今回は「金属樹」について解説していきます。

金属樹とは、文字通り、金属の樹木のことです。とは言っても、本物の木のように大きいものではない。ある実験で生じる金属の結晶の形が針葉樹のように見えることから、金属樹と名付けられたぞ。そして、この実験では、非常に不思議な現象が観察される。この記事では、金属樹の実験で観察される不思議な現象を、化学の知識を用いて解明していきます。ぜひ、この機会に金属樹について学んでみてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

金属樹をつくる実験

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今回は、金属樹をテーマに記事をつくりました。金属の樹(木)と書いて、きんぞくじゅと読みます。その名前の通り、金属製の樹木なのですが、どのようなものなのでしょうか?この記事では、金属樹の正体はもちろんのこと、金属樹を生じさせる実験の方法や金属樹が生じる化学的なメカニズムなどについても紹介しますね。

不思議で楽しい実験ですが、そのメカニズムを説明するためには、いくつかの化学の知識が必要ですよ。金属樹について知ることで、化学の知見を深めていただければ幸いです。それでは早速、金属樹をつくる複数の実験方法を紹介します。

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硝酸銀水溶液に銅線を挿入する実験

最初に、銀樹をつくる実験を紹介します。用意するものは、硝酸銀水溶液を入れた試験管銅線です。硝酸銀水溶液の中に、銅線を挿入すると、銅線の周りに銀の結晶が析出します観察を続けていると、銀の結晶の量はさらに多くなってきますよ。この銀の結晶は、細い針が無数に集まったような形状をしており、樹枝のように見えます。これが銀樹なのです。

硝酸銀水溶液には多くの銀イオンが存在していますが、銅線を挿入することで、銀イオンが単体の銀に変化して析出したのですね。また、使用後の硝酸銀水溶液は有毒ですので、適切な廃液処理を行いましょう。決して水道に直接流すようなことをしてはいけません。

硫酸銅水溶液に亜鉛板を挿入する実験

次に、銅樹をつくる実験を紹介します。銅樹は、銅による金属樹です。この実験では、ビーカーなどに硫酸銅水溶液を入れ、その中に亜鉛板を挿入します亜鉛板の挿入後、亜鉛板の周囲には針状の銅の結晶が析出しますよ。これが、銅樹です。実験に十分な時間をかけると、銅樹はさらに成長していきます

亜鉛板を挿入することで、硫酸銅水溶液に含まれる銅イオンが単体の銅に変化し、結晶として析出したのですね。この実験で使用する試薬も毒性のあるものがあります。実験終了後は、適切な処理を行いましょう。

酢酸鉛水溶液に亜鉛板を挿入する実験

続いて紹介するのは、鉛樹をつくる実験の方法ですよ。用意するのは、酢酸鉛水溶液に浸した寒天と亜鉛板です。銀樹や銅樹と同じ方法で鉛樹をつくろうとすると、鉛の結晶が大きな塊になって針状にならないので、鉛樹の実験では寒天を用意しますよ

酢酸鉛水溶液を浸した寒天の表面に、亜鉛板を置くと、亜鉛板の周囲に鉛の結晶が少しずつ生じる様子が観察できます。十分に時間が経つと、亜鉛版から放射状にのびた美しい鉛樹が出来上がりますよ

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金属樹ができるメカニズムを考察しよう!

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ここまで、銀樹・銅樹・鉛樹のつくる実験の方法を紹介してきました。ですが、ある金属イオンを含む水溶液に別の金属を挿入するだけで、針状結晶が次々と生じて金属樹が生じるという不思議な現象はなぜ起こるのでしょうか

この章では、この疑問を化学の視点から、解明していきます。以下を読むと、金属樹が生じるメカニズムを本質的に理解できますよ!

水溶液と挿入する金属の組み合わせ

水溶液と挿入する金属の組み合わせ

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先ほど紹介した実験方法に共通しているのは、金属イオンが溶解している水溶液に、別の単体金属を挿入しているという点です。ですが、この条件を満たすだけでは、金属樹はつくることができません。例えば、硫酸銅水溶液に銀板を挿入した場合は、特に反応は起こらないのです。

つまり、水溶液に溶解している金属イオンと挿入する金属の間には、相性のようなものがあるということですね。この相性は、何によって決まるのかを考えると、金属樹が生じるメカニズムが理解できるのです。

イオン化傾向

イオン化傾向

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水溶液に溶解している金属イオンと挿入する金属の間にある相性のようなものは、イオン化傾向という指標によって決定されます。イオン化傾向は、ある原子のイオン化のしやすさを表していますよ。つまり、イオン化傾向が大きいほどイオンになりやすく、イオン化傾向が小さいほどイオンになりにくいのです

以上のことから、水溶液に溶解している金属イオンよりもイオン化傾向が大きい金属を挿入すれば、溶解しているイオン化傾向の小さい金属イオンが単体の結晶になって析出することがわかります。これが金属樹が生じる条件なのです。

ちなみに、主要な金属原子のイオン化傾向は、大きい順に「リチウム・カリウム・カルシウム・ナトリウム・マグネシウム・アルミニウム・亜鉛・鉄・ニッケル・スズ・鉛・銅・水銀・銀・白金・金」となっていますよ。

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酸化還元反応

酸化還元反応

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金属樹が生じる条件は、イオン化傾向によって説明されることが分かりました。次に、金属樹が生じる際の化学反応について、考えてみましょう硝酸銀水溶液に銅線を挿入する実験を例に考えますね。銅線を挿入する前、硝酸銀水溶液には銀イオン(Ag)が存在します。銅線を挿入した後、銀の結晶が出現しますよね。銀の結晶は、単体の銀ですからAgと表現できます。

以上のことから、銀イオンが結晶化する際に、電子を1つ受け取っていることがわかりますよねでは、この電子は一体どこからやってきたのでしょうか?実は、銅線(Cu)から電子が与えられています銀イオンが結晶化するのと同時に、銅線(Cu)がイオン化し銅イオン(Cu2+)となるのです

この反応を化学反応式で表現すると、Ag+e→AgCu→Cu2++2eのようになります。ここで、eは電子を表していますよ。この2つの式を統合した場合は、Cu+2Ag→Cu2++2Agとなります。そして、このように、電子の授受によって成立する反応のことを酸化還元反応というのです。

金属樹について学ぼう!

この記事では、まるでマジックのように、美しい金属樹をつくる実験を紹介しました。そして、この不思議で興味深い実験のメカニズムを理解することで、イオン化傾向と酸化還元反応という化学の重要な概念を学ぶことができます。これらは、化学を学ぶ上で、非常に重要な概念です。

面白い実験を通して身に着けた知識は、きっと記憶に深く残るでしょう。ぜひ、この機会に金属樹について学んでみてくださいね。

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化学物質の状態・構成・変化理科

3分で簡単金属樹!不思議な現象が生じる理由を理系学生ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は「金属樹」について解説していきます。

金属樹とは、文字通り、金属の樹木のことです。とは言っても、本物の木のように大きいものではない。ある実験で生じる金属の結晶の形が針葉樹のように見えることから、金属樹と名付けられたぞ。そして、この実験では、非常に不思議な現象が観察される。この記事では、金属樹の実験で観察される不思議な現象を、化学の知識を用いて解明していきます。ぜひ、この機会に金属樹について学んでみてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

金属樹をつくる実験

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今回は、金属樹をテーマに記事をつくりました。金属の樹(木)と書いて、きんぞくじゅと読みます。その名前の通り、金属製の樹木なのですが、どのようなものなのでしょうか?この記事では、金属樹の正体はもちろんのこと、金属樹を生じさせる実験の方法や金属樹が生じる化学的なメカニズムなどについても紹介しますね。

不思議で楽しい実験ですが、そのメカニズムを説明するためには、いくつかの化学の知識が必要ですよ。金属樹について知ることで、化学の知見を深めていただければ幸いです。それでは早速、金属樹をつくる複数の実験方法を紹介します。

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