

今回の記事では「赤潮」という現象について学習していこう。赤潮は、海や大きな湖の近くに住む人にとっては身近な現象ですが、そうでなければあまり詳しく知らないかもしれない。環境に関する問題の一つとして、理科や生物の教科書で紹介されていることもあるから、どんなものか確認しておこう。大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

赤潮とは

赤潮(あかしお)とは、ある種のプランクトンが異常発生することで、海などの色が変わったように見える現象をいいます。名前の通り赤っぽい色になることがよくありますが、プランクトンの種類によっては、オレンジ色っぽかったり、茶色っぽい色になることもあるんです。

海だけでなく、湖などの淡水でも赤潮が起きることがありますが(淡水赤潮)、今回は海でおきる赤潮に着目して学んでいきましょう。

image by Study-Z編集部

赤潮の原因になるプランクトンはいくつも知られています。なかでも、珪藻(けいそう)渦鞭毛藻(うずべんもうそう)といった藻類が有名です。藻類は光合成をするための色素をもっているため、その色が赤潮に反映されるんですね。

赤潮の影響

赤潮の発生は、その海域の生物や人間の生活に悪影響を及ぼすことが多いのです。通常よりも数を増やしたプランクトンは、それぞれが酸素を必要とします。その海域の酸素量が急激に消費され、酸素濃度は低下。これにより、他の生物が酸欠状態となるのです。植物プランクトンのような微生物は日光の届く海面近くを好んで生息しますから、ガス交換も生じにくくなります。

また、プランクトンが魚のえらに詰まってしまうことで、物理的に魚が呼吸できず、死んでしまうことも。さらに、大量発生したプランクトンの種類によっては、毒素を放出するものもいます。貝などがこの毒素をため込み、その貝を人間が食べることでおなかを壊してしまうことがあるんです。

image by iStockphoto

魚をはじめとする海洋生物に大きな被害が出れば、漁業で生活をしている人にとっても大打撃です。養殖をしている海域などでの被害はより深刻になります。簡単に場所を動かすことができませんからね。

対策として、赤潮の発生が予想されるときには各地方自治体の研究所などから「赤潮警報」や「赤潮注意報」などの情報が発せられています。予想される赤潮の地点や期間、規模、プランクトンの種類などのデータが発表され、関係各所・水産関係者に注意が呼びかけられるんです。

\次のページで「赤潮はなぜ起きる?」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: