この記事では「猿の尻笑い」について解説する。
端的に言えば猿の尻笑いの意味は「自分の欠点に気づかず他人をばかにして笑うこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
豊富な読書経験を持ち、詩人としても活動するくぼっちを呼んです。一緒に「猿の尻笑い」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/くぼっち
児童文学から精神世界、育児書まで幅広い読書経験を持ち、詩人としても活動中。その豊富な経験を生かし、難解な言葉をわかりやすく解説していく。
「猿の尻笑い」には、次のような意味があります。まずは辞書で正確な意味を確認してから、さらに詳しく見ていきましょう。
《猿が自分の尻の赤いのがわからず、他の猿の尻を笑う意から》自分の欠点に気がつかずに、他人の欠点をばかにして笑うことのたとえ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「猿の尻笑い」
猿と言えば赤い尻。
そんな猿が、他の猿を見て「尻が赤い!」と馬鹿にして笑えばどうでしょう。
「自分も赤いじゃないか!」となりますね。
このように自分の欠点に気づかず、他人を馬鹿にして笑うことを「猿の尻笑い」と言います。
ただ単に相手を見下して笑うという意味なら「鼻で笑う」という言葉もありますが、「猿の尻笑い」で大切なのは、自分の欠点に気づかずというところです。
自分自身の短所や欠点が見えていないがために、他人の欠点を非難したり、批判したりして笑ってしまう。
そういう場合に用いられる慣用句が「猿の尻笑い」というわけです。
次に「猿の尻笑い」の語源を確認しておきましょう。
辞典には、《猿が自分の尻の赤いのがわからず、他の猿の尻を笑う意から》とあります。
まず「猿」を使ったことわざをいくつか見てみましょう。
\次のページで「「猿の尻笑い」の使い方・例文」を解説!/
「猿知恵」利口なようで実は浅はかな知恵。
「毛のない猿」人としての人情や良心がない人をなじった言葉。
「猿に烏帽子」外見だけ装って、実質の伴わないことのたとえ。 出典:辞典オンラインことわざ辞典
このように「猿」はことわざの中で、あまりいい意味では使われていません。
「猿に尻笑い」の意味も、自分の欠点に気づかず他人をあざ笑うことですから、あまり賢明ではない様子を表すときに「猿」が用いられることが多いようです。
ではなぜ「尻」なのかを見てみましょう。
この慣用句のポイントは、自分の欠点に気づいていないというところにあり、つまり自分のことが見えていないという状態ですね。
ですから自分の体の中で見えにくい部分である「尻」が使われていると考えられます。
次に「猿の尻笑い」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.A君は友達が国語のテストで赤点を取ったのを見て、馬鹿にして笑っていたが、A君も赤点だったのでまさに猿の尻笑いだ。
2.彼は、レストランでいつまでもメニューが決められず迷っている友人を嘲笑していたが、実際は彼も優柔不断な性格なので、それは猿の尻笑いだ。
1でA君は、赤点を取った友達をあざ笑っていますが、自分も赤点なのを棚にあげていますね。2でも迷っている友人をばかにしていますが、彼も優柔不断な自分の性格に蓋をして、他人をあざけっています。
自分の短所や欠点はなかなか見えないもの。または見たくないものです。
だから人のことを非難したり、ばかにしたりして笑ってしまう。
私も先日、「彼はまったく人の話を聞かない!」と人を批判的に見ていることがありましたが、よくよく考えると自分も人の話を聞いていなかった、なんてことがありました。
まさに自分の尻が赤いのに気づかず、他の猿の尻が赤いのを笑うサルのようですね。
\次のページで「「猿の尻笑い」の類義語は?違いは?」を解説!/
「猿の尻笑い」の類義語には「障子の破れ目から隣の障子の破れ目を笑う」があります。読み方は「しょうじのやぶれめから となりのしょうじのやぶれめをわらう」です。
隣の障子が破れているのを笑っているが、実は覗いている側の障子も破れているという、まさに「猿の尻笑い」と同じように、自分の欠点に気づかず他人をばかにして笑っているという意味ですね。
もうひとつ「猿の尻笑い」の類義語には、「不身持ちの儒者が医者の不養生をそしる」があげられます。読み方は「ふみもちのじゅしゃが いしゃのふようじょうをそしる」です。
「不身持ち」とは、品行が悪い、ふしだらという意味で、「儒者」は儒学を修めた人。「医者の不養生」は、人に養生を勧める医者が、自分は健康に注意しないこと。「そしる」は、悪く言う、非難するという意味です。
つまり「品行の悪い学者が、自分の健康に注意しない医者を非難する。」ということになり、同じように自分の欠点に気づかず他人を馬鹿にするという意味になります。
さらに「目糞鼻糞を笑う」という言葉もあります。読み方は「めくそはなくそをわらう」です。汚い目糞が、鼻糞のことを「汚い」と笑うというたとえで、こちらも同じように自分の欠点に気づかず、他人をばかにして笑うという意味になりますね。
「猿の尻笑い」の対義語には「人の振り見て我が振り直せ」」がいいでしょう。読み方は「ひとのふりみてわがふりなおせ」です。
「振り」とは、振る舞いのことで、つまり「他人の言動、振る舞いの良し悪しを見て、自分の言動を反省し、直すべきところは改めよ。」という意味になります。
他人の欠点や短所を批判するのではなく、自分自身を省みる機会として捉えようということですね。
他人の短所や欠点が目についたときは、それがヒントになって自分を省みることができるかもしれません。
\次のページで「「猿の尻笑い」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「猿の尻笑い」の意味・使い方・類語などを説明しました。
「自分の欠点に気づかずに、他人の欠点をばかにして笑う。」ということで、自分のことが見えていないというところがこの慣用句のポイントです。
他人の欠点をあざけるのではなく、我が振りを直す。
他人の赤い尻を見たら「自分の尻も赤いかも」と、自分自身を振り返って見るといいかもしれません。