君はもうメンデルの遺伝の法則については学校で習ったでしょうか?メンデルの法則には3つの法則があって、その中の一つに優性の形質というものがあったよな。優性形質の反対が劣性形質と呼ばれるんですが、優性や劣性という字が使われているようにどちらか一方が優秀な遺伝子で、もう片方が劣っている遺伝子なのでしょうか?

今回は劣性形質の意味と、ヒトの場合どのような劣性形質があるかについて、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業後、現在は医学部の研究室で実験助手をしている。普段から遺伝子疾患の解析や、DNAの編集をしているため分子生物学の基礎はしっかり押さえている。

メンデルの法則

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優性形質や劣性形質といった概念を最初に発見したのはメンデルです。メンデルは純系のエンドウマメ同士を交配させたり、時には交雑させることで雑種に表れる表現型を統計しました。メンデルの法則には独立の法則、分離の法則の他に優性の法則を言うものがあります。どんな生き物にも対立遺伝子といって、染色体の上の同一の座(場所)には複数の遺伝子が存在していますが、その遺伝子が生き物に表す形質を表現型と呼ぶんです。対立遺伝子はヘテロ接合体のように別々の形質を表す遺伝子が同時に存在した時、表現型として表れやすい方を優性形質と呼びます。しかし、全ての表現型が優性の法則に従うわけではなく例外もあるのです。今回はその例外についても解説しますね。

潜性形質

劣性形質とは以前までの呼び方で、現在は潜性形質と表現が変わりました。潜性形質へ正式に変更になったのは2017年9月のことで、日本遺伝学会は10年以上も話し合いを続けていたそうです。学問的にはどちらの表現でも全く問題ありませんが、社会の流れに合わせたほうがいいとのことでした。やはり優性・劣性という字はそのアレルが優れていたり・劣っていたりという印象を受けるますよね。しかし、実際はヘテロ接合体の場合に優性形質のほうが表現型として表れやすいというだけで優劣は関係ありません。また、アレルという言葉も以前までは対立遺伝子という表現でした。

最初に優性形質や劣性形質という言葉を使ったのはメンデルでしたね。メンデルがエンドウマメの実験をしている段階では、まだ対立遺伝子や二倍体が発見されていませんでした。なので表現型として表れやすい形質を優性遺伝子と読んだのです。

なぜ劣性形質はなくならないの?

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遺伝子が変化することで発症する先天性疾患の多くは劣性形質が表現型として現れることによって発症します。重症の患者さんは死亡する場合もある重大な疾患ですが、この劣性形質の存在は種を保存するという生物の目的に反しているように感じませんか?生物はより環境に適応した種を保存するために生殖方法にも工夫がなされてきました。しかし、先天性疾患を与えるような劣性形質があるとせっかく世代を重ねても全滅する場合もあります。なぜそのような劣性形質はなくなることがないのでしょうか?

自然選択説

答えは簡単です。劣性形質がなくならない理由としては自然選択説というものがあります。

自然選択説とは、進化論を提唱したことで有名なチャールズ・ロバート・ダーウィンが唱えた説です。例えば、黒色の毛(B)だと有利で白色の毛(b)だと不利なマウスがいたとします。つまり黒毛の個体(遺伝子型がBBかBb)は白毛の個体(遺伝子型がbb)に比べてたくさんの子孫を残せるということです。この場合、だんだんと白毛の個体は数が減っていき比率的に黒毛の個体が多くなっていきます。しかし、ヘテロ接合体が存在する限りbのアレルがなくなることはありません。

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ヒトの劣性形質とは

ヒトにももちろん優性形質と劣性形質があります。それは顔や体の特徴であったり、病気の種類だったりと多くの形質がありますが、その中でも代表的な劣性形質について紹介しましょう。

色覚異常

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色覚異常は日本人の場合、男性で5%、女性で0.2%の人が発現しているとされる遺伝子疾患です。色覚異常は性染色体のなかでもX染色体上にあるため、X連鎖性遺伝の一つなんですよ。なぜ男性の割合が高いのでしょうか?

色覚異常をもたらす遺伝子は劣性形質です。さらにヒトの場合だと女性はXX、男性はXYの性染色体を持っています。女性だと片方が優性形質であれば色覚異常とはならないのですが、男性だとX染色体が1つしかないため色覚異常の遺伝子が1つでも来てしまうと発症してしまうのです。X連鎖性遺伝子で劣性形質を発現する場合はホモではなくヘミと呼びます。このように、性染色体上にある劣性形質の病気は他にもたくさんあるんですよ。

ABO式血液型

ABO式血液型

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ABO式血液検査も優性形質と劣性形質があります。皆さんはもう知っているかもしれませんが、AとBが優性でOは劣性です。遺伝の分野で対立遺伝子といえば2種類でてくることが多いですが、血液型は少し特殊で3種類の遺伝子型があります。対立遺伝子が3種類以上ある場合を複対立遺伝子と呼ぶので併せて覚えておきましょう。AかBとOがヘテロ接合すると血液型はA型かB型になりますが、AとBがヘテロ接合するとAB型になりますよね。このように優性形質同士のヘテロ接合体ができた時、どちらの形質も表現型として現れるものを不完全優性と呼びます。

フェニルケトン尿症

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フェニルケトン尿症という病名を知っているでしょうか?この病気はタンパク質の一つであるフェニルアラニンというアミノ酸をチロシンという別のアミノ酸へ変換するための酵素が生まれつき弱い病気です。つまり体内にどんどんフェニルアラニンが蓄積し、その結果色素が作られなくなって髪の毛や皮膚の色が薄くなったり、精神発達に影響が出たりします。フェニルケトン尿症は常染色体で劣性遺伝するものです。最近では赤ちゃんの先天性疾患をチェックできる新生児マススクリーニングの項目に含まれている場合もあるので、早期発見できるようになりました。

他にはどんな劣性形質があるのか調べてみよう

劣性形質とは対立遺伝子とヘテロ接合体になったときに、表現型として表れない形質のことでした。このことはメンデルの法則の優性の法則の中で触れられており、ヒトにも様々な劣性形質が存在していることがわかりましたね。中には難病に指定されているような病気になってしまう劣性形質もありましたが、大体の場合は赤ちゃんのうちに発見できるようになっているので重症化を防げるようになっています。科学技術の進歩はすごいですね。

その他の劣性形質として、まぶたが二重なのか一重なのかや足の人差し指が長いか短いかなど探すとたくさん見つかるので、家族と見比べながらどの形質が劣性遺伝なのか探してみましょう。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

劣性形質とはどのようなもの?その言葉の意味と遺伝の法則について医学部実験助手が5分でわかりやすく解説

君はもうメンデルの遺伝の法則については学校で習ったでしょうか?メンデルの法則には3つの法則があって、その中の一つに優性の形質というものがあったよな。優性形質の反対が劣性形質と呼ばれるんですが、優性や劣性という字が使われているようにどちらか一方が優秀な遺伝子で、もう片方が劣っている遺伝子なのでしょうか?

今回は劣性形質の意味と、ヒトの場合どのような劣性形質があるかについて、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業後、現在は医学部の研究室で実験助手をしている。普段から遺伝子疾患の解析や、DNAの編集をしているため分子生物学の基礎はしっかり押さえている。

メンデルの法則

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優性形質や劣性形質といった概念を最初に発見したのはメンデルです。メンデルは純系のエンドウマメ同士を交配させたり、時には交雑させることで雑種に表れる表現型を統計しました。メンデルの法則には独立の法則、分離の法則の他に優性の法則を言うものがあります。どんな生き物にも対立遺伝子といって、染色体の上の同一の座(場所)には複数の遺伝子が存在していますが、その遺伝子が生き物に表す形質を表現型と呼ぶんです。対立遺伝子はヘテロ接合体のように別々の形質を表す遺伝子が同時に存在した時、表現型として表れやすい方を優性形質と呼びます。しかし、全ての表現型が優性の法則に従うわけではなく例外もあるのです。今回はその例外についても解説しますね。

潜性形質

劣性形質とは以前までの呼び方で、現在は潜性形質と表現が変わりました。潜性形質へ正式に変更になったのは2017年9月のことで、日本遺伝学会は10年以上も話し合いを続けていたそうです。学問的にはどちらの表現でも全く問題ありませんが、社会の流れに合わせたほうがいいとのことでした。やはり優性・劣性という字はそのアレルが優れていたり・劣っていたりという印象を受けるますよね。しかし、実際はヘテロ接合体の場合に優性形質のほうが表現型として表れやすいというだけで優劣は関係ありません。また、アレルという言葉も以前までは対立遺伝子という表現でした。

最初に優性形質や劣性形質という言葉を使ったのはメンデルでしたね。メンデルがエンドウマメの実験をしている段階では、まだ対立遺伝子や二倍体が発見されていませんでした。なので表現型として表れやすい形質を優性遺伝子と読んだのです。

なぜ劣性形質はなくならないの?

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遺伝子が変化することで発症する先天性疾患の多くは劣性形質が表現型として現れることによって発症します。重症の患者さんは死亡する場合もある重大な疾患ですが、この劣性形質の存在は種を保存するという生物の目的に反しているように感じませんか?生物はより環境に適応した種を保存するために生殖方法にも工夫がなされてきました。しかし、先天性疾患を与えるような劣性形質があるとせっかく世代を重ねても全滅する場合もあります。なぜそのような劣性形質はなくなることがないのでしょうか?

自然選択説

答えは簡単です。劣性形質がなくならない理由としては自然選択説というものがあります。

自然選択説とは、進化論を提唱したことで有名なチャールズ・ロバート・ダーウィンが唱えた説です。例えば、黒色の毛(B)だと有利で白色の毛(b)だと不利なマウスがいたとします。つまり黒毛の個体(遺伝子型がBBかBb)は白毛の個体(遺伝子型がbb)に比べてたくさんの子孫を残せるということです。この場合、だんだんと白毛の個体は数が減っていき比率的に黒毛の個体が多くなっていきます。しかし、ヘテロ接合体が存在する限りbのアレルがなくなることはありません。

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