夏になると毎年話題になる赤潮や黒潮。新聞やニュースで海の色が赤や黒に変わる映像は迫力がある。このような自然現象には富栄養化が強く関連している。栄養が富むと書いてあるのだから、自然にとっていいものだと考える人もいるかもしれない。しかしそれは大きな間違いです。
今回の記事では、 富栄養化の詳細に関して国立大学院で修士号(農学)を取得ているライターふくろう博士と一緒に解説していきます。

ライター/ふくろう博士

国立理系大学院で修士(農学)を取得し、現在は民間企業の研究職に従事している典型的な理系人間。「理系好きな学生を一人でも多く増やす」をキーワードにインターネットの世界で活躍中!自身のサイトでは大学生に役立つ情報を日々提供している。

富栄養化ってどんな意味の単語?

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皆さんは富栄養化といった単語を御存知ですか?霞ヶ浦や佐鳴湖と言った比較的汚れた水域の近くに住んでいる方には馴染みのある単語かもしれません。富栄養化とはその名の通り海や河川、湖沼といった水域で過剰に栄養や塩類(栄養塩類と呼ぶ)が投入された結果起こる現象です。 とはいっても、多くの人にとってはピンとこない内容かと思います。そもそも、富栄養化は何が原因で、具体的に何のことでしょうか?それでは解説を見ていきましょう。

富栄養化の原因

一般的に、人間の生活活動によって排出された窒素化合物やリンなどといった物質が栄養分になるとされています。これらの物質は植物プランクトンをはじめとした生き物の体を作るのに欠かせない物質です。つまり、少量であれば生き物が暮らしには欠かせない物質なのですね。人間の活動に関係ない水域では、生物の捕食や分解といったライフサイクルによって栄養分が適切に循環しているのです。

しかし、ここに人間の生活活動が加わると話が変わります。台所の流しに捨てる排水や、工場や農地で排水する水には豊富な栄養分が含まれているからです。 近年では下水処理場で多くの栄養文を除去しているのですが、一部の地域では河川や湖沼に垂れ流しとなっています。その結果、栄養分が水中の生き物にとって必要以上の量だけ供給されてしまうのです。 これが不栄養化の原因となります。

富栄養化によるデメリット

富栄養化は人間の生活活動によって起こる自然現象ということを紹介しました。この章では、富栄養化によるデメリットについて解説します。すべての項目で私たちの生活に直接かかわる出来事なので、 他人ごとだと思わずに 見ていきましょう。

その1.漁業被害を受ける

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富栄養化のわかりやすい影響として、『漁業被害』というキーワードは切っても切れない関係にあるでしょう。一般に、富栄養化した水域では植物プランクトンが大量発生する場合がほとんどです。少量の植物プランクトンは生態系を支える役割を担っていますが、大量発生する場合は生物兵器と化します。

どういうことかというと、 プランクトンの大量発生により酸素が不足してしまうといった事態が起こるからです。海の生き物も、エラを使って我々と同様に呼吸を行っています。 しかし、陸とは異なり海に溶ける酸素量はあまり多くありません。釣りを行っている方は、釣った魚をバケツに入れてしばらくすると魚が死んでいる現象を知っているでしょう。これは、魚が呼吸により消費する酸素量が水に溶ける酸素量よりも大きい時に起こる現象です。富栄養化の時、植物プランクトンの呼吸によってまさにこの状況が生まれます。その結果、大量の魚が死んでしまうということですね。

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その2.異臭問題

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富栄養化による影響は何も水の中の生き物だけではありません。私たちの身の回りにも大きく影響を与えます。その一つがにおい問題です。通常、水中では微生物が汚れとなる物質(有機物)を水や二酸化炭素に分解しています。この状態では、ニオイは問題にはなりません。イワナやヤマメなどがすむ川の上流域はこのような状態です。

しかし、生活排水が流れ込むと話が変わります。通常の微生物に加え、硫化水素などの臭い匂いを放出する微生物が活発となるからですね。硫化水素は古い卵をゆで卵にした時の匂いと言えばいいでしょうか。汚いドブ川では常時このような臭いが発生します。そのため、その水域の近隣住民は公害という形で被害を受けるのです。

富栄養化の対策方法

水質の富栄養化は我々の生活にとって悪影響を与えるものだということが理解できました。それでは、対策方法について紹介していきましょう。一部の対策は私たちの心がけですることができるため、今日この記事を読んだ後すぐに実行してみるのもいいですね。

その1.汚れた生活排水を流さない

私たちが今日からできる対策の一つに『汚れた生活排水を流さない』ことがあげられます。東京湾に流れ込む窒素量は

生活排水60%

工業排水20%

農業排水20%

という研究結果があります。環境を汚しているというイメージが強いこ工場などよりも、私たちが出す排水の割合が高いんですね。つまり、私たちの心がけで富栄養化は大きく抑制できるということです。

具体的には、『台所に油汚れを流し込まない』『洗剤を一度にたくさん使わない』などが挙げられます。今日からできる簡単な対策なので、この記事を見て興味を持った人は初めて見ましょう。

\次のページで「その2.下水処理場の効率化」を解説!/

その2.下水処理場の効率化

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富栄養化の対策として行政ができることの一つが『下水処理場の効率化』です。現在の下水処理場では、 化学的な反応を用いてリンを除去する物理学的方法と微生物の働きによる生物科学的方法のいずれかで除去できます。しかし、これらの方法を活用しても除去率は100%とはいきません。

また、日本でリンが採掘できる場所がなく、現状100%の割合で輸入に頼っています。そのため、下水に流れるリンを再利用しつつ回収率を上げるといった新しい処理方法の開拓などが重要になってくるでしょう。

富栄養化は個人の意識で対策できる!

ここまで富栄養化について詳しく解説してきました。富栄養化は、窒素化合物やリンなどの過剰な栄養塩類が水域に流入することでプランクトンが大量発生して起こる問題です。においの問題だけでなく、酸素の枯渇によって他の魚などが大量に死んでしまうというのは衝撃だったのでは無いでしょうか。また、栄養は悪なのではなく、過剰に投入されてしまうことが問題というのもポイントでしたね。人間が活動する上でどうしても排水は出てしまいますが、環境への影響を最小限にする努力を続けていく必要がありますね。農業において肥料としても使われるリンは採掘量が限られています。今後科学技術の進歩によって、排水中のリンを100%再利用することができれば、富栄養化の問題は劇的に改善するでしょう。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 5分で分かる「富栄養化」その原因と対策について理系院卒ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
理科生態系生物

5分で分かる「富栄養化」その原因と対策について理系院卒ライターがわかりやすく解説!

夏になると毎年話題になる赤潮や黒潮。新聞やニュースで海の色が赤や黒に変わる映像は迫力がある。このような自然現象には富栄養化が強く関連している。栄養が富むと書いてあるのだから、自然にとっていいものだと考える人もいるかもしれない。しかしそれは大きな間違いです。
今回の記事では、 富栄養化の詳細に関して国立大学院で修士号(農学)を取得ているライターふくろう博士と一緒に解説していきます。

ライター/ふくろう博士

国立理系大学院で修士(農学)を取得し、現在は民間企業の研究職に従事している典型的な理系人間。「理系好きな学生を一人でも多く増やす」をキーワードにインターネットの世界で活躍中!自身のサイトでは大学生に役立つ情報を日々提供している。

富栄養化ってどんな意味の単語?

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皆さんは富栄養化といった単語を御存知ですか?霞ヶ浦や佐鳴湖と言った比較的汚れた水域の近くに住んでいる方には馴染みのある単語かもしれません。富栄養化とはその名の通り海や河川、湖沼といった水域で過剰に栄養や塩類(栄養塩類と呼ぶ)が投入された結果起こる現象です。 とはいっても、多くの人にとってはピンとこない内容かと思います。そもそも、富栄養化は何が原因で、具体的に何のことでしょうか?それでは解説を見ていきましょう。

富栄養化の原因

一般的に、人間の生活活動によって排出された窒素化合物やリンなどといった物質が栄養分になるとされています。これらの物質は植物プランクトンをはじめとした生き物の体を作るのに欠かせない物質です。つまり、少量であれば生き物が暮らしには欠かせない物質なのですね。人間の活動に関係ない水域では、生物の捕食や分解といったライフサイクルによって栄養分が適切に循環しているのです。

しかし、ここに人間の生活活動が加わると話が変わります。台所の流しに捨てる排水や、工場や農地で排水する水には豊富な栄養分が含まれているからです。 近年では下水処理場で多くの栄養文を除去しているのですが、一部の地域では河川や湖沼に垂れ流しとなっています。その結果、栄養分が水中の生き物にとって必要以上の量だけ供給されてしまうのです。 これが不栄養化の原因となります。

富栄養化によるデメリット

富栄養化は人間の生活活動によって起こる自然現象ということを紹介しました。この章では、富栄養化によるデメリットについて解説します。すべての項目で私たちの生活に直接かかわる出来事なので、 他人ごとだと思わずに 見ていきましょう。

その1.漁業被害を受ける

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富栄養化のわかりやすい影響として、『漁業被害』というキーワードは切っても切れない関係にあるでしょう。一般に、富栄養化した水域では植物プランクトンが大量発生する場合がほとんどです。少量の植物プランクトンは生態系を支える役割を担っていますが、大量発生する場合は生物兵器と化します。

どういうことかというと、 プランクトンの大量発生により酸素が不足してしまうといった事態が起こるからです。海の生き物も、エラを使って我々と同様に呼吸を行っています。 しかし、陸とは異なり海に溶ける酸素量はあまり多くありません。釣りを行っている方は、釣った魚をバケツに入れてしばらくすると魚が死んでいる現象を知っているでしょう。これは、魚が呼吸により消費する酸素量が水に溶ける酸素量よりも大きい時に起こる現象です。富栄養化の時、植物プランクトンの呼吸によってまさにこの状況が生まれます。その結果、大量の魚が死んでしまうということですね。

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