この記事では「人面桃花」について解説する。

端的に言えば人面桃花の意味は「かなうことのない悲恋」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「人面桃花」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「人面桃花」の意味や語源・使い方まとめ

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人面桃花は「じんめんとうか」と読みます。それではさっそく、人面桃花の意味や由来、使い方をみていきましょう。

「人面桃花」の意味は?

人面桃花には、次のような意味があります。

美人の顔と桃の花。美しい女性と会った場所に行っても、再びその人とは会えない場合に使われる。

出典:学研 四字熟語辞典(学研)「人面桃花」

人面は美しい女性の顔を、桃花は文字通り桃の花を表しています。ここでいう美しい女性の顔は単なる美人ではなく、忘れられないほどの思いを寄せていた相手のことです。人面と桃花に直接的なつながりはなく、中国の詩から抜粋した熟語となります。

「人面桃花」の由来は?

唐の時代の中国の詩人、崔護(さいご)の詩に由来する言葉です。この崔護の話は、孟棨(もうけい)という人物の著作「本事詩・情感」に登場します。

ある日、崔護は桃の花の下で美女と出会いました。その美女のことがどうしても忘れられず、翌年にもう一度、同じ桃の花の下を訪れます。しかし、そこにはもう思い焦がれていた美女はいません。その女性への思いを断ち切れない崔護は、詩を詠んでその場を立ち去ります。そのときに詠んだ詩が、「去年の今日此門の中、人面桃花相応じて紅なり」という一節です。この詩に登場する人面桃花が、四字熟語である人面桃花の由来となっています。

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「人面桃花」の使い方・例文

人面桃花は、思い焦がれているけれどもう会うことのない、切ない悲恋を指す言葉です。それでは、人面桃花を使った例文をみていきましょう。

・あこがれだった先輩とは、卒業以来会っていない。まさに人面桃花だ。

・免許合宿で知り合った彼女とは、人面桃花の恋に終わった。

・父と母は人面桃花に終わるはずだったが、偶然の出会いで結ばれた。

これらの例文でわかるように、人面桃花という言葉を使うポイントは、相手を愛しているという点と、もう二度と会えない(はず)という点です。また、文字からなんとなく「桃の花のように甘く美しい人」という意味を想像してしまいがちですが、あくまでも二度と会うことのない悲しい恋を指した言葉で、女性の美しさを著した言葉ではありません。

・僕と君とは、まさに人面桃花の出会いだ。

・一緒に戦場を生き延びた仲間だったが、人面桃花のようなもので、帰国してからは会っていない。

・君の美しさは人面桃花というにふさわしい。

これらの例文はすべて間違った使い方です。

1つ目の例文では、人面桃花の出会いだと言いながら、出会った相手が目の前にいる状況となっています。再会できないのが人面桃花ですので、この使い方は間違いです。

2つ目の例文では、戦場で知り合った仲間のことについて述べられています。人面桃花は恋を示した言葉ですので、友人関係に用いるのは間違いです。

3つ目の例文は、人面桃花という言葉で相手の美しさを形容しようとしています。人面桃花には美しさを形容する意味はありません。そのため、この使い方も間違いとなります。

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「人面桃花」は本当に悲恋を指している?

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人面桃花は中国の詩に由来する熟語で、どちらかといえば、あまり知られていない熟語といえます。この熟語が「二度と会うことのない悲しい恋」という意味をもつのは、出典となった詩の意味によるものなのですが、この詩が登場するのは物語の中の一部です。

では、人面桃花が登場するのはどんな物語だったのか、ここでみていきましょう。

「太平広記」と「本事詩」

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人面桃花が掲載された出典の1つは、「太平広記」です。太平広記は四大書と呼ばれる古典文学の1つで、現存する小説の類書としては最古のものとされています。

500巻からなる大作で、前漢から北宋初期までの7000篇もの物語が分類されて収録されたものです。

一方、元々人面桃花が登場するのは先に述べた通り「本事詩」に収録された「情感」という作品になります。本事詩は主に唐の時代の詩人にまつわる逸話を集めたもので、詩人の逸話を知ることができる貴重な研究資料として知られている書です。その中の情感は、詩人である崔護についての故事となっています。

太平広記は散逸した様々な物語を集めてまとめた書物なので、本事詩からもいくつか太平広記に収録された作品があり、そのうちの1つが情感なのです。

そのため、人面桃花が登場した情感の出典は太平広記でもあり、本事詩でもあります。

人面桃花が出てくる物語

それでは、孟棨が著し、本事詩や太平広記に収録された物語はどんな内容なのでしょうか。

崔護は優秀な人物でしたが、人との接触を嫌い、独りでいることを愛する人でした。ある日、崔護が酒を飲みながら気ままに歩いていると、静かな人家を見つけます。木々や草花が生い茂り、静かな家でした。

崔護が門をたたくと、中から女性が一人、崔護の様子をうかがいながら「どちら様ですか」と尋ねます。崔護は「春を訪ねて一人歩き、酒を飲んでのどが渇いたので水が欲しい」と告げました。水を用意してくれた女性は大変美しく容姿が魅力的で、女性の方も崔護を意味ありげに見つめています。崔護は話しかけますが、返事はありませんでした。最後に礼を言って別れますが、女性はこらえきれないように走って家に入ってしまいました。

1年後、その女性のことを思い出した崔護は、再び女性の家を訪れます。ところが、その家の門は閉じられていました。崔護は詩を書いて置いていきます。

 

去年今日此門中(去年の今日、この門の中で)
人面桃花相暎紅(美しい人の顔と桃の花は互いに映えて紅く染まっていた)
人面祇今何処去(美しい顔の人は今どこに行ってしまったのか)
桃花依旧笑春風(桃の花は昔のように春風に微笑んでいるのに)

 

数日後、再びその家を訪れると、人の泣く声が聞こえました。崔護が門をたたくと、女性の老父が出てきます。

老父いわく、娘はあなたのような立派な方に嫁ぎたいと願っていた。先日、あなたが門に残した詩を見て、娘は寝込んでしまい、食事をとらずに死んでしまった。あなたが殺したのだ、と。

崔護は家に上がり、亡くなった女性の頭を膝に乗せて泣きました。すると、女性は目を開いて生き返ったのです。老父は喜び、娘を崔護に嫁がせたのでした。

実はハッピーエンド

少し長くなりましたが、これが人面桃花が登場する物語のあらすじです。読んでいただければわかりますが、この話は悲恋というよりむしろハッピーエンドといえます。人面桃花に相思相愛という意味をもたせることもありますが、それはここで紹介した物語の全貌を知ったうえでのことです。

ただし、人面桃花が登場する詩は、思い焦がれた女性に会えなかった崔護が想いを込めた詩ですから、これ自体は悲恋であることに変わりありません。

「人面桃花」を使いこなそう

この記事では、人面桃花の意味や由来、使い方を説明しました。人面桃花は中国の詩に由来する言葉で、どんなに思っても会うことのない悲しい恋を表すのに使われます。文字も美しいイメージのある漢字で、使えば気品のある熟語といえるでしょう。ただし、先に説明したとおり女性の美しさを例えるための言葉ではないので、意味の取り違えに注意が必要です。

また、人面桃花の由来となった詩についても紹介しました。なぜ人面桃花が悲恋を表すのか、その背景となった物語とともに知っておくことで、熟語の知識がより深まったはずです。熟語に直接かかわらなくても、由来となった漢詩を知っておくことは教養になるので、ぜひ読んでみてくださいね。

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【四字熟語】「人面桃花」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「人面桃花」について解説する。

端的に言えば人面桃花の意味は「かなうことのない悲恋」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「人面桃花」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「人面桃花」の意味や語源・使い方まとめ

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人面桃花は「じんめんとうか」と読みます。それではさっそく、人面桃花の意味や由来、使い方をみていきましょう。

「人面桃花」の意味は?

人面桃花には、次のような意味があります。

美人の顔と桃の花。美しい女性と会った場所に行っても、再びその人とは会えない場合に使われる。

出典:学研 四字熟語辞典(学研)「人面桃花」

人面は美しい女性の顔を、桃花は文字通り桃の花を表しています。ここでいう美しい女性の顔は単なる美人ではなく、忘れられないほどの思いを寄せていた相手のことです。人面と桃花に直接的なつながりはなく、中国の詩から抜粋した熟語となります。

「人面桃花」の由来は?

唐の時代の中国の詩人、崔護(さいご)の詩に由来する言葉です。この崔護の話は、孟棨(もうけい)という人物の著作「本事詩・情感」に登場します。

ある日、崔護は桃の花の下で美女と出会いました。その美女のことがどうしても忘れられず、翌年にもう一度、同じ桃の花の下を訪れます。しかし、そこにはもう思い焦がれていた美女はいません。その女性への思いを断ち切れない崔護は、詩を詠んでその場を立ち去ります。そのときに詠んだ詩が、「去年の今日此門の中、人面桃花相応じて紅なり」という一節です。この詩に登場する人面桃花が、四字熟語である人面桃花の由来となっています。

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