君は冬眠できたらいいなと思ったことはないか?冬場は寒くて布団から出るのも億劫になるよな。気温が低いせいもありますが、俺たちみたいな哺乳類っていうのは外気の温度が下がり、自分の体温も低下すると活動が鈍くなる性質があるんです。だから冬眠してもおかしくないのですが、人間の冬眠なんてあまり聞いたことがないよな。人間は冬眠することができるのでしょうか?

今回は冬眠について、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業後、医学部の研究室で実験助手をしている。普段はDNAの解析を行っているため、生化学・分子生物学についての知識は豊富。

冬眠とは

image by iStockphoto

冬になると様々な生き物の活動が鈍くなり、地上で生き物を見かけにくくなります。地上に生き物がいないとそれを餌としている生き物たちが餌にありつけず死んでしまう場合もありますよね。冬に死んでしまわないように備わっている機能が冬眠です。冬眠とは極力体を動かさないことでエネルギーの消費をおさえ、厳しい冬を乗り越えることなんですよ。

冬眠する動物

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一概に冬眠と言っても生き物によってどのように冬眠するかは違います。まず恒温動物と変温動物でも冬眠の様式は全く違うんですよ。

恒温動物とは外気温が変わっても自分で体温の調整をして体温を一定の温度に保つことのできる動物です。鳥類・哺乳類が恒温動物に分類されます。恒温動物でも種類によって冬眠の仕方に違いがありますよ。

変温動物は外気温が変わると自分の体温も外気温に合わせて変化してしまう動物です。魚類・両生類・爬虫類が変温動物に分類されます。変温動物の場合は外気温が一定まで下がると仮死状態となり動くことができなくなるのです。変温動物の場合は冬眠より冬越しや越冬と言われることが多いですね。続いて冬眠する動物の例として、シマリスとクマについて解説します。

シマリスの冬眠

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野生のシマリスは冬になると冬眠します。ペットとして飼育されているシマリスは加温飼育されるので冬眠することはありません。シマリスは恒温動物なので多少気温が変化しても体温を一定に保つことができます。しかし、シマリスは体が小さい割に表面積が大きいため体から放出される熱量も多くなってしまい、体温が低下しやすくなっているのです。そのため、シマリスは体温を一定以上に保つために呼吸回数や心拍数が多く、代謝速度も早いんですよ。

冬はエサが少なく、気温も低いために体温を保つことが難しくなります。シマリスの肝臓では冬眠特異的タンパク質という特殊なタンパク質が作られることで血中に放出され、脳が冬眠するように働きかけるのです。このタンパク質が減少すると冬眠から目が覚めます。シマリスは体に脂肪を蓄えられないため、冬眠中はたまに目を覚まし貯蓄してあるエサを食べながら春まで待つそうです。

クマの冬眠

クマも冬眠する生き物として有名ですね。クマは体が大きく表面積は小さな動物です。なのでシマリスとは違って冬眠しなくても春まで体温をキープすることは可能であるはずなのになぜ冬眠するのでしょうか。基本的には大型の哺乳類は冬眠しません。冬眠するクマが特殊なのです。冬眠と言っても、クマの冬眠は3度ほど体温を低下させできるだけ暖かい場所で浅い睡眠状態となるだけなんですよ。そのため冬ごもりと言われる場合もあります。冬ごもりをする生き物として他にもアナグマやたぬきが知られていますよ。

クマが冬眠する理由はシマリスと同じで「冬場は食べ物が無いため」だそうです。やはり厳しい冬を乗り越えるためにはエネルギーの温存が重要なんですね。

人間も冬眠するのか?

人間も冬眠するのか?

image by Study-Z編集部

人間が冬眠したという話は聞いたことがありませんが、冬眠状態となった人間についてのニュースはあります。しかも日本のニュースです。2006年10月に登山中だったハイカーが転倒し腰を骨折したことで意識不明に陥った事故がありました。事故当時、そのハイカーは行方不明となっていて23日後に意識不明の状態で発見されたそうです。この23日間の間ハイカーは食べ物はおろか水すらとった形跡がなかったことがわかりました。発見当時、ハイカーの体温はなんと22度。臓器のほとんどが機能停止状態だったにもかかわらず、ほとんど後遺症を残すことなく回復したそうです。このことからハイカーは冬眠に近い状態だったのではないかと言われています。

\次のページで「冬眠のメカニズム」を解説!/

冬眠のメカニズム

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先程のシマリスの冬眠についての内容で、冬眠特異的タンパク質をいう物質が出てきましたよね。実はこのタンパク質はその他の冬眠をする生き物にも備わっています。

冬眠特異的タンパク質は血液中から脳内に移行することでホルモンと同じ働きになることがわかりました。心臓の動きに重要な役割をもたらしているカルシウムイオンは、細胞の外と中を行き来することで筋肉の収縮や弛緩に関わっています。このカルシウムイオンの挙動は冬眠中の動物と覚醒した動物で大きく異なっていることがわかったそうです。このカルシウムイオンの変動は冬眠に入る前に起きます。つまり、冬眠する生き物には冬眠のリズムがすでに出来上がっていて、それに合わせてカルシウムイオンの変動が起こっているというわけです。

さらに、血液中の冬眠特異的タンパク質は冬眠に入る直前から濃度が低下し、冬眠中はずっと濃度が低い状態になります。血液中の濃度が下がったということは、他の臓器に冬眠特異的タンパク質が集中しているということですね。ではどこの臓器に集中しているのでしょうか?答えは脳です。脳の冬眠特異的タンパク質濃度は血中での濃度とは逆に、冬眠直前になると濃度が上昇することがわかりました。脳に冬眠特異的タンパク質が作用することで体温が低下しても体の機能を保てるようになっていたのです。冬眠を行っている生き物は脳で1年間の寒暖のリズムが整えられ、そのリズムに合わせて肝臓で冬眠特異的タンパク質が作られ脳に作用し、全身を冬眠に入れる状態へ調整しているんですね。

夏眠

みなさんはおそらく夏眠という言葉はあまり聞いたことがないのではないでしょうか。夏眠とは無脊椎動物が夏場に高温や乾燥から身を守るために行う休眠のことです。真夏のコンクリートの塀にカタツムリが殻に閉じこもってじっと動かなくなっているところを見たことはありませんか?カタツムリは気温が上がると殻の入り口に膜を張り、水分が抜けていかないように休眠する特徴があります。

脊椎動物でも夏眠をする動物がいるんですよ。一部のカエルは暑く乾燥してくると体を粘液で包み地中に潜るのです。その他にも肺魚や南アフリカのハリネズミ、クビカシゲガメも夏眠をする生き物だということが知られています。

冬眠のメカニズムを知って生物の進化を感じてみよう

冬眠とは食べ物のない冬を乗り切るために生物に備わった機能です。冬眠中の生き物は心拍数や呼吸の回数を減らし、代謝速度を緩めることで春まで体力を温存させています。冬眠を行う生き物は変温動物から恒温動物まで幅広く、無脊椎動物にも冬眠を行う種がいるのです。

冬眠も夏眠も生き物が厳しい環境を生き抜くために編みだした仕組みなんですね。恐竜などは冬眠を行う仕組みがなかったから絶滅したのでしょう。是非身近に冬眠する生き物がいたら、生き物の通ってきた進化の歴史について調べてみるのも面白いかもしれませんね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 人間も冬眠できるの?冬眠のメカニズムについて医学部の実験助手が5分でわかりやすく解説 – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

人間も冬眠できるの?冬眠のメカニズムについて医学部の実験助手が5分でわかりやすく解説

君は冬眠できたらいいなと思ったことはないか?冬場は寒くて布団から出るのも億劫になるよな。気温が低いせいもありますが、俺たちみたいな哺乳類っていうのは外気の温度が下がり、自分の体温も低下すると活動が鈍くなる性質があるんです。だから冬眠してもおかしくないのですが、人間の冬眠なんてあまり聞いたことがないよな。人間は冬眠することができるのでしょうか?

今回は冬眠について、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業後、医学部の研究室で実験助手をしている。普段はDNAの解析を行っているため、生化学・分子生物学についての知識は豊富。

冬眠とは

image by iStockphoto

冬になると様々な生き物の活動が鈍くなり、地上で生き物を見かけにくくなります。地上に生き物がいないとそれを餌としている生き物たちが餌にありつけず死んでしまう場合もありますよね。冬に死んでしまわないように備わっている機能が冬眠です。冬眠とは極力体を動かさないことでエネルギーの消費をおさえ、厳しい冬を乗り越えることなんですよ。

冬眠する動物

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一概に冬眠と言っても生き物によってどのように冬眠するかは違います。まず恒温動物と変温動物でも冬眠の様式は全く違うんですよ。

恒温動物とは外気温が変わっても自分で体温の調整をして体温を一定の温度に保つことのできる動物です。鳥類・哺乳類が恒温動物に分類されます。恒温動物でも種類によって冬眠の仕方に違いがありますよ。

変温動物は外気温が変わると自分の体温も外気温に合わせて変化してしまう動物です。魚類・両生類・爬虫類が変温動物に分類されます。変温動物の場合は外気温が一定まで下がると仮死状態となり動くことができなくなるのです。変温動物の場合は冬眠より冬越しや越冬と言われることが多いですね。続いて冬眠する動物の例として、シマリスとクマについて解説します。

シマリスの冬眠

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野生のシマリスは冬になると冬眠します。ペットとして飼育されているシマリスは加温飼育されるので冬眠することはありません。シマリスは恒温動物なので多少気温が変化しても体温を一定に保つことができます。しかし、シマリスは体が小さい割に表面積が大きいため体から放出される熱量も多くなってしまい、体温が低下しやすくなっているのです。そのため、シマリスは体温を一定以上に保つために呼吸回数や心拍数が多く、代謝速度も早いんですよ。

冬はエサが少なく、気温も低いために体温を保つことが難しくなります。シマリスの肝臓では冬眠特異的タンパク質という特殊なタンパク質が作られることで血中に放出され、脳が冬眠するように働きかけるのです。このタンパク質が減少すると冬眠から目が覚めます。シマリスは体に脂肪を蓄えられないため、冬眠中はたまに目を覚まし貯蓄してあるエサを食べながら春まで待つそうです。

クマの冬眠

クマも冬眠する生き物として有名ですね。クマは体が大きく表面積は小さな動物です。なのでシマリスとは違って冬眠しなくても春まで体温をキープすることは可能であるはずなのになぜ冬眠するのでしょうか。基本的には大型の哺乳類は冬眠しません。冬眠するクマが特殊なのです。冬眠と言っても、クマの冬眠は3度ほど体温を低下させできるだけ暖かい場所で浅い睡眠状態となるだけなんですよ。そのため冬ごもりと言われる場合もあります。冬ごもりをする生き物として他にもアナグマやたぬきが知られていますよ。

クマが冬眠する理由はシマリスと同じで「冬場は食べ物が無いため」だそうです。やはり厳しい冬を乗り越えるためにはエネルギーの温存が重要なんですね。

人間も冬眠するのか?

人間も冬眠するのか?

image by Study-Z編集部

人間が冬眠したという話は聞いたことがありませんが、冬眠状態となった人間についてのニュースはあります。しかも日本のニュースです。2006年10月に登山中だったハイカーが転倒し腰を骨折したことで意識不明に陥った事故がありました。事故当時、そのハイカーは行方不明となっていて23日後に意識不明の状態で発見されたそうです。この23日間の間ハイカーは食べ物はおろか水すらとった形跡がなかったことがわかりました。発見当時、ハイカーの体温はなんと22度。臓器のほとんどが機能停止状態だったにもかかわらず、ほとんど後遺症を残すことなく回復したそうです。このことからハイカーは冬眠に近い状態だったのではないかと言われています。

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