この記事では「常染色体」をテーマにみていこう。

高校生物でも遺伝子や染色体について学習しますが、学校の授業ではさらっと流してしまうことが多い。「名前は知っているけどよくわからない」というやつのために、具体的な常染色体のはなしをいろいろ教えてもらおうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

常染色体とは?

常染色体(じょうせんしょくたい)は、生物の細胞内にある染色体のうち、性(男性・女性)に関係なく共通している染色体のことをいいます。

反対に、異なる性によって大きさや形が違ったり、性決定に関係しているような染色体のは性染色体(せいせんしょくたい)とよび、常染色体とは区別するのです。

image by Study-Z編集部

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私たち人間…つまりヒトという動物は、一つの細胞に22対44本の常染色体と、1対2本の性染色体をもちます。すべてあわせれば、23対46本の染色体です。

対になっている染色体は、形や大きさがほとんど同じになっています。さらに、一対になっている染色体には、さまざまな形質を決定する遺伝情報(遺伝子)も同じものが位置しているのです。このような染色体をお互いに相同染色体(そうどうせんしょくたい)といいます。

Human male karyotype.gif
Courtesy: National Human Genome Research Institute - From w:en:Image:Human male karyotpe.gif, Uploaded by User:Duncharris., パブリック・ドメイン, リンクによる

相同染色体は片方が父親から、もう半分が母親から受け継がれています。両親から染色体をもらうことで、様々な形質の混ざりあった子どもができるのですね。

SisterChromatid1.png
Ascendinglotus2 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

念のため、「染色体とは何か」という点も確認しておきましょう。

染色体は、DNAがヒストンというタンパク質とともにつくる棒状の構造物です。細胞分裂の際には特にはっきりと見えるようになります。染色体の本数は生物によって違っているんです。

ヒト以外の染色体は?

では、ヒト以外の生物の染色体の数について、すこしだけ例を見てみましょう。

~動物~
ショウジョウバエ 8本(常染色体3対6本、性染色体1対2本)
バッタ 24本(常染色体11対22本、性染色体1対2本)
ハト 80本(常染色体39対78本、性染色体1対2本)
イヌ 78本(常染色体38対76本、性染色体1対2本)

~植物~
イネ 24本
キャベツ 18本
パンコムギ 42本

「染色体の数が多いほど進化した生物だ」などというような関連はありません。また、その生物が生きていくために必要な最小限のゲノムサイズはさまざまです。

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染色体と番号

それぞれの常染色体には番号がつけられており、「〇番染色体」というようによばれます。ヒトの常染色体は、1番染色体から22番染色体までがそれぞれ2本(一対)ずつ存在することになりますね。

ヒト1番染色体はヒトの染色体の中で最も長く、多くの遺伝子が存在しています。唾液に含まれるアミラーゼという酵素の遺伝子があるほか、アルツハイマー病などの疾患に関する遺伝子があることも知られている染色体です。

ヒト9番染色体は1番染色体よりもずっと短い染色体ですが、皆さんがよく知っている血液型を決める遺伝子(ABO血液型遺伝子)があります。

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一つの形質を決定する遺伝子が複数の染色体にまたがっている場合も。眼の色を決める遺伝子は、ヒト15番染色体ヒト19番染色体に位置しているんです。これらの遺伝子の兼ね合いで、眼の虹彩が黒、茶色、青色…というふうにきまります。

ヒト21番染色体は、22本ある常染色体のうちで一番短い染色体。小さいながらも、異常が起きやすい染色体としてしられています。この染色体に関連する重大な疾患も少なくありません。

常染色体と病気

インターネット上で常染色体について調べようとすると、常染色体の異常で起きる病気の話がたくさん見つかります。多くの人が遺伝子や染色体に関する病気についての興味があるのでしょう。

ここでも、少しだけ遺伝子や染色体に関係する病気=遺伝子疾患についてご紹介したいと思います。

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染色体や遺伝子にアクシデントが起き、それによって引き起こされる病気を遺伝子疾患といい、大きく3つのグループに分けることができます。「染色体異常」「単一遺伝子疾患」「多因子遺伝疾患」の3つです。

染色体異常は、染色体の形が変わってしまったり、染色体の本数が通常と異なるなどの変異や、それによって生じる病気を指します。ヒト21番染色体が3本ある(通常の1.5倍)ことで生じるダウン症候群などが有名です。染色体異常は常染色体にも性染色体にも起こりえます。

単一遺伝子疾患は、1つの遺伝子の変異により病気が発症するもの。変異の起きた遺伝子のある染色体が「常染色体であるか」「性染色体のうちの一つであるX染色体であるか」、また「優性遺伝であるか」「劣性遺伝であるか」によって、大きく4つ(常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝、X連鎖劣性遺伝)にわけられます。

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多因子遺伝疾患は名前の通り、複数の因子が関係する疾患です。その病気になる遺伝子を保有しているというだけでなく、生活習慣や環境も発病に影響するといわれています。単一遺伝子疾患よりも複雑ですが、多くの疾患に関与しているといわれているんです。

性染色体とは?

それでは最後に、性染色体についても少しだけ学んでおきましょう。

ヒトの場合、性染色体には見た目の大きく異なる2種類があり、それぞれX染色体Y染色体という名前がついています。性染色体としてX染色体を2本もっているのが女性、X染色体とY染色体を1本ずつもっているのが男性です。

これらの染色体が次の世代に受け継がれたとき、性別がどちらになるかが決まります。性染色体として母親の卵子の中にX染色体が含まれ、父親の精子中にもX染色体があると、受精してできる細胞はやがて女の子に。一方、父からY染色体をもらうと男の子になるのです。

今後の染色体やゲノムの研究に注目!

男女に関係なく存在している常染色体には、からだの設計図となる情報の多くが存在しています。染色体の半分は父親から、もう半分は母親から受け継がれたものであり、世界で唯一の遺伝情報の組み合わせになっているのがその子ども…つまり私たち一個人です。

常染色体の異常によって生じる病気などもありますが、その仕組みや治療のメカニズムはどんどんわかるようになってきています。新たな分析技術や研究方法も日進月歩で開発されていますので、今後も染色体やゲノムについての研究は絶え間なく進んでいくでしょう。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「常染色体」染色体の役割とは?現役講師がわかりやすく解説!

この記事では「常染色体」をテーマにみていこう。

高校生物でも遺伝子や染色体について学習しますが、学校の授業ではさらっと流してしまうことが多い。「名前は知っているけどよくわからない」というやつのために、具体的な常染色体のはなしをいろいろ教えてもらおうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

常染色体とは?

常染色体(じょうせんしょくたい)は、生物の細胞内にある染色体のうち、性(男性・女性)に関係なく共通している染色体のことをいいます。

反対に、異なる性によって大きさや形が違ったり、性決定に関係しているような染色体のは性染色体(せいせんしょくたい)とよび、常染色体とは区別するのです。

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