この記事では「下駄を預ける」について解説する。

端的に言えば「下駄を預ける」の意味は相手に「全てまかせること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「下駄を預ける」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「下駄を預ける」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「下駄(げた)を預ける」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「下駄を預ける」の意味は?

「下駄を預ける」には、次のような意味があります。

相手に物事の処理の方法や責任などを一任する。「あとの処理は君に―・けるよ」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「下駄を預ける」

この言葉は「物事の処理や成り行きを、相手に全て任せること」を意味する慣用表現です。

この語句のポイントは、「任せる」という意味があるものの「相手を信頼・信用する」というニュアンスはない点。引用にあるように、本来自分が持つべき責任まで含めて「一任(=すっかり任せること)」してしまっているわけですから、ある意味で「丸投げ」にも近い状態です。

使い方によっては、「相手や組織に完全に忠誠を誓っている」という意思表明にもなるでしょうが、「無責任・考えを放棄している」という印象を受けることにもなるでしょう。

どちらにしても自分なりの意思で行動している感じはなく、前向きなイメージにはなりませんね。使い方には注意が必要です。

「下駄を預ける」の語源は?

次に「下駄を預ける」の語源を確認しておきましょう。これは特別な出典があったわけではなく、言葉の意味合いから作られた表現のようです。

入口で靴を脱ぐ習慣のある日本では、誰か、特に偉い人の家を訪ねたときには入り口で下駄や草履といった履物を「預けて」いました。そうなると、家の主人の許しが無ければ履物を履いて帰ることができなくなり、どこへも行けなくなってしまいますね。

こうした慣習から、自分の考えや判断を相手に明け渡すという意味で使われるようになった言葉と考えられます。実は不自由さも含まれている表現だったと言ってもいいでしょう。

上下関係を重視する社会であれば忠誠心が大切な場面もあったのかもしれませんが、行き過ぎると相手に支配されてしまうようなもの。どんな時でも相手の考えに従わなければならないとしたら、あまり健全ではありませんね。

\次のページで「「下駄を預ける」の使い方・例文」を解説!/

「下駄を預ける」の使い方・例文

「下駄を預ける」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・俺に下駄を預けるような受け身の社員はいらない、と社長は言うが、いつも命令形で指揮を取るのが本当は問題なんじゃないかとみんな思っている。

・いつも周りに下駄を預けて責任のある立場から逃げてばかりいた課長は、たった一度の契約交渉失敗で、辞表を提出させられる処遇になってしまった。

・新企画の発案担当者が良いアイデアが出ないとかで逃げ出してしまい、急に課長から下駄を預けられることになって、本当に大変な思いをした。

判断を相手に任せきりにする」というニュアンスが伝わりますでしょうか。「預けられる」と受身形であれば、断れない難しいことを押し付けられて辛い、という感情も読み取れるかもしれません。

相手を「信頼して」任せるという意味での誤用としては、たとえば「第一志望だった企業に就職できて、僕はこの会社に下駄を預けるつもりです」という例文が考えられます。

相手に対する誠実さや従順さを宣言するようで意味が通っているように思えますが、「任せきりにする」という意味を知っていると、そんなつもりはなかったのに「会社に頼りきりなのかな」と思われてしまうかもしれません。使い方には十分注意が必要です。

「下駄を預ける」の類義語は?違いは?

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「下駄を預ける」の類義語は「丸投げ」がいいでしょう。

「丸投げ」

「丸投げ」は「他者に全部の責任や行動を請け負わせること」を意味する慣用句です。

本来は「仕事を請け負った者が、それを全部他者に請け負わせる」と仕事に限定されていましたが、現代では「何でも相手に任せてしまう」のようにもっと広い意味で使われていますね。もともとの意味も理解しておきましょう。

「仕事をやらせる」というニュアンスから、「丸投げ」は特に上の人間から下の者に行われる力関係に対して使われることが多いでしょう。

\次のページで「「下駄を預ける」の対義語は?」を解説!/

・面倒くさがりで有名なマンションの管理人さんは、僕が断らないのをいいことにベランダの修理をいつも丸投げしてくる。

「下駄を預ける」の対義語は?

「下駄を預ける」の対義語は「相互扶助(そうごふじょ)」が考えられます。

「相互扶助」

「相互扶助」は「互いに助け合うこと」。一方的に任せたりせず、協力し合うという点で「下駄を預ける」とは反対の意味といえるでしょう。

「扶助」の「扶」はやや難しい漢字ですが、「扶養(ふよう=生活の面倒をみること)」や「食い扶持(くいぶち=食料を買うためのお金)」などの語句でも使われます。読みで問われることもありますので、合わせて押さえておきましょう。

・社会人になってから参加したキャンプ生活で、日常を離れてみんなと共同作業する楽しさを思い出し、相互扶助の大切さを学んだ。

「下駄を預ける」の英訳は?

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「下駄を預ける」の英語訳は「leave one's final decision to ~」で表すことができます。

「leave one's final decision to ~」

これは直訳すれば「最終決定権を~に渡す」という意味のフレーズ。

「leave」は「離れる」の他に「手放す、任せる」という意味も持っており、何かと何かが離れていくイメージです。この場合は「決定権を手離す」ということで「相手に下駄を預ける」という意味が表現できます。

「one's」は主語によって変化させ、「誰の最終決定権なのか」をしっかり伝えられるようにしましょう。

\次のページで「「下駄を預ける」を使いこなそう」を解説!/

・We always left our final decision to our teacher.
私たちはいつも、最終的な決定を先生に下駄を預けていた。

「下駄を預ける」を使いこなそう

この記事では「下駄を預ける」の意味・使い方・類語などを説明しました。「人に任せる」と言っても、考え方や受け取り方だけで意味合いが真逆になってしまうことがわかる慣用表現でした。

自分では頼りにしているつもりでも、相手からしたら「丸投げ」されているように感じる、なんてことは日常的にもあるかもしれません。

誰かに何かをお願いするときには、その目的や意図までちゃんと伝えることで、本当の意味で助けてもらうことができるでしょう。簡単に、自分の「下駄を預け」ないように注意してくださいね。

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国語言葉の意味

【慣用句】「下駄を預ける」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「下駄を預ける」について解説する。

端的に言えば「下駄を預ける」の意味は相手に「全てまかせること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「下駄を預ける」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「下駄を預ける」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「下駄(げた)を預ける」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「下駄を預ける」の意味は?

「下駄を預ける」には、次のような意味があります。

相手に物事の処理の方法や責任などを一任する。「あとの処理は君に―・けるよ」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「下駄を預ける」

この言葉は「物事の処理や成り行きを、相手に全て任せること」を意味する慣用表現です。

この語句のポイントは、「任せる」という意味があるものの「相手を信頼・信用する」というニュアンスはない点。引用にあるように、本来自分が持つべき責任まで含めて「一任(=すっかり任せること)」してしまっているわけですから、ある意味で「丸投げ」にも近い状態です。

使い方によっては、「相手や組織に完全に忠誠を誓っている」という意思表明にもなるでしょうが、「無責任・考えを放棄している」という印象を受けることにもなるでしょう。

どちらにしても自分なりの意思で行動している感じはなく、前向きなイメージにはなりませんね。使い方には注意が必要です。

「下駄を預ける」の語源は?

次に「下駄を預ける」の語源を確認しておきましょう。これは特別な出典があったわけではなく、言葉の意味合いから作られた表現のようです。

入口で靴を脱ぐ習慣のある日本では、誰か、特に偉い人の家を訪ねたときには入り口で下駄や草履といった履物を「預けて」いました。そうなると、家の主人の許しが無ければ履物を履いて帰ることができなくなり、どこへも行けなくなってしまいますね。

こうした慣習から、自分の考えや判断を相手に明け渡すという意味で使われるようになった言葉と考えられます。実は不自由さも含まれている表現だったと言ってもいいでしょう。

上下関係を重視する社会であれば忠誠心が大切な場面もあったのかもしれませんが、行き過ぎると相手に支配されてしまうようなもの。どんな時でも相手の考えに従わなければならないとしたら、あまり健全ではありませんね。

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