怖い存在と言えば、地震、雷、火事、親父。と言われたのはすっかり昔のことでありますが、雷の発生メカニズムが解明され、避雷針などの対策がなされた現代でも雷は恐ろしい存在。雷から避難する時はクルマに居ると安全と言われる。クルマは大部分が金属で出来ていて、そこに雷が落ちたらかえって感電する危険が高いのではないかと疑問です。一体なぜ安全なのでしょうか?理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持つ。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.静電遮蔽とは?

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静電遮蔽とは、静電気の影響を遮断すること。静電気とは+あるいは-の電荷が偏っているものと考えましょう。このような状態で他の物体に近づけると、当然静電気の影響が出てしまいます。

2.静電気とは?

静電気とは、静止したままの電荷による電気。普通の電気のように電流が流れているわけではない。電気はあるけど流れていないという状態です。

電気の流れ=電荷の流れと言い換えられるでしょう。もっと言うと電子の流れです。全ての物体は原子が集まってで構成されているもの。原子を構成するのは+の電荷を持つ原子核と-の電荷を持つ電子です。+電荷同士あるいは-電荷同士は退け合い(斥力が働く)、+電荷と-電荷は引っ張り合う(引力が働く)性質があります。この引力と斥力がうまくつりあって安定するように原子核や電子が配置されているのです。

まず前提条件として+電荷である原子核は大きく重たい、-電荷である電子は小さく軽いため、電荷の移動が必要になった場合に動くのは電子の方です。 電気が流れるとき必ず電圧がかかっています。電圧がかかる=+か-に帯びた電荷を近付けるものとイメージしましょう。電荷が近付いてくると引力斥力のバランスが崩れますね。バランスを保つため、導電体の場合は物質内の「電子が移動」します。これが電気の流れている状態。ただし、電子が移動できるのは導電体の場合のみです。

金属などに代表される「導電体」は、電子が移動しやすい構造です。金属原子の最外殻には電子が存在できるポジションがそこら中にあるので、1か所に留まらず自由に移動できます。いわゆる自由電子です。前述のように電圧をかけた時、引力斥力のバランスを保つために電子がスムーズに移動していきます。プラスチックなどの絶縁体は基本的に電気を流さない。電気抵抗が無限大と考えましょう。雷電など、強力な電圧がかかると無理やり電気が流れることもありますがそれは例外です。

ここで気を付けたいのは絶縁体にも電子が存在すること。電流の元になる電子はあるのですが、原子構造上電子は移動しにくく流れてくれないだけです。金属の場合は、最外殻の電子が存在できるポジションがたくさんありますが絶縁体の場合、電子は限られたポジションにしか存在できないもの。電子軌道内にちょうど満員状態で電子が存在し場所替えが出来ないものと考えましょう。
 
自由に動けないとは言え、電子が存在する限り絶縁体にも「電気」という概念があります。それが静電気です。大切なのは1文字目の「静」、静止を意味します。電子は存在するが、静止していて流れていないということです。

image by Study-Z編集部

絶縁体であれ導体であれ、通常は+電荷とー電荷がバランスよく配置されているもの。電荷が自由に動けない絶縁体はこの状態では電気を流すことは困難です。

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ではどのような時に絶縁体で電気が発生するのか。絶縁体は本来であれば、電子がやってくることも出てくることもありません。しかし、何かしら要因で物理的に電荷のバランスが崩された時には電荷のバランスが崩れ電位差が発生し、これが電気が「流れようとする」原動力となります。

本来、+電荷なる原子核と-電荷なる電子は引力斥力がつり合うようバランスよくポジションを取っているもの。しかし、擦るなどして物理的に配置バランスを崩してやると、その配置が崩れます。セーターや下敷きを擦った時も電荷のバランスは崩れているもの。擦ったせいで電子ばかり1箇所に集中したとしましょう。-電荷ばかりが集まると、お互いに斥力が働きます。電子からするとどこかに逃げ出したくたまらない。+電荷なる原子核が集まっている方に移動したいところですね。しかし、絶縁体では電子が自由に移動できない。元に戻りたくても戻れない。その結果電荷が偏って電位差(電圧)が発生している(帯電している)状態、これが静電気です。

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3.静電遮蔽

静電遮蔽とは、静電気が存在してもその影響を伝えなくすることです。例えばA地点に静電気(電荷)が存在しても、隣のB地点は静電気があってもなくても電荷が変わらないようにするということになります。

ここで主役になるのがアースされた「中空の導電体」。そしてアース(接地)もポイントになってきます。アースとは電気を逃せる状態になっていること。通常、地面(地球)に電気を逃すのでアース(earth)するとかアースを取るという表現をするものです。

アースされた導電体中空の内側と外側ではお互いの電場の影響を受けません。電場は電気が流れるようとするポテンシャルのようなもので、静電気もそれに近い概念です。内側に静電気があって電場が変わっても外側の電荷には影響せず、逆に外側に静電気があっても内側には影響しません。

\次のページで「中空導体外部に静電気がある場合」を解説!/

中空導体外部に静電気がある場合

中空導体外部に静電気がある場合

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外側に+に帯電した静電気があるとしましょう。中空の導電体の中は電荷が自由に移動できるため、+の電荷につられて-の電荷が外側に寄っていきます。+電荷は静電の+電荷から逃れるため、アースを伝って流れていくため、中空の内側は電荷がない状態に。つまりは、外側に静電気があってもなくてま内側の電荷は0というわけです。

ちなみに、導体が接地していなくても(電荷の逃げ場がなくても)内側の電荷は変わりません。なぜなら、電荷は導体の外側に行こうとするから。例えば、+電荷が近づいてきた場合導体内にあるー電荷は何とかして+電荷と距離を取るように分布するもの。その場合、+電荷が存在するところの反対側の外側に集まるのが想像できますね。

中空導体内部に静電気がある場合

中空導体内部に静電気がある場合

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内側に静電気があっても外側の電荷には影響しません。静電気を+電荷とすると、中空部分の内側には-電荷が寄っていきます。中空導電体がアースされていれば+電荷は追い出されるようにアースに流れてしまい、外側の電荷は0に。つまり中空内側の静電気の影響を受けません。

しかし、この場合は接地をしないと外側に電荷が溜まってしまいます。+電荷はー電荷と距離を取るため外側に集まってくるからです。

自動車に落雷すると?

自動車に落雷すると?

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自動車は中空導電体の働きをします。先ほどの、外側に電荷がある場合と同じ状態です。まず、雷がない時は車体には+電荷と-電荷がバランスよく存在していて、電荷は0の状態になります。 次に、+の電荷を持つ雷が存在するとき、イラストのように車体の外側に-電荷が集まり元々車体にあった+電荷は、静電気の+電荷に追い出されるように雷と反対側に集まるか、アースに逃げていきます。結果的に、車体の内側は電荷が0の状態となり、雷がない場合と変わりません。雷により+電荷が増えても、その分元々あった+電荷が外側に追いやられたり、あるいは接地していればグラウンドに流れたりするため±0というわけですね。 よって、導体である車体に直接触れていてもほとんど電気を感じることはありません。

どうしてクルマに居たら感電しないのか?

雷で電荷がやってきても導電体の内側の電荷は変わらないためです。導体が接地してもしていなくても、電荷は外側(車体の表面)にしか溜まりません。いずれにしても内側の電荷が変わることはないため感電しません。
 
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物理理科電磁気学・光学・天文学

どうして落雷時にクルマの中が安全なのか?静電遮蔽について理系ライターがわかりやすく解説

怖い存在と言えば、地震、雷、火事、親父。と言われたのはすっかり昔のことでありますが、雷の発生メカニズムが解明され、避雷針などの対策がなされた現代でも雷は恐ろしい存在。雷から避難する時はクルマに居ると安全と言われる。クルマは大部分が金属で出来ていて、そこに雷が落ちたらかえって感電する危険が高いのではないかと疑問です。一体なぜ安全なのでしょうか?理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持つ。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.静電遮蔽とは?

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静電遮蔽とは、静電気の影響を遮断すること。静電気とは+あるいは-の電荷が偏っているものと考えましょう。このような状態で他の物体に近づけると、当然静電気の影響が出てしまいます。

2.静電気とは?

静電気とは、静止したままの電荷による電気。普通の電気のように電流が流れているわけではない。電気はあるけど流れていないという状態です。

電気の流れ=電荷の流れと言い換えられるでしょう。もっと言うと電子の流れです。全ての物体は原子が集まってで構成されているもの。原子を構成するのは+の電荷を持つ原子核と-の電荷を持つ電子です。+電荷同士あるいは-電荷同士は退け合い(斥力が働く)、+電荷と-電荷は引っ張り合う(引力が働く)性質があります。この引力と斥力がうまくつりあって安定するように原子核や電子が配置されているのです。

まず前提条件として+電荷である原子核は大きく重たい、-電荷である電子は小さく軽いため、電荷の移動が必要になった場合に動くのは電子の方です。 電気が流れるとき必ず電圧がかかっています。電圧がかかる=+か-に帯びた電荷を近付けるものとイメージしましょう。電荷が近付いてくると引力斥力のバランスが崩れますね。バランスを保つため、導電体の場合は物質内の「電子が移動」します。これが電気の流れている状態。ただし、電子が移動できるのは導電体の場合のみです。

金属などに代表される「導電体」は、電子が移動しやすい構造です。金属原子の最外殻には電子が存在できるポジションがそこら中にあるので、1か所に留まらず自由に移動できます。いわゆる自由電子です。前述のように電圧をかけた時、引力斥力のバランスを保つために電子がスムーズに移動していきます。プラスチックなどの絶縁体は基本的に電気を流さない。電気抵抗が無限大と考えましょう。雷電など、強力な電圧がかかると無理やり電気が流れることもありますがそれは例外です。

ここで気を付けたいのは絶縁体にも電子が存在すること。電流の元になる電子はあるのですが、原子構造上電子は移動しにくく流れてくれないだけです。金属の場合は、最外殻の電子が存在できるポジションがたくさんありますが絶縁体の場合、電子は限られたポジションにしか存在できないもの。電子軌道内にちょうど満員状態で電子が存在し場所替えが出来ないものと考えましょう。
 
自由に動けないとは言え、電子が存在する限り絶縁体にも「電気」という概念があります。それが静電気です。大切なのは1文字目の「静」、静止を意味します。電子は存在するが、静止していて流れていないということです。

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絶縁体であれ導体であれ、通常は+電荷とー電荷がバランスよく配置されているもの。電荷が自由に動けない絶縁体はこの状態では電気を流すことは困難です。

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ではどのような時に絶縁体で電気が発生するのか。絶縁体は本来であれば、電子がやってくることも出てくることもありません。しかし、何かしら要因で物理的に電荷のバランスが崩された時には電荷のバランスが崩れ電位差が発生し、これが電気が「流れようとする」原動力となります。

本来、+電荷なる原子核と-電荷なる電子は引力斥力がつり合うようバランスよくポジションを取っているもの。しかし、擦るなどして物理的に配置バランスを崩してやると、その配置が崩れます。セーターや下敷きを擦った時も電荷のバランスは崩れているもの。擦ったせいで電子ばかり1箇所に集中したとしましょう。-電荷ばかりが集まると、お互いに斥力が働きます。電子からするとどこかに逃げ出したくたまらない。+電荷なる原子核が集まっている方に移動したいところですね。しかし、絶縁体では電子が自由に移動できない。元に戻りたくても戻れない。その結果電荷が偏って電位差(電圧)が発生している(帯電している)状態、これが静電気です。

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3.静電遮蔽

静電遮蔽とは、静電気が存在してもその影響を伝えなくすることです。例えばA地点に静電気(電荷)が存在しても、隣のB地点は静電気があってもなくても電荷が変わらないようにするということになります。

ここで主役になるのがアースされた「中空の導電体」。そしてアース(接地)もポイントになってきます。アースとは電気を逃せる状態になっていること。通常、地面(地球)に電気を逃すのでアース(earth)するとかアースを取るという表現をするものです。

アースされた導電体中空の内側と外側ではお互いの電場の影響を受けません。電場は電気が流れるようとするポテンシャルのようなもので、静電気もそれに近い概念です。内側に静電気があって電場が変わっても外側の電荷には影響せず、逆に外側に静電気があっても内側には影響しません。

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