今回は、目に見えない力のひとつファンデルワールス力について、説明していきます。ファンデルワールス力は分子同士に発生する力のひとつです。この原理や実生活で使用されている例を含めて理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

ファンデルワールス力とは

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ファンデルワールス力とは、分子間力の一つです。原子間、イオン間、分子間に働く力の一つになります。

ファンデルワールス力は、3種類の相互作用を有しそれぞれ配向相互作用、誘起相互作用、分散力相互作用です。また、分散力相互作用のみを指してファンデルワールス力と呼ぶこともあります。実際の力の大きさについても、分散力の寄与度よりも大きいことが多いためです。では、これらの相互作用について解説していきます。

配向相互作用とは

配向相互作用とは、極性の分子同士が近づくとい符号の極の間の引力。同符号の極の場合は反発する力です。この力は、感覚的には磁石のN極とS極を考えてみましょう。磁石のS極とN極はくっつきますね。これが、電子の極性の方よりでも起こるのです。分子にも、このような電気的な偏りδ+とδ-が発生し引力や斥力を発生させます。

このようなメカニズムから生じる相互作用が配向相互作用です。

誘起相互作用とは

誘起相互作用とは、無極性分子が極性分子に近づいたときに、分極されて分子間力が働く現象です。無極性電子は、電気的に中性。つまり、原子核と電子の間に電荷の偏りがない状態になります。極性原子が近づくことで電子の釣り合いが崩れ偏りが生まれてしまうのです。

この効果は、静電誘導に似ています。導体に電気を帯びた物質を近づけると電気を帯びる現象です。例えば、下敷きをこすり静電気を発生させた後、髪の毛に近づけると逆立ちますよね。原子、分子間でも似たような現象が生じ極性分子と無極性分子の相互作用が発生します。このようなメカニズムから生じる相互作用が誘起相互作用です。

分散力相互作用とは

分散力相互作用は無極性分子同士に発生する力です。別名ロンドン力や、ロンドン分散力といいます。電子とプラスに帯電した核の間で瞬間的に働く力です。瞬間瞬間で無極性分子が極性分子のように振る舞います。これによりクーロン力による相互作用が発生するのです。分散力相互作用は、電子と核の間で無極性分子同士が瞬間的に発生させる相互作用力になります。

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分子間力とは

分子間力とは、分子間に働く引力です。分子間力には、ファンデルワールス力と水素結合がありファンデルワールス力は、3種の相互作用により互いに引力を発生させています。

水素結合は、水(H2O)や、フッ化水素(HF)、アンモニア(NH3)等、OH基やNH基などを持つ電子陰性度の高い原子に水素が共有結合ことで発生するのです。それぞれの結合は極性を持ちδ+とδ-の間で引力が生じます。この分子間力はファンデルワールス力と水素結合により成り立っていますね。

分子間の結合の種類と強さは

では、結合の種類はどのようなものがあるのでしょうか。それは、化学結合である共有結合、イオン結合、金属結合です。それに加えて分子間の結合である水素結合とファンデルワールス力があります。共有結合は、ダイヤモンド等イオン結合は塩化ナトリウム等です。金属結合は、鉄や銅、金など金属全般がそれにあたります。

さて、これらの結合の強さはどのような順番なのでしょうか。結合の強さは、共有結合>イオン結合>金属結合>水素結合>ファンデルワールス力の順番です。ファンデルワールス力は最も弱い結合になります。

環境によるファンデルワールス力の強さの違い

ファンデルワールス力は、大別するとクーロン力です。そのため、電荷の大きさや分子間の距離によってその力は変わります。では、その関係を見ていきましょう。

分子間の距離の違い

ファンデルワールス力は、分子間の距離が近づくほど強くなります。ファンデルワールス力の3つの成分のポテンシャルエネルギーはその種類によって異なっているのです。配向相互作用は距離の3乗に反比例し、誘起相互作用と分散力相互作用は距離の6乗に反比例します。また、イオン結合の距離の影響は、距離の1乗に反比例です。このようにファンデルワールス力は距離の影響を強く受ける相互作用力になります。

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また2つの原子間の相互作用を表す経験的なモデルは、レナードジョーンズポテンシャルです。引力は距離の6乗、斥力は距離の12乗になります。

分子量の違い

電荷の大きさとは、分子の大きさ。すなわち分子量の大きさに他なりません。クーロン力は、電荷が大きくなると強くなります。分子も1つの電荷の考えると、分子量が大きいほど原子核や電子の数は増加しますね。つまり、分子量が大きくなるほど瞬間的に発生する分散力も大きくなります。そのため、分子量が大きくなるとファンデルワールス力は増加するのです。

分子の形状の違い

ファンデルワールス力は、その形状によって分子量が同じでもその力は変化します。例えば、直鎖形状の分子のほうが枝分かれしている分子よりもその力は大きいです。それは、1度に近接している分子の数によります。一般的にクーロン力は原子核を中心とし、2つの原子の中心間距離が重要です。しかし、分子のように形状が複雑になると場所により影響度は異なります。そのため、分子量が同じでもファンデルワールス力は変化してくるのです。

身近なファンデルワールス力

では、身近にあるファンデルワールス力について見ていきましょう。

ヤモリの壁面への吸着

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あなたは、ヤモリをご存知ですか?ヤモリは、家の壁や窓に地面と垂直にくっついてます。実は、この力はファンデルワールス力です。ヤモリは、本当に弱いファンデルワールス力を利用しくっついています。ヤモリの足の構造は、非常に細かい毛がありその毛の先はさらに枝分かれしているのです。これにより、接地部における表面積の増加に伴い毛と設置物との間でファンデルワールス力が増加しています。

ヤモリの生物としてのこの能力はテクノロジーにも応用されているのです。生物をバイオミメティクスといい、ヤモリの足の表面を真似した『ヤモリテープ』がその一例になります。このように、とても弱い力でも技術の進化により生物の能力を再現できるようになってきているのです。

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食器などの油汚れ

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実は、油汚れもファンデルワールス力が関係しています。油汚れは水では落ちません。油が非極性分子のため、服などの表面とファンデルワールス力にて引力が発生しているためです。例えば、水は極性分子のため、水と油で斥力が発生し油汚れは落ちません。これを解決するために、石けんや洗剤を使用しています。

洗剤はその分子構造に親水基と疎水基を持っており、水の表面は親水基と油の表面は疎水基とくっつきあうのです。水で油が落ちない理由はファンデルワールス力が大きな理由の一つになります。

ファンデルワールス力は最も弱い力

ファンデルワールス力は、最も弱い力です。ですが、小さな力でも時に大きな力になることがあります。その例がヤモリです。極微小の毛がたくさん存在することにより自らの体重を支えるほどの大きな力を発生させます。このように、たとえ弱い力でもひとつひとつ積み重ねることで大きな力になるのです。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

3分で簡単ファンデルワールス力!分子間の相互作用とは?理系大学院卒ライターがわかりやすく解説

今回は、目に見えない力のひとつファンデルワールス力について、説明していきます。ファンデルワールス力は分子同士に発生する力のひとつです。この原理や実生活で使用されている例を含めて理系大学院卒ライターこーじと一緒に解説していきます。

ライター/こーじ

元理系大学院卒。小さい頃から機械いじりが好きで、機械系を仕事にしたいと大学で工学部を専攻した。卒業後はメーカーで研究開発職に従事。物理が苦手な人に、答案の答えではわからないおもしろさを伝える。

ファンデルワールス力とは

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ファンデルワールス力とは、分子間力の一つです。原子間、イオン間、分子間に働く力の一つになります。

ファンデルワールス力は、3種類の相互作用を有しそれぞれ配向相互作用、誘起相互作用、分散力相互作用です。また、分散力相互作用のみを指してファンデルワールス力と呼ぶこともあります。実際の力の大きさについても、分散力の寄与度よりも大きいことが多いためです。では、これらの相互作用について解説していきます。

配向相互作用とは

配向相互作用とは、極性の分子同士が近づくとい符号の極の間の引力。同符号の極の場合は反発する力です。この力は、感覚的には磁石のN極とS極を考えてみましょう。磁石のS極とN極はくっつきますね。これが、電子の極性の方よりでも起こるのです。分子にも、このような電気的な偏りδ+とδ-が発生し引力や斥力を発生させます。

このようなメカニズムから生じる相互作用が配向相互作用です。

誘起相互作用とは

誘起相互作用とは、無極性分子が極性分子に近づいたときに、分極されて分子間力が働く現象です。無極性電子は、電気的に中性。つまり、原子核と電子の間に電荷の偏りがない状態になります。極性原子が近づくことで電子の釣り合いが崩れ偏りが生まれてしまうのです。

この効果は、静電誘導に似ています。導体に電気を帯びた物質を近づけると電気を帯びる現象です。例えば、下敷きをこすり静電気を発生させた後、髪の毛に近づけると逆立ちますよね。原子、分子間でも似たような現象が生じ極性分子と無極性分子の相互作用が発生します。このようなメカニズムから生じる相互作用が誘起相互作用です。

分散力相互作用とは

分散力相互作用は無極性分子同士に発生する力です。別名ロンドン力や、ロンドン分散力といいます。電子とプラスに帯電した核の間で瞬間的に働く力です。瞬間瞬間で無極性分子が極性分子のように振る舞います。これによりクーロン力による相互作用が発生するのです。分散力相互作用は、電子と核の間で無極性分子同士が瞬間的に発生させる相互作用力になります。

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