今回は宇宙の誕生について解説していきます。

宇宙がどのように誕生したのかは人類の最大級の謎の一つでしょう。もちろんすべての謎が解けたわけではないが、現時点で宇宙誕生の謎に人類がどこまで迫ったかみてみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ビッグバンモデル

image by iStockphoto

宇宙がどのようにして誕生したかということは、人類最大の謎の一つでしょう。この謎はまだ完全に解けたわけではありませんが、現在標準的な考え方となっているものが存在しています。今回はそれについて簡単に紹介しましょう。

まずはビッグバンモデルからです。火の玉理論ともよばれるこの理論は、宇宙は超高温高密度の状態からはじまったという理論であり、ほぼすべての科学者が認める理論となってます。

その1:ビッグバンモデル

宇宙の誕生とは難しくいうならば、物質・エネルギーを含んだ時空の誕生ということになります。相対論に基づいた現在の膨張宇宙モデルが、ビッグバンモデルです。このモデルは空間が一様等方であるとしてアインシュタイン方程式を、ロシアの物理学者であるフリードマンが1922年に解いて得られたフリードマンの解に基づいています。この解では宇宙は時刻ゼロに物質・エネルギー密度が無限大に発散した状態からはじまるのです。

その2:特異点

時空の曲がりを記述する量も無限に発散した状態から宇宙は始まります。物理量が無限に発散する点が特異点です。つまり宇宙は時空の特異点から始まります。

相対論で特異点が存在するということは、原因、結果の連鎖を表す因果の曲線が、その特異点から始まったり終わったりするのです。この時空の外から、特異点を介してこの宇宙に進化に影響を与える情報が入り込んできたり、また逆に宇宙の情報が出ていってしまいます。これは宇宙が不完全で自己完結的ではないことを意味しているのです。

その3:インフレーション理論

さらにペンローズとホーキングは「相対論の枠内では、ある当然な仮定の基に宇宙は必然的に特異点として始まらざるを得ない」という特異点定理を証明し、相対論だけの枠内では宇宙が始まることは不回避であることを示しました。しかし、1980年代になって力の統一理論に基づいてインフレーション理論が提唱され、何らかの方法で極微なミクロな時空さえ作れば、後は急激な加速度的宇宙膨張と加熱の機構、すなわちインフレーションによってその時空はビックバン宇宙へと発展することが可能になったのです。

\次のページで「インフレーションモデル」を解説!/

インフレーションモデル

Ilc 9yr moll4096.png
NASA / WMAP Science Team - http://map.gsfc.nasa.gov/media/121238/ilc_9yr_moll4096.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

ビッグモデルはよくできた理論なのですが、宇宙のはじまりに近づけば近づくほどいろいろな問題がでてきます。それを克服するために考えだされた理論の一つがインフレーションモデルです。インフレーションモデルとはその名の通り、宇宙の初期に宇宙が急膨張する時代があったという理論になります。上記の画像は、インフレーションモデルの証拠の一つと考えられている宇宙背景放射の観測データです。

その1:量子重力理論

1983年、ビレンキンは量子重力理論に基づき「無からの宇宙誕生」を唱えました。また少し遅れて同じく量子重力理論に基づき、ハートゥルとホーキングによって「果てのない条件からの宇宙の誕生」が提唱されたのです。量子重力理論は時空の物理学である相対論とミクロな世界を記述する量子論を統一する理論ですが、この二つの理論は相性が悪く、いまだ完成していません

その2:ド・ジッター宇宙

したがって、「無からの宇宙誕生」も「果てのない条件からの宇宙誕生」も基礎が確かではないのですが、宇宙の誕生を量子論に求めることは物理学的に非常に自然であり、現在の科学的な宇宙誕生論の基本的な考えになっています。これらの理論では、量子的誕生の直後からインフレーションを起こす必要があるため、真空のエネルギーに満ちた一様等方な閉じた宇宙を創ることを考えるのです。この宇宙はド・ジッター宇宙モデルと呼ばれています。

その3:無の状態

その3:無の状態

image by Study-Z編集部

ド・ジッター宇宙の膨張や収縮は、実は上記のようなポテンシャルの中の粒子の運動と同じ式で表されます。ビレンキンは宇宙の大きさを表すスケール項Rがゼロである状態を無の状態と呼びました。このゼロの状態は、従来のフリードマン解では無限大に発散していたのですが、このモデルではなんら特別な点ではありません。真空のエネルギー密度は体積に関係せず有限ですので、体積ゼロであっても何の発散もないのです。この無の状態は時空の大きさゼロ、エネルギーゼロの状態ではありますが、量子論的に考えれば量子的ゆらぎは存在し、それはゼロ点振動をしているということになります。

その4:虚数時間

この無の状態からトンネル効果によってポテンシャルの山の中をくぐり抜け、スケール項がrという大きさを持った状態に抜け出てくるならば、rの大きさの宇宙が誕生することになります。量子力学ではトンネル効果の確率を計算する手段として虚数の時間を用いる方法があるのです。この方法ではゼロエネルギーの宇宙はR=0として虚数の時間、すなわち虚時間で膨張して実時間の世界へとつながります。この生まれた宇宙の典型的大きさは、プランク長である10のマイナス33乗㎝程度ですが、図のようにR>rではポテンシャルが急激に大きくなるのです。つまり、ただちにインフレーションを起こしビックバン宇宙へと成長します。

その5:宇宙の波動関数

一方、ハートルとホーキングは宇宙の誕生から終焉まですべての歴史を量子論的にきちんと取り扱わなければならないと考えました。ビレンキン流のやり方では、トンネル効果として量子論の効果は取り入れられています。しかしそれはあくまで近似的なやり方であって、厳密には物理的状態を表す宇宙の波動関数を求めなければなりません。

量子論ではすべての時間発展は確率的であって、その確率は波の振幅の大きさなどで表されています。宇宙の大きさがある値になったときの確率を知りたければ、宇宙の果て、つまり宇宙の始まった時刻から波の方程式を解かなければならないのです。

\次のページで「その6:無境界仮説」を解説!/

その6:無境界仮説

wp_B Timeline300 no WMAP.jpg
NASA/WMAP Science Team - Original version: NASA; modified by Cherkash, パブリック・ドメイン, リンクによる

しかし、その方程式を解くためには、その時刻での境界条件を与えなければなりません。そこで、彼らは標準ビックバンモデルのように特異点になると波の方程式を解くことができないので、時空の果ては特異点ではなくなめらかな時空でなかればならないと考え、それを無境界仮説と呼びました。ビレンキンのモデルとは細かな違いはありますが、宇宙の波動関数からもっとも起こりやすい道筋を調べると、それは誕生と同時インフレーションを起こし巨大な宇宙へと成長する道筋がもっとも確率が大きいことがわかるのです。上記の画像は、インフレーションモデルによる宇宙の進化の模式図になります。

未来への課題

未来への課題

image by Study-Z編集部

インフレーションモデルもまだまだ不完全であり、今日現在も多くの科学者によって宇宙誕生の謎は研究され続けています。さらに、暗黒物質やダークエネルギーなどまだまだ未解明の謎もたくさんあり、すべての謎の解明は遥かに先であるというのが現状です。いつの日か、われわれ人間が宇宙誕生の謎を完全に理解する日が来るのでしょうか?それは誰にもわかりません。

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地学宇宙理科

3分で簡単「宇宙の誕生」ビッグバンモデルやインフレーション理論などについて理系ライターがわかりやすく解説

今回は宇宙の誕生について解説していきます。

宇宙がどのように誕生したのかは人類の最大級の謎の一つでしょう。もちろんすべての謎が解けたわけではないが、現時点で宇宙誕生の謎に人類がどこまで迫ったかみてみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ビッグバンモデル

image by iStockphoto

宇宙がどのようにして誕生したかということは、人類最大の謎の一つでしょう。この謎はまだ完全に解けたわけではありませんが、現在標準的な考え方となっているものが存在しています。今回はそれについて簡単に紹介しましょう。

まずはビッグバンモデルからです。火の玉理論ともよばれるこの理論は、宇宙は超高温高密度の状態からはじまったという理論であり、ほぼすべての科学者が認める理論となってます。

その1:ビッグバンモデル

宇宙の誕生とは難しくいうならば、物質・エネルギーを含んだ時空の誕生ということになります。相対論に基づいた現在の膨張宇宙モデルが、ビッグバンモデルです。このモデルは空間が一様等方であるとしてアインシュタイン方程式を、ロシアの物理学者であるフリードマンが1922年に解いて得られたフリードマンの解に基づいています。この解では宇宙は時刻ゼロに物質・エネルギー密度が無限大に発散した状態からはじまるのです。

その2:特異点

時空の曲がりを記述する量も無限に発散した状態から宇宙は始まります。物理量が無限に発散する点が特異点です。つまり宇宙は時空の特異点から始まります。

相対論で特異点が存在するということは、原因、結果の連鎖を表す因果の曲線が、その特異点から始まったり終わったりするのです。この時空の外から、特異点を介してこの宇宙に進化に影響を与える情報が入り込んできたり、また逆に宇宙の情報が出ていってしまいます。これは宇宙が不完全で自己完結的ではないことを意味しているのです。

その3:インフレーション理論

さらにペンローズとホーキングは「相対論の枠内では、ある当然な仮定の基に宇宙は必然的に特異点として始まらざるを得ない」という特異点定理を証明し、相対論だけの枠内では宇宙が始まることは不回避であることを示しました。しかし、1980年代になって力の統一理論に基づいてインフレーション理論が提唱され、何らかの方法で極微なミクロな時空さえ作れば、後は急激な加速度的宇宙膨張と加熱の機構、すなわちインフレーションによってその時空はビックバン宇宙へと発展することが可能になったのです。

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