この記事では 「彼は誰時」について解説する。

端的に言えば、彼は誰時の意味は「明け方の薄暗い頃」です。明け方を意味する類義語はとても多いので、意味の違いやニュアンスを理解しておくと、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「彼は誰時」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「彼は誰時」の意味・語源・例文

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「黄昏時」なら知っているけれど、「彼は誰時」はピンと来ないという方が多いのではないでしょうか。ふだんはあまり使わない言葉ですが、美しい言葉なのでぜひ覚えておきましょう。

「彼は誰時」の意味

まず、辞書で「彼は誰時」の意味を調べてみましょう。

(「かわたれ」は「彼 (か)は誰(たれ)」で、人の見分けがつきにくいの意) 夜明け、または夕暮れどきの薄暗い時分。夕方を「たそがれどき」として、「かわたれどき」を特に、明け方にいうことが多い。かわたれ。かれわたれどき。かれわたそどき。かわかおうどき。

出典:精選版 日本国語大辞典「彼は誰時」

「彼は誰時」「かわたれどき」と読みます。直接の意味は「あれは誰?」。つまり、うす暗くて誰がいるのか見分けがつかないことから、薄暗い頃を指す言葉として使われるようになりました。もともとは明け方も夕暮れも両方を指していましたが、夕暮れは「誰そ彼時」(たそがれどき)を使うようになったので、「彼は誰時」は明け方という意味で使うようになったのです。

「彼は誰時」の語源

語源は「彼は誰ぞ」(かわたれぞ)。「あれは誰ですか?」という意味です。「彼は誰時」は「彼誰時」とも書き、「かわたれどき」または「あれはたれどき」と読みます。「誰時」は「たれどき」と読み、「彼は誰時」と同じ意味です。かなり古くから使われていた言葉で、万葉集には「彼は誰時」を使った歌が掲載されています。

暁のかはたれ時に島蔭を漕ぎにし船のたづき知らずも
あかときの かはたれときに しまかぎを こぎにしふねの たづきしらずも

出典:万葉(8C後)二〇・四三八四

\次のページで「「彼は誰時」を使った例文」を解説!/

「暁」も「かはたれとき」も夜明けのことを指しており、夜明けに漕ぎだしていった船のことを詠んでいます。

「彼は誰時」を使った例文

次に、「彼は誰時」を使った例文を見てみましょう。

1.「彼は誰時」も「誰そ彼時」も、薄暗がりで人の見分けがつかないことから派生した言葉だ。これらの言葉から、私は日本語の美しさを今日改めて再認識した。
2.眠れなくて夜中に野球のワールドシリーズを見た。ニューヨークヤンキースの先発投手は7回まで相手チームの走者を一人も出さず、結果は1-0でヤンキースが勝利した。カーテンを開けたら東の空がわずかに明るくなりはじめており、これがいわゆる彼は誰時かと思った。

1.2.とも明け方という意味で使っています。普段書く文章ではあまり使わない言葉ですが、知っていると表現の幅が広がりますよ。

「彼は誰時」の類義語

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「彼は誰時」には、類義語がたくさんありますので見てみましょう。

「東雲」:東の空から明るくなる

「東雲」「しののめ」と読みます。なぜ「しののめ」と読むのでしょうか。「篠の目」は、昔の住居のあかり取りのことで、明け方の薄明のことを「しののめ」とよぶようになり、その後「東雲」の字が当てられたと考えられています。夜明けに、東の方から空がだんだん明るくなってゆく頃という意味です。

\次のページで「「黎明」:闇が明るくなる」を解説!/

「黎明」:闇が明るくなる

「黎明」「れいめい」と読みます。「黎」は「くろい」「くらい」などの意味を持っており、「黎明」は「暗い闇が明るくなる」ので「明け方」という意味です。転じて「インターネットの黎明期」のように「新しい物事が始まる」という意味あいでも使われています。

「暁」:夜半過ぎから明け方

「暁」の読みは「あかつき」。「暁」は夜半過ぎから明け方のほの暗い頃のことを指します。「払暁」(ふつぎょう)、「早暁」(そうぎょう)、「暁方」(あかつきがた)も同じ意味合いです。また、「暁天」(ぎょうてん)は「夜明けの空」のことを指しています。

「曙」:夜が明け始める頃

「曙」「あけぼの」とよみます。夜が明け始める頃のことです。枕草子の「春はあけぼの」の一節は有名ですね。古い時代には、「暁」は空が明るくなる前の状態をあらわし、「東雲」「曙」という順に明るくなると区別していました。

「白白明」:空が白くなっていく

「白白明」は「しらしらあけ」と読みます。夜が明け始めて空が白くなっていくことです。

月が残っている「有明」、月がない「暁闇」

「有明」(ありあけ)「有明方」(ありあけがた)は、空に月が残っている夜明けのことで、明け方になっても残っている月のことを有明の月と言います。古今集に収録されている「今来むと言いしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな」が有名ですね。

「暁闇」(あかつきやみ)「月がない夜明け前」のこと。陰暦で月齢1日~14日頃、上弦の月は夕方に見えて明け方には見えないので「暁闇」になりますが、16日以降は下弦の月が明け方に見えるので、「有明」となります。

「彼は誰時」の反対語

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つぎに 「彼は誰時」の反対語を見てみましょう。「彼は誰時」は明け方を意味する言葉なので、夕暮れ時を意味する言葉を集めてみました。

\次のページで「「黄昏」:夕方の薄暗い頃」を解説!/

「黄昏」:夕方の薄暗い頃

「黄昏」は、もともと「誰そ彼」(たそかれ)で、うす暗くて人の判別ができず「誰ですか」とたずねる頃という意味です。「彼は誰時」は、昔は明け方と夕方の両方を指す言葉でしたが、夕方のほうを「たそがれ」というようになってから、明け方を指す言葉として使われるようになりました。ですから「黄昏」は本来「彼は誰時」の同義語でもあったのです。

「逢魔が時」「大禍時」:不気味な夕暮れ

「逢魔が時」「おうまがとき」と読みます。うす暗い黄昏時になり、魔物に出会いそうという意味。「大禍時」「おおまがとき」と読み、不吉な時間を意味しています。

「彼は誰時」の英訳は?

次に、「彼は誰時」の英訳を見てみましょう。「彼は誰時」は英語では「dawn」です。

I got up before dawn.
私は夜明け前に起きた。

例文で使った「dawn」のほかにも、「dawning」「daybreak」「cockcrow」があります。「cock」は雄鶏、「crow」は鳴く、なので「cockcrow」は雄鶏が鳴く=夜明けという意味です。日本語にも一番鶏が鳴く頃、つまり夜明けという意味の「鶏鳴」(けいめい)という言葉がありますよ。

語彙を増やして「彼は誰時」を使いこなそう!

この記事では、「彼は誰時」についての意味、語源、類義語から英訳などを説明しました。

「彼は誰時」の意味は明け方の薄暗い頃です。もともとは明け方と夕方両方の薄暗い頃を指す言葉でしたが、夕方のことを「黄昏」というようになってからは、明け方を指す言葉として使われるようになりました。「彼は誰時」の類義語には「東雲」「黎明」「暁」「曙」など美しい言葉がたくさんあります。

ふだんよく使う言葉ではありませんが、ぜひこの機会に覚えて語彙を増やし、「彼は誰時」を使いこなせるようになってくださいね。

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国語言葉の意味

「黄昏」とどう違う?「彼は誰時」の意味・語源・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

この記事では 「彼は誰時」について解説する。

端的に言えば、彼は誰時の意味は「明け方の薄暗い頃」です。明け方を意味する類義語はとても多いので、意味の違いやニュアンスを理解しておくと、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「彼は誰時」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「彼は誰時」の意味・語源・例文

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「黄昏時」なら知っているけれど、「彼は誰時」はピンと来ないという方が多いのではないでしょうか。ふだんはあまり使わない言葉ですが、美しい言葉なのでぜひ覚えておきましょう。

「彼は誰時」の意味

まず、辞書で「彼は誰時」の意味を調べてみましょう。

(「かわたれ」は「彼 (か)は誰(たれ)」で、人の見分けがつきにくいの意) 夜明け、または夕暮れどきの薄暗い時分。夕方を「たそがれどき」として、「かわたれどき」を特に、明け方にいうことが多い。かわたれ。かれわたれどき。かれわたそどき。かわかおうどき。

出典:精選版 日本国語大辞典「彼は誰時」

「彼は誰時」「かわたれどき」と読みます。直接の意味は「あれは誰?」。つまり、うす暗くて誰がいるのか見分けがつかないことから、薄暗い頃を指す言葉として使われるようになりました。もともとは明け方も夕暮れも両方を指していましたが、夕暮れは「誰そ彼時」(たそがれどき)を使うようになったので、「彼は誰時」は明け方という意味で使うようになったのです。

「彼は誰時」の語源

語源は「彼は誰ぞ」(かわたれぞ)。「あれは誰ですか?」という意味です。「彼は誰時」は「彼誰時」とも書き、「かわたれどき」または「あれはたれどき」と読みます。「誰時」は「たれどき」と読み、「彼は誰時」と同じ意味です。かなり古くから使われていた言葉で、万葉集には「彼は誰時」を使った歌が掲載されています。

暁のかはたれ時に島蔭を漕ぎにし船のたづき知らずも
あかときの かはたれときに しまかぎを こぎにしふねの たづきしらずも

出典:万葉(8C後)二〇・四三八四

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