今回のテーマは「全圧」、読んで字のごとく圧力の「合計」を意味する言葉で、化学および流体力学で登場する。水圧や気圧など圧力計で直接測定できるのがこの「全圧」でありますが、実は全圧には様々な「圧力」で構成されていて、全体の圧力だけでなくその「内訳」が大切な場合がある。「全圧」という用語はその「内訳」の合計であることを明示するための概念です。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持ち。専門用語を日常生活に関連づけて初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.トータルの圧力

image by iStockphoto

圧力計等で測りやすいのが全圧で、文字通り「トータルの圧力」を意味します。気圧計で測れっているのは、酸素や窒素など様々な気体が混合された「空気」の全圧ですし、水圧計で測れるのは水から受ける圧力の合計です。

 

ここで疑問になるのが、なぜわざわざ「全圧」という言葉を用いるかということ。「全圧」≒「圧力」であれば単に「圧力」でいいのでは?なぜわざわざ「全圧」と区別して呼ぶ必要があるのだろうか?

2.全圧の構成要素

単に「圧力」ではなく、「全圧」と区別して呼ぶ理由は、全圧は様々な圧力によって構成されているから。それぞれの「圧力」を足し合わせると全圧になるのですが一体どのようなものがあるのか、その「内訳」を見ていきましょう。

3.化学でいう「全圧」

化学でいう「全圧」は「分圧」に対する全圧です。これは、複数種の気体が混ざっている場合に、それぞれの気体の圧力を「分圧」、混合気体全体の圧力を「全圧」とする考え方になります。

気体の圧力

気体の圧力

image by Study-Z編集部

そもそも、気体の圧力はどのように発生しているかについて触れておきましょう。まず、前提条件として気体の圧力は気体分子の衝突によるものと考えましょう。気体分子の衝突によるエネルギーが大きいほど圧力が高い状態です。

衝突のエネルギーを大きくするには2通り考えられますね。1つは気体分子の運動速度を速くする、つまり気体の温度を高くすること。もう一つは(体積を保ったまま)気体分子そのものを増やすことです。前者はぶつかってくる気体分子の数は同じですが、1つ1つが勢いよくぶつかってくるため衝突エネルギーのトータルは大きくなり。後者の場合、1つ1つの気体分子からの衝突は同じですが、衝突する分子が多くなるため衝突エネルギーが大きくなります。

image by Study-Z編集部

理想気体では気体分子の衝突エネルギーに気体の種類は関係ありません。どの気体分子であれ、気体分子の密度(一定体積内での個数)や温度(運動エネルギー)が等しければ同じ圧力が作用すると考えましょう。空気の主な成分は窒素と酸素ですが、同じ密度で存在しても窒素の方が酸素より圧力が高くなるとか、酸素なら低くなるというように、密度や温度が同じなのに気体の種類によって圧力が変わることはありません。

なぜならガスの種類によらずランダムに拡散・衝突していくから。気体分子それぞれの性質は無視しています。水素であれ酸素であれ窒素であれ、みな「気体分子」という同じくくりで考えるのです。また気体分子同士の化学反応も無視しています。ここではランダムというところがキーワード。ぶつかってくるかどうかは単純に確率の問題であるため、気体分子の数が多い(密度が高い)ほど圧力が高いという考え方をします(ドルトンの法則)。それぞれの気体分子からの衝突による圧力が分圧であり、その合計が全圧となります。

大気圧の「全圧」が高い金星では息がしやすいかの議論

ここでは、分圧と全圧を分ける意義を考えていきましょう。一般的に、大気が薄いと呼吸がしづらいといいますが、逆に大気が「濃い」状態だと呼吸が楽になるのか?とんでもありませんね。

例えば、地球の90倍の大気圧を持つ金星だとどうなるか。まず、大気の全圧は地球の90倍、90気圧としましょう。しかし、 金星の大気の96.5%が二酸化炭素、3.5%が窒素と言われています。二酸化炭素の分圧は全圧90気圧の96.5%=86.9気圧窒素の分圧は全圧90×0.035=3.1気圧。全圧が物凄く大きいので結果的に3.5%しか含まれていない窒素の分圧だけでも地球での大気圧を上回ります。しかし、いくら全圧が高くても酸素はほとんど含まれ酸素分圧はほぼ0。我々好気性生物が呼吸をすることが難しいでしょう。

何が言いたいのか?「全体を考えるだけでは意味がない」ということです。確かに、金星は地球の90倍もの大気がありますが、重要なのは「酸素」の分圧ですね。全圧だけでなく、分圧も考えなければならない一例です。

4.流体力学でいう「全圧」

流体力学における、全圧は「静圧」と「動圧」の合計という意味で、「総圧」とも言います。

静圧とは

静圧とは

image by Study-Z編集部

流体が流速が0であっても働く圧力のことです。「静圧」の説明で定番なのが、「流れに平行な面に働く圧力」というものがありますが、つまりは流れの影響を無視したときの圧力という意味、わかりやすいものでは例えば水に潜った時の「水圧」があります。

プールや海で深く潜ると、耳が痛い。それは水圧に圧されているから。水深が深くなればなるほど水圧は高くなります。水槽に潜っている例で説明していきましょう。水槽のある断面に「のっかている」水によって水圧が発生していると考えましょう。広い水槽ほど、自分にのっかている水はおおくなりますが、その分水槽も広いためその負担を分け合えます。水槽の広さが4倍になれば、のっかてくる水も4倍ですが水槽の断面積も4倍になり結果圧力は変わりませんね。

image by Study-Z編集部

圧力に影響するのは「深さ」のみです。深さhにおける水圧は以下のようにあらわされます。

image by Study-Z編集部

また他に、別途「加圧」されていればその分も「静圧」に加算されます。

動圧とは

動圧とは、流れている流体からの衝突により発生する圧力のことです(下イラスト式内の赤枠部分)。

 

image by Study-Z編集部

式の形としては運動エネルギーによく似ていますね。質量を密度に変更しただけです。こうすることで次元が[Pa]に変わります。また、静圧と動圧の合計は一定です(ベルヌーイの定理)。

静圧と動圧を分けて考える意味とは

先ほどと同様に、流体の圧力も「全圧」だけでなくその内訳も重要となります。なぜでしょうか。

例えば、ある配管内の圧力が高すぎるため何かしらの方法で圧力を下げる検討をするとしましょう。このとき、動圧と静圧の内訳を把握していれば、どちらか支配的な方を対策すれば効果的ですね。流速が速過ぎて動圧が高くたっているのであれば流速を下げる対策が必要ですし、押し込み配管のためそもそも静圧が高いのであれば、漏れが発生している箇所を少し高い位置に持ってきて静圧を低くする等の検討が考えられますね。

全圧とその内訳

全圧とは文字通り合計の圧力を意味します。化学でいう全圧は混合気体の各気体の分圧を合計した圧力で、流体力学でいう全圧は動圧(流速による圧力)と静圧(流速以外による圧力)合計。測定しやすいのは全圧ですが、その内訳が重要となるケースもあります。

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流体力学物理理科

3分で簡単「全圧」気体からの圧力?理系ライターが分かりやすくわかりやすく解説

今回のテーマは「全圧」、読んで字のごとく圧力の「合計」を意味する言葉で、化学および流体力学で登場する。水圧や気圧など圧力計で直接測定できるのがこの「全圧」でありますが、実は全圧には様々な「圧力」で構成されていて、全体の圧力だけでなくその「内訳」が大切な場合がある。「全圧」という用語はその「内訳」の合計であることを明示するための概念です。理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持ち。専門用語を日常生活に関連づけて初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.トータルの圧力

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圧力計等で測りやすいのが全圧で、文字通り「トータルの圧力」を意味します。気圧計で測れっているのは、酸素や窒素など様々な気体が混合された「空気」の全圧ですし、水圧計で測れるのは水から受ける圧力の合計です。

 

ここで疑問になるのが、なぜわざわざ「全圧」という言葉を用いるかということ。「全圧」≒「圧力」であれば単に「圧力」でいいのでは?なぜわざわざ「全圧」と区別して呼ぶ必要があるのだろうか?

2.全圧の構成要素

単に「圧力」ではなく、「全圧」と区別して呼ぶ理由は、全圧は様々な圧力によって構成されているから。それぞれの「圧力」を足し合わせると全圧になるのですが一体どのようなものがあるのか、その「内訳」を見ていきましょう。

3.化学でいう「全圧」

化学でいう「全圧」は「分圧」に対する全圧です。これは、複数種の気体が混ざっている場合に、それぞれの気体の圧力を「分圧」、混合気体全体の圧力を「全圧」とする考え方になります。

気体の圧力

気体の圧力

image by Study-Z編集部

そもそも、気体の圧力はどのように発生しているかについて触れておきましょう。まず、前提条件として気体の圧力は気体分子の衝突によるものと考えましょう。気体分子の衝突によるエネルギーが大きいほど圧力が高い状態です。

衝突のエネルギーを大きくするには2通り考えられますね。1つは気体分子の運動速度を速くする、つまり気体の温度を高くすること。もう一つは(体積を保ったまま)気体分子そのものを増やすことです。前者はぶつかってくる気体分子の数は同じですが、1つ1つが勢いよくぶつかってくるため衝突エネルギーのトータルは大きくなり。後者の場合、1つ1つの気体分子からの衝突は同じですが、衝突する分子が多くなるため衝突エネルギーが大きくなります。

image by Study-Z編集部

理想気体では気体分子の衝突エネルギーに気体の種類は関係ありません。どの気体分子であれ、気体分子の密度(一定体積内での個数)や温度(運動エネルギー)が等しければ同じ圧力が作用すると考えましょう。空気の主な成分は窒素と酸素ですが、同じ密度で存在しても窒素の方が酸素より圧力が高くなるとか、酸素なら低くなるというように、密度や温度が同じなのに気体の種類によって圧力が変わることはありません。

なぜならガスの種類によらずランダムに拡散・衝突していくから。気体分子それぞれの性質は無視しています。水素であれ酸素であれ窒素であれ、みな「気体分子」という同じくくりで考えるのです。また気体分子同士の化学反応も無視しています。ここではランダムというところがキーワード。ぶつかってくるかどうかは単純に確率の問題であるため、気体分子の数が多い(密度が高い)ほど圧力が高いという考え方をします(ドルトンの法則)。それぞれの気体分子からの衝突による圧力が分圧であり、その合計が全圧となります。

大気圧の「全圧」が高い金星では息がしやすいかの議論

ここでは、分圧と全圧を分ける意義を考えていきましょう。一般的に、大気が薄いと呼吸がしづらいといいますが、逆に大気が「濃い」状態だと呼吸が楽になるのか?とんでもありませんね。

例えば、地球の90倍の大気圧を持つ金星だとどうなるか。まず、大気の全圧は地球の90倍、90気圧としましょう。しかし、 金星の大気の96.5%が二酸化炭素、3.5%が窒素と言われています。二酸化炭素の分圧は全圧90気圧の96.5%=86.9気圧窒素の分圧は全圧90×0.035=3.1気圧。全圧が物凄く大きいので結果的に3.5%しか含まれていない窒素の分圧だけでも地球での大気圧を上回ります。しかし、いくら全圧が高くても酸素はほとんど含まれ酸素分圧はほぼ0。我々好気性生物が呼吸をすることが難しいでしょう。

何が言いたいのか?「全体を考えるだけでは意味がない」ということです。確かに、金星は地球の90倍もの大気がありますが、重要なのは「酸素」の分圧ですね。全圧だけでなく、分圧も考えなければならない一例です。

4.流体力学でいう「全圧」

流体力学における、全圧は「静圧」と「動圧」の合計という意味で、「総圧」とも言います。

静圧とは

静圧とは

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流体が流速が0であっても働く圧力のことです。「静圧」の説明で定番なのが、「流れに平行な面に働く圧力」というものがありますが、つまりは流れの影響を無視したときの圧力という意味、わかりやすいものでは例えば水に潜った時の「水圧」があります。

プールや海で深く潜ると、耳が痛い。それは水圧に圧されているから。水深が深くなればなるほど水圧は高くなります。水槽に潜っている例で説明していきましょう。水槽のある断面に「のっかている」水によって水圧が発生していると考えましょう。広い水槽ほど、自分にのっかている水はおおくなりますが、その分水槽も広いためその負担を分け合えます。水槽の広さが4倍になれば、のっかてくる水も4倍ですが水槽の断面積も4倍になり結果圧力は変わりませんね。

image by Study-Z編集部

圧力に影響するのは「深さ」のみです。深さhにおける水圧は以下のようにあらわされます。

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また他に、別途「加圧」されていればその分も「静圧」に加算されます。

動圧とは

動圧とは、流れている流体からの衝突により発生する圧力のことです(下イラスト式内の赤枠部分)。

 

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式の形としては運動エネルギーによく似ていますね。質量を密度に変更しただけです。こうすることで次元が[Pa]に変わります。また、静圧と動圧の合計は一定です(ベルヌーイの定理)。

静圧と動圧を分けて考える意味とは

先ほどと同様に、流体の圧力も「全圧」だけでなくその内訳も重要となります。なぜでしょうか。

例えば、ある配管内の圧力が高すぎるため何かしらの方法で圧力を下げる検討をするとしましょう。このとき、動圧と静圧の内訳を把握していれば、どちらか支配的な方を対策すれば効果的ですね。流速が速過ぎて動圧が高くたっているのであれば流速を下げる対策が必要ですし、押し込み配管のためそもそも静圧が高いのであれば、漏れが発生している箇所を少し高い位置に持ってきて静圧を低くする等の検討が考えられますね。

全圧とその内訳

全圧とは文字通り合計の圧力を意味します。化学でいう全圧は混合気体の各気体の分圧を合計した圧力で、流体力学でいう全圧は動圧(流速による圧力)と静圧(流速以外による圧力)合計。測定しやすいのは全圧ですが、その内訳が重要となるケースもあります。

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