この記事では「馬の背を分ける」について解説する。

端的に言えば「馬の背を分ける」の意味は「夕立が局地的に降ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「馬の背を分ける」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「馬の背を分ける」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「馬の背を分ける(うまのせをわける)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「馬の背を分ける」の意味は?

「馬の背を分ける」には、次のような意味があります。

馬の背の片側は雨でぬれ、片側は雨が降らない意で、夕立などが、ある地域を境にして一方では降っているのに他方では晴れているさまをいう。馬の背を越す。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「馬の背を分ける」

この言葉は「近い区域の中で、雨がこちらには降り、あちらには降っていない様子」を表す慣用表現です。国語辞典によっては「夕立」に限定されていないものもあったため、夕立以外の雨に使っても良いでしょう。

ポイントは「近い区域の中で」という点。もちろん雨ですから、雨雲が途切れればそれより向こうは降っていないはず。ですがそれが視界に収まるくらい狭い範囲内のことであれば、驚きも生まれるでしょう。

それを表したのが、この「馬の背を分ける」という言葉です。範囲の狭さ・限定されていることを「馬の背」に例えているのを忘れないようにしてくださいね。どうして「馬の背」なのかは、次の語源の項でご紹介します。

「馬の背を分ける」の語源は?

次に「馬の背を分ける」の語源を確認しておきましょう。これは「馬の背越え」ということわざに関連としていると考えられます。

「馬の背越え」は「山の尾根につたって作られた、極めて狭い道。そこを行くこと」の意味。山の尾根と、そこをつたう道を想像してみてください。両端が崖になっていて、踏み外す危険もありそうな狭い道。「馬の背」は、狭い場所を連想させる言葉なのです。

そんな山道に立てば、実際に山の片側で雨が降り、もう片方では降っていない光景を目に出来るかもしれません。こうしたところから「馬の背を分ける」ような雨の降り方だ、と言われるようになったのだと考えられます。

尾根が「馬の背」に例えられたのは、動物の「馬」の背中がゴツゴツして山に似ているからかもしれませんし、山を越えるのに馬が必ず登場したからかもしれません。想像を膨らませてみるのも面白い話です。

\次のページで「「馬の背を分ける」の使い方・例文」を解説!/

「馬の背を分ける」の使い方・例文

「馬の背を分ける」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・どしゃぶりだったので雨が過ぎる前後はずっと書店にいたのだが、少し歩いただけで道路が濡れていない状態になり、馬の背を分けるような雨だったということがわかった。

・今日、職場のある場所は大雨だと天気アプリからお知らせがきて焦ったのだが、帰宅したら洗濯物は乾いたままだった。馬の背を分けるような雨だったらしい。

・ほんの少しの距離とは言えオランダから移住して国籍も変えたら、こちらは日照りであちらは大雨と気候が大きく変わり、馬の背を分けるという言葉の意味がよくわかった。

雨があちらでは降り、こちらでは降らないなど、限定的な降り方をしていること」のイメージができますでしょうか。基本的に、雨の降り方以外には使わない言葉のため、その使用も限定されたものとなるでしょう。

たとえば他にも、「ランキングサイトから提供された人気サービス投票の結果で、あちらは大喜びでこちらは落胆と、馬の背を分けたような状態になった」と、状態がはっきりわかれていることを表すのにも使えそうですが、現在はないようです。

今後、言葉の使われ方が変化することでこうした表現も耳にするようになるかもしれません。覚えておくのもいいでしょう。

「馬の背を分ける」の類義語は?違いは?

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「馬の背を分ける」の類義語は「夕立は牛の背を分ける」や「夕立は馬の背を分ける」がいいでしょう。

「夕立は牛の背を分ける」「夕立は馬の背を分ける」

「夕立は牛の背を分ける」「夕立は馬の背を分ける」はどちらも、「夕立が局地的・限定的な降り方をすること」をたとえた慣用表現です。

意味は「馬の背を分ける」とほぼ同じですが、「夕立」と限定されているところがポイント。確かに夕立はざあっと強く短く降ることから、限定的に降るイメージも納得できるかもしれません。「牛」「馬」どちらでも構わないのも面白いところです。

「馬の背を分ける」を「夕立は馬の背を分ける」として収録している辞書もあり、少し変えただけで似た意味の言葉がたくさんあります。言い間違えで伝わったのか、言う人のイメージで自然と変化したのか、想像してみるのも楽しいでしょう。

\次のページで「「馬の背を分ける」の対義語は?」を解説!/

「馬の背を分ける」の対義語は?

「馬の背を分ける」の完全な対義語はありません。その為、ここでは同じ「馬」を使用し天候についての慣用句「天高く馬肥ゆる秋」をご紹介します。

「天高く馬肥ゆる秋」

「天高く馬肥ゆる秋」は「空が澄み渡って晴れ、馬も肥えてたくましくなるほど、素晴らしい秋の様子」を表す慣用表現です。

ちなみに「秋」なしで「天高く馬肥ゆ」と辞書に掲載されているものもありますが、「秋」の良い天気について述べていることに変わりはありません。秋に限定されていることは押さえておきましょう。

「馬の背を分ける」と同じく「馬」が使われていますが、こちらは山とは関係なく、動物の「馬」が太るくらい作物が取れる素晴らしい秋ということから。このような季節は急な雨が降ることもなく、心地よい天気が広がっていることでしょう。

「馬の背を分ける」の英訳は?

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「馬の背を分ける」の英語訳は「The rain pours down on one side and leaves the other side dry」となるでしょう。

「The rain pours down on one side and leaves the other side dry」

これは直訳すると、「雨は片側を濡らし、反対側を乾いたままにした」という意味になります。「馬の背を分ける」が複雑な意味を持った言葉のため、英語にする場合は、やや堅いですがこのように意味をはっきりと表現したほうがいいでしょう。

「horse's back(馬の背)」をそのまま単語として使っても、日本語の持っていたニュアンスを相手が理解できない限り表現意図が伝わらないため、使わないほうが無難です。

慣用表現ではないため、例文はありません。

「馬の背を分ける」を使いこなそう

この記事では「馬の背を分ける」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「馬」から天気・雨について発想が飛ぶ、面白い慣用表現でした。「天高く~」も合わせて、農耕民族らしい発想と言えるのかもしれません。

ちなみに英語圏では「馬」は「高貴・従順さ」の象徴でありながら「愚かさ・好色さ」も表すなど、複雑な存在です。その由来を調べてみるのもきっと面白いですよ。

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【慣用句】「馬の背を分ける」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「馬の背を分ける」について解説する。

端的に言えば「馬の背を分ける」の意味は「夕立が局地的に降ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「馬の背を分ける」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「馬の背を分ける」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「馬の背を分ける(うまのせをわける)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「馬の背を分ける」の意味は?

「馬の背を分ける」には、次のような意味があります。

馬の背の片側は雨でぬれ、片側は雨が降らない意で、夕立などが、ある地域を境にして一方では降っているのに他方では晴れているさまをいう。馬の背を越す。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「馬の背を分ける」

この言葉は「近い区域の中で、雨がこちらには降り、あちらには降っていない様子」を表す慣用表現です。国語辞典によっては「夕立」に限定されていないものもあったため、夕立以外の雨に使っても良いでしょう。

ポイントは「近い区域の中で」という点。もちろん雨ですから、雨雲が途切れればそれより向こうは降っていないはず。ですがそれが視界に収まるくらい狭い範囲内のことであれば、驚きも生まれるでしょう。

それを表したのが、この「馬の背を分ける」という言葉です。範囲の狭さ・限定されていることを「馬の背」に例えているのを忘れないようにしてくださいね。どうして「馬の背」なのかは、次の語源の項でご紹介します。

「馬の背を分ける」の語源は?

次に「馬の背を分ける」の語源を確認しておきましょう。これは「馬の背越え」ということわざに関連としていると考えられます。

「馬の背越え」は「山の尾根につたって作られた、極めて狭い道。そこを行くこと」の意味。山の尾根と、そこをつたう道を想像してみてください。両端が崖になっていて、踏み外す危険もありそうな狭い道。「馬の背」は、狭い場所を連想させる言葉なのです。

そんな山道に立てば、実際に山の片側で雨が降り、もう片方では降っていない光景を目に出来るかもしれません。こうしたところから「馬の背を分ける」ような雨の降り方だ、と言われるようになったのだと考えられます。

尾根が「馬の背」に例えられたのは、動物の「馬」の背中がゴツゴツして山に似ているからかもしれませんし、山を越えるのに馬が必ず登場したからかもしれません。想像を膨らませてみるのも面白い話です。

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