この記事では 「幕が下りる」について解説する。

端的に言えば、幕が下りるの意味は「物事が終わりになる」ことです。報道ではよく目にする表現ですが、語源や類義語も知っておくと自分でも使いこなせるようになるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「幕が下りる」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「幕が下りる」の意味・語源・例文

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「幕が下りる」は新聞記事やテレビの報道で見ることはありますが、自分ではあまり使ったことがない言葉かもしれませんね。歌舞伎が由来とされる語源を調べていくと、ほかにもいろいろな表現があることがわかりますよ。

「幕が下りる」の意味

最初に「幕が下りる」を辞書で調べてみましょう。

芝居などが終わって、垂れ幕がさがる。転じて、物事が終わりになる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「幕が下りる」

幕は、劇場などで、演技が行われていないときに舞台の前に垂らして、舞台と客席を仕切っている布のこと。芝居が始まるときに幕が上がり、芝居が終わると幕が下がります。そこから転じて「物事が終わりになる」という意味で使われるようになりました。

「幕が下りる」の語源は歌舞伎から!

「幕が下りる」以外にも、「幕開き」「幕引き」「幕を切って落とす」など幕を使った慣用句がありますが、これらの多くは歌舞伎に由来しているものです。歌舞伎ではさまざまな幕が使われますが、上下に開閉するスタイルのものを緞帳(どんちょう)といいます。江戸時代から明治初期の頃、緞帳は簡素な巻き上げ式のものでしたが、明治後期に西洋式の劇場が建設されるようになり、つづれ織りの織物など豪華な幕に変わっていきました。「幕が下りる」は芝居が終わり、緞帳が下りることです。

歌舞伎の幕というと、黒・柿色・浅葱色(濃い緑)の三色の縦縞の幕の印象が強いのではないでしょうか。これは定式幕(じょうしきまく)といいます。いつも使う幕という意味です。歌舞伎の場合、幕は舞台下手から上手に向かって開き、上手から下手に閉じます。

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「幕が下りる」の例文

次に「幕が下りる」を使った例文を見てみましょう。

1.姉夫婦に誘われて、姪っ子姉妹が出場する運動会を今年初めて見に行った。最後の種目リレーは、姪たちの赤組が白組に圧勝して、競技の幕が下りた。作っていった唐揚げが人気で、来年も見に来てほしいと言われた。
2.人質をとって20時間以上もアパートで立てこもりを続けた犯人だったが、わずかな隙をついて警察が突入し、取り押さえられた。あっけなく事件の幕が下りた。
3.江戸時代から続く老舗だったが、時代の波に逆らえず、ついにその長い歴史の幕を下ろした。

最初の例文は、競技が終わったという意味ですね。2番目の例文は、「幕が下りる」を事件が終わりになったという意味で使っています。「下りる」は自動詞ですが、対応する他動詞は「下ろす」です。「幕を下ろす」も同じ意味で使われます。3番目は「幕を下ろす」を使った例文ですよ。

「幕が下りる」の類義語

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つぎに「幕が下りる」の類義語を見てみましょう。幕を使った言い方がほかにもありますよ。

「幕を引く」「幕を閉じる」:終わりになる

三色縦縞の定式幕は、歌舞伎を象徴するデザインですね。中村座、市村座など、座ごとに配色と並び順が違いますが、現在歌舞伎座で使われているのは森田座のものといわれていますよ。

歌舞伎では、定式幕は舞台下手から上手に向かって開き、上手から下手に引いて閉じます。ちなみに文楽は逆です。「幕を引く」は幕を横に引いて閉じることで、「幕が下りる」と同じように物事が終わりになることを表すようになりました。「幕を閉じる」は、緞帳でも定式幕でもどちらでも使えますね。

\次のページで「「幕切れ」:終結」を解説!/

「幕切れ」:終結

芝居が一段落して幕が閉まること「幕切れ」と言います。そこから転じて、「物事の終わり」「終結」の意味を表すようになりました。「あっけない幕切れとなった」とか「意外な幕切れを迎えた」という使い方をします。

「ちょんになる」「木が入る」:拍子木を打つ

舞台が語源となっている言葉はまだあります。たとえば「ちょんになる」とは何のことでしょう。「ちょん」とは拍子木の音のこと。芝居の幕切れに拍子木を打つことから「ちょんになる」「物事がいきなり終わりになる」ことを意味します。ほかに解雇されるという意味もありますよ。「木」は拍子木のことで、「木が入る」も「物事がいきなり終わる」という意味です。

「けりがつく」「ピリオドを打つ」など:文章の終わり

「幕が下りる」は「物事が終わること」ですが、単純に終わるという以外にもまだニュアンスのある表現があります。「けり」は助動詞のひとつ。短歌や俳句が「けり」で終わることが多いことから、「けりがつく」「結末がつく」という意味になりました。「けりをつける」という使い方もしますね。

「ピリオド」は英文などの文章の終わりに打つ点のこと。そこから「ピリオドを打つ」「終わりにする」という意味で使われるようになりました。「終止符を打つ」ともいいますね。

「幕が下りる」の反対語

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つぎに「幕が下りる」の反対語を見てみましょう。

\次のページで「「幕が上がる」「幕開き」:物事の始まり」を解説!/

「幕が上がる」「幕開き」:物事の始まり

「幕が下りる」の反対語は「幕が上がる」。「緞帳が上がり、演技が始まること」です。「幕開き」「まくあき」と読みましょう。「幕開け」(まくあけ)というときもありますが、舞台関係で使うときは「幕開き」のほうを使います。いずれも「幕が開いて演技が始まることから転じて、「物事がはじまる」ことを意味するようになりました。

「幕を切って落とす」:一瞬で始まる

舞台の上部の棹にかかっている幕を一気に振り落とすことを「幕を切って落とす」といいます。幕に隠されていた舞台装置や役者が一瞬で観客の目の前に現れることから「物事の始まり」を意味するようになりました。場面転換の際にも使われる演出方法です。「幕を切って落とす」は「プロ野球公式戦の幕が切って落とされた」というように使われていますね。

「幕が下りる」の英訳は?

次に「幕が下りる」の英訳を見てみましょう。

「come to an end」

「come to an end「終わりになる」という意味です。「finally come to an end」は「ようやく終止符が打たれる」で、「come to an official end」は「正式に終了する」という意味になります。

類義語も覚えて「幕が下りる」を使いこなそう!

この記事では「幕が下りる」の意味・使い方・類義語などを説明しました。

「幕が下りる」は芝居が終わり、幕が下りることです。転じて「物事が終わりになる」という意味で使われるようになりました。歌舞伎にはさまざまな幕が使われており、「幕を引く」「幕切れ」という表現もあります。「ちょんになる」「木が入る」も「幕が下りる」と同じ意味合いです。幕切れに拍子木を打つことからできたという由来も面白いですね。

新聞やテレビでもよく見かける表現なので、類義語も合わせて覚えて、使いこなせるようになってくださいね。

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国語言葉の意味

歌舞伎が語源?「幕が下りる」の意味・例文・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

この記事では 「幕が下りる」について解説する。

端的に言えば、幕が下りるの意味は「物事が終わりになる」ことです。報道ではよく目にする表現ですが、語源や類義語も知っておくと自分でも使いこなせるようになるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「幕が下りる」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「幕が下りる」の意味・語源・例文

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「幕が下りる」は新聞記事やテレビの報道で見ることはありますが、自分ではあまり使ったことがない言葉かもしれませんね。歌舞伎が由来とされる語源を調べていくと、ほかにもいろいろな表現があることがわかりますよ。

「幕が下りる」の意味

最初に「幕が下りる」を辞書で調べてみましょう。

芝居などが終わって、垂れ幕がさがる。転じて、物事が終わりになる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「幕が下りる」

幕は、劇場などで、演技が行われていないときに舞台の前に垂らして、舞台と客席を仕切っている布のこと。芝居が始まるときに幕が上がり、芝居が終わると幕が下がります。そこから転じて「物事が終わりになる」という意味で使われるようになりました。

「幕が下りる」の語源は歌舞伎から!

「幕が下りる」以外にも、「幕開き」「幕引き」「幕を切って落とす」など幕を使った慣用句がありますが、これらの多くは歌舞伎に由来しているものです。歌舞伎ではさまざまな幕が使われますが、上下に開閉するスタイルのものを緞帳(どんちょう)といいます。江戸時代から明治初期の頃、緞帳は簡素な巻き上げ式のものでしたが、明治後期に西洋式の劇場が建設されるようになり、つづれ織りの織物など豪華な幕に変わっていきました。「幕が下りる」は芝居が終わり、緞帳が下りることです。

歌舞伎の幕というと、黒・柿色・浅葱色(濃い緑)の三色の縦縞の幕の印象が強いのではないでしょうか。これは定式幕(じょうしきまく)といいます。いつも使う幕という意味です。歌舞伎の場合、幕は舞台下手から上手に向かって開き、上手から下手に閉じます。

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