この記事では「胸三寸」について解説する。

端的に言えば「胸三寸」の意味は「内に秘めた思考」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役学生ライターのタビビトを呼んです。一緒に「胸三寸」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タビビト

現役の文学部学生ライター。学生生活の中で数多くの芸術関係の執筆を行い、小学生の頃から多種多様な書籍を読破してきた生粋の文科系。読書量に比例する文章力で慣用句を分かりやすく説明していく。

「胸三寸」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「胸三寸」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「胸三寸」の意味は?

「胸三寸」には、次のような意味があります。

胸の中。また、心の中にある考え。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「胸三寸」

「胸三寸」とは、身体の一部を指す「胸」と物の長さを表す「三寸」という言葉が合わさってできているので、実際に表面的な胸の長さを指す表現だという誤解を招きやすいですね。しかしこの場合の「三寸」が表す長さは表面上の長さではなく表面から胸の内側に向けての長さとなるので、「胸三寸」が表すのは胸の表面ではなく胸の中ということになります。

胸の中には何があるかと聞かれたとしたら、一番に思い浮かぶのは左胸にある心臓ではないでしょうか?人間の思考に関して実際に指示を出しているのは脳ですが、怒ったり緊張するとドキドキしたり悲しかったり寂しいと痛くなるというように思考を体感として受け取るのは心臓、つまり心ですよね。しかしこのような心臓の動きは自分以外の人が感じたり見ることは出来ません。このことから人知れず自分だけで感じている感情を胸の中に秘めた思いと表現する様になりました。

つまり「胸三寸」が示す胸の中とはこのようなうちに秘めた考えや思いのことを表していることが分かりますね。

「胸三寸」の語源は?

次に「胸三寸」の語源を確認しておきましょう。

「胸三寸」は胸の表面的な長さではなく内側に向けた長さだということを説明しました。一寸は現代の単位で表すと約三センチになります。童話の『一寸法師』にも使われていることから、意外と馴染み深い言葉なのではないでしょうか?三寸はその三倍ですから、九センチということになりますね。人間の胸の厚さは男女共に平均で約20センチですから、表面から九センチというのは胸の厚さのちょうど中央あたりを指していることが分かります。つまり「胸三寸」とは、心の中を実際の具体的な距離を使って表現したということが語源です。

「胸三寸」よりも「胸先三寸」の方が現代では親しみが深いですが、正しい使い方は「胸三寸」の方になります。「胸先三寸」は、「胸三寸」と「口先三寸」という口先で相手を上手に騙すことを表す言葉が合わさってできた言葉です。

\次のページで「「胸三寸」の使い方・例文」を解説!/

「胸三寸」の使い方・例文

「胸三寸」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.最近の彼女との会話や態度によって直感で自分への気持ちが薄れていると気づいたが、本心はまだ彼女の胸三寸に納められているので打ち明けてくれるまで待つしかない。
2.売上金額の結果はお得意様の胸三寸次第であるということを念頭に置いて対応してください。
3.あの容疑者夫婦はすべてを隠したまま二人で心中したので、事件の真相は二人の胸三寸、いまだに誰も解決できていない。

一つ目の例文の様に、「胸三寸」は「納める」や「畳む」などの動詞と一緒に用いることが多いです。文章中で用いる場合は「胸三寸」で終わらせる体言止めでも用いることが出来ますが、会話の中で用いる場合は「納める」や「畳む」などの動詞と一緒に用いるか、「胸三寸次第」というように単体ではなくセットで用いると自然に使いこなすことが出来ますよ。

実際の使い方を見ていくと、「胸三寸」は表面的な長さではなく胸の厚さの中心つまり他人には見ることが出来ない内側の部分を指すことがより理解しやすいかと思います。内側に秘めた思いや考えを指す言葉なので、深刻な話や事件事故、重要な決定事項などシリアスな場面で用いることが多いということになりますね。

現在では「胸先三寸」の方がなじみ深いですが、正しい使い方は「胸三寸」です。「胸先三寸」は、「胸三寸」と口先だけで相手を上手に騙すことを表現する「舌先三寸」が繋がって後から出来た言葉なので、「胸先三寸」でも意味は通じますが正しく使いたい場合は元々の「胸三寸」を用いましょう。

「胸三寸」の類義語は?違いは?

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それでは、「胸三寸」の類語とその違いを見ていきましょう。

「内心」

心の中で密かに思っていることを表現するのにより分かりやすいのは「内心」ですね。心の内側というように漢字にそのまま意味が表れているので、「胸三寸」よりも伝わりやすい表現です。

「内心」は、表向きではこのように発言をしているが心の内側では反対のことを思っているというように、主にネガティブな表現として用いられます。使い方として、「胸三寸」は「納める」や「畳む」が続きましたが、「内心」は「内心に納める」とは使いません。その代わりに、内側に留めておくという意味で「内心に留める」というように用いるので注意しましょう。

\次のページで「「胸三寸」の対義語は?」を解説!/

「胸三寸」の対義語は?

「胸三寸」とは内側に秘めた考えや思いなど、人には言えない自分だけの気持ちを意味する言葉でしたね。ではその反対を意味する「胸三寸」の対義語は、どんな言葉でどのような意味を持つのでしょうか。早速見ていきましょう。

「建前」

「本音と建て前」という言葉を聞いたことはありませんか?心の内側に秘めている思いとは、本音と言い換えることも出来ますよね。この本音と対照的に用いられている「建前」は、表向きの考えや本心とかけ離れた態度を指します。「本音」や「胸三寸」と違って「建前」は自分に嘘をついてでもその場が上手くいくように表向きの指針を示したり、自分の見栄や意地のために事実ではないことを言って、自分自身や自分に関わることを一時的にでも良く見せようとすることです。

したがって、心の内側に秘めた思いを指す「胸三寸」とは対照的な言葉でsるということが分かりますね。

「建前」の語源は?

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さてこの「建前」ですが、悲しい語源があるので紹介します。京都の大報恩寺という実際にあるお寺の本堂建築で棟梁を務めた長井飛騨守高次(ながいひだのかみたかつぐ)さんとその妻の阿亀(おかめ)さんの話です。高次さんは高名な腕の良い大工でしたが、本堂建築の際に重要な柱の寸法を間違えて一本短く切ってしまいました。責任を感じて苦悩している夫を見かねた妻の阿亀は桝組を使って長さを補ってみてはどうかという助言をします。この妻の助言のおかげで高次は無事本堂の工事を完成させることが出来ましたが、妻の阿亀は女の知恵で大仕事を成し得たと知れたら夫の棟梁としての名が落ちると考えて、骨組みの完成した段階で行う上棟式という行事の前に自害して死んでしまったのです。この骨組みだけが完成した段階を建前と言いますが、夫の名誉を守るために自らの命を持って真実を隠蔽した阿亀さんの行為は、本堂の建前の完成と夫の建前の両方を守った訳ですね。

この物語から、「本音と建前」の「建前」は真実とは離れた表向きの姿を表現する様になりました。現在の「建前」はあまりポジティブな意味で用いられることは少ないですが、何かを守るための優しい嘘もあるということがこの物語から受け取ることが出来るのではないでしょうか。

「胸三寸」を使いこなそう

この記事では「胸三寸」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「胸三寸」は心の中に秘められた思いを表す言葉でしたが、それを「三寸」という長さで表現するとは面白い発想ですよね。このように普段何気なく使っている言葉を一度深掘りして考えてみると、面白い発見が見つかるかもしれませんよ。

また、「本音と建前」のように語源を知るとその言葉に対する視野が広がるということもあります。ぜひ建前を使う時は阿亀さんの気持ちを思い浮かべて、相手を思いやった優しい嘘であるのか確認してみてくださいね。

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国語言葉の意味

【慣用句】「胸三寸」の意味や使い方は?例文や類語を現役学生ライターがわかりやすく解説!

この記事では「胸三寸」について解説する。

端的に言えば「胸三寸」の意味は「内に秘めた思考」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役学生ライターのタビビトを呼んです。一緒に「胸三寸」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タビビト

現役の文学部学生ライター。学生生活の中で数多くの芸術関係の執筆を行い、小学生の頃から多種多様な書籍を読破してきた生粋の文科系。読書量に比例する文章力で慣用句を分かりやすく説明していく。

「胸三寸」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「胸三寸」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「胸三寸」の意味は?

「胸三寸」には、次のような意味があります。

胸の中。また、心の中にある考え。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「胸三寸」

「胸三寸」とは、身体の一部を指す「胸」と物の長さを表す「三寸」という言葉が合わさってできているので、実際に表面的な胸の長さを指す表現だという誤解を招きやすいですね。しかしこの場合の「三寸」が表す長さは表面上の長さではなく表面から胸の内側に向けての長さとなるので、「胸三寸」が表すのは胸の表面ではなく胸の中ということになります。

胸の中には何があるかと聞かれたとしたら、一番に思い浮かぶのは左胸にある心臓ではないでしょうか?人間の思考に関して実際に指示を出しているのは脳ですが、怒ったり緊張するとドキドキしたり悲しかったり寂しいと痛くなるというように思考を体感として受け取るのは心臓、つまり心ですよね。しかしこのような心臓の動きは自分以外の人が感じたり見ることは出来ません。このことから人知れず自分だけで感じている感情を胸の中に秘めた思いと表現する様になりました。

つまり「胸三寸」が示す胸の中とはこのようなうちに秘めた考えや思いのことを表していることが分かりますね。

「胸三寸」の語源は?

次に「胸三寸」の語源を確認しておきましょう。

「胸三寸」は胸の表面的な長さではなく内側に向けた長さだということを説明しました。一寸は現代の単位で表すと約三センチになります。童話の『一寸法師』にも使われていることから、意外と馴染み深い言葉なのではないでしょうか?三寸はその三倍ですから、九センチということになりますね。人間の胸の厚さは男女共に平均で約20センチですから、表面から九センチというのは胸の厚さのちょうど中央あたりを指していることが分かります。つまり「胸三寸」とは、心の中を実際の具体的な距離を使って表現したということが語源です。

「胸三寸」よりも「胸先三寸」の方が現代では親しみが深いですが、正しい使い方は「胸三寸」の方になります。「胸先三寸」は、「胸三寸」と「口先三寸」という口先で相手を上手に騙すことを表す言葉が合わさってできた言葉です。

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