今回は「溶菌」について解説していきます。身の回りには目には見えない極小の生物である微生物であふれている。その中には病原性があるものもいる。「除菌」「抗菌」という言葉が巷に浸透しているように、人々は細菌を排除しようと試みる。そのために消毒薬や抗生物質を用いる。細菌の構造から細菌を死滅させるための方法を学んでいく中で「溶菌」とは何かについて理解してくれ。医学系研究所の研究アシスタントのmimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

微生物の中の細菌

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菌とは、様々な種類がある微生物の中のうちの一つであり、微生物とは、その名前の通り、肉眼では観察することのできない微生物のことです。微生物の中には他にも寄生虫真菌(カビの一種)ウイルスなどを含みますが、その中でヒトに感染症を起こすことが多いのは細菌とウイルスですよ。一言で「菌」と言っても、真菌と細菌がありますので、区別しておきましょう。この記事で扱うのは「細菌」です。

細菌の構造

細菌の構造

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細菌は、真核生物のように核膜に覆われた核を持たない原核生物です。ほとんどの細菌が細胞膜の外に細胞壁をもっています。細菌の細胞質は真核生物よりもずっとシンプルな構造で、細胞内小器官は存在しません。染色体DNAの他にプラスミドと呼ばれる環状の小さなDNAが存在することがあります。プラスミドには薬剤耐性や病原性に関わる遺伝情報を含んでいることが多いのです。

細菌の種類

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以下、コトバンクを参考にいくつか説明しますね。まずは、口腔内の細菌で代表的なものを説明しますね。ストレプトコッカス・ミュータンススピロヘータです。難しい名前ですが、これは、歯科の分野でもよく聞かれる、前者は虫歯菌、後者は歯周病菌のことですよ。肺疾患の原因菌を二つ紹介しますね。一つ目は、結核菌です。ヒトに結核を起こさせる病原体であり、マイコバクテリウム属の細菌の特徴である抗酸性という性質を持っているので、抗酸菌とも呼ばれていますよ。

二つ目は肺炎レンサ球菌ですよ。肺炎球菌ともいわれていますよ。市中感染での肺炎の最も多い原因菌です。最後に大腸菌について説明しますね。大半の大腸菌株は病原性はないのですが、強い病原性があるO-157などの株があります。ここでの株とは、系統のことですね。共通の祖先から受け継がれてきた同じ遺伝子をもつもののことです。

溶菌とは

溶菌とは、「細菌の細胞が細胞壁の崩壊を伴って破壊され、死滅する現象」です。細菌が溶けるように消滅することからこの名前がついたのですよ。もしも私たちの体内に細菌が入り込んでしまった場合、私たちの体内に備わっている抗体が補体と結合し、免疫反応により細菌を破壊して溶かしてくれます。補足で抗体と補体の説明を簡単にしておきますね。

抗体とは、体内に異物(細菌やウイルスなど)が体内に入り込んだ時に、体から追い出すためにできる対抗物質です。「抗体」については、別の記事で詳しく説明しておりますので、ご参照ください。補体とは、動物の血液、リンパの 中にみられる酵素様の蛋白質の一種で、感染防御や炎症などの生体防御です。

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抗生物質の発見

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人類の菌による感染症に打ち勝つために、制圧するための抗生物質が発見されました。古典的な抗生物質としては、有名なものに「ペニシリン」があります。結核の治療薬として開発されました。ちなみに、「抗生」の意味は、生命に拮抗するという意味で、病原体の生命である細胞に拮抗して(作用して)病原体を死滅させることです。抗生物質でも、細菌を死滅させるタイプ細菌の増殖を抑えるタイプがあります。

これから、記事の中で「抗生物質」について説明するときは前者の方を指しますよ。細菌を死滅させるタイプには、β-ラクタム系アミノグリコシド系薬グリコペプチド系薬ニューキノロン薬系、環状ポリペプチドがあります。β‐ラクタム系は、数ある抗菌薬の中でも、まず一番目に使用が検討される抗生物質。細胞壁のペプチドグリカン鎖の架橋形成を阻害し、溶菌させます。

耐性菌の出現

抗生物質の発見による医学の発展への貢献は多大なものでした。しかしながら、抗生物質に対して耐性をもつものが現れたのです。それが耐性菌になります。これまで説明してきた抗生物質が効かないというクライシスを迎えるのです。しかしながら、そんな耐性菌にも打ち勝てるものがあります。バクテリオファージです。バクテリオファージは、細菌に寄生するウイルスですよ。細胞を食べてくれます。バクテリオファージが細菌内で増殖し、内部から細菌を溶かしてくれますが、安心はできません。もしも多剤耐性菌に感染してしまったら、治療の困難を極めることになります。

滅菌と消毒について

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巷にだいぶ出回ってきた衛生観念。滅菌殺菌消毒除菌などの意味がわかりますか。それぞれの違いをおさえていきましょう。コトバンクを参考にして説明いたします。まず、滅菌について説明しますよ。滅菌とは、ある場所に存在するあらゆる微生物を完全に不活化するまたは取り除くことです。方法は乾熱滅菌、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)を使用しますよ。また殺菌は、病原性や有害性を有する糸状菌、細菌などの微生物を死滅させる操作のことですよ。滅菌と違って具体的な程度は定義されておらず、効果は保証されないので、言葉の使い分けには注意しましょうね。

消毒は、病原微生物による危険性がほとんどなくなる程度にまで微生物を不活化することですよ。除菌は、細菌を取り除くこと、有害な菌を取り除くことですね。

身近にある消毒薬

消毒薬には様々なものが身近にあふれてきましたね。消毒薬はその効果によって高水準、中水準、低水準の3つのレベルに分けられます。その中でも中水準について説明していきますよ。中水準の消毒可能な微生物は、一般細菌、真菌、エンベロープウイルス(エンベロープとは膜のようなもの。)ノンエンベロープウイルスでも効果はありますが、前者に比べたら効果は小さいです。アルコール系は、エタノール、イソプロピルアルコールなどがありますよ。フェノール系には、クレゾールがありますよ。ハロゲン系には、ポビドンヨード次亜塩素酸ナトリウム(ラボや医療現場での通称「じあ」)がありますよ。一般的に、次亜塩素酸ナトリウムは、結核菌にも有効と言われていますよ。ノンエンベロープウイルス(ノロウイルスなど)にも効果はありますが、手指消毒には向かないようですね。

手指消毒用にヒアルロン酸など肌を保護してくれる成分が配合されているものを選ぶといいですね。

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細菌、消毒薬、抗菌薬について正しく理解しましょう

人類の歴史で感染症との戦いは昔から今でも続いています。人類が唯一撲滅できた感染症。天然痘です。(天然痘はウイルスですが。)ワクチンの開発により人類は天然痘に勝利しました。多くの人の命を奪ったコレラ、結核は抗生物質の発見により致死的な感染症ではなくなりました。抗生物質の恩恵で私たちは感染症にかかったとしても回復することができます。しかし、簡単に抗生物質が病院に行けば手に入るようになったおかげで、誤った抗生物質の使用でMRSAなど多剤耐性菌が出現してしまったのです。他のお薬もそうですが、抗生物質をドクターから処方されたら、用法、用量を守って正しく治療に使いましょう。消毒薬についても特性をきちんと理解しておくことが大切ですよ。正しくお薬や消毒薬を使用することによって、あなたやあなたの大切な人を守ることができるのです。

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理科生物生物の分類・進化

3分で簡単「溶菌」細菌が死滅する?医学系研究所アシスタントがわかりやすく解説

抗生物質の発見

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人類の菌による感染症に打ち勝つために、制圧するための抗生物質が発見されました。古典的な抗生物質としては、有名なものに「ペニシリン」があります。結核の治療薬として開発されました。ちなみに、「抗生」の意味は、生命に拮抗するという意味で、病原体の生命である細胞に拮抗して(作用して)病原体を死滅させることです。抗生物質でも、細菌を死滅させるタイプ細菌の増殖を抑えるタイプがあります。

これから、記事の中で「抗生物質」について説明するときは前者の方を指しますよ。細菌を死滅させるタイプには、β-ラクタム系アミノグリコシド系薬グリコペプチド系薬ニューキノロン薬系、環状ポリペプチドがあります。β‐ラクタム系は、数ある抗菌薬の中でも、まず一番目に使用が検討される抗生物質。細胞壁のペプチドグリカン鎖の架橋形成を阻害し、溶菌させます。

耐性菌の出現

抗生物質の発見による医学の発展への貢献は多大なものでした。しかしながら、抗生物質に対して耐性をもつものが現れたのです。それが耐性菌になります。これまで説明してきた抗生物質が効かないというクライシスを迎えるのです。しかしながら、そんな耐性菌にも打ち勝てるものがあります。バクテリオファージです。バクテリオファージは、細菌に寄生するウイルスですよ。細胞を食べてくれます。バクテリオファージが細菌内で増殖し、内部から細菌を溶かしてくれますが、安心はできません。もしも多剤耐性菌に感染してしまったら、治療の困難を極めることになります。

滅菌と消毒について

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巷にだいぶ出回ってきた衛生観念。滅菌殺菌消毒除菌などの意味がわかりますか。それぞれの違いをおさえていきましょう。コトバンクを参考にして説明いたします。まず、滅菌について説明しますよ。滅菌とは、ある場所に存在するあらゆる微生物を完全に不活化するまたは取り除くことです。方法は乾熱滅菌、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)を使用しますよ。また殺菌は、病原性や有害性を有する糸状菌、細菌などの微生物を死滅させる操作のことですよ。滅菌と違って具体的な程度は定義されておらず、効果は保証されないので、言葉の使い分けには注意しましょうね。

消毒は、病原微生物による危険性がほとんどなくなる程度にまで微生物を不活化することですよ。除菌は、細菌を取り除くこと、有害な菌を取り除くことですね。

身近にある消毒薬

消毒薬には様々なものが身近にあふれてきましたね。消毒薬はその効果によって高水準、中水準、低水準の3つのレベルに分けられます。その中でも中水準について説明していきますよ。中水準の消毒可能な微生物は、一般細菌、真菌、エンベロープウイルス(エンベロープとは膜のようなもの。)ノンエンベロープウイルスでも効果はありますが、前者に比べたら効果は小さいです。アルコール系は、エタノール、イソプロピルアルコールなどがありますよ。フェノール系には、クレゾールがありますよ。ハロゲン系には、ポビドンヨード次亜塩素酸ナトリウム(ラボや医療現場での通称「じあ」)がありますよ。一般的に、次亜塩素酸ナトリウムは、結核菌にも有効と言われていますよ。ノンエンベロープウイルス(ノロウイルスなど)にも効果はありますが、手指消毒には向かないようですね。

手指消毒用にヒアルロン酸など肌を保護してくれる成分が配合されているものを選ぶといいですね。

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