この記事ではADPというものについて学んでいこう。

ADPの構造や役割について学ぶことは、エネルギーや代謝の仕組みを理解するための大きなヒントになる。一度学校で習ったやつも、ぜひここで復習しておいてほしい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ADPとは?

ADP(エーディーピー)は、英語のAdenosine diphosphateから頭文字をとった略称。日本語ではアデノシン二リン酸という名の有機化合物です。生体内では代謝にかかわる重要物質であり、よく似たATPという有機化合物とセットで語られます。

構造式 アデノシン二リン酸
CC 表示-継承 3.0, リンク

化合物の名称からは、それがどんな構造の物質であるかが読み取れます。アデノシン二リン酸は名前の通り、アデノシンという物質に2つのリン酸がついた化合物です。

アデノシンとは、リボースという糖に、塩基の一種であるアデニンがついた物質をいいます。ADPはこのアデノシンの、糖の一端にリン酸が結合しているのです。

糖(リボースもしくはデオキシリボース)と塩基、そしてリン酸という3つのパーツからなる化合物はヌクレオチドとよばれます。今回ご紹介しているADPだけでなく、遺伝情報を担う物質として知られるDNAや、タンパク質合成の際にDNAの情報(塩基配列)が写し取られるRNAも、ヌクレオチドがその構成単位となっているのです。ヌクレオチドはいろいろな形で利用されているのですね。

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よく似た物質・ATP

さて、ADPについて知るならば、ATPのことにも触れないわけにはいきません。ATPはAdenosine triphosphateの頭文字をとった略称で、これは日本語ではアデノシン三リン酸とよびます。ADPとほとんど同じ構造をしている有機化合物です。

こちらも名前に注目してみましょう。ATPは”二リン酸”ではなく”三リン酸”。つまり、ADPにリン酸を一つ余計につけたものがATPなのです。

image by Study-Z編集部

リン酸の数以外に、構造に違いはありません。

生物の体内にはATPがたくさんありますが、ATPがATP分解酵素(ATPアーゼ)のはたらきによって加水分解されることで、ADPと1つのリン酸になります。逆に、ADPとリン酸にATP合成酵素(ATPシンターゼ)がはたらくと、ATPが得られるのです。

この、「ADPからATP」「ATPからADP」という反応が、生体内でのエネルギー代謝に大きくかかわっています。

ADPとエネルギー

高エネルギーリン酸結合

ATPが酵素のはたらきでADPになるとき、放出されるのはリン酸だけではありません。実は、大きなエネルギーもこのとき得られるのです。反対に、ADPとリン酸とつなげてATPにするときは、その分の大きなエネルギーが必要となります。ATPやADPにあるリン酸間の結合を形成するのに使われるのです。

この、大きなエネルギーが出入りするリン酸間の結合を高エネルギーリン酸結合といいます。私たちは「ATPがADPになるとき=高エネルギーリン酸結合が一つ切れるとき」に放出されるエネルギーを使って、物質の合成や筋肉の収縮などの生命活動を行っているのです。

いいえ、この世の生物はすべてADPとATPを利用したエネルギー代謝を行っているんです。

私たちがごはんを食べたり、からだに貯まった脂肪を分解することで得たエネルギーは、一旦ADPとリン酸からATPをつくるのに使われています。高エネルギーリン酸結合を一つ作るんですね。そのあと、ATPをADPに分解して、生命活動に使うエネルギーを得ているのです。

なお、植物の場合は光合成によってADPからATPをつくり、そのATPを分解するときのエネルギーを使って有機物を作り出しています。

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image by iStockphoto

”エネルギーの通貨”

前述のように、生物は最終的にはATPをエネルギー源とします。なにか生命活動を行うには、ATPが必要で、活動のためにエネルギーを使うとATPは分解され、ADPになってしまう…このような流れを見る中で、ATPを”お金”に例えることがよくあるのです。

「お金さえあればいろいろなものが買えるけど、使うと減る」と「ATPさえあればいろいろな生命活動ができるけど、使うと減る」というイメージをリンクさせ、ATPのことを”エネルギーの通貨”などとよぶことがあります。

せっかくですので、ここで代謝の代表である、好気呼吸と光合成について簡単にみていきましょう。

好気呼吸

ミトコンドリアで行われる、酸素と有機物からエネルギーを取り出す反応を好気呼吸といいます。

好気呼吸の過程は、大きく分けると解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3段階。これらの過程を経て、1つのグルコース分子から38個のATP、6つの二酸化炭素分子、12の水分子を産生します。発生した二酸化炭素を体にとどめておくことができないので、私たちは肺でガス交換をしなくてはいけないのですね。

ここで生み出される38個のATPはもちろん、38個のADPにそれぞれリン酸が一つづつ結合したものです。ADPやリン酸がないと、ATPも作れません。

image by iStockphoto

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光合成

光合成では、まず光エネルギーと水などを利用してATPをつくる、光化学反応1、光化学反応2そして電子伝達系という過程があります。このときに副産物として生じるのが酸素です。

先の過程でできたATPやその他の物質は、次のカルビン・ベンソン回路という過程で利用され、ここで初めて有機物(グルコース)がつくられます。なお、このカルビン・ベンソン回路の過程で必要になるのが二酸化炭素です。全過程をひとまとめにすると、「水と二酸化炭素、光エネルギーから有機物と酸素をつくる反応だ」ということになるんですね。

Simple photosynthesis overview-ja.svg
Daniel Mayer (mav) - original image Vector version by Yerpo 和訳/Japanese translation by UkainoADX - File:Simple photosynthesis overview.svg, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

呼吸も光合成も、その過程で必ずADPからATPをつくる(またはその逆)反応が含まれているということを忘れないでください。

ADPは代謝に欠かせない物質!

ADPの役割や構造がお分かりいただけたでしょうか?なんてことのないような有機化合物ですが、生体の中でのとても重要なはたらきをしているというポイントを、しっかり覚えておきたいですね。

さらに、この記事でADPのことを学んだならば、関連項目も参照して代謝についての理解を深めていくことをおすすめします。ADPやATPについて知ると、複雑なエネルギーのやりとりが少しずつ分かるようになっていくはずです。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

ADP(アデノシン二リン酸)ってどんな物質?現役講師がわかりやすく解説!

この記事ではADPというものについて学んでいこう。

ADPの構造や役割について学ぶことは、エネルギーや代謝の仕組みを理解するための大きなヒントになる。一度学校で習ったやつも、ぜひここで復習しておいてほしい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ADPとは?

ADP(エーディーピー)は、英語のAdenosine diphosphateから頭文字をとった略称。日本語ではアデノシン二リン酸という名の有機化合物です。生体内では代謝にかかわる重要物質であり、よく似たATPという有機化合物とセットで語られます。

化合物の名称からは、それがどんな構造の物質であるかが読み取れます。アデノシン二リン酸は名前の通り、アデノシンという物質に2つのリン酸がついた化合物です。

アデノシンとは、リボースという糖に、塩基の一種であるアデニンがついた物質をいいます。ADPはこのアデノシンの、糖の一端にリン酸が結合しているのです。

糖(リボースもしくはデオキシリボース)と塩基、そしてリン酸という3つのパーツからなる化合物はヌクレオチドとよばれます。今回ご紹介しているADPだけでなく、遺伝情報を担う物質として知られるDNAや、タンパク質合成の際にDNAの情報(塩基配列)が写し取られるRNAも、ヌクレオチドがその構成単位となっているのです。ヌクレオチドはいろいろな形で利用されているのですね。

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