今回は「プリオン」について勉強します。

簡単に説明すると、プリオンとは「プリオン」という名前のたんぱく質のことなんです。狂牛病で広く知られるようになったから、聞いたことのあるヤツにとってはあまり良いイメージが湧かないでしょう。しかし、プリオンは普通に俺たちの体の中に存在していて、動物に悪い影響があるのは異常プリオンと呼ばれているもののほうなんです。

この記事では理系大学生のkaraageChuripと一緒に、プリオンの正体について解説していきます。

ライター/karaageChurip

理系大学生。学校の課題のせいでプリオンについてよく調べなければならない時期があった。専門用語をあまり使わないで情報を分かりやすく伝えることに力を入れている。

タンパク質「プリオン」

image by iStockphoto

まずタンパク質とは何かというところからですが、これは生き物のからだ中に存在していて、筋肉・皮膚とか細胞や抗体のもとになるとても大切な物質ですよね。タンパク質はDNAまたはRNAが転写・翻訳・スプライシングを受けて産生されたアミノ酸のかたまりですね。様々なアミノ酸がたくさんつながって立体的に折りたたまれることでタンパク質が出来ているのです。タンパク質は数多くの種類がありますが、このアミノ酸の組み合わせや並びの順番、立体構造の違いによりはたらきの異なるタンパク質が作られているのですね。

プリオンはこれらタンパク質の一種で、生物の体内で普通に発現しているプリオン遺伝子から生じたものです。ヒトでは二百五十数個のアミノ酸から構成され(ウイルスよりも小さいです)、1982年にPrusinerらによって発見されました。プリオンの蛋白質としての具体的なはたらきは未だによくわかっていませんが、プリオンは生体内に少量存在しており、特に脳神経細胞の表面に高濃度に分布しているとされています。

正常プリオンと異常プリオン

プリオンは正常のものと異常のものとに分類されます。通常のプリオンタンパク(正常プリオン)になるはずだったタンパク質のもとが、間違った折りたたまれ方をすることによって生じたものが異常プリオンです。

正常プリオンは上に書いたようにはたらきこそ不明なものの、体内のタンパク質分解酵素によって分解されるため蓄積されず、そのため生体にとくにこれといって悪い影響を与えるわけではありません。対して異常プリオンはタンパク質分解酵素に耐性、つまり体の中で分解されず蓄積し続けるということですが、このために体内の細胞が障害され損なわれてしまいます。

\次のページで「増える異常プリオン」を解説!/

image by Study-Z編集部

正常プリオン

 生物の神経細胞の表面に多く存在

 タンパク質分解酵素で分解される

 生体にどのように影響しているかは未だ不明

異常プリオン

 正常プリオンとアミノ酸配列が同じ

 正常プリオンと立体構造が異なる

 タンパク質分解酵素に耐性がある

 蓄積するとプリオン病を発症する

大切なのは、構造が異なるだけで両者のアミノ酸の組成は全く同じであるという点です。このちょっとした違いが生体に大きな影響を及ぼすのですね。

つぎは異常プリオンがどのようにして増えていくのか、見てみましょう。

増える異常プリオン

異常プリオンが正常プリオンの折りたたみミスで発生することは学習しましたが、異常プリオンがどうして、どこで、いつ発生するのか、詳しいことはわかっていないのです。しかし、その何らかの原因で発生した(または外界から摂取してしまった)異常プリオンは、他の正常プリオンに作用して異常プリオンに変異させてしまいます。異常プリオンによって生じた異常プリオンは、さらにほかの正常プリオンへ作用し、そのプリオンも他のプリオンへ作用し…というようにどんどん増えていくのです。プリオンの構造変化は不可逆性で、正常プリオン→異常プリオンの変化はあっても、異常プリオン→正常プリオンと戻ることはありません。

そうそう発生しないはずの異常プリオンの蓄積は、こうした構造変化の連鎖によってなされていたのですね。

プリオン病とは

Histology bse.jpg
Dr. Al Jenny - Public Health Image Library, APHIS: http://www.aphis.usda.gov/lpa/issues/bse/bse_photogallery.html, パブリック・ドメイン, リンクによる

プリオン病はとても珍しい難病です。プリオン病の中には、比較的よく知られているクロイツフェルト・ヤコブ病といわれる病気がありますが、およそ100万人に1人の割合でしか発症しません。プリオン病はヒトだけでなく動物も発病しますが、治療法はなく発病すると死に至るおそるべき疾患でもあります。ごくまれに髄液検査・脳波検査・遺伝子検査などで生前に発見されることがありますが、多くは患者死亡後に解剖が行われ採取された検体を病理学的な検査にかけることで検出される、といったケースがほとんどです。

異常プリオンによって神経細胞が傷害され、患者は運動が困難になったり視覚や行動に異常が生じたりします。

\次のページで「「狂牛病」が恐れられる理由」を解説!/

「狂牛病」が恐れられる理由

image by iStockphoto

別名「牛海綿状脳症(BSE)」といいますが、異常プリオンによって傷つけられ、牛の脳がスポンジのように無数の小さい穴だらけになってしまいます。発症後は異常行動の末に死亡。原因は牛のえさに牛骨の粉末が混ぜていたこととされ、これを行わなくなってから世界中の狂牛病は激減しました。日本でも規制がかけられたため、2003年以降は狂牛病が見つかっていません。

ではなぜ狂牛病が恐れられるのでしょうか?それは狂牛病とヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病が似ているからなんです。ふつう、異常プリオンは種族の異なる動物間では伝染しないといわれています。しかし、英国のクロイツフェルト・ヤコブ病患者のほとんどが発病前に牛肉を食べていたことが明らかとなり、脳の状態が狂牛病と酷似していたことから、牛の異常プリオンは種族の壁を越えてヒトに感染するのではないかと疑われているのです。異常プリオンはタンパク質分解酵素でも分解できないので、食肉による発病が心配されるため狂牛病の再興が恐れられているのですね。

その他のプリオン病

狂牛病の他にもなかなか興味深いプリオン病があるので、いくつか紹介しますね。

クロイツフェルト・ヤコブ病

image by iStockphoto

発病原因不明の特発性(孤発性)、家族内で遺伝する遺伝性(家族性)、体外からの異常ブリオンに感染する感染性に分けられています。感染性には異常プリオンに汚染された器具を手術に使ったり、この病気で亡くなった患者の角膜や脳硬膜を移植することによって起きてしまった医原性のクロイツフェルト・ヤコブ病も含まれるのです。患者は50代以上の年配が多く、急速な認知症や意図しない運動、筋肉のけいれん(ミオクローヌス)がおこり、発症から半年以内で寝たきりになってしまいます。

クールー

パプアニューギニアの食人文化のある民族から見つかりました。この病気の基本的な性格はクロイツフェルト・ヤコブ病と同様です。クロイツフェルト・ヤコブ病で亡くなった人の脳が近親者の子どもと女性に与えられていたため、子どもと女性の発症率が高くなっています。「クール―」は「ふるえる」という意味だそうですよ。きっとミオクローヌスの症状から病名がつけられたのでしょうね。

スクレイピー

image by iStockphoto

羊に特有のプリオン病です。“スクレイプ”=“削り取ること”で、その名の通り羊が体を木にこすりつけて毛を削り取るようなしぐさをしていたことから命名されました。著名な衰弱や歩行に困難が見られます。

\次のページで「プリオンのこれから」を解説!/

プリオンのこれから

高校までの理科の授業で、プリオンについて触れたことのある人はあまりいないと思います。私も、大学に入ってからはじめてこの興味深いタンパクについて知ることになりました。そのくらいプリオンの存在はあまり知られておりませんし、希少性が高すぎる難病であるために製薬会社ではプリオン病の治療薬の開発に踏み切れていないのが現状です。今はおもに大学などの研究機関によって研究が進められているので、将来的には研究室から治療方法が確立されるかもしれませんね。

プリオンが学校のテストや大学入試の問題に登場することはないかもしれませんが、より多くの人の意識がプリオンに向かえば、この難病の解決に一歩ちかづくことが出来ると考えています。世の中にはプリオンについて取り上げたSFマンガや小説もありますので、気が向いたらぜひ調べて読んでみてくださいね。とても面白いですよ。

" /> 3分で簡単「プリオン」正常プリオン、異常プリオンとは?理系大学生が分かりやすくわかりやすく解説 – ページ 3 – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単「プリオン」正常プリオン、異常プリオンとは?理系大学生が分かりやすくわかりやすく解説

「狂牛病」が恐れられる理由

image by iStockphoto

別名「牛海綿状脳症(BSE)」といいますが、異常プリオンによって傷つけられ、牛の脳がスポンジのように無数の小さい穴だらけになってしまいます。発症後は異常行動の末に死亡。原因は牛のえさに牛骨の粉末が混ぜていたこととされ、これを行わなくなってから世界中の狂牛病は激減しました。日本でも規制がかけられたため、2003年以降は狂牛病が見つかっていません。

ではなぜ狂牛病が恐れられるのでしょうか?それは狂牛病とヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病が似ているからなんです。ふつう、異常プリオンは種族の異なる動物間では伝染しないといわれています。しかし、英国のクロイツフェルト・ヤコブ病患者のほとんどが発病前に牛肉を食べていたことが明らかとなり、脳の状態が狂牛病と酷似していたことから、牛の異常プリオンは種族の壁を越えてヒトに感染するのではないかと疑われているのです。異常プリオンはタンパク質分解酵素でも分解できないので、食肉による発病が心配されるため狂牛病の再興が恐れられているのですね。

その他のプリオン病

狂牛病の他にもなかなか興味深いプリオン病があるので、いくつか紹介しますね。

クロイツフェルト・ヤコブ病

image by iStockphoto

発病原因不明の特発性(孤発性)、家族内で遺伝する遺伝性(家族性)、体外からの異常ブリオンに感染する感染性に分けられています。感染性には異常プリオンに汚染された器具を手術に使ったり、この病気で亡くなった患者の角膜や脳硬膜を移植することによって起きてしまった医原性のクロイツフェルト・ヤコブ病も含まれるのです。患者は50代以上の年配が多く、急速な認知症や意図しない運動、筋肉のけいれん(ミオクローヌス)がおこり、発症から半年以内で寝たきりになってしまいます。

クールー

パプアニューギニアの食人文化のある民族から見つかりました。この病気の基本的な性格はクロイツフェルト・ヤコブ病と同様です。クロイツフェルト・ヤコブ病で亡くなった人の脳が近親者の子どもと女性に与えられていたため、子どもと女性の発症率が高くなっています。「クール―」は「ふるえる」という意味だそうですよ。きっとミオクローヌスの症状から病名がつけられたのでしょうね。

スクレイピー

image by iStockphoto

羊に特有のプリオン病です。“スクレイプ”=“削り取ること”で、その名の通り羊が体を木にこすりつけて毛を削り取るようなしぐさをしていたことから命名されました。著名な衰弱や歩行に困難が見られます。

\次のページで「プリオンのこれから」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: