今回は「体液学説」について勉強していきます。

ヒトの健康状態は何によってきまるか。今であれば食事バランスや睡眠時間、運動量や遺伝など様々な条件があげられるでしょう。しかし昔は違ったんです。

紀元前に信じられていた医療知識について生化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.人体の6,7割を占める水分

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私たちの身体には多くの水分が含まれています。その割合は赤ちゃんの頃が最も多くなんと約8割成人男性で約6割、成人女性では約5割です。

比較的女性のほうが割合が少ない傾向があり、また年齢を重ねるごとに水分割合は減っていきますがそれでも約5割といわれています。よく潤いのある肌、みずみずしい肌というような言い方をしますよね。乾燥しやすい体の表面にある皮膚の水分量が多いということは、若々しさの象徴ともいえるでしょう。

そんな私たちの身体に含まれる水・体液ですが、全てが「水」という形で存在しているわけではありません。成人男性を例にして説明すると、タンパク質が約18%、水分が60%、脂肪が約16%、その他無機質等が6%という割合です。さらに、水分は約40%が細胞内液(細胞内に存在する体液)、約20%が細胞外液(細胞外に存在する体液)に分類されます。細胞外液には血漿(血液の細胞以外の成分で血液の約60%に相当)と間質液(細胞を浸す液体)の2つがあり、それぞれの割合は血漿約5%、間質液約15%です。

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成人男性で タンパク質約18% 水分60%(うち細胞内液約40%細胞内液・細胞外液約20%(うち血漿約5%・間質液約15%)) 脂肪約16% その他無機質等6% という割合したね。さらに血漿は血液の約60%であるということを考慮すると血液の割合は約8.3%、計算上70㎏の人で約5.8㎏分が血液です。

別の計算方法として成人の血液量は体重の約1/13であることを考えれば、70㎏の人で約5.4㎏分が血液といえるでしょう。性別や年齢、体型によってもこの割合は異なるため簡易的な計算ではありますが、ぜひあなたの体重で計算してみてください。その量を多いと感じますか?それとも少ないと思うでしょうか。

2.四体液説

2.四体液説

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さて私たちの身体に含まれる水分の内訳は先述した通りですが、まだ医学や科学の研究が今ほど発達していなかった時代、当然これを知る方法はありませんでした。しかしその当時に信じられていたのがギリシャの医師ヒポクラテスによる四体液説です。これは「血液・粘液・胆汁・黒胆汁」の4種類を人間の基本体液とする理論でした。人体はこれらの体液によって構成され、それらの調和によって身体と精神の健康が保たれているというものです。したがってこのバランスが崩れることで不調が生じ、病気になると考えられてきました。それぞれの体液について詳しく見ていきましょう。

2-1.血液

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血液は言うまでもなく生命維持にとって重要な体液ですね。この認識が昔から変わっていないようです。とはいえ四体液説では体液それぞれのバランスが重要視されていたため、瀉血(しゃけつ)という血を抜く治療法が用いられました。

過剰な体液を強制的に排出することでバランスを整えようとする治療法です。あの有名なモーツァルトが若くして亡くなってしまった要因の1つが瀉血のしすぎであったという説もあります。湿潤で暖かな春は赤痢になったり鼻血が出ることが多く、血液は春・風・湿・熱と関連付けられました。

2-2.粘液

粘液と聞いて何を想像するでしょうか。四体液説では鼻水や痰など、不調のときに出る粘液も重要視されました。現代でもこれらは風邪など不調の目印でもありますね。本来鼻水はほこりなどを吸着させて排出することで体内への異物の侵入を防ぐための役割を担っています。

ほこりや病原体などが入り込むと、粘液を多く出して鼻詰まりを起こしてこれ以上の進入を防ごうとするのです。くしゃみや鼻水、痰は自然に起こる防衛反応といっていいでしょう。また、昔は脳から溢れた粘液が鼻水になるという説もあったようです。こういった不調は冬に起こりやすいことから、粘液は冬・水・冷・湿と関連付けられました。

2-3.胆汁(黄胆汁)

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まず、四体液説において黄胆汁と黒胆汁が分けて考えられていることから、黄胆汁は現代医学でいう生成直後の胆汁といっていいでしょう。

胆汁は肝臓で生成される黄褐色・アルカリ性の液体胆嚢に溜められ、十二指腸へと送り出されます。これは脂肪の消化に重要な液体で、これがうまく機能しないことで体内に結石が生じて腹痛や発熱を引き起こすのです。脂肪分の摂りすぎもその理由の1つですね。黄胆汁は夏・火・熱・乾と関連付けられました。

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2-4.黒胆汁

十二指腸内に排出された胆汁は最終的に排泄されますが、排泄物の色は酸化した胆汁の色素に由来します。不浄なものは常に排出し、体の外へ流しださなければならないという考えのもと、排泄物の色が黒ければ黒いほど、悪しき体液とされました。黒胆汁は秋・土・乾・冷と関連付けられました。

3.四体液と気質の関係

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血液型占いや血液型性格診断というものがありますよね。実はこれ、四体液説の影響を受けたものだと考えられているのです。ローマの医師ガレノスはヒポクラテスによる四体液説に気質を結びつけて考えました。4つの体液が季節や元素だけでなく、性格とも関連しているなんて不思議な話ですよね。

血液の多い多血質の人は明るく社交的、粘液の多い粘液質の人は冷静で堅実、黄胆汁の多い胆汁質な人は短気で行動的、黒胆汁の多い黒胆汁質な人は神経質で慎重など。性格だけでなく体型や健康状態の傾向までもがまとめられていたようです。こう見てみると多血質はO型、粘液質はA型、胆汁質はB型、黒胆汁質はAB型のイメージになんとなく当てはまっているような気がしませんか?こういったところから血液型占いというものが生まれたのかもしれませんね。

そう考えれば四体液と気質の関係が全くのウソとは言い切れないかもしれませんね。とはいえ体液のバランスは血液型のように簡単に調べられるものではないので証明しようがありません。ちなみに世界的に見れば血液型別性格診断よりも星座による性格診断のほうが一般的です。西洋占星術、星占いといわれたりもします。

いずれにしても昔の研究や知識が後世に受け継がれ、カタチを変えていくのは面白いものですね。

昔の常識 今の非常識

体液学説四体液説などで呼ばれる紀元前の説では、ヒトは4つの体液で構成されていると考えられていました。不調なときはこれら体液のバランスが崩れているとされ、瀉血とよばれる血を抜き取るなどの治療がされたといわれています。現代ではこの治療方法も体液学説自体も否定されています

また、古代ギリシャではこの世の物質は四大元素(風・水・火・地)からなるとされていました。ここから血液は空気、粘液は水、黄胆汁は火、黒胆汁は地に相当すると考えられ、ヒトの気質(性格)も四体液と関連付けて考えたのです。しかし現代ではこれも否定されており、それはまるで血液型別の性格診断のようですね。

今のように医療技術が発展していない紀元前において、医療の現場において体液学説は重要な判断材料になっていました。しかし技術が進歩するにつれ、昔の常識は今の非常識となっています。しかし過去の知識から学ぶものは多いでしょう。いつの時代も情報のアップデートをしていきたいものですね。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単「体液学説」健康状態は体液バランスで決まる?元塾講師がわかりやすく解説!

今回は「体液学説」について勉強していきます。

ヒトの健康状態は何によってきまるか。今であれば食事バランスや睡眠時間、運動量や遺伝など様々な条件があげられるでしょう。しかし昔は違ったんです。

紀元前に信じられていた医療知識について生化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.人体の6,7割を占める水分

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私たちの身体には多くの水分が含まれています。その割合は赤ちゃんの頃が最も多くなんと約8割成人男性で約6割、成人女性では約5割です。

比較的女性のほうが割合が少ない傾向があり、また年齢を重ねるごとに水分割合は減っていきますがそれでも約5割といわれています。よく潤いのある肌、みずみずしい肌というような言い方をしますよね。乾燥しやすい体の表面にある皮膚の水分量が多いということは、若々しさの象徴ともいえるでしょう。

そんな私たちの身体に含まれる水・体液ですが、全てが「水」という形で存在しているわけではありません。成人男性を例にして説明すると、タンパク質が約18%、水分が60%、脂肪が約16%、その他無機質等が6%という割合です。さらに、水分は約40%が細胞内液(細胞内に存在する体液)、約20%が細胞外液(細胞外に存在する体液)に分類されます。細胞外液には血漿(血液の細胞以外の成分で血液の約60%に相当)と間質液(細胞を浸す液体)の2つがあり、それぞれの割合は血漿約5%、間質液約15%です。

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