自動車の燃費は季節によって変動するでしょうか?おそらくそれは、住んでいる地域によって変わってくると思われる。冬場はスタッドレスタイヤを装着するから、エネルギーロスが増えるのではないか?いや、冬場はエンジンの熱を使って暖房出来るけれど、夏場はクーラーを使って冷やす必要があるからガソリンを多く使うんじゃないか?結論から言うと春と秋が一番燃費が良いと言われている。その理由をタイヤの「転がり抵抗」とともに考えていこう。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許も持つ。ほぼ全てのジャンルで専門知識がない代わりに初心者に分かりやすい解説を強みとする。

1.転がり抵抗とは

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転がり抵抗とは物体が転がるために回転させる力のことです。進行方向逆向きに働くため「抵抗というネーミングになっています。 この記事では主にタイヤの転がり抵抗を扱っていきます。

2.転がる物体に働く力

2.転がる物体に働く力

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転がっている最中の物体にはどんな力が働いているのでしょうか?

まずは、重力。質量mとすると、下向きにmgの重力(荷重)が発生。次に転がるために必要な力ですね。物体は左回転しているので、それを生み出す起動力が必要になりますね。
さて、タイヤを回転させる力のFrが転がり抵抗という力になります。摩擦力に近いイメージです。転がり抵抗Frは垂直抗力に比例します。摩擦力と似たような形をしていますね。その前についているのが転がり抵抗係数です。

3.転がり抵抗と摩擦力

転がり抵抗と摩擦力はよく似ているため、共通点と違う点を以下にまとめておきましょう。

転がり抵抗と摩擦力の共通点

共通点は、進行方向逆向きに働く点と力の大きさが垂直抗力に比例する点。重い物体ほど、転がり抵抗および摩擦力が大きくなるのです。

\次のページで「転がり抵抗と摩擦力の相違点」を解説!/

転がり抵抗と摩擦力の相違点

転がり抵抗と摩擦力で異なるのは、摩擦力は単に熱となって失われるのに対し、転がり抵抗は「転がるための推進力」としても機能しています。止まっているタイヤがあったとして、それを転がそうとしても「転がり抵抗」がなければタイヤは転がり始めることが出来ません。

2点目は「接触面積の影響」です。摩擦力は接触面積が変化しても、垂直抗力が同じであれば変わりません。

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イラストのように、箱を坂に置くとしましょう。斜面と箱との底面に働く摩擦力は箱をどの向きに置いても変わりません。なぜでしょうか。

例えば、底面積1のA面を下に置いた場合と底面積が2のB面を下に置いた場合の摩擦を考えましょう。摩擦が起きている界面では微小な凹凸同士が噛み合っている状態。A面を下にした方が、底面積2のB面を下にするより「面圧」が大きく働きますね。つまりA面を下にした方が界面での噛み合いが強い状態で、こちらの方が摩擦力が大きくなりそうな気もしますね。しかし、A面はB面の半分しか面積がありません。噛み合いが強くても、接触面が狭いためトータルの摩擦力は変わりません。同様にB面を下にすると噛み合いは小さくなりますが、面積が広いためA面下の時と同じ摩擦力が働きます。

摩擦力は結局のところ、面圧と面積の掛け算つまりは「垂直抗力」に比例するのです。

一方の「転がり抵抗」は、接触面積が大きいほど大きくなり、接触面積の影響を受けます。なぜでしょうか。接触面積が大きいほど転がる物体が大きく変形し、エネルギーロスが大きくなるからです。詳細は後述。

4.タイヤの転がり抵抗

タイヤの材質はゴム。ゴムは変形する時と元に戻る時で挙動が異なる性質(粘弾性)があり、これがエネルギー損失(転がり抵抗)の原因です。

変形の大きさと力の関係

フックの法則によれば、力Fで物体を変形させたときの変形の大きさをxとした時、F=kxが成り立つとされています。これは力を加えた時も戻した時も変わりません。よって、物体を変形させるのに仕事を加えても、元に戻すときは全く同じ分だけ仕事をもらうことになりエネルギーのロスはありません。

しかし、ゴムを変形させてもこのような挙動は見られません。変形させたときと元に戻すときで挙動が異なります。粘弾性と呼ばれる性質です。

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変形させるときは、序盤は「いきなり引っ張られた」ような状態になり少しの変形でも大きな力が生じます。よってグラフ上では変形vs力の傾きが大きくなっていますね。しばらく引っ張ていると「馴染んでくる」ような状態になり、あまり力を大きくせずとも伸び続けてくれます。

一方、元に戻すとき、序盤は「いきなり力を取り除かれた」ような状態になり力が急激に小さくなりますが、変形は残ったまま。力が弱まってから変位が元にもどるといった挙動になります。

何が言いたいか?このような挙動だと、変形させるときのエネルギーの方が元に戻る時よりエネルギーより大きいということ。変形させるときは「大きな力」で引っ張ている区間が長いのに対し、元に戻る時は「大きい力」の区間は短く、あとは「小さい」力でしか引っ張ってくれません。仕事が小さくる所以です。

また、接触面積が大きいと変形量が大きい。変形量が大きいほど、変形させるときと元に戻る時のエネルギー差が大きい、つまりロスが大きくなるわけです。

\次のページで「5.季節別燃費の比較」を解説!/

5.季節別燃費の比較

さて、以上のような「転がり抵抗」や粘弾性体の性質を踏まえた上で、季節別のクルマの燃費を比較してみましょう。

夏の燃費

夏の燃費

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こと転がり抵抗だけに注目すると、夏の方が断然燃費が良くなります。なぜでしょうか。

先ほどのゴムの変形量と力の関係を表したグラフを見てみましょう。硬いゴムの方が変形量vs力の傾きが大きくなりますね。すると、力を加えた時と元に戻る時のギャップが大きくエネルギーロスが大きくなってしまいます。傾きが小さい、柔らかいごゴムではギャップが小さい=エネルギーロスが小さいです。

一般的に、ゴムは加熱されると柔らかくなるためエネルギーロスが小さくなり、転がり抵抗の低減に寄与します。

走行抵抗自体は小さくなりますが、夏場は空調にたくさんエネルギーが必要です。暖房であればエンジンの熱を利用することも出来ますが、冷房は高温のエンジンを積んだ金属の塊を一から冷やす必要がり多くのエネルギーが必要となるため、一概に「夏が燃費がいい」とは言いきれません。

冬の燃費

冬に燃費が悪いと感じる人は多いようです。ある調査によると、温暖な地域(都心部や九州四国)を除いては「冬場燃費が悪いと感じる」人の割合が過半数とのこと。豪雪地帯にあたる地域では8割以上の人が「冬に燃費が悪くなる」と感じているようです。なぜそうなるのか?

仮に夏場と同じ材質、同じグレード、同じ性能のタイヤをはいていても気温の低い冬場は上述の理屈から転がり抵抗が大きくなります。それだけではありません。冬場はそもそもグリップの効きやすい冬用タイヤに交換し、さらにタイヤの空気圧を下げることで路面との接地面積を増やしさらにグリップが効きやすいようにするもの。これらの処置で転がり抵抗はさらに高くなります。また、冬場は暖機運転を行う必要があったり、エンジンの熱を利用できるとは言え暖房にもエネルギーを使うため燃費が嵩むのです。

燃費がいいのはいつ?

日常的に冷暖房をあまり使わない、春秋は全国どこの地域でも燃費が良いようです。夏と冬は燃費が落ちます。 温暖な地域では夏と冬の落ち込みは同じくらいで、寒冷地では冬の燃費の落ち込みの方が激しいようです。

転がり抵抗と燃費

転がり抵抗とは物体が転がる時に進行方向逆向きに働く力で、その大きさは垂直抗力に比例。転がり抵抗の発生原因は、ゴムのような粘弾性体に力を加えた時と力を取り除いた時の挙動の差から生まれるエネルギーロス。ゴムが硬いときほどこのロスが大きくなるため、冬場はタイヤの転がり抵抗が大きくなり燃費が悪くなります。夏場も冷房にエネルギーを使うため燃費は悪くなり、結果的に春と秋が最も燃費が良い傾向にあるようです。

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物理物理学・力学理科

5分で分かる「転がり抵抗」夏と冬どちらが燃費いいの?理系ライターがわかりやすく解説!

転がり抵抗と摩擦力の相違点

転がり抵抗と摩擦力で異なるのは、摩擦力は単に熱となって失われるのに対し、転がり抵抗は「転がるための推進力」としても機能しています。止まっているタイヤがあったとして、それを転がそうとしても「転がり抵抗」がなければタイヤは転がり始めることが出来ません。

2点目は「接触面積の影響」です。摩擦力は接触面積が変化しても、垂直抗力が同じであれば変わりません。

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イラストのように、箱を坂に置くとしましょう。斜面と箱との底面に働く摩擦力は箱をどの向きに置いても変わりません。なぜでしょうか。

例えば、底面積1のA面を下に置いた場合と底面積が2のB面を下に置いた場合の摩擦を考えましょう。摩擦が起きている界面では微小な凹凸同士が噛み合っている状態。A面を下にした方が、底面積2のB面を下にするより「面圧」が大きく働きますね。つまりA面を下にした方が界面での噛み合いが強い状態で、こちらの方が摩擦力が大きくなりそうな気もしますね。しかし、A面はB面の半分しか面積がありません。噛み合いが強くても、接触面が狭いためトータルの摩擦力は変わりません。同様にB面を下にすると噛み合いは小さくなりますが、面積が広いためA面下の時と同じ摩擦力が働きます。

摩擦力は結局のところ、面圧と面積の掛け算つまりは「垂直抗力」に比例するのです。

一方の「転がり抵抗」は、接触面積が大きいほど大きくなり、接触面積の影響を受けます。なぜでしょうか。接触面積が大きいほど転がる物体が大きく変形し、エネルギーロスが大きくなるからです。詳細は後述。

4.タイヤの転がり抵抗

タイヤの材質はゴム。ゴムは変形する時と元に戻る時で挙動が異なる性質(粘弾性)があり、これがエネルギー損失(転がり抵抗)の原因です。

変形の大きさと力の関係

フックの法則によれば、力Fで物体を変形させたときの変形の大きさをxとした時、F=kxが成り立つとされています。これは力を加えた時も戻した時も変わりません。よって、物体を変形させるのに仕事を加えても、元に戻すときは全く同じ分だけ仕事をもらうことになりエネルギーのロスはありません。

しかし、ゴムを変形させてもこのような挙動は見られません。変形させたときと元に戻すときで挙動が異なります。粘弾性と呼ばれる性質です。

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変形させるときは、序盤は「いきなり引っ張られた」ような状態になり少しの変形でも大きな力が生じます。よってグラフ上では変形vs力の傾きが大きくなっていますね。しばらく引っ張ていると「馴染んでくる」ような状態になり、あまり力を大きくせずとも伸び続けてくれます。

一方、元に戻すとき、序盤は「いきなり力を取り除かれた」ような状態になり力が急激に小さくなりますが、変形は残ったまま。力が弱まってから変位が元にもどるといった挙動になります。

何が言いたいか?このような挙動だと、変形させるときのエネルギーの方が元に戻る時よりエネルギーより大きいということ。変形させるときは「大きな力」で引っ張ている区間が長いのに対し、元に戻る時は「大きい力」の区間は短く、あとは「小さい」力でしか引っ張ってくれません。仕事が小さくる所以です。

また、接触面積が大きいと変形量が大きい。変形量が大きいほど、変形させるときと元に戻る時のエネルギー差が大きい、つまりロスが大きくなるわけです。

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