この記事では「抜き差しならない」について解説する。

端的に言えば「抜き差しならない」の意味は「どうしようもない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役学生ライターのタビビトを呼んです。一緒に「抜き差しならない」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タビビト

現役の文学部学生ライター。大学生活の中で数多くの芸術関係の執筆を行い、小学生の頃から多種多様な書籍を読破してきた生粋の文科系。読書量に比例する文章力で、慣用句を分かりやすく説明していく。

「抜き差しならない」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「抜き差しならない」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「抜き差しならない」の意味は?

「抜き差しならない」には、次のような意味があります。

動きがとれない。のっぴきならない。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抜き差しならない」

「抜き差しならない」とは、「抜く」と「差す」という二つの対立した言葉から成り立っていますね。「抜く」や「差す」という言葉は現代ではあまり日常的に馴染みがないかもしれませんが、江戸時代の武士の刀文化を想像してみてください。刀を「抜く」ことも「差す」ことも出来ない状況というのは追い詰められて身動きが出来ない状況であるということが想像できませんか?

このように「抜き差しならない」は、現代でも行き詰った状態やどうしようもない状況を表す時に用いられる言葉です。また、「のっぴきならない」とは漢字で書くと「退っ引きならない」となります。このように漢字にすると「退くことも引き下がることも出来ない」という意味になることが理解できますね。「退くことも引き下がることも出来ない」状況というのは窮地に追い詰められているということがよく分かります。

「抜き差しならない」においても「のっぴきならない」においても、漢字にすることによってその言葉の示す状況をイメージしやすくなるのではないでしょうか。

「抜き差しならない」の語源は?

次に「抜き差しならない」の語源を確認しておきましょう。先程、江戸時代の武士の刀文化を想像すると状況が分かりやすいということを紹介しました。「抜き差しならない」の語源は、まさにこの江戸時代の刀文化にあります。

同じ力量の武士が一対一で戦う時はお互い刀を素早く抜いて、勝利した側が刀を鞘に差し込んで戻すという一連の流れがありますよね。しかしこれが仮に自分よりもはるかに強い武士が急に相手になった場合や大勢に追い詰められた場合には、立ちすくんで身動きが出来ずに刀を抜くことも鞘に差し込むことも出来ないでしょう。また対戦相手との関係性によって生まれる状況だけでなく、物理的に刀が錆びて「抜く」ことも「差す」ことも出来ないという状況が生まれることもあります。

よって「抜き差しならない」とは、このように江戸時代の武士の刀文化において心理的にも物理的にも追い詰められて刀を「抜く」ことも「差す」ことも出来ないという状況から生まれた言葉であるということが分かりましたね。ここから派生して、現代でも「抜き差しならない」とは追い詰められたり行き詰ってどうしようも出来ない状態を表現する言葉となりました。

\次のページで「「抜き差しならない」の使い方・例文」を解説!/

「抜き差しならない」の使い方・例文

「抜き差しならない」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.赤ちゃんの仕業でスマホが壊れ、日常生活の中で誰にも連絡がとれないという抜き差しならない状態が数日間続いた。
2.抜き差しならない事情によって判断が怠り、社内イベントの楽しい雰囲気の中で上司にビジネスに関する会話を無理やり持ち掛けたことで、次の日から社内での自分の印象が全て変わってしまった。
3.企業の販促イベントにおいて、会場の管理人の方と相手の要求やこちらの利益に関するメールを必要以上に繰り返したことで予想以上の集客を達成したが、周囲からは管理人との抜き差しならない関係を疑われることとなった。

このように「抜き差しならない」とは、基本的に自分や周囲の人間の過失によって陥ったネガティブな状況から抜け出すことが出来ずに、どうすることも出来なくなってしまったということを表しているのが分かりますね。

また3番目の例文を見ていただければわかる様に、状況だけでなく人間関係を表現する際にも用いられることがあります。「抜き差しならない関係」とはこの文脈の場合癒着関係を意味しますが、この他にも腐れ縁や切っても切れない関係など、人間のネガティブな関係性とその関係性が泥沼化しているということを同時に表現しているのです。

「抜き差しならない」の類義語は?違いは?

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「抜き差しならない」とは、行き詰って身動きが出来ない状況を表現する言葉でした。このような状況を他の言葉で表すとどのような言葉になるのでしょうか?

では、「抜き差しならない」の類義語とその違いを見ていきましょう。

「膠着状態」

「膠着状態」とは、「こうちゃくじょうたい」と読みます。「膠着」は物が固まって離れなくなった状態のことや、こびりついている様子などを表現する言葉です。よって「膠着」している「状態」という「膠着状態」は、物事が行き詰ったりうまく進行していない状況を表す言葉になります。

よって「抜き差しならない」と同じ状況を表現できることが分かりますね。また、「膠着状態」も人間関係に関して用いることが出来ます。「抜き差しならない関係」とは癒着関係や腐れ縁などのネガティブな関係性が泥沼化しているような状態を意味しました。これに対して人間関係が「膠着状態」ということが差す意味は決まりきった狭い人脈や、二項対立の意見に挟まれた中立の立場からどうすることも出来ないという状態のことです。よって人間関係に関して用いる時は、「抜き差しならない」よりも「膠着状態」の方が凝り固まって狭いというニュアンスを含むことが分かりますね。

\次のページで「「逃げ場がない」」を解説!/

「逃げ場がない」

「逃げ場がない」とは言葉の通り逃げる場がないほど追い込まれた状況を表現する言葉です。「抜き差しならない」や「膠着状態」よりも分かりやすい表現なので、意味を率直に分かりやすく伝えたい場面などでは「逃げ場がない」を用いると親切な表現になります。

人間関係においても、「抜き差しならない関係」と「膠着状態」のどちらのニュアンスも含む表現が「逃げ場のない」関係です。よって癒着関係などの不適切な関係を強調したい場面では「抜き差しならない関係」を、凝り固まった狭い人脈を強調したい場面では「膠着状態」を、幅広いネガティブな人間関係を分かりやすく表現したい場面では「逃げ場がない」を用いるというように使い分けることが出来ます。

「抜き差しならない」の対義語は?

行き詰って身動きが出来ない状態の反対は、物事が円滑に進んでいる状態ですよね。

それでは「抜き差しならない」の対義語を見ていきましょう。

「埒が明く」

「埒が明く」とは、物事に決まりがついて円滑に進んでいることを指す言葉です。

「埒」は現代ではあまり馴染みのない難しい言葉ですが、柵や囲いを意味します。昔の人が比べ馬を見物する際に柵の内側にいる馬が出てくるのを待ちきれなかったことから、柵が開いた瞬間の解放された感覚を「埒が明く」と表現したそうです。

これが引き継がれ、現代では物事がはかどったり順調にかたがついていく様子を「埒が明く」と表現する様になりました。現在頻繁に使われていて一般的に馴染みがあるのはこの対義語である「埒が明かない」ですが、「埒が明く」の方が先に誕生してそこから派生したのが「埒が明かない」です。

「抜き差しならない」を使いこなそう

この記事では「抜き差しならない」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「抜き差しならない」とは日本ならではの武士の刀文化に語源があるということが分かりましたね。また、「埒が明く」という言葉の語源にも比べ馬が関わっていることから、物事の行き詰まりやそこから解放された感覚というのは戦争や競争などの争い事から誕生した感情であるということが分かるのではないでしょうか?

このように、言葉が生まれた時代背景を知ることでその言葉をより深く知ることが出来るということが日本語の魅力的な部分ですよね。

「抜き差しならない」の時代背景を理解して、より深い意味で使いこなせるようにしましょう。

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国語言葉の意味

【慣用句】「抜き差しならない」の意味や使い方は?例文や類語を現役学生ライターがわかりやすく解説!

この記事では「抜き差しならない」について解説する。

端的に言えば「抜き差しならない」の意味は「どうしようもない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役学生ライターのタビビトを呼んです。一緒に「抜き差しならない」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タビビト

現役の文学部学生ライター。大学生活の中で数多くの芸術関係の執筆を行い、小学生の頃から多種多様な書籍を読破してきた生粋の文科系。読書量に比例する文章力で、慣用句を分かりやすく説明していく。

「抜き差しならない」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「抜き差しならない」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「抜き差しならない」の意味は?

「抜き差しならない」には、次のような意味があります。

動きがとれない。のっぴきならない。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抜き差しならない」

「抜き差しならない」とは、「抜く」と「差す」という二つの対立した言葉から成り立っていますね。「抜く」や「差す」という言葉は現代ではあまり日常的に馴染みがないかもしれませんが、江戸時代の武士の刀文化を想像してみてください。刀を「抜く」ことも「差す」ことも出来ない状況というのは追い詰められて身動きが出来ない状況であるということが想像できませんか?

このように「抜き差しならない」は、現代でも行き詰った状態やどうしようもない状況を表す時に用いられる言葉です。また、「のっぴきならない」とは漢字で書くと「退っ引きならない」となります。このように漢字にすると「退くことも引き下がることも出来ない」という意味になることが理解できますね。「退くことも引き下がることも出来ない」状況というのは窮地に追い詰められているということがよく分かります。

「抜き差しならない」においても「のっぴきならない」においても、漢字にすることによってその言葉の示す状況をイメージしやすくなるのではないでしょうか。

「抜き差しならない」の語源は?

次に「抜き差しならない」の語源を確認しておきましょう。先程、江戸時代の武士の刀文化を想像すると状況が分かりやすいということを紹介しました。「抜き差しならない」の語源は、まさにこの江戸時代の刀文化にあります。

同じ力量の武士が一対一で戦う時はお互い刀を素早く抜いて、勝利した側が刀を鞘に差し込んで戻すという一連の流れがありますよね。しかしこれが仮に自分よりもはるかに強い武士が急に相手になった場合や大勢に追い詰められた場合には、立ちすくんで身動きが出来ずに刀を抜くことも鞘に差し込むことも出来ないでしょう。また対戦相手との関係性によって生まれる状況だけでなく、物理的に刀が錆びて「抜く」ことも「差す」ことも出来ないという状況が生まれることもあります。

よって「抜き差しならない」とは、このように江戸時代の武士の刀文化において心理的にも物理的にも追い詰められて刀を「抜く」ことも「差す」ことも出来ないという状況から生まれた言葉であるということが分かりましたね。ここから派生して、現代でも「抜き差しならない」とは追い詰められたり行き詰ってどうしようも出来ない状態を表現する言葉となりました。

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