未知の物質の正体を特定する方法の1つにX線を当てて調べる方法がある。物質にX線を当てると一部が跳ね返ってくるが、物質の構造によって跳ね返り方が異なる。この跳ね返り方(反射)の違いを解析すれば物質の構造を特定できる。反射した後の波(X線含む)の挙動について定めたのがブラッグの法則。今回関連する単元は化学の「結晶構造」と物理の「波の重ね合わせ」。物理と化学を横断する内容となるが、難しく考える必要はないぞ。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。専門用語を日常生活に関連づけて初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.X線の反射から物質が特定できる

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物質にX線(波)を当てると一部が反射波として入射角と反射角が等しくなるように跳ね返ってきます。壁に向かってボールを投げ跳ね返ってくるのと同じ現象が起きるのです。物質はそれぞれ固有の結晶構造を持っていて、その構造によって反射波の角度が異なるため、この角度を測定すれば結晶構造および物質を特定できます。なぜ、結晶構造によって反射波の角度が特定されるのでしょうか。

2.物質の結晶構造と結晶面

まずは、結晶構造に関して。物質は何らかの元素で構成されますが、元素は無秩序に並んでいるわけではなく規則性を持って結晶格子を成しています。この格子が1か所も途切れることなく規則的にぴったりつながっている物質が単結晶ですが、通常特別な処理をしない限りなかなか作るのが難しいもの。多くの物質は多結晶だと考えましょう。とはいえ、狭い範囲で部分的に見れば規則性を持ってつながっているもの。規則性を持つ範囲が特に狭い場合は非晶質となります。

波が反射する面である「結晶面」は原子と原子を結ぶ線によって作られる平面のことで、これがX戦の反射に大きく関わってくるのです。

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3.結晶面でのX線の反射

3.結晶面でのX線の反射

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X線(電磁波)の反射は。X線をボール、結晶面を壁と見立てるとわかりやすいです。波がぶつかってきたとき、垂直にぶつかれば垂直跳ね返り、斜めにぶつかれば斜めにぶつかる。壁にボールを当てた時と同じような挙動をすると考えてください。

肝となるのは、「すべての波が最表面の結晶面(壁)で跳ね返るわけではない」ということ。中には再表面より1つ奥側の壁で跳ね返るのです。

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波は「粒子」と考えてよい

本記事では詳細な説明は省きますが、波としての性質を持つ場合同時に「粒子」としての性質を持つことが知られています。これは実験的にわかっていることで、上記のように波を何かにぶつけたときまるで「ボール」のように跳ね返ってくるためです。

分かれた波の「光路差」

分かれた波の「光路差」

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最表面で反射した波と、1つ奥で反射した波とでは移動距離差がありますね。1つ奥で反射する波は最表面の結晶面と1つ奥の面の距離分だけ余分に往復することになり、こうして生じる移動距離の差を「光路差」と呼びます。

結晶面間の距離をdとすると結晶面に垂直に反射した場合の光路差は2d、イラストのようにθ角度がついているのであれば2d sinθです。

4.光路差と強め合い弱め合い

2つの波を重ね合わせるとどうなるかを見ていきましょう。位相の進んでいる方が最表面で反射した波、遅れている方が1つ奥で反射した波と考えましょう。位相とは波の横軸で、角度で表されることが多いです。なぜなら波は三角関数で考えることが多く、角度で表すのが便利なため。なお、2つの波の位相差は前述の光路差に相当するもの。横軸は「経路長」を意味していますが、三角関数型の波を考える場合に角度で表した方が便利だから「位相」という概念に置き換えているわけです。

2つの波が重ね合わされた時の結果は単純にそれぞれの波形式の足し算であり、例えば波形がsin波で波長が同じ2つの波の場合式で書くと以下のようになります。

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位相がπ(180°)ズレている波を2つ重ね合わせると、グラフから分かる通り振幅が常に0となります。式で書いても、sin(θ)+sin(θ+π)=sin(θ)-sin(θ)=0が確認されますね。このような状態が波の弱め合いです。2つの波が重ね合わされて振幅が小さくなります。

 

位相差が2π(360°)の時、2つの波を足し合わせると単純に振幅が2倍になり、これが「強め合い」です。

波長と位相

ここでは単純化するため一旦波が2π進んだら1周するものとして説明しましたが、本当はそうではありません。「2π」に相当する長さは波によって異なり、波長と呼ばれています。波長が短い波は少し進んだだけで1周しますし、波長が長い波はしばらく進まないと1周しないのです。

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波が強め合う条件

波が強め合う条件

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さて、話を戻して波の強め合いについて解説しましょう。上述の通り、2つの波の位相差(光路差)が0、2π、4π等2π、つまり波長の整数倍ズレていれば重ね合わせた波は強め合うことが分かります。

5.ブラッグの法則

結晶面で反射した2つの波が強め合うor弱め合う条件についてまとめたのが「ブラッグの法則」です。反射後に波が強く観測されるかどうかは「反射角」によります。

最表面の結晶面で反射した波と、1つ奥の面で反射した波との経路差(光路差)は2dsin(Θ)で、これが波の1周期の長さ(波長)の整数倍であるとき強め合うことから、強め合う時の反射角度Θの条件は

虹が見える理由

虹が見える理由

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ちなみに虹が7色の帯状に見えるのもこのブラッグの法則が関係しています。可視光は色によって波長が異なる(紫が一番短波長で赤が長波長)ため、反射した時の「強め合う」角度も異なりますね。例えば、水しぶきで光が反射したとして、A地点でそれを見るとしましょう。紫の光は波長が小さいため、反射角度Θも小さくなります。よってB(紫)で反射しA地点に向かう光が強め合う条件を満たし、A地点から観測すると紫色はB(紫)点あたりにあるように見えるのです。一方、波長が長い赤の光は角度Θが大きくなるため、B(赤)で反射してA地点に向かう光が強め合う条件、つまりB(赤)のあたりに赤い光があるように見えます。

他の色はB(紫)からA(赤)の中間にそれぞれ波長順に並ぶため、7色の帯状に見えるわけです。

6.X線の反射角度と結晶構造

結晶構造によって、結晶面間の距離dは決まっています。このdの値を求めることで結晶構造が絞られますね。波長が分かっている波(X線など)を当てて、どの角度の時に強く跳ね返ってくるかを観測すると、ブラッグの式におけるΘとλが分かるためそこからdの値を算出します。dの値は結晶構造によるため、X線の反射波が強くなる角度から結晶構造を推定することができるわけです。

ブラッグの法則を利用して物資を特定できる

X線は結晶面で反射しますが、再表面で反射したものと1つ奥で反射したものが反射後に干渉し合うもの。この2つの波の経路差反射角結晶面間距離で決まる)=波長の整数倍、であればお互い強め合う条件です。八兆が分かっている波を当てて、反射波が強め合う時の反射角度を調べれば結晶面間距離を割り出せ結晶構造の推定、つまりは物質の推定ができます。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

3分で簡単「ブラッグの法則」X線の反射から物質を特定できる理由を理系ライターがわかりやすく解説!

未知の物質の正体を特定する方法の1つにX線を当てて調べる方法がある。物質にX線を当てると一部が跳ね返ってくるが、物質の構造によって跳ね返り方が異なる。この跳ね返り方(反射)の違いを解析すれば物質の構造を特定できる。反射した後の波(X線含む)の挙動について定めたのがブラッグの法則。今回関連する単元は化学の「結晶構造」と物理の「波の重ね合わせ」。物理と化学を横断する内容となるが、難しく考える必要はないぞ。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。専門用語を日常生活に関連づけて初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.X線の反射から物質が特定できる

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物質にX線(波)を当てると一部が反射波として入射角と反射角が等しくなるように跳ね返ってきます。壁に向かってボールを投げ跳ね返ってくるのと同じ現象が起きるのです。物質はそれぞれ固有の結晶構造を持っていて、その構造によって反射波の角度が異なるため、この角度を測定すれば結晶構造および物質を特定できます。なぜ、結晶構造によって反射波の角度が特定されるのでしょうか。

2.物質の結晶構造と結晶面

まずは、結晶構造に関して。物質は何らかの元素で構成されますが、元素は無秩序に並んでいるわけではなく規則性を持って結晶格子を成しています。この格子が1か所も途切れることなく規則的にぴったりつながっている物質が単結晶ですが、通常特別な処理をしない限りなかなか作るのが難しいもの。多くの物質は多結晶だと考えましょう。とはいえ、狭い範囲で部分的に見れば規則性を持ってつながっているもの。規則性を持つ範囲が特に狭い場合は非晶質となります。

波が反射する面である「結晶面」は原子と原子を結ぶ線によって作られる平面のことで、これがX戦の反射に大きく関わってくるのです。

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3.結晶面でのX線の反射

3.結晶面でのX線の反射

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X線(電磁波)の反射は。X線をボール、結晶面を壁と見立てるとわかりやすいです。波がぶつかってきたとき、垂直にぶつかれば垂直跳ね返り、斜めにぶつかれば斜めにぶつかる。壁にボールを当てた時と同じような挙動をすると考えてください。

肝となるのは、「すべての波が最表面の結晶面(壁)で跳ね返るわけではない」ということ。中には再表面より1つ奥側の壁で跳ね返るのです。

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