この記事では「私腹を肥やす」について解説する。

端的に言えば「私腹を肥やす」の意味は「公のものを使って自分の利益を得ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「私腹を肥やす」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「私腹を肥やす」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「私腹を肥やす(しふくをこやす)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「私腹を肥やす」の意味は?

「私腹を肥やす」には、次のような意味があります。

公の地位や立場を利用して、自分の財産を殖やす。「職権を濫用して―・す」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「私腹を肥やす」

この言葉は「公の地位を利用して、自分の利益・資産になるように取り計らうこと」を意味する慣用表現です。

ポイントは「公の地位を利用して」というところ。単純に「(悪いことなどで)自分の利益を図る」という使い方は正確ではないため注意が必要です。

「私(し・わたくし)」という言葉の対義語は「公(こう・おおやけ)」。「私腹」という言葉が、意味のうえで「公」と対比になっていることを押さえましょう。

「公私混同」という言葉もありますが、反対の意味を持つ「公私」という二つの漢字は様々な問題でも頻出です。この慣用句も含め、正確な意味で使用する意識を持ってくださいね。

「私腹を肥やす」の語源は?

次に「私腹を肥やす」の語源を確認しておきましょう。これは特別な出典があったわけではなく、意味から作られた言葉のようです。

「私腹」が「自分の利益」を意味する理由として、「腹」は「懐(ふところ)」とも言い「所持金」を意味します。「今日は贅沢なご飯を食べるか、懐と相談して決める」などという言い方を聞いたことがあるかもしれませんね。

「腹」「懐」は、お金を連想させる言葉で、そしてそれを「肥やす=栄養を与えて太らせる」。想像するなら、食べすぎに運動不足でブクブク太ったお金持ち、というところでしょうか。あまり良い意味に取ることができないのもわかるでしょう。

このように、「お金をクリーンとは言えないやり方で貯める」という意味を表現するため、出来た言葉と考えられます。

\次のページで「「私腹を肥やす」の使い方・例文」を解説!/

「私腹を肥やす」の使い方・例文

「私腹を肥やす」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・行政機関の担当者が、特定の業者に仕事を斡旋する見返りに金銭を受け取り、私腹を肥やしていたなんてニュースはもはや日常茶飯事だ。

・尊敬していた大学教授が、研究論文執筆の報酬を個人で受け取り私腹を肥やしていたとして処分され、僕は学問に対して大きな失望を抱いた。

・現場主任が差し入れのシュークリームを一人で全部オヤツに食べてしまって、私腹を肥やすなと社員一同激しく抗議した。

本来自分だけのものではないものを、独占しようとする」というイメージがつきますでしょうか。例文三番目は少しコミカルな内容ですが、「会社全体に贈られたものを独り占めした」という意味が伝わるでしょう。

正確な意味としては、例文一番目と二番目のように「公的なもの、皆のものを個人的に受け取った」という使われ方になります。

特にこの表現が用いられる場合は、不当なやり方で利益を得ていると相手を批判しているニュアンスを含むことも多いでしょう。良い意味で使われることはないため、注意して読み解いてください。

現代では政治家が汚職事件で金銭を受領したケースなど、ニュースでも耳にすることは多いはず。時事問題でも使われる可能性があるため、しっかりと意味を押さえてください。

「私腹を肥やす」の類義語は?違いは?

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「私腹を肥やす」の類義語は「着服」「横領」がいいでしょう。

「着服」「横領」

「着服」は「ごまかして、こっそりと自分のものとすること」。「横領」は「他人、または公共のものを不法に奪うこと」。どちらも「本来自分だけのものではないのに、独占してしまう」という意味で、「私腹を肥やす」とは同義語になります。

「公的な立場を利用して」という意味は無くても使えますが、政治シーンで耳にすることが多い言葉かもしれません。それほど、お金と公・私の問題は根深いところで結びついているのでしょう。

\次のページで「「私腹を肥やす」の対義語は?」を解説!/

・役所勤めをしていた時、工事をお願いした施主さんが個人的なお礼をしたいと言ってくれたが、着服にあたるからやめなさいと上司に止められた。

・出版社を独立した人が、投稿者から提供された情報を勝手に持ち出して使っていて、横領の罪で訴えられた。

「私腹を肥やす」の対義語は?

「私腹を肥やす」の対義語は「滅私奉公(めっしほうこう)」がいいでしょう。

「滅私奉公」

「滅私奉公」は「自分の利益や私情を捨てて、公に尽くすこと」。自分のものでない利益まで独占しようとする「私腹を肥やす」とは、まさに反対の意味になる言葉ですね。

「めっしうこう」と、濁って発音されることもあるようですが、正しくは「めっしほうこう」。書きや読み問題でも問われることが多い四字熟語です。ここで合わせて押さえてしまいましょう。

・私は自分の地元に複雑な感情を抱いていたけれど、戻ってきた以上は滅私奉公の気持ちで仕事に取り組もうと思った。

「私腹を肥やす」の英訳は?

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「私腹を肥やす」の英訳は「line one's pocket」で表すことができます。

「line one's pocket」

これは直訳すれば「~のポケットに詰め込む」という意味になるフレーズです。ポケットに詰め込むことから、こっそり集めたり独り占めするイメージですね。

英語でもよく使われる表現で辞書にも載っており、「私腹を肥やす」と同じように「不正な手段で」というネガティブな意味が含まれています。

この場合の「line」は、一般的な「線」という名詞ではなく、「満たす、詰め込む」という動詞であることも押さえておきましょう。

\次のページで「「私腹を肥やす」を使いこなそう」を解説!/

・He lined his pocket well in his long politician life.
彼は長い政治家人生で、たんまりと私腹を肥やしていた。

「私腹を肥やす」を使いこなそう

この記事では「私腹を肥やす」の意味・使い方・類語などを説明しました。

現代でも汚職事件などの解説で耳にすることがある表現ですね。「お腹が肥えている」あくどい商売をする人、なんてイメージは時代遅れかもしれませんが、映画やマンガの影響もあってか想像しやすいのも確か。

この言葉が作られた当時から、良くないことをして利益を得ている人のイメージというのは確立されていたのかもしれませんね。

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【慣用句】「私腹を肥やす」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「私腹を肥やす」について解説する。

端的に言えば「私腹を肥やす」の意味は「公のものを使って自分の利益を得ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「私腹を肥やす」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「私腹を肥やす」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「私腹を肥やす(しふくをこやす)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「私腹を肥やす」の意味は?

「私腹を肥やす」には、次のような意味があります。

公の地位や立場を利用して、自分の財産を殖やす。「職権を濫用して―・す」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「私腹を肥やす」

この言葉は「公の地位を利用して、自分の利益・資産になるように取り計らうこと」を意味する慣用表現です。

ポイントは「公の地位を利用して」というところ。単純に「(悪いことなどで)自分の利益を図る」という使い方は正確ではないため注意が必要です。

「私(し・わたくし)」という言葉の対義語は「公(こう・おおやけ)」。「私腹」という言葉が、意味のうえで「公」と対比になっていることを押さえましょう。

「公私混同」という言葉もありますが、反対の意味を持つ「公私」という二つの漢字は様々な問題でも頻出です。この慣用句も含め、正確な意味で使用する意識を持ってくださいね。

「私腹を肥やす」の語源は?

次に「私腹を肥やす」の語源を確認しておきましょう。これは特別な出典があったわけではなく、意味から作られた言葉のようです。

「私腹」が「自分の利益」を意味する理由として、「腹」は「懐(ふところ)」とも言い「所持金」を意味します。「今日は贅沢なご飯を食べるか、懐と相談して決める」などという言い方を聞いたことがあるかもしれませんね。

「腹」「懐」は、お金を連想させる言葉で、そしてそれを「肥やす=栄養を与えて太らせる」。想像するなら、食べすぎに運動不足でブクブク太ったお金持ち、というところでしょうか。あまり良い意味に取ることができないのもわかるでしょう。

このように、「お金をクリーンとは言えないやり方で貯める」という意味を表現するため、出来た言葉と考えられます。

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