今回は「物理吸着」について解説していきます。

物理吸着とは、吸着と呼ばれる現象の一つです。吸着とは、ある物質が吸着材と呼ばれる特定の固体にくっつく現象のことです。物理吸着の特性を活かした技術としては、浄水処理や脱臭剤などが挙げられる。これらは、現代の生活を支える重要な技術です。今回は、物理吸着の理論を、具体例を交えてながら解説するつもりです。ぜひこの機会に、物理吸着についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

1.物理吸着について学ぼう!

image by iStockphoto

この記事のメインテーマは、物理吸着です。吸着というのは、物体の界面において他の部分よりも濃度が大きくなる現象のことを指します。簡単に言えば、界面に物質が引き寄せられるということです。吸着には様々なメカニズムがあり、それによって分類されます。物理吸着も、吸着の種類の一つです

今回は、最初に物理吸着のメカニズムについて学びます。その後に、物理吸着と深い関連性をもつ現象について解説しますね。最後には、物理吸着を用いた身近な技術である活性炭による水の浄化と脱臭について述べます。それでは早速、物理吸着のメカニズムを説明していきますね

見慣れない用語や単語が登場することもあるかと思いますが、その場合は意味をしっかりと確認して、頭に入れるように意識してください。

1-1物理吸着とは?

1-1物理吸着とは?

image by Study-Z編集部

物理吸着とは、吸着質が吸着材との間に作用するファンデルワールス力(分子間力)によって、吸着材表面に吸着質が濃縮されて、くっつく現象のことを指します。ここで、吸着質は汚れなどのことを指していますよ。吸着質は気体、液体、固体粒子のいずれでも構いません。一方、吸着材は固体である必要がありますよ。

物理吸着は比較的力の弱いファンデルワールス力によって生じるため、加熱や減圧といった操作によって、簡単に吸着質が吸着材から離れてしまいます。これは、物理吸着のメリットでもあり、デメリットでもありますよ。

\次のページで「1-2化学吸着やイオン交換吸着との違い」を解説!/

1-2化学吸着やイオン交換吸着との違い

物理吸着とよく比較される吸着に、化学吸着やイオン交換吸着があります。これらの吸着方法では、吸着質と吸着材の間に化学的な結合が生じて、吸着質が吸着材にくっつくのです。特に化学吸着は不可逆的であり、簡単な温度操作や圧力操作では、吸着質を吸着材から分離させることは困難ですよ。化学吸着では、化学反応が生じているのです。

また、イオン交換吸着では、吸着質と吸着材を構成する物質が相互にイオンを交換します。それゆえ、吸着材の成分の一部が溶出するという特徴がありますよ。イオン交換吸着を行う装置には、イオン交換樹脂という特殊な樹脂が利用されています。

2.物理吸着と関連性の深い現象

ここでは、物理吸着と関連性の深い現象について説明します。物理吸着の効率を向上させるための研究開発では、以下で紹介する現象をヒントとして、材料の設計を行っているようですよ。

以下で紹介する内容は、近年技術向上が著しいナノサイエンスの分野にも関係するものなので、知っておいて損はないはずです。それでは、説明をはじめますね。

2-1毛管凝縮

毛管凝縮とは、ある物質が本来であれば気体として存在する条件において、毛細管内部では液体として吸着する現象のことをいいます。つまり、沸点以上の温度であっても、毛細管内部では物質が液体として存在できるのです。

木綿の高保湿性は、この現象によって説明することができます。毛管凝縮が生じやすいようなナノ構造を利用することで、保湿性の高い繊維を製造することができるのですね。また、気相から不純物を分離させるといった目的をもつ材料も同様の理論で開発できます

\次のページで「2-2ミクロ孔充填」を解説!/

2-2ミクロ孔充填

吸着質に原子のサイズと同じくらいの大きさをもつ細孔をつくると、物質が相転移を伴わずに充填されることが知られています。この現象も吸着に分類され、ミクロ孔充填と呼ばれていますよ。

この現象を応用することで、気体分子を吸着質に安定的に高密度で蓄えることができるようになります近年、ミクロ孔充填によって天然ガスや水素ガスを大量貯蔵する方法の研究が行われるようになりました。水素ガスの大量貯蔵は、水素社会を実現するために、必要不可欠な技術だとされていますよね。

3.活性炭の吸着材としての活用

Activated Carbon.jpg
Self (en:User:Ravedave) - Self (en:User:Ravedave), CC 表示 2.5, リンクによる

活性炭は物質の吸収効率を高めるために、多孔質化された炭素材料です。活性炭には、毛細管構造やミクロ孔構造が多数含まれています。そのため、活性炭内では、毛管凝縮やミクロ孔充填のような現象が起きやすくなっていますよ。

このような特徴を活かして、活性炭は様々な分野で利用されています。ここでは、活性炭が吸着材として、どのような場面で活躍しているのかをご紹介しますね。今回紹介するのは、水の浄化技術への応用脱臭剤としての利用の2つです。

3-1水の浄化への活用

image by iStockphoto

活性炭を用いることで、水の浄化が可能になります。活性炭を用いた浄水では、カビ臭原因物質異味物質残留農薬重金属色素トリハロメタン前駆体などを除去することができますよ。これらの物質は、活性炭の毛細管に入り込み、ミクロ孔でトラップされます。

活性炭は適切な処理を行うことで、一度吸着した物質を分離させることが可能です。汚れた水から除去された物質の中には、資源としての価値が高いものも混入しています。これは、活性炭を用いて浄水を行うことで、同時に資源回収を行うことができるということを意味しますよ

また、吸着した物質を分離させることができるということは、活性炭がリサイクル可能な材料であることでもあります。このような点から、活性炭は物理吸着材としての優位性以外にも、長所が存在すると言えますよね。

\次のページで「3-2脱臭剤としての利用」を解説!/

3-2脱臭剤としての利用

image by iStockphoto

活性炭のもつ脱臭効果は非常に高いため、脱臭剤としても広く用いられています。活性炭は、空気中に浮遊している臭いの原因となる物質を吸着することにより、不快な臭いを低減させますよ。活性炭には毛細管が多数存在するため、毛管凝縮によって臭いの原因物質を吸着することが可能です。また、多孔質構造によって活性炭の表面積は大きくなっているので、より多く臭いの原因物質をトラップすることができます。

そして、活性炭の主成分は炭素ですから、人体への影響はほとんどありません。加えて、製造にかかるコストも比較的小さいのです。このような理由から活性炭の脱臭剤は、家庭用のトイレ脱臭剤から工業用の脱臭装置まで幅広い分野で用いられていますよ。

物理吸着について理解を深めよう

この記事では、物理吸着のメカニズムについて説明しました。そして、物理吸着と関連性が高い現象についても解説しています。これらの内容は、基本的な物理化学の知識で理解できるようなものでした。

ですが、物理吸着の特性を利用した技術は、浄水や脱臭などの実用性の高いものばかりです。また、浄水や脱臭などの技術は身近なものですよね。ですから、物理吸着についての知識を身についておくことで、興味深い雑学が一つ増えることでしょう。ぜひこの機会に、物理吸着について学んでみてください。

" /> 3分で簡単物理吸着!ファンデルワールス力との関係?理系学生ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
化学物質の状態・構成・変化理科生活と物質

3分で簡単物理吸着!ファンデルワールス力との関係?理系学生ライターがわかりやすく解説!

今回は「物理吸着」について解説していきます。

物理吸着とは、吸着と呼ばれる現象の一つです。吸着とは、ある物質が吸着材と呼ばれる特定の固体にくっつく現象のことです。物理吸着の特性を活かした技術としては、浄水処理や脱臭剤などが挙げられる。これらは、現代の生活を支える重要な技術です。今回は、物理吸着の理論を、具体例を交えてながら解説するつもりです。ぜひこの機会に、物理吸着についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

1.物理吸着について学ぼう!

image by iStockphoto

この記事のメインテーマは、物理吸着です。吸着というのは、物体の界面において他の部分よりも濃度が大きくなる現象のことを指します。簡単に言えば、界面に物質が引き寄せられるということです。吸着には様々なメカニズムがあり、それによって分類されます。物理吸着も、吸着の種類の一つです

今回は、最初に物理吸着のメカニズムについて学びます。その後に、物理吸着と深い関連性をもつ現象について解説しますね。最後には、物理吸着を用いた身近な技術である活性炭による水の浄化と脱臭について述べます。それでは早速、物理吸着のメカニズムを説明していきますね

見慣れない用語や単語が登場することもあるかと思いますが、その場合は意味をしっかりと確認して、頭に入れるように意識してください。

1-1物理吸着とは?

1-1物理吸着とは?

image by Study-Z編集部

物理吸着とは、吸着質が吸着材との間に作用するファンデルワールス力(分子間力)によって、吸着材表面に吸着質が濃縮されて、くっつく現象のことを指します。ここで、吸着質は汚れなどのことを指していますよ。吸着質は気体、液体、固体粒子のいずれでも構いません。一方、吸着材は固体である必要がありますよ。

物理吸着は比較的力の弱いファンデルワールス力によって生じるため、加熱や減圧といった操作によって、簡単に吸着質が吸着材から離れてしまいます。これは、物理吸着のメリットでもあり、デメリットでもありますよ。

\次のページで「1-2化学吸着やイオン交換吸着との違い」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: