この記事では「月夜に釜を抜かれる」について解説する。

端的に言えば「月夜に釜を抜かれる」の意味は「ひどく油断すること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「月夜に釜を抜かれる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「月夜に釜を抜かれる」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「月夜に釜を抜かれる」の意味は?

「月夜に釜を抜かれる」には、次のような意味があります。

明るい月夜に釜を盗まれる。ひどく油断することのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「月夜に釜を抜かれる」

この言葉は、「ひどく油断すること。そのたとえ」を意味する慣用表現です。他にも「月夜に釜」「月夜に釜を取られる」などの言い方もありますが、同じ意味になります。一緒に押さえておきましょう。

たとえの表現であり、言葉が表す情景を想像してみると意味がよくわかるのではないかと思います。月明かりが煌煌として明るく、「こんなに(昼間のように)明るいのだから、泥棒なんて入らないだろう」と油断してしまったため、盗まれてしまったということですね。本来、暗い夜であれば泥棒に気を付けていたはず。それなのに月が出ていて明るかった為にそれほど油断してしまった、ということをたとえています。ただ油断したよりも、より強いニュアンスが表現できる言葉といえるでしょう。

「月夜に釜を抜かれる」の語源は?

次に「月夜に釜を抜かれる」の語源を確認しておきましょう。この言葉は「いろはかるた」に採用されていたことわざだったと言われています。釜は当時、石などで作られた「竈(かまど。釜戸とも)」の中に入れ込まれていました。昔を描いたドラマやアニメなどで見たことがある人もいるかもしれませんね。釜はそこにすっぽりはまっていたため、ここから取り出す=「抜き出す」として、「釜を抜かれる」という表現が使われたのでしょう。

そしてその釜で炊くのはお米。お米は給料の代わりでもあり、日々の食糧でもありました。釜にしろお米にしろ、それが無ければ生活できなくなってしまいますから、どちらも重要な財産です。そのため、そんな大切なものを盗まれてしまうほど油断していた、と大きなショックが含まれている表現だと理解できるでしょう。当時の生活を想像してみると、言葉の重みが増して感じられますね。

\次のページで「「月夜に釜を抜かれる」の使い方・例文」を解説!/

「月夜に釜を抜かれる」の使い方・例文

「月夜に釜を抜かれる」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・事業が好調に進んでいたのに、月夜に釜を抜かれて給与を従業員に持ち逃げされてしまうなんて、大きな人生の落とし穴があったものだと激しく後悔した。

・私は物忘れが酷かったが、今日まで何度も危険を回避できたのは、直感に頼らず全ての要因をチェックし、月夜に釜を抜かれることがないよう努力したためだ。

・最近自分の注意力が落ちていることに気付いたので、月夜に釜を抜かれるようなことがないように、大事なことや心配事は入念に確認するようにしている。

大きな油断をすること」のニュアンスが伝わりますでしょうか。言葉の通りならば「月夜でも昼間みたいに明るいから大丈夫」と思ってしまうほど。よほど大きな油断だったと考えていいでしょう。盗まれたものが高価だったか、事件が大きかったかよりも、それくらい予想外だった・ショックだったという意味合いが強くなります。

そのため、この言葉が使われた場合は、油断が大きすぎたという「自分への後悔」や「そうした人への非難」の意味も含まれてくるかもしれません。「~しないように」とした場合は、「強い戒め」にもなるでしょう。現代からすれば少し大げさな表現と思うかもしれませんが、そんな言葉が使われる意図まで想像したいもの。人物の心情が表れるポイントのため、読解問題などで使われた場合も注意して読み取りましょう。

「月夜に釜を抜かれる」の類義語は?違いは?

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「月夜に釜を抜かれる」の類義語は「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」がいいでしょう。

「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」

「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」は、「当たり前に自分のものになると思っていたものが、横から奪われるさま」を意味する慣用表現です。

これも言葉のとおりの表現で、鳥類の「鳶」に食べ物を取られてしまう情景から作られたと考えられます。まるでマンガの一場面のようですが、当時はそのようなことも日常的にあったのかもしれませんね。「油断」を意味する表現として同義語になりますが、「月夜に釜を抜かれる」との違いは「自分のものになると思っていたものが」という意味合いが強いこと。目の前で奪われて、驚いたり呆然としたりしているニュアンスを想像してみましょう。

\次のページで「「月夜に釜を抜かれる」の対義語は?」を解説!/

実験が成功目前というところで、もう一つの研究チームに出し抜かれてしまい、鳶に油揚げをさらわれた気分だった。

「月夜に釜を抜かれる」の対義語は?

「月夜に釜を抜かれる」の対義語は「降らぬ先の傘」がいいでしょう。

「降らぬ先の傘」

「降らぬ先の傘」は「失敗のないよう、事前にしっかり準備しておくこと」を意味する慣用表現です。雨が降る前から傘を準備しておくのですから、相当に用意周到で用心深いということが表現できますね。

どんなに明るい夜だったとしても、それくらいの用心深さがあれば「月夜に釜を抜かれる」ようなことはなかったでしょう。

僕は過去の何回もの失敗を教訓に、降らぬ先の傘というくらい、事前に注意して行動するように心がけている。

「月夜に釜を抜かれる」の英訳は?

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「月夜に釜を抜かれる」の英語訳は「While the dogs growl, the wolf devours the sheep」がいいでしょう。

「While the dogs growl, the wolf devours the sheep」

これは直訳すれば、「犬が争っている間に、オオカミが羊を食べてしまう」。

別のものに気を取られている際に、狙っているものを取られてしまう「大きな油断」を表すフレーズです。同義語の項でご紹介した「鳶に油揚げをさらわれる」の英語訳としても使うことができます。これはことわざそのままのため、例文はありません。

\次のページで「「月夜に釜を抜かれる」を使いこなそう」を解説!/

「月夜に釜を抜かれる」を使いこなそう

この記事では「月夜に釜を抜かれる」の意味・使い方・類語などを説明しました。「大きな油断」を意味する慣用表現でしたが、思わず油断してしまうほどの月夜というのは、現代の日本からするとなかなか想像ができませんね。

さらに、今ほど豊かでもなかった時代は泥棒も盗むものがなく、お米などの食べ物や、釜そのものを盗むしかなかったのでしょう。そこまで考えると「釜を盗む」ことは、現代の人が思うよりもずっと恐ろしい犯罪だったのかもしれません。

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【慣用句】「月夜に釜を抜かれる」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「月夜に釜を抜かれる」について解説する。

端的に言えば「月夜に釜を抜かれる」の意味は「ひどく油断すること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「月夜に釜を抜かれる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「月夜に釜を抜かれる」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「月夜に釜を抜かれる」の意味は?

「月夜に釜を抜かれる」には、次のような意味があります。

明るい月夜に釜を盗まれる。ひどく油断することのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「月夜に釜を抜かれる」

この言葉は、「ひどく油断すること。そのたとえ」を意味する慣用表現です。他にも「月夜に釜」「月夜に釜を取られる」などの言い方もありますが、同じ意味になります。一緒に押さえておきましょう。

たとえの表現であり、言葉が表す情景を想像してみると意味がよくわかるのではないかと思います。月明かりが煌煌として明るく、「こんなに(昼間のように)明るいのだから、泥棒なんて入らないだろう」と油断してしまったため、盗まれてしまったということですね。本来、暗い夜であれば泥棒に気を付けていたはず。それなのに月が出ていて明るかった為にそれほど油断してしまった、ということをたとえています。ただ油断したよりも、より強いニュアンスが表現できる言葉といえるでしょう。

「月夜に釜を抜かれる」の語源は?

次に「月夜に釜を抜かれる」の語源を確認しておきましょう。この言葉は「いろはかるた」に採用されていたことわざだったと言われています。釜は当時、石などで作られた「竈(かまど。釜戸とも)」の中に入れ込まれていました。昔を描いたドラマやアニメなどで見たことがある人もいるかもしれませんね。釜はそこにすっぽりはまっていたため、ここから取り出す=「抜き出す」として、「釜を抜かれる」という表現が使われたのでしょう。

そしてその釜で炊くのはお米。お米は給料の代わりでもあり、日々の食糧でもありました。釜にしろお米にしろ、それが無ければ生活できなくなってしまいますから、どちらも重要な財産です。そのため、そんな大切なものを盗まれてしまうほど油断していた、と大きなショックが含まれている表現だと理解できるでしょう。当時の生活を想像してみると、言葉の重みが増して感じられますね。

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