君はなぜヤモリに関する内容が化学のカテゴリにあるのか不思議に思ったんじゃないでしょうか。
ここで少し考えてみよう。両生類のイモリと違って、爬虫類であるヤモリの足の裏には吸盤がないのに、なぜ乾燥している壁にくっついていられるのか不思議に思ったことはあるでしょうか?自分の手のひらや足の裏を壁につけた時、俺達は壁にくっつくことができないのはわかるよな。実はある化学の法則のおかげでヤモリは垂直な壁を自由自在に動き回ることができるんです。

今回のテーマについては化学に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業し、現在は医学部のバイオ系研究室で実験助手をしている。正しい実験結果を出さなければいけないため科学の知識は人一倍もっている。

生物学的に見たヤモリ

image by iStockphoto

ヤモリ科に属する生き物は世界で数百種類存在しますが、この中には壁を登れるヤモリと登れないヤモリがいるため、最も身近にいて壁を登れるヤモリであるニホンヤモリを例に解説していきます。

ニホンヤモリはヤモリ属ヤモリ科に分類される爬虫類です。日本でヤモリといえばこのニホンヤモリを指します。日本のみならす中国や朝鮮半島など広い地域に分布しているヤモリです。名前にニホンと付きますが、実際はユーラシア大陸からの外来種と考えられており、日本固有種ではありません。体調は10~14cmでほっそりしており、他のヤモリ属と比べて小型です。色は茶褐色~灰色ですが、環境によって体色を変えることができます。夜になるとしばしば窓ガラスや網戸に貼り付いて虫を食べているので、見たことのある人も多いでしょう。

ヤモリの足の裏はどうなっている?

image by iStockphoto

ヤモリの足の裏をまじまじと見たことのある人はあまりいないと思います。あまりにもヤモリが自由に壁を登っているので、足の裏は吸盤のようになっているのではと思うかもしれませんが、実は吸盤にはなっていません。ヤモリの足の裏をよく観察すると、細かい毛がたくさん生えています。この細かい毛は繊毛です。この繊毛をさらに顕微鏡で拡大して観察すると、繊毛の先がさらに細かく分かれています。この細かく分かれた繊毛の先はわずか1マイクロメートル(0.001mm)しかありません。

そう、実はこの非常に細かく分かれた足の裏の繊毛に秘密があるのです。

ヤモリの足の裏に働く力ファンデルワールス力(分子間力)

image by iStockphoto

ヤモリの足の裏に働いている化学の力とは「ファンデルワールス力」です。イオン結合・共有結合・金属結合について知っているでしょうか?これらは原子と原子の間に作用し、結合させる力なんですよ。これに対し、ファンデルワールス力とは別名分子間力と呼ばれるように分子と分子の間に働きます。これらの結合を強い順に書くと、共有結合>イオン結合>水素結合>>>ファンデルワールス力となるイメージです。そう、ファンデルワールス力は非常に弱い結合なんですよ。

ヤモリの足の裏に働いている力は100年間にわたり謎のままでした。一時期は「吸盤のようになっているのではないか?」「インターロッキング(かみ合わせ)ではないか?」といろいろな仮説があったといいます。しかし、2000年にケラー・オータム博士がファンデルワールス力によるものだと解明したのです。

ファンデルワールス力について

ファンデルワールス力について

image by Study-Z編集部

普段の生活では感じることができませんが、地球上にある全ての物体はお互いに引っ張り合う力が作用しています。地球自身が地球上のものを引っ張る力もその一つであり、これが重力です。ファンデルワールス力は分子同士が引き合う力ですが、静電気的な引力など分子間に働く力はすべてファンデルワールス力と言います。ファンデルワールス力は物体の質量が大きければ大きいほど大きくなり、無極性分子(静電気的な偏りのないもの。例:水素分子、二酸化炭素)よりも極性分子(静電気的な偏りのあるもの。例:水分子、塩化水素、アンモニア)のほうが大きいです。

ファンデルワールス力は細長い分子ほどより接近することができるため、同じ分子量でも形状が細長ければ細長いほどファンデルワールス力は強く働きます。また、分子量が大きいほど大きなファンデルワールス力が働くのです。このため、分子量が大きいほど沸騰する温度(沸点)や融ける温度(融点)が高くなります。

\次のページで「分子の極性について」を解説!/

分子の極性について

ファンデルワールス力では分子間に働くすべの力を意味していますが、その中でもクーロン力による力についてもう少し詳しく解説しますね。まず、電荷がない物体でもその周りには電子が何重にも取り巻いています。この電子は決められた軌道をランダムに動いているのですが、そうしているときに偶然電子が偏ってしまう場合があるのです。この瞬間、一時的に分子に極性が生まれます。隣りにある分子の電極も分極した分子からクーロン力を受けて偏るわけです。この結果、2つの分子間にはクーロン力が生じお互いにひきつけ合います。分子で構成されている物質はこのような瞬間的な引き合う力がたえず生じているわけです。

ヤモリから生まれたテクノロジー

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なんとヤモリの足に働く力からあるテクノロジーが生まれました。その名もヤモリテープ。これは使用する場所が多岐にわたるテープにおいて、「どんな素材にもくっつくことができる」「強く貼り付き、弱い力で剥がせられる」という理想のテー王を追求した結果できたものです。ヤモリテープの接着面はカーボンナノチューブによってヤモリの足の裏にある繊毛が表現されています。ヤモリテープは1平方センチメートルのテープ片で4.6kgの重さに耐えることができるそうです。しかもガラスのようなツルピカのものにも貼り付けることができるんですよ。

普通のテープは剥がすときに粘着部分が糸を引いて元々貼り付いていた場所に残るなどして汚れてしまいましたが、ヤモリテープは粘着界面から30°の角度をつければ簡単にきれいに剥がせます。

ヤモリが窓に貼り付いていたら観察してみよう

この記事を読んだ方は是非、窓に貼り付いているヤモリを観察してみてください。ヤモリの足の裏は細かい繊毛が生えており、ファンデルワールス力を利用して窓に貼り付いているのです。ヤモリの足は本当に吸盤ではないのか?繊毛は肉眼ではどのように見えるのかなど、観察してみましょう。

ニホンヤモリは捕まえると尻尾を自切するため、くれぐれも触らないでくださいね。ペットショップでペット用に売られているヤモリの中にもファンデルワールス力を利用して壁にくっついている種類がたくさんいます。機会があれば店員さんに足の裏を見せてもらってください。

イラスト使用元:いらすとや

" /> ヤモリはなぜ壁にくっつくことができるのか?医学部研究室の実験助手が5分でわかりやすく解説 – Study-Z
物理理科電磁気学・光学・天文学

ヤモリはなぜ壁にくっつくことができるのか?医学部研究室の実験助手が5分でわかりやすく解説

君はなぜヤモリに関する内容が化学のカテゴリにあるのか不思議に思ったんじゃないでしょうか。
ここで少し考えてみよう。両生類のイモリと違って、爬虫類であるヤモリの足の裏には吸盤がないのに、なぜ乾燥している壁にくっついていられるのか不思議に思ったことはあるでしょうか?自分の手のひらや足の裏を壁につけた時、俺達は壁にくっつくことができないのはわかるよな。実はある化学の法則のおかげでヤモリは垂直な壁を自由自在に動き回ることができるんです。

今回のテーマについては化学に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

理系の大学院を卒業し、現在は医学部のバイオ系研究室で実験助手をしている。正しい実験結果を出さなければいけないため科学の知識は人一倍もっている。

生物学的に見たヤモリ

image by iStockphoto

ヤモリ科に属する生き物は世界で数百種類存在しますが、この中には壁を登れるヤモリと登れないヤモリがいるため、最も身近にいて壁を登れるヤモリであるニホンヤモリを例に解説していきます。

ニホンヤモリはヤモリ属ヤモリ科に分類される爬虫類です。日本でヤモリといえばこのニホンヤモリを指します。日本のみならす中国や朝鮮半島など広い地域に分布しているヤモリです。名前にニホンと付きますが、実際はユーラシア大陸からの外来種と考えられており、日本固有種ではありません。体調は10~14cmでほっそりしており、他のヤモリ属と比べて小型です。色は茶褐色~灰色ですが、環境によって体色を変えることができます。夜になるとしばしば窓ガラスや網戸に貼り付いて虫を食べているので、見たことのある人も多いでしょう。

ヤモリの足の裏はどうなっている?

image by iStockphoto

ヤモリの足の裏をまじまじと見たことのある人はあまりいないと思います。あまりにもヤモリが自由に壁を登っているので、足の裏は吸盤のようになっているのではと思うかもしれませんが、実は吸盤にはなっていません。ヤモリの足の裏をよく観察すると、細かい毛がたくさん生えています。この細かい毛は繊毛です。この繊毛をさらに顕微鏡で拡大して観察すると、繊毛の先がさらに細かく分かれています。この細かく分かれた繊毛の先はわずか1マイクロメートル(0.001mm)しかありません。

そう、実はこの非常に細かく分かれた足の裏の繊毛に秘密があるのです。

ヤモリの足の裏に働く力ファンデルワールス力(分子間力)

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ヤモリの足の裏に働いている化学の力とは「ファンデルワールス力」です。イオン結合・共有結合・金属結合について知っているでしょうか?これらは原子と原子の間に作用し、結合させる力なんですよ。これに対し、ファンデルワールス力とは別名分子間力と呼ばれるように分子と分子の間に働きます。これらの結合を強い順に書くと、共有結合>イオン結合>水素結合>>>ファンデルワールス力となるイメージです。そう、ファンデルワールス力は非常に弱い結合なんですよ。

ヤモリの足の裏に働いている力は100年間にわたり謎のままでした。一時期は「吸盤のようになっているのではないか?」「インターロッキング(かみ合わせ)ではないか?」といろいろな仮説があったといいます。しかし、2000年にケラー・オータム博士がファンデルワールス力によるものだと解明したのです。

ファンデルワールス力について

ファンデルワールス力について

image by Study-Z編集部

普段の生活では感じることができませんが、地球上にある全ての物体はお互いに引っ張り合う力が作用しています。地球自身が地球上のものを引っ張る力もその一つであり、これが重力です。ファンデルワールス力は分子同士が引き合う力ですが、静電気的な引力など分子間に働く力はすべてファンデルワールス力と言います。ファンデルワールス力は物体の質量が大きければ大きいほど大きくなり、無極性分子(静電気的な偏りのないもの。例:水素分子、二酸化炭素)よりも極性分子(静電気的な偏りのあるもの。例:水分子、塩化水素、アンモニア)のほうが大きいです。

ファンデルワールス力は細長い分子ほどより接近することができるため、同じ分子量でも形状が細長ければ細長いほどファンデルワールス力は強く働きます。また、分子量が大きいほど大きなファンデルワールス力が働くのです。このため、分子量が大きいほど沸騰する温度(沸点)や融ける温度(融点)が高くなります。

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