「血清療法」という言葉を聞いてすぐに何であるかを想像することができる人は少ないでしょう。そもそも「血清」は聞いたことありますが「血清」とは何か。ヘビなどに咬まれたときの治療法で聞いたことはあると思うが、「血清」とは意味が深い。ヘビに咬まれたときなどのように、特定の人のみが関係するものではないのです。血清療法は感染症の根絶にも大いに貢献しているから注目です。「血清療法」について医学系研究アシスタントのライターmimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

血清とは

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まず、血清療法について理解する前に「血清」について理解しておきましょうね。血清とは、血液が固まるときに分離する黄色・透明の液体であり、免疫抗体を含むものですよ。免疫については他の記事でも説明していますが、こちらでも抗体について説明しますね。血清療法を学ぶ上で、免疫とは何かということを理解しておく必要がありますよ。

血清の正体、免疫

血清の正体、免疫

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免疫とは、「疫(はやり病)」から「免れる」と書くように、伝染病などからのがれることを意味する言葉ですよ。はしかなど、一度罹るとほとんどの人はその伝染病に罹らなくなりますよね。このことを「免疫ができた」とも言いますね。

この免疫システムは、自然に備わった生体防御システムであり、体内に侵入した細菌やウイルスなどを異物として攻撃することで、自分の身体を正常に保っているのですよ。抗体が中心で働く免疫は液性免疫、免疫を担う細胞や物質が中心になる免疫は、細胞性免疫と呼ばれていますよ。

抗原と抗体

抗原と抗体

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免疫についておおまかに触れたところで、次は「抗原」と「抗体」について説明しますね。

抗原は病原性のウイルスや細菌、毒素、花粉、そば、たまごなどの生体に免疫応答を引き起こす物質で、抗体は、体内に入った抗原を体外へ排除するためにつくられる免疫グロブリンというタンパク質の総称です。免疫グロブリンの他にも、血漿中のγ(ガンマ)‐グロブリン、Ig(アイジー)とも言われます。特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して、排除する働きを担いますよ。抗体は主に血液中や体液中に存在しますよ。抗体と抗原は免疫系では重要な語句になってくるので、整理しておきましょうね。

血清療法の確立

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今から100年以上前の19世紀では、ヨーロッパが世界の中でも先進国でした。そんな技術も経済も発達した先進国のヨーロッパでさえ、感染症は人々にとっては脅威だったのです。今ではほとんど聞かれなくなった「破傷風」

原因は破傷風菌という菌なのですが、熱湯や消毒薬が効きません。土壌の中に破傷風菌がいて、そこで怪我したら、傷口から感染し、全身のけいれん、呼吸困難、脳炎を起こし、死に至ることもある恐ろしい病気です。新生児を含む多くの人々の命を危険にさらし、奪う。「救いたい命があるのに、治療法がない。」そんな中、世界で初めて破傷風の治療法を確立したのは日本人なのですよ。

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北里柴三郎先生の研究

破傷風の治療法を見つけたのは、北里柴三郎という日本人の医者、細菌学者です。「日本の細菌学の父」とも呼ばれていますよ。ペスト菌(黒死病)を発見したのも北里先生です。北里先生にはこの他にたくさんのストーリーがありますので、ご興味がある方は調べてみてくださいね。

まず、北里先生が注目したのは破傷風の患者の症状でした。菌が全身にまわらないのに、患者はまるで全身毒素に侵されたように全身性のけいれんを起こして苦しむ。もしかしたら、菌がなにかしらの毒素を作り出しているのでは?と考えました。そこで破傷風菌を純粋培養し、溶液をろ過し菌体が含まれていない溶液の中に毒素が含まれているはずであると北里先生は考えました。

抗毒素による世界初治療法の確立

毒素が含まれていると仮定した溶液を用いて動物実験を繰り返しました。動物に投与するのは初めはごく微量の毒素からはじめて、段階的に濃度を上げていきました。すると、動物は少しずつ免疫を獲得して、致死量の毒にも耐えられるようになったのです。それからその動物から採取した血清を別の動物に注射すると、その動物も毒素に耐えられるようになったのですよ。

さらに、この抗毒素は、破傷風の治療と予防の両方に効果があることも発見されましたよ。

破傷風菌が産出する毒素という「抗原」に対してそれを攻撃し排除する「抗体」を獲得するということですね。

血清療法の応用

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上記で説明した、この抗毒素の発見は、ジフテリアなどの不活化ワクチン開発や抗体医薬品の開発に貢献しました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

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ジフテリアワクチンの開発

「ジフテリア」は、DPT(diphtheria, pertussis and tetanus)三種混合ワクチンに含まれていますね。 日本のような先進国ではワクチンの普及により感染者がほとんどいなくなりました。ジフテリアとはどのような病気かというと、「ジフテリア菌」を病原体とするジフテリア毒素によって起こる上気道の粘膜感染症ですよ。高熱、激しい咳、首周りの腫れなどの症状があります。まれに神経が麻痺したり失明したり、回復期に窒息による突然死が起こったりするので、罹ると恐ろしい病気です。厚生労働省ホームページの「ジフテリア」を参照すると、「予防接種さえ受けておけば、95%罹るリスクは減る」とのことですのでご安心くださいね。

1883年にジフテリア菌は発見されました。それから、エミール・フォン・ベーリングと北里柴三郎先生が血清療法を開発して、その功績でベーリングは第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞したのですよ。

モノクローナル抗体 抗体医薬品

モノクローナル抗体 抗体医薬品

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抗体医薬品とは、抗体を利用した医薬品のことですよ。抗体医薬品は、がん細胞などの細胞表面の目印となる抗原をピンポイントでねらい撃ちするので、高い治療効果と副作用の軽減が期待できるお薬なのですよ。このような抗体医薬品の開発で、「モノクローナル抗体」が注目されているのですよ。モノクローナル抗体とは、先ほど説明したように、がん細胞などの特定の部位(目印)にだけに結合してやっつけることができる抗体なのです。この抗体を大量に作り出す手段に用いられるのがモノクローナル抗体ですよ。

モノクローナル抗体の作り方ですが、マウスなどに抗原を注射してしばらく飼育した後、ひ臓からB細胞(免疫に関する細胞)を取り出して、そのB細胞に無限に増殖をする腫瘍細胞を融合してハイブリドーマ(雑種細胞)を作り、希望の抗体をつくる細胞だけを選択します。そして、選択したハイブリドーマを大量に培養してモノクローナル抗体を精製していくのですよ。

先人の研究成果から学ぶ

20世紀後半には、目覚ましい医療技術の進歩により飛躍的に救える命が増え、全世界において人口は増え寿命も延びました。ほんの100年とちょっと前までは感染症は人類にとって脅威でした。抗生物質も血清療法もない中、感染症にかかると隔離されてただ死を待つだけでした。それから、人体にもともと備わっている「免疫」というものが存在するということに着目し、さらには感染症の原因菌そのものの増殖以外にも原因菌が産出する毒素があるのではないかと気づくことによって、様々な研究者たちが試行錯誤で予防法や治療法を確立させていったのでした。血清療法の確立は人類にとって多大な恩恵をもたらしました。

治療法が確立された感染症でも、細菌やウイルスなどの微生物は突然変異し、ヒトにとって無害であっても突然病原性や毒性を持ったりします。また人類が感染症の脅威にされされている中、このような先人の研究成果を学んで、トライ・アンド・エラーで一歩ずつ新たな治療法の模索、確立に向けて歩んでいかなくてはなりません。きっと、先人のように感染症の封じ込め、撲滅に人類は成功すると願っています。

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理科生物

3分で簡単「血清療法」北里柴三郎の功績や応用療法まで医学系研究アシスタントがわかりやすく解説

「血清療法」という言葉を聞いてすぐに何であるかを想像することができる人は少ないでしょう。そもそも「血清」は聞いたことありますが「血清」とは何か。ヘビなどに咬まれたときの治療法で聞いたことはあると思うが、「血清」とは意味が深い。ヘビに咬まれたときなどのように、特定の人のみが関係するものではないのです。血清療法は感染症の根絶にも大いに貢献しているから注目です。「血清療法」について医学系研究アシスタントのライターmimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

血清とは

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まず、血清療法について理解する前に「血清」について理解しておきましょうね。血清とは、血液が固まるときに分離する黄色・透明の液体であり、免疫抗体を含むものですよ。免疫については他の記事でも説明していますが、こちらでも抗体について説明しますね。血清療法を学ぶ上で、免疫とは何かということを理解しておく必要がありますよ。

血清の正体、免疫

血清の正体、免疫

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免疫とは、「疫(はやり病)」から「免れる」と書くように、伝染病などからのがれることを意味する言葉ですよ。はしかなど、一度罹るとほとんどの人はその伝染病に罹らなくなりますよね。このことを「免疫ができた」とも言いますね。

この免疫システムは、自然に備わった生体防御システムであり、体内に侵入した細菌やウイルスなどを異物として攻撃することで、自分の身体を正常に保っているのですよ。抗体が中心で働く免疫は液性免疫、免疫を担う細胞や物質が中心になる免疫は、細胞性免疫と呼ばれていますよ。

抗原と抗体

抗原と抗体

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免疫についておおまかに触れたところで、次は「抗原」と「抗体」について説明しますね。

抗原は病原性のウイルスや細菌、毒素、花粉、そば、たまごなどの生体に免疫応答を引き起こす物質で、抗体は、体内に入った抗原を体外へ排除するためにつくられる免疫グロブリンというタンパク質の総称です。免疫グロブリンの他にも、血漿中のγ(ガンマ)‐グロブリン、Ig(アイジー)とも言われます。特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して、排除する働きを担いますよ。抗体は主に血液中や体液中に存在しますよ。抗体と抗原は免疫系では重要な語句になってくるので、整理しておきましょうね。

血清療法の確立

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今から100年以上前の19世紀では、ヨーロッパが世界の中でも先進国でした。そんな技術も経済も発達した先進国のヨーロッパでさえ、感染症は人々にとっては脅威だったのです。今ではほとんど聞かれなくなった「破傷風」

原因は破傷風菌という菌なのですが、熱湯や消毒薬が効きません。土壌の中に破傷風菌がいて、そこで怪我したら、傷口から感染し、全身のけいれん、呼吸困難、脳炎を起こし、死に至ることもある恐ろしい病気です。新生児を含む多くの人々の命を危険にさらし、奪う。「救いたい命があるのに、治療法がない。」そんな中、世界で初めて破傷風の治療法を確立したのは日本人なのですよ。

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